91.GW7日目 ~武闘大会 決勝トーナメント 準決勝第2試合~

「かぁーっ! 負けた負けた! いっそ気持ちのいい負け方だったぜ!!」


 試合終了とともに全回復した鉄鬼が俺に近づき話かけてきた。


「気持ちのいい負け方って……気持ちの悪い負け方とかあるのか?」

「おう、そうだな……例えば、準備出来るのに準備せずに挑んで負けたときとか、力を出し惜しみして負けたときなんかは気持ちよくないな!」

「……ホント、お前さんは変わってないなぁ」

「それはお互い様だろう? お前だってなんだかんだ言っても負けず嫌いじゃねえか」

「まあ、それは否定しないがな」

「それにせっかく戦うなら正々堂々正面からぶつかった方が楽しいじゃねえか!」


 相も変わらず、熱い男だ。

 いや、熱いおとこと呼ぶべきか。


「それにしてもあの攻撃すごいな!」

「あの攻撃?」

「最後のときに使った、あの女の子を呼ぶ攻撃だよ! まさか俺の防御力を貫いてあそこまでダメージを受けるとは思わなかった!」

「ああ、紫電一閃か。アレの種明かしをするなら、防御・耐性無視の攻撃だぞ。相手がどんなに防御力が高ろうが、耐性をガン積みしていようが関係なく一定ダメージを与える技だ。至近距離から撃たないと威力が出ないみたいだから、扱いどころが難しいがな」

「へぇ、そうなのか。ちなみに、俺も同じ攻撃を覚えられるのか?」

「知らん。何せサンプル数が圧倒的に足りてないスキルだ。全員似たようなスキルなのか、それともバラバラなのかまったくわからん」

「サンプル数が少ないってどういうことだよ?」

「この間開放されたヘルプがあるだろう。あれだよ。俺が使ったのは『聖霊武器』だ」

「ほー、さっきのが『聖霊武器』なのか。ヘルプはざっと読んだが、よくわからんから放置していたな」

「興味があるなら教授のところに行け。『聖霊武器』の最初の発見者は教授だ。検証もなにもないぐらい詳しい情報を知ってるぞ」

「なるほど。じゃ、クランに戻ったら皆に話をしてどうするか考えてみるわ」

「ああ、そうしてくれ」

「……よし、じゃあ、トワ」

「なんだ改まって」


 鉄鬼は右手の拳を突き出してくる。


ってのを見せてくれ」


 ああ、そう言うことか。


「わかった。まあ、お前に勝てたならもう負ける気はしないさ」


 鉄鬼の右手に俺の左手をぶつける。


「おう! それじゃ、俺は3位決定戦に回るわ。それじゃな、トワ」


 鉄鬼はそれだけ告げると闘技場から転移して去っていった。


 俺もこの場にとどまったところで仕方ないし、さっさと引き上げますか。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 控え室に戻った俺は、すぐに観客席の方に移動した。


