72.GW2日目 ~白狼からの依頼~

 夕飯の支度をする前に、俺は近所のコンビニまで電子マネーを買いに出かけた。

 UWの課金アイテムを買うためだ。


 本来、課金アイテムはあまり買うつもりはなかったが、UWを終了した後に雪音と話をしていた際に買う事になったのだ。


 購入するアイテムは『取得経験値上昇チケット』3種。

 種族レベル・ジョブレベル・スキルレベルそれぞれに対応したアイテムだ。


 お値段は1つにつき、効果期間7日で300円とそれなりにお安い。


 UWは月額課金制なのでその金額も含めるとそれなりの額になってしまうが、高校生の小遣いでも十分に買える額だ。

 俺も雪音も家事などをそれなりにこなしていることが評価され、相応の額をもらっているのである。

 雪音は化粧品代とかも別にもらっている……というか、親から化粧品は渡されているらしく、そちらの金額はかかっていないらしい。


 なお、効果期間30日で1000円というバージョンもあるが、今回は7日版を買う事とした。

 GWゴールデンウィークが終わればそんなに経たないうちに中間試験がある。


 そのため、30日版を買ってもかなりの期間が無駄になってしまうためだ。


 テストが終わってからどうするかは、そのときにまた考えることにする。


 そんなわけでコンビニに着いた俺は、電子マネーとアイスを少々買って足早に帰宅し、夕飯の準備を始めるのだった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 夕食後、いつも通りの寝る支度を調えてから夜のログイン。

 時間は約束の午後8時より前の午後7時半。


 クランホームに降り立った俺は、とりあえず課金アイテムメニューから『取得経験値上昇チケット』3種を購入した。

 チケットを購入しても使用しなければ効果がないため、先に購入だけしておく。


 さて、約束の時間までゲーム内時刻で1時間ほどあるが何をしていようか。


 ……ライフルの銃身とグリップが共有倉庫で余っていたのでライフルを作ることにしよう。

 そうと決まれば、魔石の購入をしなければ。


 俺はマーケットボードが設置してある談話室に向かい魔石を購入。

 工房に入って適当な数のライフルを作成して販売用倉庫に放り込み、値段を登録して販売できるようにしておいた。


 そんな事をしていると約束の時間に近づいてきたので、談話室へ再度向かう。


 するとそこにはすでに白狼さんが来ており、イリスと何か話をしていた。


「こんばんは、白狼さん、イリス。何の話をしてるんだ?」

「あ、トワ、こんばんはー。見て見て、いいものお土産として売ってもらっちゃった」


 そう言いながら、イリスが掲げて見せたのは『エルダートレントの木材』。

 確か、王都の先、第6エリアの森にレアポップするモンスターの素材だったはずだ。

 そして、今現在見つかっているうち、魔力との親和性が一番高い木材だ。


「ちょうどトワ君が色々素材を買い集めていると話を聞いてね。これも役立つんじゃないかと思って持ってきていたのさ」

「……うん、それで俺のほしいモノを作ればよりよいモノが出来そうだ。ありがとう白狼さん」

「うんうん、これがあればがもっと強化出来るねー。それじゃあボクはスキルレベル上げ行くから。またねー」


 元気よくイリスが談話室を出て行く。

 そして、入れ替わりにドワンがやってきた。


「どうしたのじゃ、イリスがずいぶん浮かれた様子で出て行ったが。なにかあったのかのう?」

「ちょっと珍しい素材売ってあげただけですよ。ドワンさん、今日はお時間をつくっていただきありがとうございます」

「なに、お得意様の話じゃ。聞かないわけにいくまいよ。……それでは3人揃っているようじゃし、話を始めようかの」


 ドワンが白狼さんと同じテーブルに座り、こちらを促す。

 俺は共有倉庫からお茶請けとお茶を取り出して各自に配ってから席に着いた。


「ありがとうトワ君。……それで話というのは、装備を少しあつらえてもらえないかと思ってね」

「ふむ。このタイミングでか。……何か訳がありそうじゃのう」

「たいした話じゃないよ。僕達は今、第6エリアと第7エリアを越えた先にある、氷河と荒野を狩り場にしていてね。そこのモンスター達の攻撃を耐えるのが辛くなってきているのさ」

「ふむ。しかし、それならば『白夜』のお抱え鍛冶士でも十分ではないのかのう?」

「それなんだけど、僕が個人的にほしいモノとクランとして用意しているモノの方向性がちょっと違ってね。僕のほしい装備まで手が回らないっぽいんだ。そこでドワンさんに装備をお願いしたいと思ってね」

