75.GW3日目 ~聖霊石 5 ~

 それでは夜のログイン。


 昼間の間に商品の在庫補充はしておいてから問題はないはず。

 ……拳銃の補充をしてるとき、勢い余って★9が出来てしまったが気にしない。

 それもこれも全て上級錬金セットが悪い。


 さて、現実逃避はそのくらいにして、偽装の腕輪をつけ変装してから錬金術ギルドに向かおうか。

 この転移アイテム、転移門のようなポータル以外にも直接転移出来たらもっと便利だったんだけど。


「いらっしゃいませトワ様。本日はどういったご用件でしょう」


 いつものメシアさんに話しかける。


「聖霊石の魔力充填が終わりましたので、何か情報がないかと思いまして」

「はい?」

「いえ、だから聖霊石の魔力が貯まったので、何か改めて情報がないかと思ってきました」

「……1日で聖霊石を自分の魔力で満たしたのですか……念のため確認させていただいても?」

「はい。どうぞ」


 メシアさんに聖霊石を渡す。

 メシアさんはそれをよく調べてから俺に返してくれた。


「……確かに魔力が満ちてますね……でしたら、ギルドマスターにお会いになっていただいた方が早いと思われます。伝承以上の情報を持っているとすれば、ギルドマスターぐらいですので」

「わかりました。取り次ぎをお願いできますか」

「はい、少々お待ちください」


 メシアさんはいつものように、ギルドの奥の方へと向かう。

 さて、ここのギルマスに会うのは何回目だろうか。


「お待たせしました。こちらへどうぞ」

「いつもありがとうございます」


 もうパターン化しつつあるやりとりをしながら、ギルドの奥ギルドマスターの部屋へと案内される。


「また君か。君も大概忙しい人だな」

「いえいえ、たまたまですよ」

「まあいい。聖霊石の充填が終わったとの事だが、念のため私も確認させてもらっていいかね?」

「はい、どうぞ」

「……確かに、君の魔力で満たされているようだ。しかしすごいものだな、異邦人というのは。我々が長い月日をかけて満たす魔力を、わずか1日で満たしてくるとは」

「回復力が違いましたからね。それで何ですが……」

「まあ、君ならば話してもよかろう。聖霊石の使い方だが、危険なため我々ギルドマスターが秘匿してるのだよ」

「危険、ですか。それはまたどうして?」

「『聖霊の試練』と呼ばれる試練に立ち向かって戻ってこないものが多かったためだ。そのため、実力のないものには聖霊石の使い方を教えるわけにはいかないのだ」

「そうですか……ちなみに、俺が教えてもらう事は可能ですか?」

「ふむ、普通の錬金術士ならば止めるところだが……君は聖霊石の欠片も集められる程度には実力があるわけだからな。止める訳にもいくまい。それに異邦人は女神の護りにより、不死とも聞くしな」


 女神の護り、か。

 確か、教授がそんな設定があると話をしていたな。


 異邦人は女神の護りがある故に不死、ただし、常に女神に見張られているため、悪しき行いをすればこの世界から追放される、だったか。

 要するに女神とは、運営の事だな。


 まあ、死んだらそれまでのキャラ再作成じゃやってられないか。

 中にはそういうゲームもあるみたいだけど。


「ただ、詳しい試練の場所を知っているのは、私ではないのだ。この街の冒険者ギルドのマスターが知っている。これを持って冒険者ギルドを訪ねれば取り次いでもらえるだろう」


 ギルドマスターは、机の中から1枚のメダルを取りだして渡してきた。


 そのメダルには錬金術ギルドの紋章が刻まれていた。


「試練の詳しい内容は誰も知らん。くれぐれも気をつけたまえ」

「はい、ありがとうございます、ギルドマスター」


 ギルドマスターにお礼を言い、軽く一礼してから部屋を出る。


 錬金術ギルドをでる前にメシアさんにも軽く挨拶をして、俺は冒険者ギルドへと向かった。




 第4の街にある冒険者ギルドは街の規模に見合った立派な建物だった。

 ……よく考えたら、冒険者ギルドに来るのも久しぶりじゃないだろうか。


 というよりも、第4の街についてから1度も冒険者ギルドに来た覚えがない。

 出張販売所の品物は更新されているので、誰かがここを訪れているのは間違いないが。


「さて、それじゃあ、行くとしますか」


 気合いを入れて冒険者ギルドの正面から中に入る。

 ゲーム内時間はまだ朝早くだというのに、それなりに混み合っていた。

 俺は手早く用件が済ませられるように、空いてる受付に回って順番を待つことにした。


「それでは次の方どうぞ」


 待つこと数分、俺の順番が回ってきた。


「本日はどのようなご用件でしょう」

「ギルドマスターに会いたいんだ。錬金術ギルドからの紹介でね。はい、これがその証のメダル」

「これは……確かに錬金術ギルドのメダルですね。それでは少々お待ち下さい」


 受付の人は奥へと向かって去って行った。

 そして数分待ったところで声がかかる。


「ギルドのマスターがお会いになるとのことです。こちらへどうぞ」


 ギルド職員に案内されてたどり着いたのは、やはり他の扉に比べて豪華な扉の部屋だった。

 住人相手では偽装の腕輪の効果が無いことは確認済みだが、一応腕輪は外しておこうか。

 ここならイベントエリア扱いで他人に姿を見られることもないし。

 そして扉を開くと中から禿頭とくとうの、わかりやすく言えばスキンヘッドの大男が現れた。


「ふむ、今度の『聖霊の試練』を受けたいというのはお前さんか」

「ええ、トワと言います」

「わしのことはギルマスで構わんぞ。冒険者ギルドよりも生産ギルドの方がお前さんの活動主体だろう?」

「それではギルドマスター。『聖霊の試練』について話していただけますか?」

「うむ……そうしたいところだが、生憎あいにくわしはお前の強さを知らん。これでお前さんが冒険者ギルドで高ランクであったのなら話は別なのだがな」


 おっと、こんなところで冒険者ギルドを無視していた弊害が出るとは。


「錬金術ギルドのギルマスから推薦を受けられる人間だというのはわかった。異邦人であるというのも知っている。だが、わしはお前の強さを知らない」

「つまり何らかの方法で力を示せと?」

「話が早いな。その通りだ。お前達、異邦人はどこか戦士系のギルドにも所属していたはずだ。そのギルドマスターからも推薦をもらってこい。そうすれば、お望みの『聖霊の試練』についてわしが知っている話をしてやろう」