「おかえりトワくん。大丈夫だった?」

「おかえり、トワ! さすがやるじゃない!」

「うむ、見事な勝利じゃったぞい!」

「がんばったねー。鉄鬼も後一歩だったのにね」

「ああ、さすがに疲れたぞ……」


 疲れたのは紛れもない本心だ。

 さすがにこんな疲れる戦いを繰り返したくはない。


「じゃあ、疲れが取れるように、何か飲む?」

「そうだな……何かジュース類を頼む」

「うん、わかった……はい、どうぞ」

「ありがと」


 ユキのインベントリには各種飲食品がつまっている。

 普段、来客時にお茶を出すときだって、その気になればインベントリからすぐに出せるのだ。


 それをやらない理由は「気分の問題」だそうだ。


『それにしても、先ほどのトワ選手の最後の一撃はすごかったですね。あれは一体何なんでしょう?』


 実況の……確か、ミオンだっけ。

 彼女が解説のGMと話をしていた。

 準決勝第2試合が始まるまでのつなぎだろう。


『あれですか……まあ、もう本人が使ってしまいましたので隠し立てする必要はないでしょう。あの技は『聖霊武器』を手に入れると使える【聖霊開放】ですね』

『【聖霊開放】ですか……ひょっとして『聖霊武器』って、この間開放されたヘルプに載っていた武器のことですか?』

『ええ、そうですね。つい先日開放されたヘルプの武器です。ちなみに既に『聖霊武器』を所有しているプレイヤーはトワ選手を含めてまだ2人だけですね』

『おぉ、つまりそれだけレアという事なんですね。私にも手に入れる事って可能なんでしょうか?』

『はい、可能ですね。『聖霊武器』は手に入れるまで少々手間がかかりますが、誰でも入手可能なコンテンツとなっています。もっとも、入手難易度が低いという訳ではありませんが。……入手するためにはいくつかのクエストをクリアする必要がありますが、導入部となるクエストの発生方法は、ヘルプにも載っていますのでそちらをヒントに皆さんでお探しください』

『なるほどなるほど。もし私も『聖霊武器』を入手すればあのような【聖霊開放】が使えるのですね』

『あー、それは少し違いますね。【聖霊開放】スキルは各個人ごとに異なる効果を発揮することになります。トワ選手は攻撃スキルでしたが、支援スキルや回復スキルの可能性もあります。基本的にはその持ち主にあわせたスキル効果になりますね』

『そうですか……。私にもあんな必殺技のようなスキルが使えると思ったんですが』

『必殺技、というのが正しいかはわかりませんが『切り札』ではありますね。【聖霊開放】はリキャストタイムが48時間、現実での24時間に1回しか使えない強スキルという設定ですので。回復系や支援系であったとしても、人によってはレイド全体に影響を与えるようなスキルが発動する可能性もありますからね』

『おお、それは確かに『切り札』ですね。しかし、そうなるとトワ選手はこの後の決勝戦ではもう【聖霊開放】を使えないのでは?』

『そこはご心配なく。今回の武闘大会は、1試合終了するごとに装備の耐久値やスキルのリキャストタイムなどがリセットされる仕組みになっております。したがって、トワ選手の【聖霊開放】も既に再使用可能となっているはずですね』


 あれ、そうだったのか?