「ふむ、そういうことか。……トワはどう思う?」

「……この手の話は柚月の案件だと思うんだがなぁ。ドワンが作る余裕があるなら受けてもいいんじゃないか? もちろん、今入っている依頼を優先してもらわないと困るけど」

「そうか、ならば詳しい話を聞いてから受けるかどうか決めるとしよう。それでどんな装備がほしいんじゃ?」

「ええと、僕がほしいのは魔法防御力を優先した盾なんだよね。今の僕達のクランではそう言った防具の研究はまだ進んでなくてね」

「素人意見だけど、ミスリル多めのミスリル合金じゃダメなのか?」

「それじゃあ僕がほしい防御力に足りないんだよ。出来れば魔法防御力100以上はほしくて。あと耐久性も微妙でね。物理攻撃を受け止めると耐久力がガリガリ削れてしまう。他のリアル指向のゲームならすぐに盾がボコボコにへこむだろうね」

「そこまで耐久性が低いのか……」

「そこまでなんだ。それで、ドワンさんなら何かいい案を持っていないかと思ってね」

「ふむ……条件に見合いそうな金属はあるにはあるのだが……トワちょっとよいか?」

「? なに?」


 ドワンがチャットモードをフレチャに切り替えて俺に質問してくる。


『実はの。ミスリル金をいじっていて気がついたんじゃが、ある一定以上の金属と合金にすることによって耐久性と物理耐性が向上することがわかったんじゃ。それで、その合金を使った盾を推薦したいのじゃが……ミスリル金を使ってしまうからな、一応、トワに許可をもらおうとおもってのう』

『それなら別に構わないんじゃないか? 見た目の情報や素材を調べられたところで、ミスリル金の存在はばれないんだろう?』

『うむ、それは保証しよう。ならば今、試作品が工房にあるのでそれを持ってくるが構わないな?』

『OKだ。白狼さんにはお世話になっているし、今回は協力しよう』


 俺達は方針を確認してフレチャ切る。


「話し合いは済んだかな? それで協力してもらえるかい?」

「うむ。協力しよう。まずはちょうどいい素材で出来た盾の試作品があるので、それを持ってこよう」

「本当かい。試作品もすでにあるなんて助かるよ」

「うむ、少し待っておれ」


 それだけ言い残してドワンは談話室から出て行った。


「いやー、本当に助かるよ。ところで話し合いの内容はやっぱり教えてもらえないのかな?」

「ちょっと素材のことで話をしていただけですよ。ちなみに素材を明かすことは出来ませんので」

「はは、わかっているよ。職人にとって製法は大事だからね。特に希少な製法やオリジナルレシピは」


「待たせたの、これがサンプルじゃ」


 ドワンが戻ってきてサンプルの盾を差し出した。


 ―――――――――――――――――――――――


 黄金のラウンドシールド ★4


 黄金色をしたラウンドシールド

 魔法耐性が極めて高い

 また混ぜ込まれた金属の効果により

 属性耐性も得ている


 水属性耐性・小

 ハードコーティング

 装備ボーナスMND+20


 DEF+10 MDEF+20 MND+20


 盾防御時

 DEF+20 MDEF+60


 耐久値:100/100


 ―――――――――――――――――――――――


 サンプルとは言っていたがなかなかレベルの高い逸品だと思うぞ。


「これは……この段階でまだ『サンプル』なのかい? 十分に実戦に使えそうだけど。あと、『ハードコーティング』っていったい何かな?」

「まずサンプルな理由は、これが今回の合金で初めて作った品じゃからな。はっきり言って、使った金属の品質を考えればまだまだ改良の余地がある。それから『ハードコーティング』じゃが、本来柔らかい金属を硬くする鍛冶スキルじゃ。これの有無でかなり物理耐性が変わってくる」

「へえ、鍛冶スキルってことは『白夜うち』の鍛冶士達でも使えるのかな?」

「レベルが上がっていれば使えるじゃろう。持っていても使いどころがわからず使っていないかもしれん。それから、元より十分に硬い金属にかけてしまうと、硬くなりすぎてそれはそれで脆くなるでな」

