92.GW7日目 ~武闘大会 決勝トーナメント 決勝戦 1 ~
準決勝が終わった後、また1時間の休憩があった。
ただ、今回は控え室に戻ることなく観客席で仲間と話をしながら待っていた。
決勝戦を前に、3位決定戦が行われたが、この結果は順当としか言えなかった。
なにせ、斧使いの攻撃がクリーンヒットしても鉄鬼は身じろぎ1つせずに耐えたのだから。
その状態で、剣を使い反撃する鉄鬼に斧使いの男は3分ほどで
3分間攻撃を続けても、HPの1割どころか5%ほどを削れたかどうかと言ったところだからだ。
さすがにあの斧使いの男には同情したくなるぞ。
普通【城塞】と戦えば大なり小なりこうなることは想像できる事態なのだから。
それにしても、斧装備であの程度のダメージしか出ていなかったという事は、あの斧使いはタンク系なのだろうか。
3位決定戦も終了し、決勝戦を残すのみとなった。
俺の目の前には、仮想ウィンドウが表示され闘技場への転移が促されている。
「トワくん、どうしたの? もう転移出来るんでしょう?」
「うん? ああ、出来るけどすぐに転移することもないかなって」
「余裕ねぇ。これも盤外戦ってヤツなのかしら?」
「どちらかというとあの女魔術士に会いたくなくて。どうにも嫌な予感がするんだよな」
「そう? なら止めないけど。時間切れによる不戦敗は止めなさいよ」
「はいはい。それじゃあ俺もそろそろ行くよ」
「うん、がんばってねトワくん」
「気をつけてねー」
「はんばるのじゃぞ」
「行ってらっしゃい。まあ、油断はしないようにね」
「おう、わかってる」
試合開始までの残り時間が3分を切った頃、俺は闘技場へと転送されていった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「ん?ここは?」
転移された先そこは、いつもの舞台上ではなく、闘技場の通路のような場所だった。
「あ、ようやく来られたのですね」
「そうだけど。あなたは?」
「申し遅れました。今回、あなたを案内させていただきます、GM坂田です」
「GMさんがわざわざ案内?」
「ええ、決勝戦では特別な演出として選手入場からやってもらいます。……というか、昨日も同じ流れだったと思いますが、ご覧になられなかったのですか?」
「ああ、昨日の試合は一切見てないな」
「そうでしたか。私の後をついてきていただき、そのまま出入口から入場いただければかまいません。……そろそろ時間のようです。参りましょう」
「ああ、任せた」
案内役の後を追うように通路の中を歩き、やがて闘技場の出入口が見えてくる。
「案内はここまでです。ご武運を」
「ああ、ありがとう」
俺は1人、闘技場に入っていく。
入口から姿を見せると、大歓声が俺を迎えた。
『2人目の入場者は準決勝第1試合で【城塞】鉄鬼選手と死闘を繰り広げた、【爆撃機】トワ選手です!! 圧倒的な防御力を誇る【城塞】を打ち砕いた攻撃力は今回も発揮されるのか見物です!!』
『そうですね。銃という相性の悪い武器を使った上での準決勝第1試合の勝利でしたからね。やはりβ大会優勝者、一筋縄ではいかないでしょう』
『やはり優勝候補筆頭の名は伊達じゃないって事ですね!! 対するマリー=ゴールド選手はいかがでしょう?』
『彼女は基本に忠実な魔術士ビルドのようですね。高火力の魔法と発動が早い魔法を組み合わせて戦う、そんな前線では多い魔術士です』
『なるほど。基本に忠実なタイプですか。それは参考になりますね! それでは試合開始までのカウントダウン開始です!!』
試合開始までのカウントダウンが開始された。
だが、カウントダウンが開始されたにもかかわらず、対戦相手の女性魔術士――マリーゴールドだっけ?――は近づいてきて話しかけてきた。
「ごきげんよう。まさかたかがガンナー風情の生産職がここまで勝ち上がってくるとは思ってもいませんでしたわ」
一言目からいちいち癪に障る女だな。
「それはそうと。あなた、相当優秀な錬金術士のようね。この試合が終わったら私に仕えなさい」
「はあ? なにを言っているんだ?」
「あなたこそ、何を言っているのかしら? このマリー=ゴールドが直々に勧誘しているのですよ? ここは2つ返事で承諾するべきところでしょう?」
「その思考回路が理解できないんだが? まさか生産職は全て自分に仕えればいいとか思ってないだろうな?」
「全てなんていりませんわ。優秀な人材こそこのマリー=ゴールドに相応しい人間ですもの。そういうわけですから、あなたは今日から私のクランに入りなさい。これは命令ですわ」
「……お前はバカか? そんな命令を聞く必要などどこにある? ましてや俺はクランマスターだ。そんな簡単に移籍できるはずもないだろう」
「でしたら、あなたのクランごと私の傘下に加わればいいのですわ。そうすれば何の問題もないでしょう?」
「そもそも論として、お前のクランに参加することで何かメリットはあるのか? 何の得もないのに別のクランの傘下になることなどないだろう?」
「あら、メリットなら既に示しているではありませんか?」
「何?」
