93.GW7日目 ~武闘大会 決勝トーナメント 決勝戦 2 ~
「なぜ……私の魔法がなぜ効かないんですの……?」
「GMの解説を聞いていただろう。ああいうわけだ。ちなみにだが、俺の使った『アンチマジックポーション』の効果時間は5分以上、耐久力は3000以上だからな」
「なっ……そんな口から出任せを!」
「信じるかどうかは自由だ。ほら次、こないのか?」
「言われずとも! …………ラーヴァボム!」
これも詠唱がずいぶんと長いな。
INTが足りてないんじゃないか?
さもなくば、【並列詠唱】のデメリットとか。
ともかく、俺は相手の詠唱中に
俺の周りに赤い球体が現れ、それが縮小し一気に破裂する。
そして、鈍い破裂音とともに俺は吹き飛ばされた。
だが、俺のHPバーは微塵も減っていない。
「くっ、これでも効かないんですの!?」
「その程度じゃあなあ……。せめてもう少し高火力な魔法使ってこいよ」
「! ……おのれ!」
『あー、榎田GM、篠原GM、先ほどトワ選手が使った2つ目のポーションについて伺ってもよろしいでしょうか?』
『ええ、2つ目のポーションは『レジストマジックポーション』ですね。『アンチマジックポーション』と同様に複数のボス素材などを組み合わせて作成できるポーションです。効果は『全種魔法ダメージの割合軽減』ですね』
『ちなみにですが、あの2つのポーションの効果は重複します。まずは『レジストマジックポーション』でダメージが減った後に『アンチマジックポーション』でダメージを吸収する形になりますね』
『それって、かなり凶悪な組み合わせなんじゃ……』
『マリー=ゴールド選手のような純魔術士タイプのビルドではまさに天敵と言えるビルドでしょうね、ただ、どちらのポーションも自作しようとしても最低でも【中級調合術】が必要になりますし、中間素材を用意するにも【中級錬金術】が必須です。はっきり言って並みのプレイヤーには入手困難なアイテム類なのですが……』
『トワ選手ですからね、あれらが作れたとしても何の不思議もありません』
なかなか酷い言われようだが事実なんだろうな。
実際、俺も何となく素材を集められたから作って見ただけで、量産するつもりはあまりないし。
……スキル経験値は美味しかったので身内用としてなら請け負うことも考えてるけど。
「くっ、ならば! ……ライトニングレイ!!」
雷光の光線が俺を貫くが、俺は無傷だった。
何せ、俺の雷属性耐性は50%、そこに全属性耐性15%とレジストマジックポーションの効果が上乗せされる。
実際の耐性値は100%を越えているのだが、このゲームの仕様上、軽減できるダメージ量は90%までだ。
90%を越える軽減率を持っていても90%までしか軽減されない。
もっとも、90%軽減された上にアンチマジックポーションのダメージ吸収効果がまだ残っているのでダメージが入るはずもないが。
ちなみに、俺が使用した『アンチマジックポーション』と『レジストマジックポーション』の品質はどちらも★9。
これらの特殊ポーションは★9以上になると効果が格段に上がるらしく、効果時間も効果量もまさに一級品だ。
それを、特殊ポーション用のポーション瓶で強化しているのだから凶悪きわまりない。
具体的な効果を挙げると、『アンチマジックポーション』が効果時間7分、耐久ダメージ量3000のそれぞれ効果が特殊ポーション瓶によって30%増加、『レジストマジックポーション』は効果時間10分、全魔法軽減率30%の効果がポーション瓶によって効果30%増加だ。
本当は特殊ポーション用の瓶も★10くらいのを作りたかったが、さすがにスキルレベルが足りなかった。
それはさておき、マリー=ゴールドは先ほどからペース配分を考えずに全力で魔法を撃ちこんできている。
そのほとんどが上級魔術で、高火力なものばかりだ。
この状況下における最適解は、大人しく防戦に徹してポーション類の効果時間切れを狙うことのはずだが、そんなつもりは一切ないらしい。
だが、そんな高火力な攻撃も全属性耐性によって効果を半減させられ、その上で高い魔法防御に阻まれてたいしたダメージになっていない。
