76.GW3日目 ~聖霊石 6 ~
「うーん、冒険者ギルドで教えてもらった話が正しければ、場所はここだよな……」
俺はとある場所にある
ここを訪れることになった理由は冒険者ギルドで聞いた話だ。
――――――――――――――――――――――――――――――
「まず始めに断らせてもらうが俺達も『聖霊の試練』の詳しい場所は知らないんだ」
「そうですか……でも詳しい場所は知らなくても、何かヒントになるようなことは知っているのでしょう?」
「本当に話の早い奴だ。その通り、詳細な情報はないが断片的な情報は持っている」
想像通り正確な場所までは教えてくれないか。
まあ、こう言うのもお約束だよな。
「まず、『聖霊の試練』を受けられる場所なんだが『聖霊の祭壇』と呼ばれる場所らしい……ああ、言いたいことはわかる。そんな大層な名前をつけるなって言いたいんだろ?」
「ええ、まあ」
「大層な名前をつけたのは古代の人間達だ。俺達はその歴史を紐解いたに過ぎん」
「まあ、そうでしょうけども。他に言い方はなかったものかと」
「それも歴史家どもに言ってくれ。我々はもらった情報を伝えることしかできんからな。勝手な置き換えをして中身がゆがんでは元も子もない」
それもわかるけどなぁ。
なんというかいちいち大げさにしか聞こえない。
「さて、話を本筋に戻すぞ。『聖霊の祭壇』だが、ここよりはるか彼方の地にあるらしい」
それじゃあ行く方法がないんじゃ……
「まあ、話はまだ続きがある。『聖霊の祭壇』なんだが、はるか彼方にあるはずなのにこの地に文献が残っているのはおかしいだろう?」
「それは、誰かが運んできたとかじゃないんですか?」
「運んできたにしては資料の数が多すぎる。また、かつてはこの地から挑むもの達が絶えなかったのだ。おそらく『聖霊の祭壇』に行く方法がどこかにあるのだろう」
「どこか、ですか」
「うむ、歴史家どもはそこまでしか読み解けなかったらしい」
「ずいぶん曖昧な情報に厳しい情報規制をかけてるんですね」
「まあな、冒険者という奴は曖昧な情報でも命をかける生き物だからな」
「それは……理解できない生き方ですね」
「職人がそんな浮ついた事はできないだろうな。職人は地に足をつけてなんぼだ」
まあ、職人の道に近道はないからな。
一歩一歩確実に進むしかないんだ、冒険者のような一発逆転な生き方は向かないだろう。
「さて、『聖霊の祭壇』の場所の話だったな。その話をするにはまず『聖霊石の欠片』の話からしようか」
「欠片の話からですか?」
「ああ、お前さんは自力で欠片を揃えたんだろうから産出場所は知っているんだろ?」
「ええ、異邦人は鉱山ダンジョンと呼んでいるところでしょう?」
「ああ、他にもあるがな。例えば王都北の氷河にある洞窟や王都西にある荒野の岩山なんかだな」
ほう、他にも手に入る場所があったのか。
「むしろ産出量は氷河の洞窟や荒野の岩山の方が多いんだぜ? 我々からしてみればそっちの方が主な産出先だ」
「そうですか。俺はそっちの方までまだ行けませんからね。知りませんでした」
「ほう、こっちは知らないのに鉱山の方は知っていたのか。俺の常識からすると逆なんだがな」
「そうですか? 鉱山で鉱石探しをしながら集めていくのもいいものですよ?」
「まあ、鉱山の話はどうでもいい、今はな。問題は何でこれだけ離れた場所で産出されるかって事だ」
「その話し方だと、何か理由に心当たりでも?」
「ああ、ある。推測だがな」
「お伺いしても?」
「聞かれなくても話すさ。まず、氷河の洞窟だが古代文明の遺跡がその奥にあるらしい。それも戦士達の特別な地がな」
それってそこに祭壇があるので確定なんじゃなかろうか。
「だが、その地には祭壇はなかった。何度も調査隊が入っているからな。見落としがあるとは考えられない」
「へぇ……それじゃ、岩山のほうは?」
「そっちはそっちで古代文明の都市がそこにあったって話だな。なんで跡形もなく消えちまったのかはいまだに議論されてるがな」
「ん? それじゃ一番怪しいのって……」
「ああ、今のところ怪しいとされているのは鉱山のなんだよな。もっともあそこを『鉱山の中』と表現していいのかもわからんがな」
「? どういう意味です?」
「あの鉱山はある日、偶然に見つかったものなのさ。その先が坑道になっていて、良質な鉱石が取れるもんだから、周囲に村ができ、やがて街になった。それが今の鉱山街のなりたちさ」
「ダンジョンだと何か問題があるんですか?」
「他のダンジョンもそうなんだが、ダンジョンの中が同じ場所、と言えばいいのか、座標? と言うべきか。とにかくダンジョンの入口と中が同じ場所にあるとは限らねえんだ」