「このマリー=ゴールドに仕えられる事こそが最大のメリットですわ。それなのに最近の生産者どもはそれを理解せずに、私の誘いを断るばかりか、あまつさえ私のクランとの取引を断る始末。少々思い上がった生産者どもにお灸を据えるためにここに来たのですわ。自分達がどれだけ思い上がったまねをしているかを思い知らせるためにね」
「……とりあえずお前の頭が弱いことは理解したよ。そして生産者をなめすぎだ」
「あら、心外ですわね。あなた方生産者は私達戦闘職がいなければ、ろくなものも作れないでしょうに。それをわざわざ協力してあげようというのに何か不満でも?」
「不満しかあるわけないだろ? バカかお前は。そんなんで加わる連中の気が知れんわ」
「残念ですわ、あなたほど優秀な方がこの私の最大限譲歩してあげていると言うのに……仕方がありません。あなたを倒して現実というものを教えてあげましょう」
『あのー、お話は終わりましたかー? 既に戦闘開始しているんですが、勧誘は後にして早く初めてくださーい』
「おや、話が聞こえてたのか?」
『決勝戦からは試合開始前の音声なども拾えるようにしているんですよ。さっきの会話もバッチリ聞こえてましたよー』
ふむ、ならもう少し煽っておくか。
「さて、それじゃ、そろそろ始めさせてもらうぞ。まずは名乗らせてもらおうか。クラン『ライブラリ』クランマスター、錬金薬士トワ!」
「ふん、私は弱者に名乗る気などありませんわ」
「そんな事言って、本当は名乗りを上げて無様に負けるのが恐いんだろ?……ああ、別に答えなくても構わないぞ。答えられなくても臆病者には大差ないんだからな」
「なんですって!!」
「事実、お前さんは1回も名乗ってないだろ? 別に名乗りを上げるのが恐いなら構わないさ。ほれ、さっさと始めるぞ」
「わかりましたわ。それでは名乗りましょう。クラン『ローズガーデン』クランマスター、マリー=ゴールド、それがあなたをたたきのめす者の名よ、覚えておきなさい!」
『ローズガーデン』ね……後で事実関係を確認しておくか。
それにしても、どうしたものか。
「あなたは特別に私の最大火力で葬って差し上げますわ! 食らいなさい!」
最大火力ね……
このレベル制限がある範囲で最大火力となるとライトニングレイかラーヴァボム、あるいはラーヴァショットあたりか?
……それにしてもずいぶん
「……食らいなさい! ラーヴァショット!!」
ようやく魔法発動したか。
それにしてもラーヴァショット3発ね。
【並列詠唱】はレベル3~5と言ったところか。
俺はインベントリから
ラーヴァショットは攻撃力は高いが、弾速はそこまで早くない。
ついでに言えば、追尾性能もよろしくない。
今の俺のAGIがあれば普通に全弾回避も余裕だが、それでは
俺は回避を選択せずに、取り出したポーションを自分にかけて、ラーヴァショットの直撃を受けた。
『おおっと、トワ選手! 戦闘開始直後にいきなりの被弾だ!! ラーヴァショット3発はかなりの威力に……ってええ!?』
ラーヴァショットの爆発エフェクトが晴れた後に出てきた俺は全くの無傷だった。
『なんと、トワ選手無傷です! マイスタークラスの大会規定内ではかなり上位の威力を誇る魔法でしたが無傷で耐えきりました! あれは一体なんだったのでしょうか!?』
「な、なぜ無傷で立っていられるのですか!?」
「なぜって言われてもねぇ。このポーションのおかげとしか言えないな」
「ポーションですって!?」
「ああ、使ったポーションの種類と解説は解説役のGMに任せた」
『……どうやら私達に出番を回されたようですのでお答えしますが、トワ選手が使用したポーションは『アンチマジックポーション』ですね。一定以上の魔法ダメージを受けるか効果時間が切れるまでの間、魔法ダメージを受けなくなるバリアを貼ることが出来るポーションだと思っていただければわかると思います』
『そんな便利なポーションがあったのですね……しかし、そんなポーションの存在、私は知りませんでしたが?』
『あのポーションの素材は色々高値で取引されているアイテムが必要になりますからね。それに、錬金術系スキルで素材を加工する必要もありますし……もしマーケットに並ぶとすれば品質★2の一般品であっても20万Eはするアイテムですね』
『そんなに高価なんですか……』
『ボス素材も多数含まれますからね。そして★2程度の品質では、効果時間1分、耐えられる最大ダメージ量300と微妙ですからね。マーケットに並ばないのも当然です』
『しかし、トワ選手が使用したポーションは高品質品ですからね。効果時間も耐久力も段違いですよ』
『具体的にどの程度の時間と耐久力なのか教えてもらえませんか、篠原GM?』
『さすがに、そこまで情報を開示するわけには、ちょっと……ただ、少なくとも4桁のダメージに耐えることは可能ですね』
『4桁……1000ダメージですか。そんなのが出回ったら大変なことに……』
『……まあ、そうなんですが、そこはトワ選手の良識に任せるとしか……』
好き勝手言ってくれるな、GMも。
さすがに俺もこのレベルのポーションを市場に回すつもりはないって。
特殊ポーション用のポーション瓶で効果上乗せしてるし。
まあ、いいや。
効果時間ももったいないから、サクサク次へいこう。
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