86.GW7日目 ~武闘大会 決勝トーナメント抽選会~

「あ、お兄ちゃん。予選見てたよ」


 午前中に行われた武闘大会予選。

 予選結果が出た後、一度クランホームに戻された俺達はそのまま各自昼食となった。


 俺はログアウトした後、昼食の準備をするためにキッチンへ向かった。

 そんなところに遥華が降りてきたのだ。


「お前も昼飯食べるだろ? チャーハンだけどいいか?」

「おっけー、お願い」


 軽く言葉を交わした後、遥華はリビングへと移動した。


 俺はチャーハンを作った後、おまけでインスタントの卵スープを準備して遥華の待つリビングへと向かう。


「あれ、お兄ちゃん。付け合わせってインスタントのスープだけ?」

「手間だったからな。嫌なら自分で作ってくれ」

「別に構わないけど。お兄ちゃんがここまで手を抜くなんて珍しいかなって」

「お前じゃないけど、今日はゲームが忙しいんだよ。このあと午後2時から決勝トーナメントの抽選会に出なきゃいけないしな」

「まだまだ時間あるけどねー。あ、お兄ちゃん。明日はわたしが武闘大会に出る日だから……」

「ごちそうでも用意してほしいのか?」

「逆だよ。簡単に食べられるものがいいな」

「じゃあパスタとかでいいか?」

「おっけー。なんのパスタにするかはお任せします」

「わかった。じゃあ適当に……ミートソースがあったはずだからそれでだな」


 明日の昼食もこうして決まった。

 しかし、それにしても……

「遥華はもう明日の予選は勝った気でいるのか?」

「んあー、予選ぐらいはなんとかなると思うよ。昨日と言い今日と言い、予選の方も完全にランダムって訳じゃなくて、ある程度強さ毎に分けられて組み分けされてる気がするんだよねー」

「そうなのか?」

「そうなのよ。という訳だから、いきなり予選で上位者同士がぶつかって予選敗退って可能性は低いと思うんだよね」

「自分で自分を上位者って呼ぶのか」

「それを言ったらお兄ちゃんだってアレじゃない。いきなり12人も退場させてさ。その後の魔法だって、4人巻き込んでHP全損とかありえないでしょ」

「そんなの知らないな。大方装備が弱かったんだろ」

「そんな事ないと思うんだけどなぁ。というか、お兄ちゃんの装備って何製で品質いくつ?」

「素材は答えたくないな。ただ品質は★11だ」

「……よくそんな装備手に入れた……違うか、作ったね。それってあの武器だけ?」

「全身全装備が★11だな」

「なるほど、理解した。お兄ちゃんの装備は強すぎるんだよ、世間一般のそれと比べて」

「そんなの理解してるさ。その上でのマイスタークラスだろ? 勘違いしてるバカがいるが、職人の戦いなんてどれだけの準備ができるか、その1点に尽きるぞ」

「それにしても、全身★11とかぶっ飛びすぎ。わたしもそんな全身装備ほしいなー」

「なら武闘大会終わった後にでもドワンなり柚月なりに相談して見ろ。予算と持ち込み素材次第では作ってくれるかもだぞ」

「どうせなら武闘大会前にほしかったけど……無い物ねだりしてもしょうがないか」

「そういうことだ……食後の後片付けは任せてもいいか?」

「いいよー。代わりに明日はお願いね」

「わかった、それじゃ俺は部屋に戻るから」

「はーい、午後もがんばってね。一応、応援してるから」


 昼食を食べ終えた俺は、遥華の応援のようなものを受けて自分の部屋へと戻るのだった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 集合時間よりも現実時間で1時間以上早くログインした俺は、談話室で『建御雷』をいじっていた。

 今回は磨いている訳ではなくて、その装飾を色々と試してみた。

 ただ、自分では納得のいくものに仕上がらず、遅れてログインしてきたドワンや柚月の助言を受けながら装飾を施した。

 その結果、『建御雷』は黒を基調としながら全体に文様が描かれ、銃身には稲妻のような文様のつけられた銃となった。


 その結果、なぜだか、【聖霊開放】スキルのレベルが3に上がっていた。

 どうやら、敵に対して使うだけではなく、大事に扱うことでもスキルレベルがアップするらしい。


 そんな事もあったが、やがて談話室に全員が揃いPT登録をした。

 午後の試合は待ち時間が長いため、選手も待ち時間の間は一般観客に混じって観戦できる。

 そのため事前にPTを組んでおけば、仲間の元に移動できる、という寸法だ。


「それじゃあそろそろ時間だけど、大丈夫よね、トワ」

「午前中の戦いを見てくれたのだろう。ならなにも心配いらないさ」

「そう、ならいいんだけど。やるからには全力で勝ってきなさいよ」

「わかってるって。……そろそろ時間だな」


 目の前に仮想ウィンドウが開いたのを確認して俺は最後に声をかける。


「それじゃあ、行ってくるよ皆」

「うん、気をつけてね」

「ま、アンタなら大丈夫だと思うけど。がんばりなさい」

「うむ、油断するでないぞ」

「がんばってねー。ボク達も精一杯応援するから」


 それぞれの言葉に背中を押されて、俺は武闘大会の会場へと転移した。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 転移した先で舞台上には、すでに7人の参加者が来ていた。

