87.GW7日目 ~武闘大会 決勝トーナメント第1回戦~
『5……4……3……2……1……始め!』
カウントダウンが終了し、試合が始まった。
だが、両者ともに一歩も動こうとはしなかった。
「どうした、動かないのか?」
「そちらこそ、【爆撃機】は今は大火力で敵を打ち砕く戦闘スタイルと聞いた。ならば、先手をとった方が有利なんじゃないか?」
「格闘タイプ相手に先手なんてたいした意味はないさ……そうだな、まずは自己紹介と行くか。知っての通り俺は【爆撃機】トワ、メインジョブはガンナー系統で、サブジョブは錬金術士系統だ」
「……俺の名はモリュー、メインは格闘家系、サブは皮細工裁縫士だ」
「おやおや、派生後のジョブまで教えて大丈夫か?」
「問題ないな。俺の作品では、この戦局で使えるものなど今の装備だけだ」
「なるほど。確かに、皮鎧系の専門職なら装備しか作れないし、今から変えることは無意味だろうな」
「そういうことだ。……そちらから来ないならこちらから行くぞ。縮地!」
縮地は【格闘】スキルのレベル30スキル。
効果は任意の方向に15メートルまで移動するスキル。
15メートル
つまり……
「岩砕き!」
俺の懐に一瞬で飛び込むことが可能なのだ。
俺は岩砕きを半身になって躱す。
【格闘】スキルは俺も持っているため、その動作も大体は覚えている。
大体なのは、同じスキルであっても、予備動作も含めて数種類の動きがあることが多いからだ。
相手は岩砕きが不発だった事を気にもとめずに、そのまま格闘戦での連続攻撃に切り替えていった。
大ぶりになりがちなスキル攻撃はほぼ使わず、細かいジャブやローキックなどの隙の少ない技主体の攻撃を繰り出してくる。
「バックステップ!」
このまま、格闘戦の距離で戦っても仕方が無いのでスキルを使って距離を稼ごうとするが。
「フォワードステップ!」
相手も同じくステップ系統のスキルを使って追撃してくる。
さすがに格闘家相手に【格闘】スキルで対処しようとしてもダメか。
それに、予選のバトルロイヤルという乱戦を切り抜けてきただけあって戦い方が上手い。
基本、隙の少ない攻撃を連続で繰り出し、隙ができたらスキルを使って攻撃してくる。
俺はその攻撃を受け流したり躱したりしているが、それでも細かいダメージが蓄積してしまう。
躱すのはともかく、受け流しではパリィ判定が発生しない限り幾分かのダメージを受けてしまうのだ。
HPの多いプレイヤーや、防御力の高い装備をしているプレイヤーなら気ならないだろうが、俺の装備は高品質品とはいえ服装備だ。
また、相手のナックルガードやブーツは格闘戦用に作られたものだろう。
見た目からして、おそらく自分用の防具兼武器として機能しているのだろう。
このままでは埒があかない。
ステップ系のスキルで逃げたところで、同じくステップ系スキルで間を詰められるだけだろう。
なので、俺は相手の攻撃を受けた
そこに、モリューからの追撃が来る。
「崩拳!」
「合気投げ!」
相手のスキルに対して、俺もカウンター系の投げスキルで対応する。
本来の合気投げは自分の足下にたたきつけるスキルだが、今回は間合いを外す事が目的なので、相手を高く放り投げる。
……まあ、たたきつけても放り投げてもダメージ的には大差ないのだが。
モリューが宙を舞っている間に、ヒールの魔法を使いHPを回復しておく。
悲しいかな、俺のHPでは3割程度のダメージを負っていても、ヒール1回で完全回復してしまう。
なお、自分自身に使ったのにセルフヒールではなかったのは、単純に
ヒールのごく短い詠唱の隙は相手が宙を舞っているので問題ない。
宙を舞い、間合いを離されたモリューはすぐには間合いを詰めようとしなかった。
「まさか【格闘】だけでなく【体術】スキルまで持っているとはな、驚かされたよ【爆撃機】」
「そいつはどうも。そっちは縮地のクールタイム待ちかい?」
そう、ステップ系に比べて格段に使いやすい縮地だが、リキャストタイムが5分と長い。
そのため、1度使ってしまうとなかなか使用可能にならないという短所があるのだ。
「崩拳もリキャストタイムのそれなりにある技だしな。うかつに近づけないわけだ」
「……それに答える意味はないはずだが?」
「そりゃそうだ。こんな時間稼ぎに付き合う意味もない。というわけで行くぞ、フロントステップ!」
「な!?」
ガンナーである俺が自分から格闘戦の間合いに飛び込んできたことで、動揺を誘い隙を突けたようだ。
どうやら、【爆撃機】の名前ばかりが先行して、俺自身が格闘戦もできるという事実はあまり有名ではなかったようだ。
完全に隙を突けたのであえて俺は、【格闘】系の攻撃スキルを使い相手に打撃を食らわせる。
モリューはそれで多少ふらつくがダメージ自体はほとんどない。
当然だ、俺の
しかし、このわずかな隙があれば俺は次の行動に移れる!
