71.GW2日目 ~聖霊石 2 ~

『トワ君、今のワールドアナウンスだけど、君じゃないよね』


 俺じゃない。

 でも発生させた人物にも心当たりはある。


「残念ながら俺じゃないですよ。それよりもドワンの都合のいい時間を聞いたらまた連絡しますね」

『ああ、頼んだよ。それじゃあ、そろそろ僕達の休憩時間も終わるから。またね』

「はい、また」


 ……まずはドワンに手の空く時間帯を聞いてみるか。


 という訳で、ドワンの工房に行き予定を聞く。


「なんじゃ、藪から棒に予定なぞ聞きおってからに」

「白狼さんが会いたいそうでね。都合のつく時間を教えてほしいんだ」

「ふむぅ。白狼さんか……今までにもお世話になっているし邪険には出来ないだろう。今日の午後8時頃なら手が空いてると伝えてくれ」

「わかった。それでミスリル金の方はどう?」


 気になっていたことの進捗を確認してみる。


「まだまだ試作段階じゃが、これだな」


 ―――――――――――――――――――――――


 ミスリル金 ★4


 鍛冶によって作成された特殊な金属

 非常に柔らかいが魔力伝導率が非常に高い


 鍛冶や細工、錬金術などの素材に用いられる


 ―――――――――――――――――――――――


「なんだ、もう★4までは作れるのか」

「まだ★4が安定したところじゃがの。とりあえず、後でこれを使って魔導銃の素材と簡単な防具を作ってみるつもりじゃ」

「簡単な防具って?」

「ラウンドシールド当たりかのう。あれならば、そこまで手はかからぬ」

「そういうものなのか」

「少なくとも、このゲームではそうなっているようじゃな」

「わかった、その辺りのことは任せるよ」

「うむ。白狼さんによろしく伝えておいてくれ」


 ドワンとの打ち合わせが終わったので、一度談話室にもどり、白狼さんにメールを送る。

 さっきは休憩時間と言っていたので、今はおそらく戦闘中だろう。


 さて、また手持ちぶさたになってしまったな。


 ……俺もポーションの補充をするか。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 ポーションの補充をしながら、追加された『聖霊石』についてのヘルプを読む。

 さすがにミドルポーションぐらいなら、他のことをしながらの作業でも失敗することはない。

 それに上級調合セットになった関係で、設備も更新されある程度、自動で処理をしてくれたりもする。

 全てを自動処理にしてしまうと品質が下がるため、要所要所で手を加える必要はあるが、タイマー機能も追加されたのでその点も大丈夫だ。

 タイマー機能で時間を計ってあらかじめ決めていた作業を時間通りにこなす。

 ある意味、流れ作業だがまあ仕方が無い。


 そして肝心のヘルプ内容だが、大きくまとめると次のようなものだった。


・どこかで手に入る『聖霊石の欠片』を集めることで『聖霊石』を入手可能

・『聖霊石の欠片』を『聖霊石』にするには特別なスキルが必要

・聖霊石には品質がないが、代わりに保有者の魔力をため込む事によって本来の力がだせる

・『聖霊石の欠片』および『聖霊石』は譲渡できない


 絶妙に必要な情報は隠されている内容だった。


 ポーション作りをしながらヘルプを読み進めていると、フレチャがかかってきた。

 教授からだ。


『やあ、トワくん。今、時間大丈夫かね?』

「ん。大丈夫といえば大丈夫。何かあった?」

『なにもなければ連絡しないのである。とりあえず、君達のクランホームにお邪魔させてもらうのである』

「はいはい。それじゃ談話室で待ってるよ」


 教授が来ることになったので、ポーション作りは今作っている分で一時中断する。

 とりあえずユキがいないから、自分でお茶請けと飲み物を用意して談話室へと向かう。


 談話室につくと、すでに教授が待っていた。


「やあ、トワ君。勝手にお邪魔させてもらっているのである」

「……まあ、構わないけど。あ、これ、お茶請けと飲み物」

「うむ。ありがたくいただくのである」

「それで、急に訪ねてきた目的はなんだ?」

「うむ、それについては後できちんと話す。まずは先ほどのワールドアナウンスを聞いたかね?」

「ああ、『聖霊石』の話だろう。ちゃんと聞いたよ。それがどうかしたのか?」

「うむ、あれは私が聖霊石を完成させたためである」

「それは予想していたが……それだけじゃないんだよね?」

「当然である。まずはこれを見てほしいのである」


 教授は1枚のSS スクリーンショットを提示する。


 そこには聖霊石の情報が表示されていた。


 ―――――――――――――――――――――――


 聖霊石 ★?