「どういう意味です?」
「鉱山ダンジョンの外を掘り進んで中に入ろうとしたことがあるんだが、そんときいくら掘ってもダンジョンの中にたどり着くことがなかったらしいんだよ」
「……つまり」
「そういうことだ。鉱山ダンジョンの『中』はここと離れた地にある可能性もある」
「……なるほど」
「ついで言えば、鉱山ダンジョンで欠片が手に入る理由はなんだと思う?」
「ひょっとして試練と何か関係があるんですか?」
「これも憶測だがな」
1つためをつくってギルドマスターは告げた。
「試練に挑んで敗れた連中の聖霊石が砕かれて坑道の中に埋まってるってのが、今の流行の学説なんだぜ?」
〈シークレットクエスト『聖霊の試練』を受注しました〉
――――――――――――――――――――――――――――――
「話を聞く限りここが一番怪しいんだけどなぁ……」
ここは鉱山ダンジョン最深部、地下40階。
なんのために存在するかわからない扉の前に俺は立っていた。
シークレットクエストを受注はしたが目標も報酬も『???』だった。
「さすがに情報がなさ過ぎるよなあ、王都まで行って図書館とかで調べないとダメか……?」
俺は仕方が無いので扉に近づいて、壁と呼んでもいい扉を調べる事にした。
だが、調べてみてもそこにはなにもなく、なにもないが故にひたすらに巨大さのみが際立っていた。
「そもそも、こんな巨大な扉があるんだ、未実装のレイドエリア予定地とかの可能性はあるよな……」
ドラゴンだのジャイアントだのが出てきてもおかしくない、そんな扉が40階に置いてあるのだ。
怪しくないはずがない。
「うーん、なにもない、よなぁ」
たっぷり30分はかけて扉を調べてみたが、そこにはなにもなかった。
「読みが外れたか? 実はシークレットエリアがあるとか……」
実は鉱山ダンジョンの中にシークレットエリアが追加されていて……なんて可能性もある。
困った。
完全にわからない。
諦めようかな……
そう思って後を振り向いたとき、視界に見慣れないものがあった。
入口から隠された位置にある2体の石像だ。
んーこれは……何かあるかも。
そんな気がしたので今度はこの石像を調べてみることにする。
石像の足下にはかすれて文字がほとんど読めないが、石碑のようなものがあった。
「えーと『……をのぞ……その……を……みぎ……』わからん読めない」
書かれた文字はかすれているだけでなく、その文字自体に見覚えがないものが多かった。
おそらく言語学のレベルが足りていないのだろう。
……んー。
多分、教授なら読めるよな……?
教授に助けを求めるべきだろうか?
そんな事を考えていたら、教授からメールが届いた。
なんていいタイミングだ。
なになに『たたかいをのぞむならばみぎのぞうにしんぞうをささげよ』?
……ひょっとしてどこかで監視しているのだろうか。
疑わしいタイミングでメールが来たのだ。
……まあ、助かるが。
右の像って事はこっち側だよな。
こっちの石像は右手を上に向けて差し出していた。
ここにしんぞう……心臓か? それを捧げればいい?
どうにも謎かけの類いは得意じゃないな。
心臓か、本当に心臓なんて捧げようがないし……
ってなるとコレしかないよな。
俺は聖霊石を取り出して石像の右手の上に載せる。
すると聖霊石は鈍い光でまるで心臓のごとく明滅を繰り返し始めた。
明滅の間隔は次第に短くなり、やがてただ光るだけになった。
そして聖霊石は浮かび上がり、扉の方に向けて動き始めた。
動き始めた聖霊石を追いかけて扉の前まで移動する。
そして聖霊石の光が聖霊石から離れて、光だけが扉に向かって飛び込んでいった。
光の消えた聖霊石は俺の手の中に戻り、光が飛び込んだ扉は輝きだし少しずつ開き始めた。
「うーん、難しいのか易しいのかわからないギミックだな……」
ここで悩んでいてもしょうがないので開いた扉の中に入ってみる。
そこは闘技場のような場所の中央に祭壇がある謎の場所だった。
「とりあえず祭壇を調べるべきだよね……」
俺は祭壇に近づいてみる。
祭壇には泉のような場所があり、そこに近づくとメッセージが表示された。
〈『聖霊の試練』に挑みますか?〉
……もったいぶったわりにはあっさりとした表示だな……
選択しないことには進まないので『Yes』を選択する。
すると目の前の祭壇が消え去り、体が強制転移で中央少し後に立ち位置を下げられた。
目の前には光の玉が浮かび、それがやがて1つの形を取り始める。
そしてできあがったのは……俺?
