78.GW4日目 ~聖霊石 8 ~
戦闘を終えた俺は光の残滓を目で追いかけた。
元試練の戦士だった光は、やがて闘技場中央にある祭壇に吸い込まれていった。
「これはさすがにイベントの続きだよな」
あの戦いだけでイベントが終わりとか、そんな手抜きはないだろう。
その証拠に光が吸い込まれていった祭壇の中央部、泉が輝き始めたのだから。
俺は祭壇の方へと近づく。
そして、祭壇の前に立つと泉が光輝き、その中から妙齢の女性が姿を現した。
その姿はまさしく『聖霊』のふさわしいだけの神々しさがあった。
何せ、文字通り後光を背負ってるし。
「よく聖霊の試練に打ち克ちましたね、勇者よ」
打ち克ったというか、爆破したというか。
「自らの
やめて。
腹いせ紛れにひたすら爆破しただけだから。
最期は、完全にオーバーキルを狙ってギリギリまで削ってから撃ち抜いたから。
褒められる度に自分のライフが削られていく。
ちくしょう、運営め……
「さあ、あなたに聖霊の力を与えるための器を授けましょう。聖霊石をこちらに」
褒め殺しは終わったようだ。
これはさっさとイベントを終わらせるに限る。
俺は指示された通り、インベントリから聖霊石を取り出して渡した。
「さあ新たなる聖霊の誕生です」
光を失っていた聖霊石が再び光を取り戻す。
いや、以前よりもさらに強い光をおびていた。
「さあ、聖霊の器が完成しました。これを持って行きなさい」
「あ、はい」
差し出された聖霊石だった物を受け取る。
「聖霊の器を聖霊の姿となる武器に注ぎ込み、新たな聖霊を誕生させるのです。勇者よ」
「具体的にはどうすれば……」
「それでは私の役目は終わりました。新たなる聖霊に幸あらんことを」
そう言い残して、聖霊(仮)は去って行った。
このゲームでは珍しいぐらいの、自分に設定された役割しかこなさない
それとも聖霊というものは住人とは違い、完全に自分の役割しかこなせない、いわば舞台装置のようなものなのだろうか。
とにかく、これでシークレットクエスト『聖霊の試練』は終わり……
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シークレットクエスト『聖霊の試練』
クエスト目標:
『聖霊の試練』に打ち克つ
第4の街の錬金術ギルドにてギルドマスターと話す
クエスト報酬:
聖霊の器
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……終わってないし。
これから錬金術ギルドに行くのか。
……うん、さすがに面倒だ。
まだ時間に余裕はあるけど、クランホームに戻ってログアウトしてしまおう。
そう考えた俺は、転移用アイテムを使用してクランホームへと戻った。
……よく考えたら、このアイテムの貸出期間もこのメンテナンスまでか。
便利だったなぁ、名前のセンスはないけど。
――――――――――――――――――――――――――――――
臨時メンテナンスの間に遥華とともに早めの昼食を食べる。
どうやら遥華も、武闘大会に向けて追い込みをかけているらしい。
今のペースでは武闘大会までにレベルカンストは難しい、とのこと。
経験値上昇チケットもしっかり使って間に合うかどうからしい。
とりあえず、休みだからといって不規則な生活にならないように注意だけはしておく。
……自分もそれなりに廃人プレイをしている自覚はあるので、あまり強く言うと特大のブーメランが刺さるから注意だけ。
食後の後片付けやら食休みを挟んで午後12時半ぐらいにログインする。
遥華の方はもちろん、12時前に自室に戻っている。
おそらく12時のメンテ明けと同時にログインしていた事だろう。
とりあえず自室から出る前に状況を確認しておく。
まず、擬装の腕輪と転移用アイテムはインベントリからなくなっていた。
代わりと言ってはなんだが、運営からのメールが来ていた。
内容は『もう変装しなくても大丈夫なはずだから自由にしていいよ。何かあったらGMコールよろしく』的な内容とお詫びの品として
試しに着てみたが、姿が隠れるわけではなく、目深にかぶれば人相がわからなくなるような装備だった。
都市迷彩柄の見た目とも相まって怪しいことこの上ない。
……一種のジョークアイテムだろうか?