 聖霊石の結晶


 古代文明で膨大な魔力を扱うために用いられた

 現在ではその使用方法は秘匿されている


 魔力充填率

 2/100%


 譲渡不能

 破棄不能


 ―――――――――――――――――――――――


「これが聖霊石か」

「うむ、そうなのである」

「使用方法がわからないな」

「うむ。なので錬金術ギルドを訪ねたのである。であるが……」

「門前払いにでもさたか?」

「いや、ギルドマスターから話は聞けたが、『魔力の充填が終わってからまた来い』としか言われなかったのである」


 ふむ、フラグが足りていないと。


「それで、トワ君にこれに魔力を込められないか試してもらいたいのであるが」

「でも譲渡不可だろう、それ」

「手渡すだけなら出来たのである。なので、試してみてほしいのである」

「……わかったよ。試すだけなら試してみる」


 教授から聖霊石を受け取り魔力を込めてみる。

 魔力を込めると言っても、普段魔力だな、と思っている力を聖霊石に集めているだけなのだが。

 ……だがしかし、聖霊石に魔力が貯まるような事はなかった。


 試しに【魔石強化】のスキルを使ってみたが、こちらは反発するような感覚で魔力を込められなかった。


「……やはりトワ君でもだめであるか」

「やはり、って事はもうすでに他人ではダメだって事は実験済み?」

「うむ。クランメンバーにも試してもらってダメだった事は確認済みである」

「……なあ、教授。思うに『譲渡不可』って事は個人専用なんだよな? なら他人の魔力ははじかれて当然なんじゃないか?」

「…………自分専用であるか。それは最初に試してみたのであるが、いささか以上に効率が悪いのであるよ……」

「そんな事言っても始まらないだろう。とりあえず注げるだけ注いでみてたらどうだ?」

「……まあそうであるな。やってみるのである」


 そう言うと教授は、聖霊石に力を集め始めた。

 すると聖霊石は淡く光り始めた。


「ふう、これはなかなか骨の折れる作業である」

「で、どうなった?」

「私のほとんどのMPを使い潰してこれである」


 新たに提示されたSS スクリーンショットには、


 ―――――――――――――――――――――――


 聖霊石 ★?


 聖霊石の結晶


 古代文明で膨大な魔力を扱うために用いられた

 現在ではその使用方法は秘匿されている


 魔力充填率

 13/100%


 譲渡不能

 破棄不能


 ―――――――――――――――――――――――


 と書かれていた。


「いやはや困ったものである」

「まあ、気長にやるしかないんじゃないか?」

「そうであるな……」


 そう言えば、1つ気になることがあったんだ。


「教授。聖霊石の欠片には『錬金術によってかつての姿を取り戻せる』ってあったけど、あれっていったい何だったんだ?」

「ああ、あれであるか。おそらくは、聖霊石の欠片の持ち主を錬金術ギルドに向かわせるためのヒントである」

「ヒントを表示するために【中級錬金術】が必要か……」

「まあ、その前段階の情報を得るためにも【考古学鑑定】が必要だった訳であるしなあ。それは今更なのである」


 それもそうか。

 でもそうなると、この先【中級錬金術】が必要になるのかも知れないな。


「ともかく、これがわかっただけで十分である。……ああ、これは午前中の情報の謝礼である」


 そう言って渡されたのは上位ボスモンスターの魔石と隕鉄メテオライトやアダマンタイトなどの鉱石類多数だった。


「武闘大会に出るのであろう? ならば上級の素材はこれでも足りないはずである。また手に入ったら持ってくるのである」

「それは助かるな。ありがとう教授」

「そんな事はないのである。特にあのフェンリルの情報は高く売れそうである」

「何事も程々にな」

「わかっているのである。それではまた、である」


 教授が帰った後、再びドワンの工房を訪問。

 教授からもらった鉱石類を渡しておいた。

 ただ、これらの鉱石を扱うにはまだスキルレベルが少し足りないらしく、それまではスキル経験値のおいしいミスリル金の製造に力を注ぐとのことだ。


 そしてちょうどいいタイミングで白狼さんからの返事も帰ってきた。

 今日の夜8時で問題ないらしい。


 そのことをドワンに伝えて、改めて問題がないことを確認。

 白狼さんにも折り返し返信しておく。


 その際に白狼さんにも『ライブラリ』のホームポータルを使えるようにしておく旨を付け足しておく。

 今の俺達は雲隠れ中、と言う事になっているので、正面から入ってこられても困るのだ。


 俺は忘れずに、白狼さんに対するクランホームへの転移権限を与えておく。


 その後、ドワンの工房を辞した俺は自分の工房に戻り、少しの間ポーション作りに励むのだった。

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