90.GW7日目 ~武闘大会 決勝トーナメント 鉄鬼戦 2 ~
「なっ」
鉄鬼の装備変更後の姿を見て再び息を飲む。
その
『おおっと、ここで鉄鬼選手装備を変えてきた! しかしあの一瞬で装備を変更したのは一体?』
『あれは【アーマーチェンジ】と【ウェポンチェンジ】ですね。どちらも王都のスキルショップで買えます』
『ただし、どちらも戦闘用としてよりも便利な早き替えスキルとして使われていますね。変身ヒーローや魔法少女のなりきり、後は演劇などですか』
『使い方としては今回の様に一瞬で装備の特性を変える。それが目的で開発されたスキルなんですがね』
『どちらかというと趣味スキルとしての人気が高いですね。それこそ入荷して即完売する程度には』
『なにそれ、私もほしいです! そんな事より、トワ選手の強攻撃を受けてもなおダメージがほとんどなかった、あの装備はなんだ!!』
実況と解説が熱く語ってくれる。
それよりも
「その様子で行くと、
「ああ、嫌って言うほどその装備の特性は知ってるよ」
「それなら説明はいらないな。全力でかかってこいや!!」
「ちっ、ウェポンチェンジ・双華!」
「お、お前もウェポンチェンジ持ちか!」
その言葉には返答せずに双華、つまりは雷華と氷華に武器を切り替えた俺は、試しにチャージショットを撃ちこんでみる。
すると、盾に当たった時点ですでに攻撃力を失っていた弾丸は、鉄鬼のHPをさほど削ることはできなかった。
「ちっ、元の物理防御力は低いはずなのにここまでダメージが入らないとはな」
「そりゃーお前、物理防御と魔法防御を同居させるため、色々な合金を試したからな。おかげで費用がかさんじまった」
「それはご愁傷様。どうせなら作るのを諦めてくれてもよかったんだぞ?」
「魔術士対策にはこれが一番だからな。準備出来るものは全て準備する。それが俺達の信念だろう?」
「違いない。それじゃ、戦闘再開と行きますか!」
「おう、かかってこいや! トワ!!」
こうして俺にとっては勝利が遠のいた、俺と鉄鬼の第2ラウンドが開始された。
ダメージ量から察するに、全属性耐性は物理攻撃に属性がついただけでは効果を発揮しないらしい。
ただし、同じくダメージ量から察するに物理防御力もかなり高いらしい。
こちらの攻撃はほとんどダメージを与えていない。
フルバーストや、ラピッドショットでもわずかばかりのダメージが入るようになったが、すぐにセルフヒールで回復されてしまう。
「そんなんじゃぁ、効かねぇな! トワ、本気でかかってこい!!」
「うるさいな、それなりに本気だよ!」
実際問題、物理攻撃としてはかなり本気な方だ。
魔法攻撃を行えばもっと強力な攻撃はあるが……
「ウェポンチェンジ・双迅! マギチャージ・ライトニングボルト! チャージショット!!」
双迅――雷迅と氷迅――に持ち替えて、マギチャージからのチャージショットを撃ちこんでみる。
「はっ! 甘いな! シールドチャージ!!」
鉄鬼はこちらの攻撃をものともせずに、突撃攻撃を仕掛けてくる。
実際、今の鉄鬼は【大山不動】の効果でノックバックもヒットストップも発生しない。
つまり、チャージショットで足を止めることが出来るはずもなく……
「くらいな! ハイスラッシュ!!」
間合いの内側に入り込んだ鉄鬼は、スラッシュ系の上位攻撃で攻撃してくる。
俺は何とかギリギリ直撃を受けることはなく、盾の代わりに銃を使って受け流していた。
「やるじゃねえの! じゃあこれはどうだ、水平斬り!」
「バックスステップ!」
鉄鬼はハイスラッシュを回避したことを何とも思わず、そのまま水平斬りへ剣技を変えた。
俺はその攻撃ののわずかな隙を利用して、バックステップで直撃は避ける。
ただし、水平斬りは衝撃波も飛んでくるためそちらは避けきれない。
もっとも、衝撃波は魔法攻撃、しかも耐性がある風属性なのでそこまで深刻なダメージにはならない。
連続で受けない限りは。
「セルフヒール。鉄鬼、お前さん、あれだけの攻撃を受けてもほぼ無傷かよ……」
「この装備は魔法耐性には自身があるからな。
「まあ、ばれてるなら隠さないけどさ。よくその装備までたどり着いたよな」
「ああ、鍛冶ギルドのランクを上げてたらたまたまだよ。まさか、ここまで優秀な防具に化けるとは思わなかったけどな!」
雑談は終わりとばかりに、走ってこちらとの間合いを詰めてくる鉄鬼。
こちらも負けじとステップ系のスキルを利用して翻弄しようとするが、鉄鬼は確実にこちらのことを見失わずに追いかけてくる。
こちらの移動タイミングを見計らってステップ系スキルも使って間合いを詰めてくるから厄介だ。
こちらとしても、重量のあるバスタードソードやタワーシールド相手にガン=カタを仕掛けるわけにも行かず、攻め手に完全にかけていた。
先ほどの水平斬りの衝撃波からも察する事が出来たが、鉄鬼の攻撃が直撃したら即死もありそうだ。
「どうした、お前の切り札はもう終わりか!」
鉄鬼のHPバーが徐々に回復していく。
おそらくはセルフヒールを連発しているのだろう。
試合の残り時間もだんだん減ってきており、残り7分を切っている。
このままでは埒があかない。
そう判断した俺は、一気に勝負に出ることにした。
「縮地」
「お? ……って逃げんのかよ!!」
後方に向かって縮地を使い距離を稼ぐ。
そして双迅を一度インベントリに格納し別の銃を取り出す。
それは、黒牙だ。
おれは銃を取り出すとすぐに伏せ撃ちの姿勢をとる。
「うん? そいつは例の動画のライフルか?」
「攻撃力はその身で確かめてみろ! チャージショット!!」
実に15メートル以上の距離を弾丸は一気に駆け抜け、鉄鬼のアーメット(兜)に突き刺さる!
