84.GW6日目 ~戦闘準備~
今日開催されるのは『ノービスクラス』、第2陣のみが参加出来る大会だ。
つまり、俺には関係のない話であって。
クラン『ライブラリ』のメンバーは全員クランホームにいた。
「その気になれば仮想ウィンドウでいくらでも見られるしねぇ」
とは柚月の談。
そんな言葉を放った本人は、工房に籠もって作業をしている。
発注を受けていた仕事の最終確認をしているそうだ。
そして、俺は自分の工房でドワンと向かい合って話していた。
主に、自分の武器名について。
「だから、さすがに神の名前はやり過ぎだろう」
「そんな事ないぞい。わしらの最高傑作じゃ。それくらいの名前を使っても問題ないじゃろう」
おおよその事を言うと。
神様の名前を銃につけたがるドワン。
それは大げさだと反対する俺。
2人の間で意見が分かれているのだ。
確かに現状作成できる銃装備としては最高傑作だろう。
だからといって神様の名前までつけてしまうのはなぁ。
これが品質★12だったなら俺も反対しなかっただろう。
逆に品質★10以下だったならドワンもここまで強情にならなかっただろう。
品質★11という絶妙な数値が俺達の間に溝を作っているのだ。
「トワくん、教授さんが遊びに……まだやってたの?」
「お邪魔するのである。……これはなんの騒ぎであるか?」
「おう、教授。いいところに。ちょっと話を聞いてくれ!」
「いったい何であるか?」
「実はな……」
教授に事情を説明するドワン。
さすがに、この騒ぎにはユキもあきれ顔だ。
「ふむ。話は大体わかったのである」
「そうか。教授はどう思う?」
「率直に言うなら、トワくんの方が正論である。
「そうかぁ?少なくとも今は最高傑作で間違いないぞい?」
「然りである。だが『ライブラリ』ならば必ず★12の大台に乗せるのである。そのときまでとっておけばいいのである。製作者ならば武器名やフレーバーテキストは好きにいじれるが故に」
「……まあ、そうだがのぅ」
「しかし、聖霊武器は別である。これは作った時点で一点もの確定なのである。それ故に、神の名をつけてもいいと思うのである」
「……聖霊武器だけなら反対はしないかな」
「そういう訳なので、その方針でさっさと名前を決めてしまうのである」
「わかったよ。それじゃあ……」
その後は大体すんなり決まった。
俺もドワンも派手な名前をつけるつもりがなかったためだ。
……ドワンはこれまでの議論で疲れていただけかも知れないが。
それからフレーバーテキストも少しいじる事にした。
具体的には素材が何かわからないようにだけ修正した。
具体的には、
拳銃の名前は、『氷華』と『雷華』。
ライフルの名前は、『雷牙』と『黒牙』。
魔導銃の名前は、『氷迅』と『雷迅』。
そして聖霊武器の名前が、『聖霊武器 雷神
以上のように決まった。
……やたら時間を無駄にした気がするぞ。
「話はまとまったのかね? それでは私の話……というか、トワ君にこれを受け取ってほしいのである」
「これはスキルブック?」
「うむ、これは【ウェポンチェンジ】のスキルブックである。王都で購入できる本物のレアスキルである」
「【ウェポンチェンジ】って事は……」
「【アーマーチェンジ】の武器版であるな。その利便性ゆえ、ただでさえレアなのに購入者が後を絶たず、今日ようやく手に入ったのである」
「……なんでまた、そんなものを俺に?」
「あえて言うなれば、聖霊武器のお礼である。最初から最後まで付き合わせたのであるからな」
「そう言うことならありがたく受け取っておくけど。こっちは役立ちそうだから」
「トワ君のような、複数種類の武器使いにとっては垂涎の品である。役立ててほしいのである」
「……つまり、明日勝ってこいと」
