77.GW4日目 ~聖霊石 7 ~

 GWゴールデンウィーク4日目。

 今日は午前11時から1時間の予定で臨時メンテナンスが行われる。

 なので、その前にヤツへのははっきりしなければいけない。


 ただのボス戦とはいえ負けたままで終わるなんて許容できない。


 フェンリルのような圧倒的なボスならまだしも、自分の能力をコピーしてるであろう相手に対して、負けっ放しというのは許せない。

 主に、自分自身への対策ができていないととられるのが。


 午前8時頃、朝の用事を済ませた俺はログインする。


 ログインしたらまずは装備品を整える。

 昨日は修理してもらったあと、装備しなおさないでそのまま落ちてしまった。


 それ自体は問題ないが、初期装備のままボスに挑んで返り討ちにあいました、はさすがに洒落にならない。

 なので、装備はキッチリ整える。


 次に、アイテムの確認。

 各種ポーション類の他、昨日の夜に大量生産したがたっぷりとインベントリに詰め込まれている。


 今回はこれを使って相手を封殺するつもりなのだ。

 忘れましたじゃ話にならない。


 もちろん、こんな消耗品に頼らなくても勝ち目は十分にある。

 だが、その場合、『強力な魔法を撃ちあって先に当たった方が負け』というINT任せな殴り合いになってしまう。


 さすがにそれは神経を使うので避けたい。

 というか、それが最適解なのは理解できるが何とも美しくない。


 なので、昨日の夜はあるアイテムをひたすら量産して万全の体制を整えておいた。


 よし、確認も終わったしそれじゃそろそろ行きますか!

 待ってろよ『聖霊の試練』!!



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 昨日の夜ぶりな鉱山ダンジョン地下40階。


 俺は早速、入口横の石像の元に向かいギミックを発動させる。


 昨日と同じように聖霊石から光が放たれて、やがてそれは扉に吸い込まれる。

 そして扉が開き始めた。


 ここまでは昨日とまったく同じ流れだ。


 扉を抜けた先の光景も昨日と同じ闘技場のような場所。


 違うことがあるとすれば、今日は明るく、太陽の光が降り注いでいた。


 ……昨日の夜はどうだったかな。

 暗かった事だけは確かだが、空があったかまでは覚えてない。


 闘技場やその周囲は、天井――あるいは空――が真っ暗でも明るかったためだ。


 闘技場の中央にはやはり祭壇があってその中には泉がある。


〈『聖霊の試練』に挑みますか?〉


 昨日も聞かれたメッセージに対し、俺は即座に『Yes』を選択する。


 昨日と同じように強制転移させられたあと、自分の前に光でできた自分自身、面倒なので『試練の戦士』とでも呼ぼう、そいつが現れる。


 そして、そいつはこちらに向けて手を掲げ、


「バックステップ!」


 ズガァァァァァン!!


 自分が直前までいた位置に落雷が落ちた。


 【雷鳴魔術】に共通する特徴だが、発動から着弾までの時間の短さがある。

 『ライトニングボルト』や『サンダーボルト』だけでなく、『ライトニングジャベリン』でさえ敵に狙いをつけた後の飛翔速度は目で追えないほどだ。


 そのため、不意打ちの初撃としては非常に有効である。


 有効であるのだが、それ故に対策を考えやすい攻撃方法でもあった。


 俺がとった戦術は、『サンダーボルト』の発動直前で【格闘】スキルの『バックステップ』を使い、というモノだ。

 【雷鳴魔術】は発動が早い代わりに誘導性能は低いからな。


 普通に考えて正気の沙汰ではないが、代わりにタイミングさえ合えば確実に回避できる方法でもあった。

 ……今回のようなテレフォンパンチわかりやすい攻撃でもないと使えない作戦なのだが。


 初撃を躱されたことに相手も動揺しているようだ。

 ……動揺する程度には高度なAI積んでいるんだな……


 そんなどうでもいいことを考えつつ、インベントリから昨日の夜に作っておいたあるを数個取り出し、試練の戦士に向かって投げつける。


 試練の戦士は慌てて回避しようとするが間に合わない。

 というか、間に合わないようなタイミングで投げつけた。


 ボゥゥゥゥン!


 その投げつけられたは一斉に爆発し、試練の戦士をその爆風の中で踊らせた。


 俺が昨日の夜に作成していた、それが今投げつけた『ブラストボム』だ。


 爆弾レシピから作る事ができるようになる『ボム』を改造したオリジナルアイテムだ。

 ……改造といっても、爆風が大きくなるように火薬の量を調節しただけだが。


 普通の『ボム』に比べて『ブラストボム』は爆風によるヒットストップ・ノックバック・吹き飛ばし効果が高い。

 代わりに与えられるダメージが減ってしまっているが、相手の身動きを封じるだけなら十分だった。


「うーん、やっぱり、威力も爆風効果による行動阻害効果も落ちてるなー」


 俺はそんな暢気なことを考えながら、追加の爆弾おかわりを投げつける。


 初撃の影響からまだ立ち直れていない試練の戦士は、追加の爆弾おかわりをもろに受けることになりまた吹き飛ばされる。


 そこにまた俺から追加の爆弾を投げ入れられて……これで爆撃ハメの完成だ。


 βの武闘大会のとき、俺はを基本戦術にして優勝した。

 もちろん、以外にも色々と準備をしてから参加した武闘大会だったが、上位に入ると思われていたメンバーが俺と対戦する度に、このによって沈められていくのだ。


 もちろん、対戦数を重ねる毎に対策はとられていったが、それでも1日やそこらで完全な対策を取れるはずもなく、並み居る強豪達が錬金術士の消耗品と考えられていた『ブラストボム』によって全滅した。