だが、
「つぅ……さすがに、そのヘッドショットは効いたぜ!」
この威力を持ってしても鉄鬼のHPは3割も削れていない。
「お前、どんだけ頑丈なんだよ!」
「そっちこそ、伏せ撃ちしてるのに後方に吹き飛んでるとか、その銃の威力おかしいだろ!」
「その威力おかしい銃でヘッドショット決められてるのにHPが3割も減らないのがおかしいんだよ!」
「金属兜をかぶっていれば兜部分に当たる限りヘッドショット判定のクリティカルはないからな!」
なるほど、それならあの威力しか出ないのも納得だ。
こんな話をしている間にも、鉄鬼は自分のHPをセルフヒール連発で回復している。
ハイヒールを使わないのは詠唱で数瞬足が止まるのをいやがっているのだろう。
時々MPポーションを使っているので、鉄鬼のMPがそんなに多くないのは理解している。
だがMPポーションの支給数は10個なので、このペースで使わせても試合終了までギリギリ持つだろう。
そうなってくると残りHPの割合による判定だが……不利なのは俺の方だな。
俺は一撃ごとにガードに成功したり、攻撃の余波に当たったりするだけでもHPの2割から3割は確実に持って行かれる。
ミドルヒールを使えば確実に完全回復するが、そのミドルヒールを使うタイミングが難しい。
そんな事を考えている間も、鉄鬼との戦闘は続いている。
こちらの攻撃が物理属性に変わっているのだから、最初の鎧に替えた方が被ダメージ量は少ないはずだ。
しかし、鎧を替えればこちらもまた銃を替える事は目に見えているため、あえて今の鎧で攻撃を受け止めているのだろう。
対して俺はといえば、バックステップとライフルの反動で吹き飛ばされるのを利用して、ひたすらに距離を稼ぎつつ攻撃している。
引き撃ちに近い状況と言ってしまえば聞こえはいいが、正確に狙いをつける余裕のないライフルでの攻撃、その後の反動で後方に吹き飛ばされ、転がるのを利用して立ち上がると同時にバックステップ。
はっきり言ってそんな方法でまともなダメージを鉄鬼に与えられるはずもなく、小走りにこちらに駆け寄りながらライフルの銃口から身をそらす事で、最小限の動作でこちらの攻撃を回避している。
はっきり言って追い詰められるのは時間の問題だった。
そしてじわじわと追い詰められていた距離はついに5メートルを切り、
「いまだ! シールドチャージ!」
シールドを構えた突進攻撃を仕掛けてくる。
体勢を整え切れていない俺は、ステップ系のスキルを使う事すら出来ず、その突進を受けることになる。
「くっ!!」
「シールドスイング!」
鉄鬼はそのままシールドチャージからコンボでつながるスキル、シールドスイングで追い打ちをかけてくる。
俺は体勢を崩しながらも黒牙で鉄鬼のシールドを防ぎつつ後ろに転がりダメージを減らす。
同時に体勢を立て直し、バックステップで距離を離す。
だがそこにも、鉄鬼からの追撃が来た。
「疾風斬!」
【剣】スキルにある斬撃を飛ばす攻撃スキルだ。
有効射程ギリギリではあるが、追撃を優先したらしい。
シールドブーメランでないのは、こちらの反撃を恐れてのことだろう。
疾風斬も躱せるタイミングではないので黒牙で受け止める。
『おおっと、ここに来て鉄鬼選手猛烈なラッシュだ! 残り時間2分を切って一気に勝負を決めに来たか!?』
『さすがにこのタイミングでこの連続攻撃は厳しいですね』
残りHPが2割を切っているのだ。
早急な立て直しが必要になるが鉄鬼の攻撃も止まらない。
基本技であるが故に、リキャストタイムの短い疾風斬をもう1度放ってきたのだ。
だが、これはさすがに躱す余裕があったため身を躱す。
その際にセルフヒールを使いHPを4割台まで回復する。
『さあ、残り時間1分を切った! このまま鉄鬼選手が押し切るのか! それともトワ選手がここから巻き返しにかかるのか!?』
視界の隅に表示されている残り時間に目をやれば『0:52』のとなっている。
セルフヒールもリキャストタイムが終わる度に使用するが、鉄鬼から飛んでくる疾風斬の影響で回復もままならない。
……ここは一か八かの最終手段に出るしかないか。
残り時間『0:43』
俺は黒牙をインベントリに仕舞い新たな銃を取り出し、前方に駆け出す。
『おおっと、トワ選手が動いた! さあ、鉄鬼選手はどうでる!?』
「そんなの決まってるよなぁ! 迎え撃つ!!」
鉄鬼はこちらが前方に走りながらも疾風斬を躱せることを確認すると、改めて盾を構える。