「できるならば、勝ってきてもらいたいものであるなあ。もっとも、トワ君とは致命的に相性の悪い相手もエントリーしてるとの情報があるのであるが」
「……【城塞】か……」
「その通りである。【爆撃機】が唯一爆破できなかった相手、【城塞】がエントリーしているのである。マイスタークラスに」
「その【城塞】さんって強いんですか?」
「強い弱いでも強い方ではあるが、プレイヤースキルではトワ君に及ばないのである。問題は相性である」
「相性、ですか?」
「うむ。トワ君の戦法は『短時間・高火力で相手を押し潰す』のが基本戦術なのである。なにせ狐はHPが少ないので長期戦は不利であるからな」
「そうですね。1発でも直撃したら大ダメージですよね」
「然り。狐の避け得ぬ特性なのである。そして、【城塞】の戦術は『堅固な守りで耐えて削り勝つ』のが基本なのである」
「つまり、完全に真逆なんですね」
「そう言うことである。そしてその場合、どうなるかといえば、火力が勝るか防御が勝るかになるのであるが……」
「その条件だと防御側が優勢になるんだよ。ゲームバランス的にな」
このゲームでは、同じ位の強度を持つ攻撃と防御がぶつかった場合、防御側が勝つ。というか、ダメージがあまり入らない。
これは、PvPの大規模戦闘で防御側が簡単に圧殺されないようにするため、そんな風にいわれている。
逆に、PvEで攻撃側が勝つのは、モンスター相手に長々と戦うのがストレスのたまる
爽快感がなければ楽しくないのだ。
とにかく、運営側の意図ははっきりしていないが、結果だけははっきりしている。
そして、『
……なぜなら、【城塞】もまた以前は『ライブラリ』に所属していた同志だったからだ。
彼は自分にとって住みやすいクランを見つけたため、『ライブラリ』を去った。
ただそれだけの関係だ。
そこに善悪好悪は存在していない。
袂を分かったわけでもなく、喜んで送り出した相手なのだ。
単純に彼もまたPvPをする職人で、なおかつ、俺の戦法と極めて相性が悪いというだけで。
同じ
せめて聖霊武器が貫通するならいくらでも勝ちようがあるが、効かなければそれこそライフル頼みの戦法しかなくなる。
そういう相手なのだ【城塞】は。
「出来るのであれば、トワ君と【城塞】は決勝で当たって欲しいものである。絶対に盛り上がる故に」
「個人的には、他の誰かが【城塞】を打ち砕いてくれると嬉しいんだが……」
「それが望めるとでも?」
「……無理だよなあ」
【城塞】の事だ。
正式サービス後も超一流の職人になっているに決まってる。
むしろ、なれていないなら参加しなかっただろう。
「あの、その人ってそんなにすごいんですか?」
「ドワン君の鍛冶の腕前と柚月君の裁縫技術この2つを併せ持っている、といえば凄さが伝わると思うのである」
「……それはすごいですね」
「しかも、おそらくは特化型にジョブチェンジしてると思われるのである。彼の所属するクラン『百鬼夜行』には、別に武器専門の鍛冶師がいるのである」
「……護りに関してだけ言えばドワンの上位互換だからな、【城塞】は」
「そう言うことである。ちなみに、武闘大会予想スレでマイスタークラスについては、【爆撃機】と【城塞】の2強の争い、そう予想されているのである」
「まあ、そうなるだろうな」
「逆をいえば、この2人の戦法はわかりきっているのであるが……」
「生半可なやり方で負けるつもりはないさ」
「……というわけである」
【爆撃機】を墜とすには、【爆撃機】の攻撃を回避しながら自分の攻撃を当てるという技術が。
【城塞】を破壊するには、【城塞】の堅い守りを打ち砕く超火力が。
それらが必要、故にこの2強は揺るがない、そう言われているらしい。
そして、それらの考えは正しい、だからこそ負けてやるつもりはない。
