81.GW5日目 ~トワの本気装備 準備編 2 ~
昨日はあの後、ポーション作りと錬金術ギルドへ行っただけで終わってしまった。
自分の装備を作るには、ドワンとイリスの作ってくれるパーツが必須とは言え、自分用のモノがなにも作れないというのは生産職として悲しい。
「……ああ、そうだ。あのポーション作っておくか」
武闘大会のレギュレーションはきちんと目を通してある。
その中には持ち込みアイテムに関する規定もきちんと書いてあった。
……その内容がちょっと特殊なのがマイスタークラスだったのだが。
まあ、誰かが不利になるようなルールじゃないし、『マイスター』クラスならそれは間違いなく変なルールじゃないんだし。
ともかく、俺はマーケットボード――相変わらず談話室に残されている――から作ろうと思ったポーションの材料を買い込み、自分の工房に戻って調合作業を始めた。
――――――――――――――――――――――――――――――
「トワー、ちょっといいかしら……って、なに作ってるの?」
「ちょっと変わり種のポーション類詰め合わせ多数」
「あなたはまた変わったことに熱中して……」
気がつけば、俺の机の上は完成した各種ポーションの山ができていた。
本物のビンでできてたら大事故が起きそうだ。
作っていたレシピのランクが高かったためか、【中級調合術】のレベルが6も上がっていた。
「そんな事よりも、トワ、あなたの装備のことなんだけど」
「あれ、もしかしてもうできた?」
「いえ、これから取りかかる予定よ。まず、私の装備を作らせてもらうけど」
「DEX装備の交換か。確かに大事だな」
DEXの大小は生産品の品質に多大な影響がある。
そのため、柚月はまず自分の装備品を更新してDEXを上げようというのだろう。
「それで、トワが持ってきてた白銀魔狼の素材を少しわけてほしくて。あれを使えばDEXボーナスがより高くつくから」
「そういう事なら構わないよ。俺の分がなくなるわけじゃないんだろう?」
「ええ、そこは大丈夫よ。それで次の質問、装備ボーナスはどうするの? 今のあなたの装備ならDEXボーナスいらないわよね?」
「んー、そこは生産用としてDEXボーナスついた装備もほしいんだが」
「そう、それなら2セット作るわね。それで装備ボーナスはどうしたいの?」
「えーと、1つ目のセットがINTとAGIで、2つ目のセットががDEXとAGIで、それぞれお願いできるか?」
「OK、わかったわ。それとINTとAGIをメインにするなら、白銀魔狼よりも雷獣をメイン素材として使った方がいいわね。確か、AGIボーナス効果もあったはずだから、雷獣素材には」
「それならそれは任せた。そういうのは専門職の方が詳しいだろうし」
「任されたわ。ちなみにドワンにはこのこと伝えておいた方がいいかしら?」
「いや、そろそろドワンのところに行こうと思ってたところだから。自分で伝えるよ」
「了解。それじゃあ、夜にログインする頃には仕上げておくから楽しみにしてて」
「あ、ちょっと待って、これ、DEXポーション。デスペナルティにならない限り、6時間の間DEXを上げてくれるから。装備作るときに使って」
「あら、ありがとう。それじゃね」
それだけ言うと、柚月は去っていった。
「それじゃ、イリスとドワンにもDEXポーション届けてくるか」
俺は山と積み上がったポーション類をまとめてインベントリにしまい込み、イリスにDEXポーションを渡してきた。
その後、あるアイテムを買い込んでからドワンの工房を訪れる。
「おう、トワか。どうした」
「まずはこれ、DEXポーション。6時間の間DEXを上げてくれる便利アイテム」
「そいつは、助かるわい。他には?」
「装備のボーナスについて。1つ目はINTとAGIが上がるように、2つ目はDEXとAGIが上がるように作ってほしい」
「ふむ、そう言えば今のトワの装備じゃ、戦闘中はほとんどDEXはいらないんだったか」
「ライフルを使う時はSTRがいるみたいだけど……」
「焼け石に水というヤツだな。了解した、その組み合わせで作ろう」
「じゃあお願い。あと、隅の方でいいから炉を借りていいか?」
「構わんが……何をするんじゃ?」
「ガラス瓶作り。回復系ポーション類の効果を上げるヤツを作る」
「……武闘大会には回復アイテムの持ち込みは禁止じゃろう?」
「目的はスキルレベルによるDEXの上昇だから気にしないで」
「わかった。そう言うことならいいじゃろう」
俺は工房の端の方でインベントリから大量の
瓶作りと行っても、
ただそれだけだ。
型に入れたり、空気を送り込んで膨らませたりといった行程はない。
そこはゲーム的な要素で省略されている。
なお、本当なら
最初から最後まで魔力でピカッで終わらせることもできる。
ただ、
ちなみにできたのがこれ。
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ポーション瓶 ★3
ポーションをつめるための瓶
これにつめる事によって効果が増す
ポーションの回復量3%アップ
消耗品
―――――――――――――――――――――――
いきなり★3なのは工房のボーナスとDEXの効果だろう。
そもそも【道具作成】がレベル1でポーション瓶はまだまだ難易度が高いのだ。
そのかわり、経験値的には美味しいのだが。
実際、まだ瓶5つしか作ってないのにレベル3に上がっている。
さて、このまましばらくポーション瓶の作成に励もうか。
――――――――――――――――――――――――――――――
結局、午前中いっぱいはポーション瓶およびその上位品である中級ポーション瓶や特殊ポーション用瓶の作成で潰れた。