目の前に光で形作られた自分が現れ、そして。
激しい轟音とともに視界が光に包まれた。
――――――――――――――――――――――――――――――
「うがぁー! 負けたー!!」
ここはクランハウス、自分の部屋。
つまるところリスポーンポイント。
「よりにもよって自分自身との戦闘かよ!!」
完全に油断した!
自分との戦いなら気をつけないといけないのは、出会い頭の大技一閃。
バカ高いINT値を利用した超火力魔法ブッパだ。
それをやられて負けたのだ。
さすがに自分に腹が立つ!
「しかも使われたのなんだアレ、あんなスキル、俺覚えてたか?」
【雷鳴魔術】なのはわかってた。
だが使った記憶のない魔法だった。
ベッドの上でうなっていてもしょうがないので起き上がり、ステータス画面を開く。
そして、【雷鳴魔術】の詳細を開くと、見慣れない魔法が追加されていた。
Lv20:サンダーボルト
自分でも気がつかないうちに新しい魔術スキルを覚えていたらしい。
効果はライトニングボルトの集約型強化版単体魔法。
食らった結果とも一致する。
とりあえず、結果がわかったので落ち着いてきた。
まずは状態の確認だな。
デスペナルティはしっかりもらっている。
まずはゲーム内時間2時間のステータス減少。
HPやMP、STはそのままだが、それ以外の数値が3分の1まで低下する。
コレはマスク値と呼ばれる非表示データにも適用されるので、実際に全ての能力が3分の1になっているに等しい。
次に装備品の耐久値減少。
全ての装備品が最大耐久度の30%を失う。
強力な一撃をもらって退場したことも加えて、装備がかなりボロボロになっている。
このゲームのデスペナルティは以上だ。
所持金が減るとかアイテムロストが発生するとかはないのでそこは安心だが。
逆をいえばこのゲームってお金を預けるって考え方がないんだよな……
とりあえずボロボロになった装備は修理してもらわないといけない。
装備を初心者装備に変更して1階の工房部を目指して歩く。
工房前の廊下にはちょうど柚月がいた。
「あら、トワ。帰ってたの? っていうか、何で初心者装備?」
「デスペナ食らった」
「……ああ、耐久力がやばいのね。わかったわ。とりあえず修理する装備品は預かるわ」
「頼んだ。あとドワンはどこにいる?」
「工房じゃないかしら? 談話室にはいなかったし出かけてるとも思えないのよね」
「わかった。工房へ行ってみる」
「ああ、あと教授が来ていたわよ? トワがいないことを告げたらメールするって言って帰ってったけど」
「うん、メールは見た。とりあえず装備品の装備をなるはやでお願い」
「わかったわ。15分ほど待ってね。さすがにリペアじゃ直せないやつよ、これは」
「任せた。俺はドワンの工房に行ったら自分の工房で準備するから」
「なんの準備かは知らないけど了解したわ」
俺はドワンの工房にも足を運び、装備品の修理を依頼した。
そして、自分の工房に入ると、
「あ、トワくん、おかえり」
「ああ、ユキか。ただいま」
ユキが料理していた。
「トワくん何かあった? 機嫌が悪そうだけど」
「……一瞬の油断を突かれてワンパンでデスペナをもらった」
「あー、トワくん、HPないからね」
「ワンパンなのはいいんだよ。普段から割とギリギリだし。それよりも油断して大技を食らった方がイタイ」
「いったい何と戦ってきたの? デスペナもらうのって久しぶりだよね?」
「春休みに無茶してロックゴーレムに挑んだとき以来な気がするな」
そういえばあれ以来負けた記憶がない。
負けになれていないのもこのどうしようもない気持ちにつながっているのだろうか?
……さて気持ちを切り替えてリベンジの準備だ。
クエストが破棄されていないのはステータス画面で確認した。
あと、インベントリに入っている聖霊石の魔力充填率が0になっているのを確認した。
なのでまずは、充填作業から始める。
今回は裏で作業もするので300MPずつこまめに注ぐことにする。
そしてここからが本番、ある錬金アイテムを作る。
それもカスタマイズ品で。
「トワくん、これから生産? デスペナ明けてからの方がよくない?」
「大丈夫、ステータス減少してても問題ないレベルのものしか作らないから」
「そう? ならいいんだけど」
こうしてこの日はリベンジマッチのための準備に追われた。
途中、修理した装備品を届けに来てくれた柚月とドワンは軽く苦笑いをこぼしていた。
曰く、『トワの相手が可哀想』だそうだ。
その後も、俺は1時間ほど続け、しっかりとリベンジマッチの準備を終えた。
その間に聖霊石への魔力充填も終わったので、明日はすぐにリベンジと行こう。
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