βのときほど貪欲に勝ちに行くつもりもないが、負けるつもりは一切ない。
俺もなんだかんだ言っても負けず嫌いなのだ。
「そう言うわけなのである。トワ君、準備はいいのかね?」
「準備か……あ、BP振ってないや」
「……トワ君……」
そんな目でこっちを見ないでくれ。
この数日間は本当に忙しかったんだから。
言い訳しても始まらないのでBPを振り分ける事にする。
……面倒だし、攻撃力を少しでも確保するのにDEXとINTに均等振りでいいか。
VITを半端に上げてHP確保してもさほど意味ないし。
……よし、準備完了だ。
BPを振り直した結果、俺のステータスはこうなった。
―――――――――――――――――――――――
名前:トワ 種族:狐獣人 種族Lv.39
職業:メイン:魔導銃士Lv.19
サブ:錬金薬師Lv.13
HP:187/187 MP:386/386 ST:190/190
STR:13 VIT:23 DEX:60
AGI:34 INT:75 MND:38
BP: 0 SP:32
スキル
戦闘:
【銃Lv30 MAX】【魔導銃Lv21】【格闘Lv30 MAX】【体術Lv9】
魔法:
【炎魔術Lv16】【海魔術Lv21】【嵐魔術Lv21】【雷鳴魔術Lv22】【氷雪魔術Lv13】
【神聖魔術Lv23】【魔導の真理Lv30】
生産:
【中級錬金術Lv18】【中級調合術Lv13】【料理Lv24】【生産ⅡLv25】
【道具作成Lv32】【家具作成Lv31】【魔石強化Lv38】
その他:
【気配察知ⅡLv7】【魔力感知ⅡLv7】【夜目Lv42】【隠蔽Lv50】【看破Lv50】
【罠発見Lv45】【罠解除Lv45】【罠作成Lv1】【奇襲ⅡLv7】【隠密ⅡLv3】
【採取Lv26】【伐採Lv16】【採掘ⅡLv7】【言語学Lv13】【集中ⅡLv16】
【アーマーチェンジLv1】【聖霊開放Lv1】【ウェポンチェンジLv1】
特殊
【AGI上昇効果・中】【INT上昇効果・中】【風属性効果上昇・中】【風属性耐性・中】
【二刀流】【眷属召喚】【魔石鑑定】【聖霊石合成】【聖霊武器修理】【聖霊武器強化】
眷属
【神狼・フェンリル(亜成体)Lv8】
―――――――――――――――――――――――
ただでさえ尖っていた能力がさらに尖ったけど気にしない。
狐獣人がガンナーやってる時点でロマン枠なんだ。
いっそ、浪漫砲を撃ちこんだ方が面白いに決まってる。
「他には忘れていることはないであるか? 例えば弾丸とか」
「弾丸なら魔鉄製の弾丸が千個単位でインベントリに収まってるから平気」
「他には?」
「隠し球も色々持ち込んである」
「武闘大会のエントリーは?」
「ちょっと待って……うん、参加受付済みになってる」
「ならば大丈夫であるな。ああ、ちゃんと【ウェポンチェンジ】も登録しておくのであるぞ」
「わかってるって。……うん、登録した」
「了解したのである。それでは、私はこれで失礼するのである。武闘大会を見に行かねば」
「いってらー」
そして教授は去っていった。
「教授はなんのために来たんだろうな……」
「トワくんのことが心配だったんじゃないかな?」
「肝心なところが抜けていたりするからのう、お主」
「失礼な」
否定はできないけど。
「さて、遅くなってしまったが、武器の使い心地やクセを把握しないとな」
「あ、トワくん。プロキオンでよければ貸すよ?」
「それじゃ、後で貸して。
「はーい、がんばってね」
その日はそのまま、銃や新しいスキルのチェックとプロキオン相手に戦闘訓練で丸一日を費やした。
さあ、明日はマイスタークラスの日だ、がんばらねば。
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