おそらくシールドチャージを使ってくるのだろう。
だが、そんな鉄鬼の行動より先にこちらから仕掛ける。
残り時間『0:32』
「フォワードステップ!」
「なに!?」
この場面においていきなり距離を詰めるとは思っていなかったのだろう。
「くっ! シールドス……」
「サイドステップ!」
鉄鬼がシールドスイングを使うよりも先にサイドステップを使って一時距離を離す。
残り時間『0:28』
「縮地!」
シールドスイングは前方をなぎ払う攻撃のため、技後硬直がそれなりにある。
特に今みたいな秒単位で状況が変わる状態では。
もっとも、シールドバッシュを使っても一緒だったし、さらに言えば、スキルなしに盾で殴りつけてきても一緒だっただろう。
こちらはサイドステップが終わると同時に縮地を使ったのだから。
縮地の効果で鉄鬼のすぐ横手に移動した俺は、左手に持った
残り時間『0:25』
「『聖霊開放・
黒い銃、すなわち聖霊武器・建御雷に重なるように少女の姿をした聖霊が
『おおっと! トワ選手、ここに来ての大技炸裂!! というか今の少女はいったいなんだ!? そしてこの威力は一体!?』
そう、この攻撃は今までのどの一撃よりも重く、鉄鬼のHPが残り3割弱というところまで減っていた。
「くっ、この…」
しかも鉄鬼は
『聖霊開放・
その効果は以下の通りだ。
―――――――――――――――――――――――
聖霊開放
『
建御雷の銃口よりスキルレベル×2メートルの扇状範囲に効果
全ての魔法防御・魔法耐性を貫通する雷属性の魔法攻撃を行う
攻撃力は距離とINT・DEX依存
銃口から対象までの距離が短いほど威力大
また、この攻撃に当たった敵は耐性を無効化して
確実に感電状態になる
リキャストタイム
48:00:00
―――――――――――――――――――――――
聖霊武器を使い、現実での1日に1回のみ使える最大奥義。
それが【聖霊開放】だ。
リキャストタイムの関係で今まで一度も試したことがない、ぶっつけ本番の一発勝負だったが成功したようだ。
残り時間『0:19』
残りHPはこちらが4割強、鉄鬼が3割弱。
このまま行けば、俺が勝つことになる。
しかし鉄鬼がこのまま終わるはずもない。
「うらぁぁぁぁ!!」
鉄鬼が痺れる体に活をいれて、無理矢理こちらに攻撃を仕掛けてくる。
残り時間『0:14』
だが、しかし。
俺はその攻撃を躱すことなく受け止めた。
ノーダメージで。
「あ……?」
「残念だったな。『幻狼の護り』だよ」
そう、俺はあらかじめ『幻狼の護り』を聖霊開放直後に使っていたのだ。
残り時間『0:08』
体を無理矢理動かしたせいで完全に死に体になっている鉄鬼に対し、俺は。
「ウェポンチェンジ・双華。ピアッシングショット! フルバースト! ゼロショット!!」
武器を雷華と氷華に持ち替え、ピアッシングショットで防御力を割合低下させ、さらにフルバーストとゼロショットを叩きこんだ。
大山不動の効果で鉄鬼が
残り時間『0:00』
試合時間の15分が経過し電子音が鳴り響く。
『これにて制限時間終了です!! 試合時間中に決着がつかなかったため、残りHPの割合による判定に移ります!!』
そう、あれだけのラッシュを受けても鉄鬼のHPは削りきれなかったのだ。
……さすがは最前線クランの2番隊サブタンクだな。
『残りHPの割合ですがトワ選手43%! 鉄鬼選手13%! したがって準決勝第1試合、勝者はトワ選手に決定です!!』
実況の声にあわせるように歓声が巻き起こる。
……最後にあれだけの攻撃を仕掛けても残り13%もあったのか。
本当に鉄鬼の硬さはすごいな。
**********
~あとがきのあとがき~
ひたすら強スキルに見える『紫電一閃』ですが、しっかりと弱点があります。
それは『距離に対するダメージ減衰率が激しいこと』です。
有効射程は【聖霊開放】のスキルレベル×1メートルですが、有効射程の3分の1程度の距離が最大ダメージに対する与ダメ50%のラインです。
有効射程ギリギリになると1%程度のダメージしか入りません。
状態異常『感電』はダメージに関係なく有効ですが、ダメージリソースとしては遠距離攻撃職であるガンナーにはかなりきついスキルです。
ある意味、ひねくれ者のトワくんに相応しいスキルと言えます。
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