「なるほど、使いどころを選ぶ訳か。それなら僕達のところの鍛冶士が使っていない可能性があるな。その特性からして、ミスリル銀多めの配合の時に使えばいいのかな」

「そこまでは教えられんよ。それで、この方針で盾を作る事でいいのかの?」

「うん、これで構わないよ。それで代金なんだけど50万E、これくらいでいいかな?」

「ふむ、ちともらい過ぎな気もするがそれで構わんよ。……ちなみにレアな鉱石類は持ってないのか? あれば安くするが」

「ああ、そうだね。トワ君に渡す分が減ってしまうが……構わないだろうか?」

「うーん、構わないと言えば構わないかな。さっきレア度の高い鉱石いくつか手に入ったし」

「そうじゃの。トワの装備分の鉱石類は十分に預かっておる。足りなくなることはないじゃろうよ」

「そうか、それなら鉱石はドワンさんに買い取ってもらおうか。……中身はこんな感じだけどどうだろう?」

「ふむ、これだけあるならば問題なかろう。この盾に使われている金属もアップグレード可能じゃろう。ではこれは、……全部で鉱石の引き取り額は10万Eといったところかのう」

「うん、それなら僕も構わないよ。差し引き40万Eだね。先払いの方がいいかい?」

「いや、代金は商品と引き替えで構わんよ。その方が、わしも気が楽じゃ」

「わかった。それで盾なんだけど、ラウンドシールドじゃなくてカイトシールドにしてほしいんだけど大丈夫かな? やっぱり値段が変わってしまうかな?」

「使う金属量が違うのでな。……そうじゃの、カイトシールドなら55万E、鉱石代を引いて45万Eじゃな」

「わかったよ。それで完成はいつ位になりそうかな?」

「とりあえず、今すでに入っている依頼が先じゃからな……早くても5月4日じゃろう」

「わかったよ。出来れば武闘大会に間に合わせてほしいが無理は言えないからね。間に合ったらで構わないさ」

「承知した。それで、盾の防御属性じゃがどうしたい?」

「ちなみにどんな属性耐性がつけられるのかな?」

「基本6属性ならどれでも。あと、トワが協力してくれれば2属性耐性や複合属性耐性も可能かも知れぬ」

「協力するのは構わないけど、何をすればいいんだ?」

「それについては後で話す。それで何の耐性をつければいいかのう」

「うーん、氷河で多いのは氷と水。荒野で多いのは風と土、それから雷なんだよね。とりあえず今回は水耐性を。可能だったら氷耐性もほしいかな」

「わかった、水と氷じゃな。なるべく早めに仕上げてみせよう」

「それじゃあお願いね。あとはトワ君との素材の売り買いだね、今持っているのはこんな感じかな」


 見せてもらった素材達は初めて見るものが多かった。

 特に気になったのは、ボスである氷鬼と雷獣の魔石、それから雷獣の毛皮だ。

 魔石は魔導銃などの素材に、雷獣の毛皮は防具の強化素材に良さそうだ。


「えーと、とりあえずほしいのは、ボス魔石全部と雷獣の毛皮かな。あとは、……うん、ザコの魔石もサンプルとして少しほしい」

「雷獣の毛皮を使うなら、雷獣の爪もおすすめだよ。防具の強化素材として混ぜ込めば、AGIボーナスが付くからね」

「へえ、じゃあそれもほしいかな。いくらになる?」

「そうだね。ボス魔石が少し高めなぐらいだから……30万Eってところかな」


 想定よりも大分安いな40~50万Eだと思ってたのに。


「値段についてはちゃんとクランで協議してあるから気にしないで。こちらとしては、トワ君のポーションがなくなってしまうと氷河や荒野のボス狩りなんて出来なくなるからね。雲隠れ中だというのに、納品してもらえるのは本当に助かるよ」


 そういえば雲隠れ中って事になっているんだったな。


「『ライブラリ』のお店に並ぶ商品の量が極めて少なくなったのが痛いね。掲示板でも例の動画の件でトワ君を、ひいては『ライブラリ』全体を叩くような風潮だったけど、実際に流通量が減って打撃を受け始めると見事な手のひら返しを始めたからね。なかなか見物だったよ」


 掲示板ではそんなことになっていたのか。


「全く困っていないのは、決まった量が納品されている僕達と『インデックス』ぐらいじゃないかな? トワ君のポーションを始め、『ライブラリ』の製品は購入制限がついていてもなおほしいモノだったからね」

「そんな事言われてもね。俺には関係ないことさ」

「そうだろうけどね。……まあ、とにかく持ちつ持たれつというやつだ。素材の値段はこれでいいよ」

「わかった。それじゃあお言葉に甘えることにするよ」


 こうして白狼さんと俺の取引も無事終了。

 新しい装備を頼めた白狼さんは嬉しそうに帰っていった。

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