73.GW2日目 ~聖霊石 3 ~

「ところで、あの盾の製法ってどうやってるんだ?」


 白狼さんも帰っていった事だし、聞いておきたい。


「ここではなんだ。わしの工房に移動するぞ」


 ドワンに連れられて工房に入る。


「さて、あの盾の製法じゃが、まずミスリル金を作る。さらに、そこへ別の金属を混ぜることで物理的な防御力を得ているわけじゃな」

「ちなみに、さっきの盾って何との合金?」

「鉄じゃ。鉄と混ぜただけで、あの防御力じゃからの。他の上位金属と混ぜれば、物理防御も十分に上がるだろう。無論、相性は計らねばならないがな」


 鉄と混ぜただけであの性能か、それはすごいな。


「それから合金にする際に添加剤として、属性鉱石と魔石を砕いたモノを混ぜる必要がある。あの盾に水耐性がついていたのは水属性の属性鉱石と水属性の魔石を添加したためじゃな」

「すごいな、そんな事まで試してたのか」

「始めは合金にするのに失敗してたのでな。何か添加剤が必要かと思い色々試したが、その結果、魔石と属性鉱石が上手く混ぜるのに必要だった。それならばいっそ両方混ぜてしまえばと思うての。試したら上手くいったというわけじゃ」