 どうやら俺が最後の8人目だったようだ。


「よう、【爆撃機】アンタもやっぱり残ってたんだな」


 気安く声をかけてきたのは【城塞】鉄鬼だった。


「今回は俺も負けないぜ? なにせ、お前を完封できるほどの装備を手に入れたんだからな」

「へえ、そいつはがんばったな。だが、俺の攻撃力も半端じゃないぞ?」

「それを防ぎきって初めて【城塞】だろうが。ぶち抜かれるとは思ってないさ」


 こいつやっぱり自信ありか。どんな装備を持ち込んでいるのやら


「やっぱり、お前は俺の攻撃を防ぐ自信があるか」

「当然だろ。お前の攻撃を防ぎきって今回こそは優勝してみせる!」

「はいはい、そう熱くなりなさんな。……そろそろ抽選会が始まる時間だぞ」

「おっと、そいつはいけねぇ。古い顔なじみと会えたことでつい長話をしてしまった」

「ああ、それでは決勝トーナメントでな」

「ああ、できれば決勝戦で会いたいもんだな」

「そればっかりはな。このあとの運次第だから諦めろ」

「わあってるよ、それじゃ、また後でな、トワ」

「ああ、最高の試合を楽しみにしてるよ、鉄鬼」


 鉄鬼、それは【城塞】のアバターネームだった。

 ただ、皆が【城塞】と呼ぶため、二つ名の方が有名となってしまったのだ。

 ちなみに、俺は【爆撃機】呼びがあまり好きではないので、直接【爆撃機】と呼ばれることは少ない。


 その後は、俺に話しかけてくるプレイヤーはいない、というかお互い値踏みをしている状況が抽選会の開始を告げる宣言まで続けられた。



『それでは第1回武闘大会マイスタークラスの決勝トーナメント、組み合わせ抽選会を始めたいとおもいまーす!!』


「「「「オオォーーー―」」」」


 司会の宣言に観客席から歓声が聞こえる。


『決勝トーナメントの司会は、私、ミオンがそのまま務めせていただきます!!』


「「「「ミオンちゃーん!!」」」」


 どうやらこのミオンって言うGMは人気が高いらしい。

 確かに、非常に整った容姿の兎獣人だが、そこまで人気が出る物だろうか?


「ミオンの人気がわからないって顔をしてるな」

「鉄鬼か。……正直、なにもわからん」

「彼女は、ああ見えて普段はクランを支える凄腕のヒーラー兼バッファーだ」

「そうなのか? とてもそうは見えないんだが……って言うかプレイヤーだったのか?」

「GMだと思っていたのか? 何でも今回の司会に立候補したらしいぞ」

「へぇ、度胸があるな」

「それじゃなきゃ、『アイドル』なんてやってられないさ」

「アイドル? なんだそりゃ」

「治癒術士系統の特殊派生特化型2次職だそうだ。敵のヘイトを集めやすくなる代わりに、多人数に強力なバフをかけることができるバッファー特化型ジョブだな。あと、サブジョブも吟遊詩人系特殊派生特化型2次職の『歌姫』だ」

「それはまた凝った作り込みで。よっぽどなロールプレイヤーか?」

「いや、ロールプレイヤーでもあるが、実際にネットアイドルをやってるらしいぞ。その収入だけで食べていける程度には稼いでいるそうだ」

「ずいぶんと詳しいな。ひょっとして鉄鬼もファンだったりするのか?」

「よせやい。俺はそんながらじゃねえよ。俺のフレが彼女の『親衛隊』に所属しているだけだ」

「『親衛隊』? ドンドンわからない単語が出てくるな」

「『親衛隊』てのは『ミオン様親衛隊』ってのが正式名称なクランだな。主な活動内容はミオンの動画撮影やボスに挑むときのPTメンバー、その他雑事をこなすファンクラブ兼マネージャーみたいなものだ」