 戦士系ギルド……ああ、ガンナーギルドか。

 つまりガンナーギルドで認められればいいんだな。


「わかりました。それではガンナーギルドのマスターからも推薦をもらってきますよ」

「お前さんガンナーだったのか……それはまた錬金術士らしいと言えばそれまでだが……まあ、とにかく推薦をもらってこい。続きはそれからだ」

「わかりました。それでは失礼します」

「おう。……ああ、それから推薦をもらったら受付に渡さず案内人に渡してくれ。そっちの方が早い」

「了解です。それじゃ」


 俺は偽装の腕輪を再度装備し、冒険者ギルドを後にしてガンナーギルドを目指す。

 そしてガンナーギルドでは、いつも通りというべきか、アメリアさんが暇そうにしていた。


「こんにちはアメリアさん」

「あら、いらっしゃい。今日はどういった用件かしら? ライフルの製造をしていってもらえると助かるのだけど」

「じゃあとりあえずライフルの製造は行いますが。今日は別の用件もあるのでお願いしますね」

「わかったわ。とりあえずライフル製造ね。限界までやっていってもらえるのかしら?」

「ええ、今日は構いませんよ」

「それじゃあ、50丁分、お願いね」


 こうして俺はライフル製造を50丁分こなした。

 ライフル製造はまだコツがつかめたとは言い難いので、回数をこなせるのはありがたい。


「終わりましたよ」

「相変わらず早いのね。ちょっと待っててね。今検品するから」


 俺が製造したライフルを1丁1丁確認するアメリアさん。


「……早い上に仕事も正確。本当にうちの専属になってほしいものね」

「ありがとうございます。でも、俺は専属になるつもりはありませんので」

「それは残念ね。第2の街いもうとのまちのときと同じように毎日来てくれても構わないのに」

「今ちょっと忙しいもので」

「聞いているわ。武闘大会でしょう。錬金術士なのに出たがるなんて珍しいわよ」

「まあ、戦えない訳じゃありませんから。それで今日の用件なんですが」

「ええ、何かしら」

「『聖霊の試練』に挑みたいので推薦をもらえませんか? 冒険者ギルドから戦士系ギルドの推薦も必要だといわれてしまって」

「なるほどね。確かに、錬金術ギルドの推薦だけじゃ怪しいわよね。わかったわ。その代わり1つ課題を出させてもらうわね」

「わかりました」


 こう言う連続クエストはゲームっぽいよな。

 たらい回しにされてる感。


「とは言ってもあなたなら楽勝な課題だけど。この街の周辺の森に住み着いているビックバイパーを討伐してきて頂戴。おおよその生息地はわかっているわ、ここよ」


 アメリアさんは街の南側に広がっている森を指し示した。

 これはクエスト専用のボス戦かな?


「それじゃ、討伐の証として、舌を持ってきてね。くれぐれも気をつけて」

「はい、すぐに片付けてきますよ」


 そう言い残して俺はガンナーギルドを後に、街の南側の森へと向かった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「おかえり。本当に早かったわね」

「魔石をとってこいとか言われたら、苦労したかも知れませんがね」


 ランク10昇格試験の時の苦労は忘れないぞ。

 ……確定ドロップなのかは知らないけど魔石も持ってきているが。


「魔石は必要ないわ。むしろ、あなたの方が魔石は必要でしょ」

「まあそうですね」

「それじゃあ、ビックバイパーの舌をここに置いて頂戴」

「わかりました」


 テーブルの上にビックバイパーの舌を置く。


 このビックバイパーだが、全長5メートル級の大ヘビだった。

 だが、俺とシリウスにかなうはずもなく、シリウスがかみついて抑えてる間に、マギチャージで魔法を込めた弾丸でビックバイパーの頭部を撃ち抜いて終了だった。

 このクエスト、難易度間違えてるんじゃないかな。


「ふむ、ビックバイパーの中でも平均的なサイズの個体と接触したのね」

「舌の大きさでわかるものなんですか?」

「大体の目安はね。大きいものになると、この倍位のサイズがあるもの」


 そうなのか。

 運がよかったのか、大物に会えなかったと嘆くべきか。


「ともかくこれで依頼は達成ね。これを持って冒険者ギルドに行きなさい」


 軽く放り投げられて、俺の手元に収まったのは、ガンナーギルドのエンブレムが描かれたメダル。

 このギルドでもこのメダルが紹介状代わりらしい。


「『聖霊の試練』については私も詳しいことは知らないわ。でも、相当な難易度の試練だと聞いている。気をつけてね」

「ええ、では、行ってきます」


 アメリアさんに見送られ俺は再び冒険者ギルドを訪れる。

 今回は案内人の人にメダルを渡せたのですんなりとギルドマスターの部屋へと案内された。


「おう、思ってた以上に早かったな。ガンナーギルドのメダル、確かに受け取ったぞ。では『聖霊の試練』について話をしようか」


 かなり遠回りになった気はするが、これでようやく話が聞けそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る