 この短い時間でそんな事も試してたのか。

 本当にすごいな、ドワンは。


「おかげでスキル経験値がかなり上がったぞ。『取得経験値上昇チケット』のスキル版も使ったがそれも含めて【中級鍛冶】とは思えないほどにレベルがあがったのう」

「やっぱりチケット買ったんだ」

「たいして高い買い物でもないしの。スキル経験値だけ上がればそれでいいので30日版を購入して使ってるぞ。トワは使わんのか?」

「俺は7日間のチケット全種用意したよ。GWゴールデンウィーク明けたらすぐに中間テストだからね。しばらくログイン時間が大分減ることになるからさ」

「うむ。学生の本分は勉強じゃからの。テストがあるなら仕方あるまい」

「そういうわけだ。それで、俺に協力してほしい事ってなんだ?」

「トワは魔石の属性がわかるのじゃろう? それを使って目的の属性を見つけてほしいのじゃ」

「ちなみに、さっきの盾はどうやって魔石の属性を?」

「水中生物系モンスターの魔石を使った。さすがに水中生物であれば水属性だと思うての」


 確かに、それは正しい。


 基本的に魔石の属性は、元のモンスターの属性に由来する。

 水中生物なら水属性が基本だろう。


「それじゃあ今回はなんの魔石を探せばいいんだ?」

「水と氷耐性と言うオーダーじゃからな。水耐性は属性鉱石でつける。トワに頼みたいのは氷属性の魔石じゃな」

「氷か……あまり見かけないんだよな。複合属性の魔石は」

「そこを何とか頼むわい。期限は5月4日でもかまわん」

「わかった適当に探してみるよ」

「頼んだぞ。それではわしもスキル上げに入るとしよう」

「それじゃ俺は行くな」

「おう。お疲れ様じゃ」


 そう言い残してドワンの工房から出る。


 ……そう言えば、教授から『聖霊石合成』のスキルブック渡されてたっけ。

 とりあえず覚えるか。


〈スキル【聖霊石合成】を取得しました〉


 特殊スキル扱いか、効果はっと……


 聖霊石合成:聖霊石の欠片30個を合成して聖霊石1個を作り出す


 ……これだけか。

 持っていても毒にはならないだろうしまあいいや。


 ――――――――――――――――――――――――――――――



「あ、トワくん、こんばんは」


 しばらくポーション作りにはげんでいると、ユキがログインしてきた。


「こんばんは。今日はずいぶんとログイン遅かったな」

「ちょっと家で用事があって。ひょっとして何か用事があった?」

「いや、そう言うわけじゃないんだが。珍しいなと思っただけだ」


 ユキもなんだかんだ言っても、ほぼ毎日ログインしている。

 ログインしない日は、別途メッセージをくれるほどだ。


「あの、トワくんはもう『チケット』買った?」

「ああ、買ったぞ。まだ使ってないが」

「ならこれから2人で狩りに行かない? 聖霊石の欠片集めも兼ねて鉱山ダンジョンの深層に」

「ふむ、シリウス達がいれば2人でも心配はないか。それじゃ行こうか」

「うん、すぐ行こう」

「そう慌てなさんな。とりあえず準備ができてるか確認してからだ」

「うん、そうだね。薬と料理は持ってるよ」

「装備の耐久度は大丈夫か?」

「うん、そっちも平気。それじゃあ行こう?」

「そうだな。行くか」


 俺達は揃って変装をして鉱山ダンジョン入口へと転移するのだった。


 鉱山ダンジョンについたら40階に転移。

 そこでシリウス達を呼び出す。


 どうやら幼体化スキルで幼体の状態のまま送還していると、次に召喚する時も幼体のままのようだった。


「んー、大きいプロちゃんもかっこいいけど、小さいプロちゃんもいいよね」

「どっちにしても、坑道じゃ狭いから亜成体のままじゃ行動出来ないがな」

「まあ、そうなんだけどね。……タンクはプロちゃんに任せて大丈夫だよね?」

「ワフ!」


 元気よく返事するプロキオン。


 プロキオンも亜成体に進化したことで、鉱山ダンジョンの最深部の敵相手でも安定した戦いが出来るようになっていた。

 もちろんシリウスも、より高くなった攻撃力で敵をねじ伏せられるようになっていた。


「さて、それじゃ行こうか」

「うん。でも、その前にチケット使わなきゃね」

「ああ、そうだったな。……うん、これで大丈夫だ」

「それじゃ行こう」


 こうして初の4人(2人と2匹)PTでの鉱山ダンジョンの深層の攻略は始まった。


 ……始まったのだが、敵とのレベル差はまだまだあるのに簡単に倒せてしまう。


 プロキオンは敵3体ぐらいまでなら普通に引きつけて平気だし、それ以上いるならユキも加わって敵を分散させる。

 そして分散した敵はシリウスが各個撃破し、固まっている敵は俺がスキルを使って範囲攻撃でなぎ払う。


 プレイヤースキルも伴っているから問題ないが、レベル詐欺もいいところだ。

 おかげでチケットの効果も重なり、スキルレベルや種族レベル、ジョブレベルまでサクサク上がっていく。


 危うげなく敵をサーチ&デストロイしながら、ダンジョン各所に点在している採掘ポイントで採掘を行う。

 俺の方はなかなか聖霊石の欠片がでないが、ユキの方はそこそこでている様子だ。

 まあ、聖霊石の欠片がでない分、通常の採掘品である各種属性鉱石や、ミスリル鉱石、その他上位鉱石が採掘できる。


 あと、たまにだが宝石の原石も採掘されている。

 宝石の原石は住人に頼むか【細工】スキル持ちが研磨することで『宝石』系のアイテムになる。

 宝石の主な使い道は、防具に組み込んで特殊な付与魔法をかけたり、武器に魔法とともに添加して属性を与える、あとは普通に宝石として【細工】スキルでアクセサリー装備に組み込む、などがある。


 ただ、今の『ライブラリ』には【細工】スキル持ちがおらず、宝石の原石は在庫になって塩漬けになっている。


 これをどうにかするため、柚月かイリス辺りが【細工】スキルを覚えようか、という話は出てるのだが結論は出ていない。

 2人ともあまり乗り気ではないのだ。


 理由は、かつて『ライブラリ』に所属していた職人に勝てない、という事だ。

 2人ともデザインセンスは優れているが、その職人はアクセサリー作りに関してだけは頭2つ分ぐらい上回っていた。

 服装のセンスは逆に微妙だったので、服は柚月にお任せだったが。


 その職人が『ライブラリ』を抜けてどこかのクランに移ったのならよかったのだが、そう言うわけではない。

 βの時は普通に最後まで『ライブラリ』に所属していたのだ。


 ただ、βテスト終了直前からぱったりと連絡が取れなくなり、やがてβテスト終了となった。


 フレンドリストはβの時のものが引き継がれているため、その当事者の名前はあるがログインした形跡はない。


 このゲームUnlimited Worldに飽きて辞めたのなら構わないのだが、なにも言わずにいなくなるタイプではなかった。


 ひょっとしたら、ひょっこり戻ってきて『ライブラリ』に来るかも。


 そんな気がして、2人が細工スキルに手が出せないでいるのだ。


 そんな事を考えながら鉱山ダンジョンを最深部から逆走し、35階に到達したら一度脱出。

 手持ちの聖霊石の欠片を数えてみた。


「うーん、最初13個もってたのに集まったのは合計で24個か……」

「なんだかゴメンね、私の方ばかりでて……」


 そう、ユキはこの1周で23個も聖霊石の欠片を集めていた。

 ……さすがにちょっと悔しい。


「まあ、時間はまだあるんだしもう1周行こうか。スキルレベルもまだ上がるみたいだし」

「うん、行こう」


 そして2周目を行った結果、ユキは30個集まったのだが、俺は28個までしか集まらず、3周目に突入する運びとなってしまった。

 ……くそう、物欲センサーめ……



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 物欲センサーの邪魔はあったが、3周目で何とか聖霊石の欠片は30個集まった。

 どうやら、聖霊石の欠片は30個しか集められないらしく、30個集まった後は普通の鉱石類しか採掘されなかった。

 ユキもそうなのでどうやらそういう仕様なのだろう。


 そして、この3周の最深部周回の結果、複数のスキルがスキルMAXになってしまった。


 出来れば進化させたいところなのだが、SPの余裕はあまりない。

 とりあえず、どれを進化させるかは保留にしておくことにしよう。


 3周目の周回を終えた俺達はクランホームへと転移で帰っていった。

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