次にぶっ壊れ性能になっていた銃の確認。
修正前の攻撃力等はこうだった。
―――――――――――――――――――――――
ミスリルマギマグナム+(刃狼) ★4
ミスリルの銃身とウルフの魔石からできた魔導銃
過剰な魔力が込められているため
脆くなっている
攻撃属性:風
風属性攻撃ボーナス小
装備ボーナスINT+20
MATK+250 INT+20
耐久値:50/50
―――――――――――――――――――――――
それが今はどうなっているかというと、
―――――――――――――――――――――――
ミスリルマギマグナム+(刃狼) ★4
ミスリルの銃身とウルフの魔石からできた魔導銃
過剰な魔力が込められているため
脆くなっている
攻撃属性:風
風属性攻撃ボーナス小
装備ボーナスINT+20
MATK+180 INT+20
耐久値:50/50
―――――――――――――――――――――――
こうなっていた。
MATKが70下がっているが、それだけだとまだ実用品の範囲だ。
何か他にも仕掛けがあるだろうし、別に試さなくてもいいか。
さて、確認も終わったことだし、クエストを進めに錬金術ギルドを訪ねてみるか。
錬金術ギルドに行った俺は、いつも通り受付のメシアさんに話を通してもらいギルドマスターの部屋へとやってきた。
「ほう、聖霊の試練とやらは本当だったのか。……詳細はあえて聞くまい。それで、私のところを訪れた理由はなにかね」
「ええと、この聖霊石を見てほしいんですが」
「ふむ、少し借りてもいいかね」
「はい、どうぞ」
俺から聖霊石を受け取ったギルドマスターは、自分の机に戻り何か魔法装置のような物に聖霊石をかざしている。
やがて、結果が出たのか再び俺の前に座ると聖霊石を返してくれた。
「まず、結論から言おう。
「そういえば祭壇から出てきた聖霊らしき人は、これのことを『聖霊の器』と呼んでいましたね」
「ならばそう言うことなのだろう。それは『聖霊石』ではなく『聖霊の器』に生まれ変わったのだ」
生まれ変わったってって言われてもねぇ……
「そして、その聖霊の器からは特殊な魔力を検出した。おそらくそれは錬金術の素材になるだろう」
「素材、ですか?」
「ああ、もっとも何にどう使えばいいのかはわからんが……」
「……そう言えば聖霊らしき人はこうも言ってましたね。『聖霊の器を聖霊の姿となる武器に注ぎ込み』と」
「ふむ……であれば、察するに武器に対して錬金術で混ぜ込むのだろう」
「武器にですか。製造過程ではなく」
「その聖霊とやらが言っていたのだろう。ならばそれを信じるまでだ」
「そうなるとレシピは……」
「そんなものがあると思っているのか?」
「……ですよね」
レシピはなしか。
ここから先はどうすればいいんだろうな。
「だが君の腕前ならば十分に何とかなるだろう。武器とその聖霊の器を共鳴させるようにして混ぜ込んでみるといい。私にもそれぐらいはわかる」
つまりレシピはないけど【中級錬金術】ならばいけると。
「ただ、おそらくは一度混ぜ合わせてしまえば二度と元には戻せないだろう。素体となる武器選びは慎重にな」
「わかりました」
「それでは行ってよろしい。ああ、武器ができたら暇なときにでも見せに来てくれ。1人の錬金術士として興味はあるからな」
〈シークレットクエスト『聖霊の試練』をクリアしました〉
システムメッセージが表示され、クエスト完了となった。
手元には生まれ変わった聖霊石である『聖霊の器』。
〈聖霊の器を入手しました。ヘルプに『聖霊武器の作成』が追加されます。詳しくは追加されたヘルプをご確認ください〉
システムメッセージでヘルプの追加か。
後で読んでみよう。
錬金術ギルドを後にした俺は、ついでなのでガンナーギルドに立ち寄りライフル製造のクエストを終わらせてきた。