「チャージショット!」
【銃】スキルの基本スキル、チャージショットがモリューに直撃する。
チャージショットのノックバック効果も合わさって、モリューの体が大きくはじき飛ばされた。
「ウィンドカッター! ウィンドアロー!」
俺はこの隙を逃さずに連続で魔法を叩きこんで追撃をかける。
攻撃速度に長けた風魔法を選択したこともあり、全弾モリューの体を直撃した。
モリューの体は衝撃で地を転がる。
しかし、モリューは転がる勢いを利用してすかさず立ち上がった。
「くっ、さすがに【爆撃機】相手に一筋縄ではいかないか!」
モリューは支給品のポーションを使いながらこちらの次の手を警戒してくる。
今回の武闘大会では回復アイテム類は全て支給品のみとなっている。
支給品のポーションは決して回復量が多いとは言えないが、他に回復手段がないのならば使うしかない。
余談だが、支給品のポーションは各試合ごとに決まった数だけ配られて、試合終了後は回収されるため、1試合ごとの使用可能数は決まっている。
支給数である5つのHPポーションを全て連続で使い切ったモリューは一気に勝負を決めに来るようだった。
「だが、このまま負けるわけにもいかん! 気力上昇! 縮地!」
縮地で再度間合いを詰めてくるモリュー。
気力上昇によって、物理攻撃力の増した赤いエフェクトをまとった拳で殴りかかってくるが、俺はその腕を巻き上げるように弾き、カウンターで銃撃を叩きこむ。
「くっ!?」
「まさか近接戦闘で銃が使えないとか思ってないだろうな?」
モリューがひるんだ隙に、俺はもう1発銃弾を叩きこみ、さらにピアッシングショットを追加で撃ちこむ。
……俺が使ったのは、某映画で『ガン=カタ』などとも呼ばれている銃を使った近接格闘術だ。
もちろん、そんな格闘術を習ったことはないので、元々使えた合気道に銃を使っての攻撃を組み込んだ我流の格闘術だ。
普通のガンナーにこれを使えと言っても無理があるだろう。
そして、そんな戦術を使える相手がいるとも想像できなかっただろう。
でも、目の前に使える相手がいるのだから諦めてもらうしかない。
「それ。追撃行くぞ! ゼロショット!!」
「ちっ、バックステップ!」
ゼロショットは高火力だがその攻撃範囲は極めて短い。
今のようにタイミングを合わせ、バックステップなりサイドステップなりの移動スキルを使われればかすりもしない。
だが、
「ライトニングバインド!」
「なっ!?」
ステップ系スキルの最大の弱点は、使った後に数瞬の行動不能時間があることだ。
フォワードステップが一番短く、逆にバックステップは一番長い。
それこそ、俺のINT値があればバインド系魔法を行使して捕らえることができる程度には。
「うん、よく頑張った。でもこれで終わりだ。ライトニングボルト!」
俺は【雷鳴魔術】の基本スキルである落雷魔法を使い、モリューの残りHPを全損させた。
『決まったー! モリュー選手、ライトニングバインドで動きを封じられては手も足も出ない! 決勝トーナメント第1試合勝者、【爆撃機】トワ選手!!』
実況による勝利宣言に応えるように、俺は左腕を天に伸ばした。
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