 改めてスキルのリキャストタイムを確認すると、確かに全てのスキルが使用可能状態になっている。


「トワ、知ってて使ったの?」

「知ってるわけないだろ。ましてやあの状況じゃ使わなきゃ負けてたんだ。どちらにしても使っていたよ」

「それもそうね。相変わらずトワと【城塞】は相性悪かったものね」

「相性が悪い、なんてレベルじゃなかったけどな。あの鎧、アダマンタイト製とミスリル金合金製だぞきっと。あんなのまともに相手できるヤツなんてほぼいないさ」

「そうね、マイスタークラスの縛りの中じゃ厳しそうね。オープンクラスになるとそんな人もゴロゴロいそうだけど」

「オープンクラスならなぁ……レベル制限のある強ボス武器や防具を使っている連中もゴロゴロいるからなぁ……」

「装備の性能だけなら、あんたら絶対に負けてないけどね」

「まあ、★11装備揃えてるプレイヤーなんていないだろうしなぁ」

「そうねぇ。でも、キャラレベルで負けてるから勝負にならないでしょう?」

「そこまで酷くはないと思うけど……予選のバトルロイヤルでも落ちる可能性あるかな、組み合わせ次第では」

「まあ、そんなところよね」

「そうそう。そんなところ」


 そんな事を適当に話し込んでいたら、準決勝第2試合の準備が整ったようだ。


 組み合わせは……準々決勝第3試合で勝ち上がった女性魔術士と、準々決勝第4試合で勝ち上がった男性斧使いだ。


「斧使いなんて珍しいわね」

「確かに。対人戦では取り回しやすい装備が大半なのにな」

「お主ら、さっきの試合も見てたじゃろうに。あやつは、斧と剣両方使っておったよ」

「ああ、そう言えば。でも、最初は剣だったでしょう?」

「うむ。だが、実際には剣よりも斧の方がメイン装備のようじゃぞ。先ほどの試合も斧に切り替えてから一気に倒しておったからの」

「という事は、最初から本気って事でいいのかしら」

「そうなるじゃろうの」

「さて、この試合はどうなることやら……」


 画面では準決勝に進んだ2人がにらみ合いをしている。

 何か話しているようにも見えるが、音は拾えていないため、何を話しているかはわからない。


 とりあえず、女性の方が何かを言って、男性側がそれに憤っているのが見て取れる。

 ……どうせろくな事言ってないんだろうな……


 どことなく、どっかで似たような感じの相手に会ったことがある気がするぞ。


 武闘大会の闘技場では何らかのやりとりが行われているようだが、そろそろ試合開始時間である。

 画面上にもカウントダウンが表示され始めた。


 やがてカウントダウンが終了し、試合が開始される。


 先手をとったのは斧使いの男だった。

 男は持っていた斧の他にもう1本の手斧を取り出し、2本同時に投擲する。


 【斧】スキルの遠距離攻撃『ブーメラントマホーク』だな。


 女性の方は飛んでくる斧に対して魔法で応戦する。


「へえ、【並列詠唱】か。生産職じゃ手に入らないようなスキル持ってるな」


 【並列詠唱】それは『同じ魔法スキルを同時に発動させる事が出来る』スキルだ。

 そのスキルの方向性から戦闘職の魔術士にとって、喉から手が出るほどほしいスキルである。


 だが、このスキルもスキルブック以外での取得報告はない。

 そして、このスキルブックの入手方法は高難易度ダンジョンのレアドロップである。


 流通もしていない訳じゃないが、そんなに気軽に手が出せる値段ではないし、何より戦闘をあまりしない生産職ではあまり賢い買い物コストパフォーマンスがいいとは言えない。


 閑話休題それはともかく


 女性は【並列詠唱】で発動させた複数のストーンウォールで2本の斧を防ぎきっていた。


 勢いを失った2本の斧は男の手に戻る。

 男は忌々しげに女性をにらんだ後、改めて斧を構えて女性に斬りかかる。


 女性はそれをファイアウォールを使って妨害しつつ、【並列詠唱】で弾数を水増ししているであろうファイアアローで攻撃し始めた。

 【並列詠唱】を使っていると判断できる理由は単純で、最大魔法レベルまで上げていてもあの本数にはならないためだ。

 あの女性魔術士、完全に遊んでいるな。


「あの女、わざと下級魔法を使ってるわね」

「柚月もそう思うか?」

「それぐらいわかるわよ。ついでに言えばあれは普通の生産職の戦い方じゃないわね」

「普通に【並列詠唱】前提のスキル回ししてるからな」


 【並列詠唱】はクセのあるスキルだったはずなので、いろいろな意味で扱いにくい。

 それを扱いこなせてるって事は、戦闘をかなりの回数こなしてるってことだ。

 その後も終始、女性魔術士のリードで戦闘は進み、結局、5分ほどで決着はついた。


『準決勝第2試合勝者マリー=ゴールド選手です!』


 どうやら決勝戦の相手も決まったようだ。


「で、トワ。?」

「さあ? 相手の出方次第だけど……あのレベルの魔術士ならからなあ」

「メタれる? トワくん、どういうこと?」

「完全に相手の攻撃を封じて勝つことが出来るって事だよ。まあ、負ける想像が出来ないな」

「同感ね。やっぱり鉄鬼との戦闘が、実質的な決勝戦だったわね」

「仕方が無かろう。同じ縛りの上でわしらと戦うこと自体が無理があるというものよ」

「うーん。でも仕方が無いよねー。全力を尽くした結果だし」


 実際に仕方が無いのだ。

 お互いに全力を尽くした結果だし。

 全力の結果が同じ成果を生み出すとは限らないのだから。


 ともかく、決勝戦の相手も決まった事だし、全力を尽くそうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る