 戦場を焦土に変えるほどの大量の爆弾で敵を爆破する、そして本人は相手から手の出せない場所にいる。

 それ故に【爆撃機】の二つ名がついたのだ。


 ……今にして思えば上位陣に名を連ねるため手段を選んでなかったが、やり過ぎたよなぁ……


 掲示板では『爆弾じゃなくてバグ弾じゃねーか』とか『さすが【爆撃機】容赦ない』とか散々言われてたらしいしなぁ……

 全て教授経由の情報だから、本当はもっとえげつないこといわれてたんだろうけど。


 あと、最後のレイドイベント。

 俺の戦闘スタイルじゃ、10メートルクラスの巨大恐竜に対して有効な攻撃手段なんてないから。

 さすがにあの大きさの敵を吹き飛ばせるような爆弾は作れなかったからな。

 それでも、ポーション配布で貢献値稼いだんだからいいじゃないか。

 対人特化のビルドだったんだよ、βのときは。


 それに本サービスに向けたリリースノート変更点が発表されたときも大騒ぎになったんだっけ。

 爆弾が弱体化されたことで。

『βサービス最大のバグは爆弾が強すぎたこと』とかいわれてたらしいもんなぁ……


 今現在、進行形でかなりの数を消費している『ブラストボム』だって【初級錬金術】のLv10位ないと、まともに作れないんだけどもなぁ……

 爆弾の弱体化自体は当然だと思ったけど。


 ああ、そう言えば、この爆撃ハメが正式サービスでも有効かどうかって試してないな。

 対モンスター戦では有効でも対プレイヤー戦で有効とは限らないからな。

 どこかで試してみたいけど……普通に考えて爆弾の標的になってくれるような人なんていないよなぁ……


 そんなふざけた事を考えながらも、俺は爆弾を投げる手だけはずっと止めずにいた。

 投げた爆弾の数がおおよそ3桁に届こうとしているころ、ようやく試練の戦士のHPバーがミリ単位まで減ってくれた。


 こちらの能力全コピーじゃなかったのかな?

 いくら弱体化された上、通常よりも威力が減っているブラストボムとはいえ、俺のHPで100発近くも耐えられるはずがない。

 HP以外のステータスはコピーでHPだけボス用とかだろうか。


 まあ、いいや。

 あと、20~30位発くらい投げつければ倒せるだろうが、もう終わりにしよう。


「マギチャージ・サンダーボルト、チャージショット!」


 魔導銃にサンダーボルトを封じ、チャージショットで試練の戦士に撃ちこむ。

 体勢が崩れている……というか、ブラストボムによって散々転がされていた試練の戦士がその弾丸を躱せるはずもなく、チャージショットの効果でさらに吹き飛ばされた上、サンダーボルトが開放されて激しい落雷が襲った。


 無論、ミリ単位でしか残っていなかったHPで耐えられるはずがなく、試練の戦士は光の粒子になって消えていった。


安らかに眠れR.I.P.、なんてな」


 こうして俺は無事、雪辱を晴らせたのだった。




 ――――――――――――――――――――――――――――――



 ここは運営管理室。


 そのモニターの1つでは、今『聖霊の試練』の戦闘シーンが映し出されていた。


 もちろんライブ映像ではない。

 ゲーム内は2倍速で時間が流れているため、ライブで確認するにはゲームにログインする必要があった。

 ……もっとも、この戦闘に関してのみなら2倍速だろうがスロー映像だろうが関係ないと思われるが。


「さっすが【爆撃機】だな。『聖霊の試練』のボスをブラストボムで完封してやがる」

「笑い事じゃないでしょ? を武闘大会でやられたら困るじゃない」

「大丈夫だろ? ブラストボムにせよ他のノックバック系スキルにせよ対人戦では効果が薄くなるようになってるんだからな」

「……でも一度に複数投げつけてるわよ? これじゃあ効果が弱まっていても意味がないわ」

「大丈夫だろ。闘技大会には持ち込みアイテム制限があるんだからな。そんな大量の攻撃アイテムを……」

「そのルールだけど、『回復アイテム以外の参加者自身が製造した装備・アイテムは自由に持ち込み可能』ってなってるわよ? マイスタークラスは」

「……そうか【爆撃機】はマイスタークラスだったな。……だが、そんなに大量の爆弾は持ち込めないだろ」

「決勝トーナメントは1人最大3戦しかないのよ? さすがにその分の爆弾ぐらいは用意できるんじゃないかしら?」

「……もし、今回も爆弾だけで勝ち上がるようだったら、次回のルールで『攻撃アイテムの持ち込み制限』をかけるように相談する必要があるな……」

「その通りね。後は本人の考えによるとしか言えないわね」

「……何で、たった1人のプレイヤーに振り回されてんだろうな。俺達……」

「他のゲームでもありえることでしょ。VRMMOが主流になってリアルスキルがゲームに反映される時代になってからは」

「まあ、そうだがな……しかも室長のお気に入りだから変なこともできないしな……」

「ゲームの仕様にのっとってプレイしてるだけだもの。そんなこと関係なく手出しできないわ」

「それもそうか。んじゃ、俺は今回の挙動……『聖霊の試練』ボスがモンスター系のノックバック耐性になってるのが仕様かどうか開発に確認してくるわ」

「ええ、おねがいね」


 こうしてトワは、また自分の意思とは関係なく運営の行動を促すのだった。

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