89.GW7日目 ~武闘大会 決勝トーナメント 鉄鬼戦 1 ~

 鉄鬼の試合が終わった後、残り2試合も皆で観戦した。


「トワ、第3試合のあの女の子、どう見る?」

「ああ、あの魔術士か」


 話に出たのは第3試合の勝者の女性魔術士。

 はっきり言ってこれといった特徴のない魔術士ではあったが……


「持っていた武器がおかしかったな」

「そうよね。あれは確かどこかのダンジョンボスのレアドロだったはずよ」


 ダンジョンボスのレアドロップ。

 一言で言ってしまえば、普通はおかしいものではない。

 レアドロップだからと言ってお金で買えないわけではないのだから。


 ただし、生産職が使うとなると話が変わる。

 はっきり言ってしまえば、あのクラスのレアドロップ品なら、同価格帯のプレイヤーメイド品の方が性能はいい。

 逆に、生産職が自力で取りに行くには敷居の高いダンジョンだったはずだ。


「確か……レベル55推奨ダンジョンのレアドロじゃなかったかな」

「そうね。少なくとも、レベル50未満のダンジョン産武器じゃないはずよ」

「ついでに言うと、戦い方もずいぶんと手慣れていたな」

「あと、装備もずいぶんとチグハグそうに見えたわね。武器だけやたらと上級でそれ以外の装備に統一感がなかったわね。もちろん自力で揃えられなかっただけって可能性はあるけど……」


 俺達がなぜこんな事を話しているかというと。


「あの子、サブジョブを生産系にしただけの戦闘組でしょうね」


 この一言に尽きる。


 マイスタークラスのルール上最大の穴。

 それは、『サブジョブが生産系・趣味系であれば参加可能』と言う点だ。


 サブジョブの変更は実に容易にできる。

 生産系になりたければ生産ギルドに行けばいい。

 そこで手続きをすれば生産系のジョブになれる。


 あと、ついでに言えば、彼女『だけ』が名乗りを上げなかった。


 第1試合と第2試合に触発されたのか、第3試合と第4試合でも名乗りあいが行われた。

 そんな中、彼女は名乗りを拒否したのだ。

 別に大したことではないのだが、明確に拒否の姿勢を見せるのも目立っていた。


「まあ、いいんじゃないか? 戦闘組だからって出ちゃいけない、なんてルールはないんだし」

「ま、それはそうなんだけどね。わざわざそこまでして勝ちたいのかしらね?」

「さあ? それを言い出したら、俺や鉄鬼みたいな例外もいるわけだし」

「それもそうだけどねぇ」

「勝てても次の試合までだよ。彼女じゃどうあがいても俺にも鉄鬼にも勝てない」


 それは自信とか自慢とかそんなものじゃなく、単なるだ。


 彼女が俺達に勝てる見込みは極めて低い。

 俺にしろ鉄鬼にしろ、あの程度の魔術士なら確実に倒す方法があるのだから。


 まあ、いい。

 彼女の事は、に勝てた後に考えればいい。


「トワこれからどうするの?」

「控え室に戻ってから少しログアウトしてくる。まだ50分ぐらい待ち時間残ってるしな」

「了解。応援してるわよ」

「がんばってね、トワくん」

「がんばるのだぞい」

「がんばってねー」


 俺はクランメンバーの声援を背に観客席から控え室へと移動してから、一時ログアウトした。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 一度ログアウトして一休みし、試合開始時間より10分ほど早くログイン。