代わりに【道具作成】がレベル32まで上がったが。
午後からは、今度は【家具作成】に手を出した。
他の皆から装備もパーツも出来上がってきていないためだ。
これまた、マーケットボードか出張販売所から大量の素材を買い込み、【家具作成】スキルでピカッとやれば椅子や机、テーブルなどの家具に早変わりする。
最初は
新しく作られた椅子やテーブルは、談話室にあった
その後、【家具作成】のスキルレベルが上がった事により作れる物が増えたため、応接間のテーブルやソファーなども順次置き換えられていった。
ユキのリクエストを聞く形で色々オリジナルデザイン――もっとも凝ったデザインではない――のアイテムを作った事で、【家具作成】のスキルレベルも31まで上がった。
当初の目論見とは違ったが、スキルレベル上げはできたのでよしとする。
家具の入れ替え作業が終わった後は談話室でユキとゆっくり過ごしていた。
そこに柚月が入ってきた。
「あら、ずいぶんと様変わりしたわね。これ、ユキの趣味?」
「はい。トワくんが家具を作っていたのでお願いして。……ダメでしたか?」
「全然。むしろキレイになって助かるわ」
柚月も一息つきにきたらしい。
「柚月、調子はどうだ?」
「絶好調ね。あのポーションよく効くわ。クセになったらいけない気がするけど」
「まあ、薬だしな。……言葉だけ聞いてるとヤバイ物を取り扱ってる気がするぞ」
「実際にヤバイ物でしょ。なによ★9のポーションって」
「作ってる間に慣れてな。最初は★3とかだった。それはもう使い切ったけど」
「それを★9まで引き上げるってどれだけ作ったのよ?」
「さあ、数えてなかったからな。武闘大会が終わった後にでも売りに出すよ、市場で」
「あまり効果の高いのは出さないようにしなさいよ。……私達もほしいから」
「じゃあある程度の品は共有倉庫に放り込んでおくから、適当に使って。で、俺の装備は?」
「順調ね。約束通り夜までには仕上げるわ」
「じゃあ頼んだ。ああ、後でいいからユキの装備のアップグレードもお願い」
「そうね。ユキの装備も雷獣の皮でアップグレードしましょうか。それぐらいの素材は残ってるし」
「はい、お願いします」
ユキの防具も無事アップグレードできそうだ。
最近はメインタンクをプロキオンに譲っているが、ユキは基本的にタンク系ビルドだ。
防具を可能な限り性能のいいものに変えるのは正しいことである。
もっとも、俺達のような生産系クランのタンクが、現在最前線のボス素材で作った防具がいるのか、といわれると微妙なのだが。
明らかに素材のランクが高すぎる。
誰も損はしていないし、よしとしよう。
「でも、そうなると私達の装備もアップグレードなり更新なりしたいわよね。トワ、余った白銀魔狼素材売ってもらえるかしら?」
「構わないけど、素材としては今じゃ二流品じゃないか?」
「さすがに最前線なら使わないでしょうけど、普通に前線でも使われているわよ」
「そうなのか」
「そうよ。むしろ雷獣素材をまとまった量手に入れてきた白狼さんがおかしいのよね」
「売ってもらった魔石の量から考えても、相当な回数周回してるだろうな」
「そうね。いったい何を目的に周回していたのかしら」
「多分、何かレア素材目的だと思うけど……詳しいことが聞きたければ『インデックス』に行くのが早いだろうな」
「まあ、そこまでして調べたいものでもないけどね」
「なんじゃ、何を調べようと言うのじゃ?」
ちょうどドワンとイリスが談話室に入ってきたらしい。
「いえね、白狼さんがあれだけの雷獣素材を持ち込んできたのは何でかなって話よ」
「なんじゃそんなことか。それならば本人に聞いておるぞ」
「あら、そうだったの? それっていつの話?」
「昨日の夜じゃ。白狼さんには盾の発注をされているのでな。聞いてみたところ、氷鬼はレアドロップする武器、雷獣はレアドロップの尻尾を集めたくて周回しているそうじゃ」
「直ドロの武器を使うなんて珍しいな」
「何でも水属性と氷属性を強化してくれる杖をドロップするらしい。それを数揃えたいらしいな。雷獣の尻尾の方は強化素材じゃと」
「なるほどねぇ。あ、さっき、トワから余った白銀魔狼素材を私達に売ってくれるって話になったから。後で防具の更新かアップグレードか教えてね」
「ボクは更新したいかな-。デザインよろしくね」
「わしはアップグレードでいいぞ」
「了解。それじゃ、私はそろそろ戻るわ。最後の仕上げが待ってるからね」
「うむ。おつかれさんじゃ」
「がんばってねー」
談話室から出て行く柚月の背中を見送り、俺は2人に依頼している作業の進捗状況を聞いた。
「わしの方はもう少しじゃのう。あともう一踏ん張りで★11の銃身や機関部ができそうじゃ。もちろんライフルの銃身もな」
「ボクの方はもうできてるよ。エルダートレント製のグリップ、魔導銃用と拳銃兼ライフル用、どっちも★11ね」
「おや、イリスに負けてしもうたか」
「ボクの方が素材形成の難易度低いはずだからねー。ミスリル金とか
「そう言われると、わしも早いところ仕上げねばならんな。これで失礼するぞ」
「行っちゃった。もう少しのんびりすればいいのにねー」
「まあ、そうだな……そろそろ夕飯の支度をしなきゃいけない時間か」
「それじゃ、ボクの分も夜に渡すね。それじゃ、またねー」
ドワンに続きイリスも行ってしまった。
ホント、もう少しゆっくりしていってもいいだろうに。
それに、どうやら俺の装備は全て夜まで待たないといけないようだ。
そう結論づけた俺はユキに一言告げてからログアウトし、夕飯の支度を始めた。
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