余談だが、ガンナーギルドのギルドランクがまた上がり11となった。
それと、転移用アイテムがなくなったことで歩いて転移門まで戻らなくちゃいけなくなった。
……数日間の付き合いだったけど、本当に便利だったな。
――――――――――――――――――――――――――――――
「あ、おかえり、トワくん」
クランホームに戻ると談話室にユキがいた。
「ただいま。どうしたんだ談話室にいるなんて」
「教授さんがトワくんに用事があるって言ってさっき来てたの。その後片付けをしてたところ」
「教授が? それで本人は?」
「『また来るのである』って言って帰っちゃった。ほんの数分前だから今から連絡すれば間に合うかも」
「……わかった。今回の件では教授にお礼を言わなくちゃならないからな。ついでだし連絡しよう」
ちょっと前に帰ったばかりならすぐに捕まるだろう。
フレンドリストから教授を選択してフレチャを繋ぐ。
「もしもし教授?」
『む。トワくんであるか。ひょっとしてクランホームに戻ったのであるか?』
「ああ、今戻ったところ。それでいったい何のようだったんだ?」
『ふむ? トワくんはまだあのクエストを終えていないのかね?』
「あのクエストって言うと『聖霊の試練』か? 今し方クリアしたところだが」
『なるほど、まだヘルプは読んでいないのであるな。すぐにそちらに向かうので待っているのである』
それだけ言い残してフレチャが切れた……
「やあ、待たせたのであるな」
「って、本当にすぐきたな。教授」
「うむ、早く試したいことがあるのでな」
「試したいこと?」
「うむ、『聖霊武器の作成』である。詳しいことは私から説明させてもらうのである。さあ、私を工房へと案内するのである」
「わかったから、そんなひっぱらないでくれ」
教授に引き摺られるようにして俺は工房前へと連れてこられた。
そして、工房へのアクセス権を与えると、急かすようにして工房内へと連れ込まれた。
「それでは『聖霊武器の作成』についてであるが、細かい点を除いて説明すれば『既存の武器を聖霊武器に作り替える』事である」
「ずいぶんと大雑把だけど、『既存の武器』って何でもいいのか? 武器種とか」
「武器種は何でもいいようである。ただし品質が★7以上であることが条件である。それから耐久値が減っていない事も条件と言えば条件であるな。回復してしまえば一緒なのであまり意味のない条件ではあるが」
「★7以上の武器ねえ……俺ら基準でいうとそこまできつくないけど……」
「それは『
「それは理解しているよ。……それで他には条件はないのか?」
「作る上では他に条件はないのである。ただし、一度、聖霊武器にした武器は持ち主専用武器になり、他人に譲渡は出来なくなるのである」
「修理とかはどうするんだ?」
「そこは不明なのである。あとは……聖霊武器は1人1つしか入手できないのである。それ以上のことは現在のヘルプからはわからないのである」
「そうか……それで、教授がここにいる理由はなんなんだ? 正直、予想はついているけど」
「予想がついているならば聞かなくてもいいと思うのである。……まあ、黙っていても仕方が無いことなのであるが、聖霊武器を作るためには【中級錬金術】が必要なのである」
「【初級錬金術】じゃダメなのか?」
「ダメだったのである。レベル28でもできなかったので確定と思っていいのである」
「そっか。それならば仕方が無いか」
「そう言うことである。もうすぐ彼も【中級錬金術】になるので、そのときは別の者の聖霊武器を作ってもらうのである」
「わかったよ。それでどの武器を聖霊武器化すればいいんだ?」
「うむ。これである」
そう言って教授が取り出したのは黒い
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