 控え室に独り篭もり、精神統一、ではないが集中力を高める。


 試合開始5分前。

 試合会場への転移を促す仮想ウィンドウが表示された。

 俺は仮想ウィンドウのメッセージに従い、試合会場へと転移する。


 するとそこにはすでに鉄鬼が待っていた。


「おう、トワ! お前も早かったな!」

「ああ。控え室で待っていてもしょうがないからな」

「まあ、独りでいても仕方ねえしな」

「そういうお前もずいぶんと早かったみたいだが?」

「ああ、暇だったからな。それにお前と戦うのは久しぶりだからな。ガマンできなくてよ!」

「はぁ……相変わらず熱いヤツだな、お前は」

「そう言うな、お前は相変わらず冷めてるよな」

「鉄鬼に比べれば大体のヤツは冷めてるだろうに」

「はは、違いねえ」


 そんな風に気安い感じで会話を続ける。

 そんなところに司会を務める……えーと、そうミオンから声がかかった。


『お二人とも、仲がいいのはわかりましたから戦闘準備おねがいしまーす!』


「っと、いけねえ。もう開始90秒前か」

「そうだな。さっさと始める準備をするぞ」

「おう、今回は負けねえからな!」

「こっちだって負けるつもりはないさ」


 互いに背を向け歩き出す。


 10メートルぐらい離れたところで向かい合い、戦闘準備に取りかかる。

 鉄鬼はインベントリからタワーシールドとバスタードソードを取り出していた。

 対して俺は雷迅と氷迅を取り出す。


 少なくとも今の鉄鬼の装備は物理耐性よりだ。

 ならば魔法攻撃になる雷迅と氷迅で先制するのが一番いいだろう。


 視界に表示されているカウントダウンがどんどん進む。


 鉄鬼の装備品は黒一色に染め上げられている。

 見た目だけでは元の素材が何か見当もつかない。


 カウントダウンがついに10を切る。


 あの大盾も地味に脅威だ。

 物理防御の低い俺ではシールドバッシュでも相応のダメージを受けるだろう。


 カウントダウンは止まらずに進む。


 バスタードソードの攻撃はヘタな大技の直撃を受ければ即死級のダメージが入るだろう。

 全身の物理防御を足しても150にしかならずVITも低い俺では耐えられるか怪しい。


 ……3……2……1……START!!


 ついにカウントダウンが終了し、試合が始まる。

 だが、鉄鬼は盾も剣も構えることはせず、こちらを見てくる。


「おい、トワ! やっぱりここは名乗りあいから始めようぜ!」

「……好きだな、お前さん。そう言うことが」

「おうよ! 俺から行かせてもらうぜ!! クラン『百鬼夜行』! 防具鍛冶士【城塞】鉄鬼!!」

「はあ、付き合うか……クラン『ライブラリ』クランマスター、錬金薬士【爆撃機】トワ」

「いざ尋常に、推して参る!!」

「撃ち抜かせてもらう!」


 こうして俺達の決戦は始まった。



 先手をとったのはもちろん俺だ。


 雷迅と氷迅を構えてのダブルバーストショットが鉄鬼を捕らえる。


 鉄鬼はタワーシールドでガードするが、ガードの上からでも1割弱のダメージを与えることができた。


(いくら何でもダメージ量が多すぎる。まさか魔法防御を捨ててるのか?)


 装備を作る際にはいくつかパターンがある。


 物理防御を優先したもの。

 魔法防御を優先したもの。

 防御力よりもステータスや攻撃力アップを優先したもの。

 どれにも偏らずバランスが取れたもの。


 いくら雷迅と氷迅の攻撃力が高く、さらに属性攻撃力アップ・大の恩恵を受けてるとは言え、盾でガードされたのに1もダメージを与えられたのはおかしすぎる。

 あいつの種族がハーフリングのようなHPの少ない種族ならありえるが、どう考えても鉄鬼はドワーフだろう。


 そうなると、あいつの今の装備品はという事になる。

 しかし、魔法防御を捨てた装備なんてものをアイツが作るのか?


 ……とにかく今は、削れるだけHPを削らせてもらう!


 そう思考を切り替えた俺は、矢継ぎ早にスキルを連続で叩きこむ。


「ダブルショット! ピアッシングショット! ラピッドショット! フルバースト!!」


 有効射程ギリギリからの連続攻撃。

 それを鉄鬼は受け止め、あるいは躱しながら近づいてくる。


 ピアッシングショットは防御貫通効果と防御低下デバフがつくため躱してきた。


 それ以外はダブルショットが1発躱された以外は、すべて盾にではあるが命中している。


『開幕早々激しい銃撃の嵐だ!! さすがの【城塞】もこの攻撃には手も足も出ないか!!』


 実況が鉄鬼の不利を叫んでいるが、実際に分が悪いのは俺の方だ。

 これだけのラッシュを決めたのにHPがほぼ動いていない。

 むしろ回復していっている。


 時々体が光るところから考えても、セルフヒールを連発しているんだろう。

 つまり、ダメージ倍率の低い攻撃ではあまりダメージにならず、逆に距離を詰めるチャンスという事だろう。


 ならば、ダメージ倍率の高いスキルに切り替えるのみ!