「……そんな連中までいるのか」

「おう、他のゲームからミオンごと引っ越してきたらしい。もっともそのミオンは、第2陣になっちまって今は絶賛レベリング中らしいがな」

「それはまた、大変なことで。それで、彼女のプレイヤースキルは?」

「聞くところはそこかよ……可もなく不可もなくってところだな。中の上よりはやや上って感じだ」

「ふうん。あまり興味がないな」

「だが使っているのはお前ら謹製の★8短杖だぞ。親衛隊の連中が、ミオンに送るために『ライブラリ』の店の初日に買っておいたらしい」

「あまり姫プレイってのは感心できたものじゃないんだが」

「それが姫プレイってわけでもないんだとさ。高ランク短杖の入手難易度は事前に調べてたから受け取ったが、それ以外の装備やアイテムは受け取らずに自力でプレイしているそうだ。『親衛隊』の連中も抜け駆けしようとしたりせずに、あくまでも紳士的に他のプレイヤーとの交渉をしたりエキストラとして動画撮影に参加したりするだけだからな。そこらのにわかネットアイドルは訳が違うみたいだ」

「……ずいぶんと詳しいな」

「……興味もないのに、延々と解説される俺の苦悩を察してくれ……」

「……ああ、わかった」


『……というわけで、決勝トーナメントからの解説は予選に引き続き登場の榎田GMと追加の篠原GMだー!!』

『どうも榎田です。本日もよろしくお願いします』

『篠原です。本当は別の人間が解説に来る予定だったんですが、室長に依頼されて急遽こちらの担当になりました。よろしくお願いします』

『榎田GMはともかく篠原GMの『室長からの依頼』ってのがとても気になります!!』

『聞かれても答えられませんよ。一応、機密事項になりますので』

『それは残念。それでは最後に、お二人の注目選手は誰でしょう?』

『やはり【爆撃機】トワ選手と【城塞】鉄鬼選手でしょうね。二つ名持ちは伊達じゃありませんから』

『でも二つ名ってユーザーが勝手につけたものじゃ?』

『運営でもユーザーがつけた二つ名で呼ばれている方々がそれなりにいますよ。【爆撃機】と【城塞】もその一例ですね』

『なるほど! それでは篠原GMはどうでしょう?』

『私の口からは何とも言い難いですね……ただ、榎田GMとは逆に二つ名持ちじゃないプレイヤー達にがんばっていただきたいですね』

『ほほう。そのこころは!』

『一波乱あった方が面白いじゃないですか。……ただ、二つ名持ちはその名に相応しい装備を調えてきているので、かなり厳しい戦いになると思いますが」

『相応しい装備ですか。その内容って聞けますか?』

『決勝トーナメント終了後でしたら参加者の方々の了承が得られれば公開されますね。今の時点ではGM権限で確認しているので、装備品の内容は公開できません』


『なるほど、わかりました! それでは、そろそろ組み合わせ抽選と行きましょう! まずは第1試合の勝者1人目、ガンダーラ選手からお願いします!』


 抽選会が始まった。

 第1試合の参加者から順に番号札を引いていき、鉄鬼は4番目に引いた。

 どうやら鉄鬼は第2試合に出場していたようだ。

 鉄鬼が引いた番号は『4』だった。


『次は第3試合、トワ選手お願いします!』


 どうやら俺の番のようだ。

 ステージの上に上がって番号札を引く。

 するとそこには……


『トワ選手、1番です! 第1試合から注目選手の登場だ!!』


 いや、そんな事より。

 順調に勝ち進めば準決勝で鉄鬼と当たることになる。


 どうせなら鉄鬼とは決勝戦で当たりたかったものだ。


 その後も恙なく抽選会は進み、全員の試合内容が決まった。


『それでは、決勝トーナメントの組み合わせは以上のように決まりました! 第1試合はこのまま試合開始となります! また、第2試合以降につきましては、前の試合が終わり次第の開始となっております。参加者の皆様は観客席で試合観戦をするのも、待合室で観戦するのも自由ですが、試合開始5分前には仮想ウィンドウで呼び出しがかかります。試合開始までに会場入りできなかった場合には失格となりますのでご注意ください。それでは観客席の皆様、もう一度参加者へと大きな拍手をお願いします!』


 実況の声にあわせて大きいな拍手が巻き起こる。


 そして、第1試合の参加者である俺とモリューという男以外の参加者は転移されていっていなくなった。


『それではお二方、戦闘準備ができましたら仮想ウィンドウ上のボタンを押してください! 双方の準備が完了いたしましたらカウントダウンを開始します!!』


 実況の説明にあわせて、俺はインベントリにしまい込んでいた雷迅と氷迅を取り出す。

 見た限り、相手は格闘家スタイルなので魔法防御はそこまで高くはないだろう。


 実況の説明通り仮想ウィンドウ上のボタンを押すと戦闘開始までのカウントダウンが始まる。

 俺の方が、押したのが遅かったようだ。


 さて、決勝トーナメント第1戦の始まりだ!

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