アンチマジックポーションによるバリア効果の残り耐久力は効果を受けている本人には見えているので、後どれくらい耐えられるかはわかるのだが、最大耐久値の半分にもまだ届いていない。
俺は時々ノックバック効果のある魔法で吹き飛ばされながらも、HPへのダメージ的には無傷であった。
「これならばどうですか、ライトニングバインド!」
上級の攻撃魔法が
俺に対して拘束魔法を使ってくるが……
拘束魔法は俺に触れると同時に激しい音を立ててはじかれる。
これは単純にMND値と魔法防御が高いだけだ。
一般的には「INTの半分もMNDがあればバインド系は効かない」とさえ言われるのだ、対人戦では。
生産系スキルを複数取得している俺のマスク値込みのMNDはそこそこ高いはずだ。
その上で魔法防御も高い俺をバインドで拘束するのはかなり無理がある。
ライトニングバインド以外にも各種バインド系魔法が繰り出されるが、全てレジストに成功する。
まあ、万が一にでもバインドされたところで数秒もあれば抜け出せるのだが。
「この、いい加減に倒れなさい! この職人風情が!!」
ついに切れたのか使ってくる魔法が上級下級問わずに連射されてきた。
……さすがにうざくなってきたな。
アンチマジックポーションの効果時間も残り半分を切っているし、そろそろ反撃に移るか。
「サイドステップ!」
横方向に移動するスキルで飛んできている魔法群を躱す。
『おおっと、ここでトワ選手、初めて行動に移った! 反撃開始か!?』
まあ、反撃開始なんて
横に回り込まれてこちらを慌てて向こうとしているマリー=ゴールドに対して俺はチャージショットを撃ちこむ。
当然と言ってしまえば当然なのだが魔術士の装備にノックバック耐性などあるはずもなく、マリー=ゴールドは吹き飛ばされる。
吹き飛ばされたマリー=ゴールドは1撃でHPの5割以上を失っていた。
……そういえば武器を雷華と氷華に替えたままだったな。
まあ、魔術士相手なら物理防御の方が弱いだろうから好都合か。
『トワ選手の一撃? 2丁拳銃だから二撃? ともかく攻撃が炸裂! マリー=ゴールド選手たまらず吹き飛ばされた!!』
とにかくチャージショットのノックバック効果で魔法詠唱を途切れさせた俺は次も行動に移る。
俺がインベントリから取り出したのは小石サイズの結晶体、つまり『ブラストボム』だ。
俺はとりあえず4つほどのブラストボムをまとめて放り投げてマリー=ゴールドのそばに落とす。
マリー=ゴールドは立ち上がろうとしていたところを、ブラストボムにはじかれてまた体勢を崩していた。
『おおっと、トワ選手が小石のようなものを投げつけたと思ったら、それが爆発、マリー=ゴールド選手はたまらず再度体勢を崩す!』
『ああ、これは……』
『間違いなく、あれですね……』
『? あれって何ですか?』
『……まあ、見ていればわかります。もっとも、こうなったからにはトワ選手のワンサイドゲームになると思いますが……』
ふむ、さすがにかなり弱体化されてるな。
爆風特化、つまりノックバックやヒットストップに特化したブラストボムでも4つ使ってヒットストップにしかならないか。
なら、今度は倍の8個だな。
再び投げられたボムを回避しようとマリー=ゴールドは慌てた様子で立ち上がろうとするが、ボムが爆発する方が早い。
轟音とともに8つのボムの直撃をくらい、今度こそマリー=ゴールドは吹き飛ばされる。
とりあえず8つならノックバックを起こせると。
なら今度は6つだ。
こうして、対人戦におけるブラストボムの効果実験を兼ねた一方的な戦闘は始まったのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――
『あの、マリー=ゴールド選手が爆弾ではじき飛ばされ続けているのですが、はじき飛ばされているにはHPがほとんど減っていないのは一体……?』
ブラストボムによる『爆撃』を開始してから5分ほどが経過した。
どうやら、実況は俺のこの戦術を知らないらしい。
……まあ、βテスターじゃないし知らなくても当然か。
『あー、あれはですね。錬金術スキルで作成できる『ボム』という消費アイテムの派生系『ブラストボム』による効果ですね……』
『『ブラストボム』は衝撃特化、つまりノックバックやヒットストップが発生しやすい代わりに威力が低い、そういう消耗品なのですが……』