「マギチャージ・ライトニングレイ! チャージショット!!」

「シールドチャージ!」


 俺がスキルを放つのと鉄鬼がスキルを放つのはほぼ同時だった。


 相手をノックバックさせる強力な、しかも雷属性の魔法が込められた弾丸と、盾を構えての突撃がぶつかり合う!


 結果として勝ったのは鉄鬼の方だった。


 突撃の突進力は失われたが、距離を詰めるという目的は果たせたのだ。

 これはノックバック効果とノックバック耐性がぶつかり合い、耐性の方が上回ったという結果に過ぎない。


「くらいな! シールドバッシュ!!」


 鉄鬼は俺に向かって盾をつきだしてくる。

 だが俺は逆に、その盾を足場に踏みつけて、


「ゼロショット!!」


 盾越しのゼロショットを鉄鬼に叩きこむ!


 盾に押し出されるように俺は吹き飛ばされるが、盾を足場に踏みつけるようにしたため、ダメージ量はかなり少ない。

 セルフヒール1回で間に合う量しかダメージを受けていない。


 逆をいえば、シールドバッシュであっても直撃を食らえばかなりの大ダメージを受ける。

 それが証明された瞬間でもあった。


『おおっと、まさに一瞬の攻防! 今、いったい何が起こっていたのでしょうか!?』

『トワ選手がシールドバッシュに来た盾に乗るようにしてわざと吹き飛ばされ、その際にゼロショットを決めたんですね』

『さすがのプレイヤースキルとでもいいましょうか、すさまじいですねトワ選手の反射神経は』


 そんな実況と解説の声が耳に入ってくるが、俺の心境はそんな穏やかなものじゃない。


 距離を離すことには成功した。

 ダメージもこちらは最小限に抑えて、なおかつ高倍率スキルで反撃もした。


 だが、俺の中では完全に俺の方が押されている。


 鉄鬼のHPも残り6割程度まではダメージを与える事ができた。


 だが、鉄鬼は


 こちらだけが一方的に


 非常によろしくない傾向だ。


「かーっ! やっぱり爆弾なんてなしでも強いな、トワ! そう来なくっちゃ面白くない!」


 そう言って鉄鬼は盾を構え直す。


 ……もしシールドブーメランを使ってくれれば、反撃でバーストショットを決められるのに。


 さすがにそんな甘い行動を鉄鬼はとってはくれなかった。


「とりあえずHPがやばいな。……ハイヒール!!」


 上位の回復魔法によって鉄鬼のダメージが3割ほど回復する。


「あー、俺の魔力INTじゃ完全回復は無理か……まあいい。仕切り直しだぜ!!」


 改めて鉄鬼はじわりじわりと間合いを詰め始め、


「シールドチャージ!」


 シールドチャージの有効距離まで近づくと一気に突撃してくる。


「サイドステップ!」


 俺はあえて横方向に逃げる選択をする。


 移動を終えたあと、鉄鬼の方を振り向くが鉄鬼はすでにこちらに体を向けて盾を構えていた。


 このような攻防を幾度となく繰り返し、時計の針は進んでいく。


 ……わかってはいたが非常にやりにくい。


 何とも言えない焦れた時間が過ぎていく。


「どうしたトワ! もうかかってこないのか!!」


 構えた盾の向こうから鉄鬼の挑発。


「決め手に欠けるから困ってるんだよ! この鉄亀!!」

「鉄亀か! 今の俺には最高の褒め言葉だな!!」


 こいつ本当に鉄でできた亀のように守りが堅い。


「さて、残り時間10分を切ったなそろそろ俺からも攻めさせてもらうぜ! 大山不動!!」


 やはり【大山不動】を持っていたようだ。

 これで残り時間いっぱいまで、ノックバックやヒットストップは望めなくなった。


「さて、お次はこれだ! アーマーチェンジ・ミスリルアーマー! ウェポンチェンジ・ミスリルアームズ!!」

「なっ!!」


 鉄鬼はアーマーチェンジとウェポンチェンジで装備を切り替えた。

 俺は慌ててチャージショットを撃ちこむが、その弾丸は光の中から現れたに阻まれた。


「さあ、ここから第2ラウンドだ! 行くぜトワ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る