『見ての通り、多数のブラストボムを同時に投げつける事で連鎖爆発を起こして相手の動きを完封する、いわゆる爆弾ハメが出来てしまうんですよね……』
『えっ? それって大丈夫なんですか? こんな堂々と使って』
『大丈夫と聞かれると『大丈夫です』としか答えられなくなってしまうのですが……少なくとも仕様上は可能ですね』
『ただし、実行しようとすると非常に大量のブラストボム、そしてそれらを正確に投げるコントロールと、確実に相手を
『あれでもブラストボムをかなり弱体化させているんですがね……』
『結局、【爆撃機】にとってはこの程度の弱体化はあまり意味がない、そういう事なのでしょう』
『あれ? ひょっとして【爆撃機】って言う名前って……』
『想像の通り、この爆撃ハメを確実に実行できる事からつけられた二つ名ですね……』
『ですが、これを使えば準決勝も簡単に勝てたのでは?』
『爆撃ハメの対応は簡単なんですよ。重武装でノックバックやヒットストップに耐性をつければいいんです。鉄鬼選手はまさにそれを使って爆撃ハメ対策をしてきていましたね』
『ええと……ちなみにこの状況はいつまで続くのでしょうか?』
『トワ選手のブラストボムが尽きるか、ボムを投げるタイミングを間違えるか、ボムを外すか、そのいずれかまで続くでしょうね……この分のHPダメージですと削りきるのは不可能でしょうから』
『……それって運営的にありなんですか?』
『ブラストボム自体が『ボム』のレシピを改造して作らなければいけないアレンジレシピですからね……おそらくトワ選手はそのブラストボムのレシピをさらに改造、攻撃力をさらに下げる代わりに衝撃、つまりノックバックの効果をさらに強くしているみたいですね。……そしてそれを運営がありなしで答えると『あり』としか答えられません』
『……ですが、消費アイテムの持ち込みには制限があったのでは?』
『それについても『本人が作成したアイテムは制限対象から除外する』というルールがありますので問題ありません。今使われているブラストボムは全てトワ選手が自作したものです』
『うわぁ……』
実況と解説が引いているが、俺はルールに従っているだけだからな。
とはいえ、これ以上戦闘を引き延ばしても無駄か。
俺は今インベントリからつかみ出したボムを最後として、ボムを投げると同時に自分も動き出す。
そしてボムによってマリー=ゴールドが吹き飛ばされるのを確認すると、間合いを調整する
『おっと、トワ選手が動きましたね。ついにボムが尽きたのでしょうか?』
『いえ、あれは……勝負をつけに行ったのでしょうね』
5分以上爆発に翻弄され続けたマリー=ゴールドはふらつきながら立ち上がる。
そこへ、
「縮地、からのハイキック!」
縮地で目の前に移動した俺は、マリー=ゴールドの頭部めがけて【格闘】スキルの『ハイキック』をきめる。
ハイキックには『急所に当たった場合、確定で短時間のスタン』という特性がある。
人間の場合は頭部が急所に当たるため、これでマリー=ゴールドはほんの数秒だが動けない。
そこへさらに俺が追撃を仕掛ける。
「足払い!」
これも【格闘】スキルの1つ『足払い』だ。
このスキルにもスタン効果、というより相手を転ばせる効果があるため、スタン状態で動けなかったマリー=ゴールドは見事に仰向けに転がされる。
俺は倒れたマリー=ゴールドの腹を踏みつけるようにようにして抑え、インベントリから1丁の銃を取り出す。
今まで使う機会のなかったライフル、『雷牙』だ。
俺は雷牙の銃口を相手の頭に向けてこう言った。
「どうだ、見下していた生産職に完封される気分は? 生産職がいなければまともに戦えもしない戦闘職が、生産職の戦いの場にしゃしゃり出てくるもんじゃないぞ? 俺はお前のような連中は大嫌いなもんでな」
最後にお別れの言葉を告げる。
「それじゃ、サヨナラだ。
俺はスプレッドショットを発動。
そもそも魔術士であるが故に防御力が高いわけでなく、ましてヘッドショットによるクリティカル判定の攻撃にマリー=ゴールドが耐えられる筈もなく、HPバーは砕け散った。
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