70.GW2日目 ~聖霊石 1 ~
第4の街の転移門から錬金術ギルドに移動した俺達は、まだクエストを完了できずにいた。
単純にクエストで納める聖霊石の欠片を、誰がどう負担するか決めてなかったためだ。
「ふむ。事前に考えておけばよかったのである……」
ギルド内の休憩スペースにて教授が愚痴をこぼす。
「勢いだけで進んでたからなぁ」
「そうだね。勢いだけで進んでたね」
「勢いだけじゃったのぅ」
「ぐぬぬぬぬ……」
教授がうなっているが、今はそんな事してても話が進まない。
「とりあえずだ、手持ちの欠片は89個。納めなくていい39個の配分を考えないと」
「うむ、それなのであるが、私に20個分譲ってほしいのである」
「20個、ずいぶん多いけど何でまた?」
「理由としては、聖霊石に復元するときに必要になりそうな数が『25個』前後だと思うからである」
「ほう。理由を聞いてもよいかの?」
「うむ。納品数が50個であるならば、研究資料として聖霊石を復元すると思うのである。それが1つとは限らないので……」
「なるほど。聖霊石2個を復元できるのが欠片25個と言う訳か」
「うむ、それで私の持っている聖霊石の欠片は全部で23個。そのうち最低数の可能性のある20個は手元に残したいのである」
「うーん、どうしようか、2人とも」
「わしは聖霊石の欠片なぞどうでもいいからな。代わりに鉱石辺りをもらえれば手を打とう」
「私もかな。今は特に必要なさそうですし」
「ふむ、後はトワくん次第であるが……」
「2人が固執しないなら俺もいいかな。使いそうだったら、また集めに行けばいいし」
「おお、それでは!」
「教授の分、20個は残しで。後の19個はこちらで適当に……」
「トワ、お主何個の欠片を持っている?」
欠片の数か。
数えてなかったな。
「俺は……16個だな」
意外と少なかった。
「ならばトワの16個は残しで、残り3個はユキが持っていけ。わしはいらん」
「いいのか。そんな事言って」
「その分、鉱石がもらえるなら安いもんじゃ。上位の鉱石はなかなか出回らんからな、武闘大会のせいで」
「やっぱり供給が減ってるかー」
「減っておるな。
「そっか、無駄にならないようでよかった」
「まあ、金属部品はこれから加工だがな。イリスも今はスキル上げと道具の慣らしをしてるところだ」
「それでも武闘大会に間に合うなら構わないさ」
「それまでには完成させるわい」
うむ、頼もしいな。
「配分も決まった事であるし、早くクエストを完了させるのである!」
「はいはい、それじゃ、受付に行こうか」
こうして俺達は受付へと向かうこととなった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「うむ、確かに聖霊石の欠片50個受け取ったぞ。それで、これが報酬の『聖霊石合成』のスキルブックだ」
「ふむ、レシピではなくスキルブックなのであるな?」
「ああ、元々は錬金術の範囲だったんだが、研究が進むうちに独立してな。聖霊石の復元だけは別スキルになってしまったのだよ」
「さもありなん。それでスキルブックは本当に6ついただけるのかな?」
「ああ、構わないよ。本来であれば1PTで集める量だからな」
「ふむ。そう言うことであればありがたく頂戴するのである」
「ああ、遠慮せずに持っていきたまえ」
「では、ありがたく。それでは今日はここまでであるな」
「そうなるな。もし聖霊石の合成に成功したら、また訪ねてくるといい。次のステップについて説明しよう」
「わかったのである。それでは失礼するのである」
「それじゃあ俺達も。失礼します」
「ああ、トワくんはまた今度、時間があるときに来なさい。次の師匠になれそうな人を見繕っておこう」
「んーそれならゼノンさんが師匠を紹介するみたいなことを言っていたような……」
「ゼノンというと第2の街のゼノンくんかね」
「ええ、そうですね」
「ふむ、そう言うことなら我々からゼノンくんにも確認をとってみよう」
「それじゃあ、その辺はお願いします」
「うむ、またきてくれたまえ」
そして俺達は部屋から出て行った。
受付まで戻ると、教授が落胆した様子でたたずんでいた。
「ん? どうしたんだ教授?」
「ああ、トワ君であるか……実はスキルブックを使い『聖霊石合成』を覚えたのだが、必要個数が30個だったのだよ……」
「あーあと10個も足りないのか」
「そう言うことである……ちなみに、このあとの予定はどうなっているのかね?」
「俺は特にないけど、一度落ちて休憩かな」
「私も同じ感じです。それに家事もあるし……」
「そうじゃな。もうすぐ昼食時じゃな」
「……さすがにもう1周は……」
「きついな。諦めてくれ」
「……わかったのである。クランの方を当たってみるのである」
「そうしてくれ。それじゃあ教授、クランホームに……」
「トワ様、少しよろしいでしょうか」
メシアさんが俺に声をかけてくる。
「頼まれていたものですが、明日には届く予定です。都合のいい時間帯に受け取りにきていただけますか」
「ああ、わかった。それじゃ、よろしく頼むよ」
「はい、お任せください」
メシアさんとの会話で途切れてしまったが、気を取り直して。
「さて、クランホームに帰ろうか」
俺は転移用アイテムを起動してクランホームへと戻るのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「さて、それでは鉱石だが全て持っていってもらいたいのである」
「ほう、太っ腹だな。他に何か要求でもあるのか?」
「いや、特にないのである。それから、残りの『聖霊石合成』のスキルブックも全て持っていってもらって構わないのである」
「本当に太っ腹だな。何を企んでいるんだ?」
「失敬な。今日のクエストについて、私からの報酬である」
「そう言うことならもらっておくか」
「そうじゃの。この際だから全員で覚えるか」
「そうしようか。それじゃあ……」
「他の2人には渡しておくわい。お主らは早く落ちるのじゃな」
「ではお言葉に甘えて落ちさせてもらおうかな」
「私も落ちますね。お疲れ様でした」
「私もこれで失礼するのである。……あと、トワ君にはガンナーのジョブ情報と眷属進化の報酬がまだであったな。これはまた次の機会としよう。時間がないようであるからな」
「ああ、それで頼む。またな教授」
「うむ、またである」
「お疲れ様でした、教授さん」
教授が帰るのを見届けた俺達はそれぞれログアウトした。
――――――――――――――――――――――――――――――
俺は昼食の準備を始めようと、ベッドから起き上がった。
そこに、携帯端末からのコール音が鳴り響いた。
発信の相手は雪音からだった。
「もしもし、雪音、どうしたんだ」
『もしもし、悠くん。よかったらお昼一緒にどうかな? もちろん遥華ちゃんも一緒に』
「あー、それなら構わないぞ。それで、そっちの家に行けばいいのか?」
『ううん、悠くんの家に行くよ。陸斗も連れてね。それじゃあ準備出来たらすぐ行くから』
「ああ、無理せずゆっくり来いよ」
『うん、少し待っててね、それじゃあ』
そこまで告げると通話は切れた。
さて、遥華をたたき起こすか。
あの様子だと、すぐにでも来そうだからな。
――――――――――――――――――――――――――――――
「うーん、雪姉の料理、おいしい!」
「そうだな、彩りもバランスもいいし、さすがだな」
「そんな事ないよ、それより陸斗がなかなか起きなくてゴメンね?」
「そんな事言われたって俺にだって都合が……」
「お昼は悠くんの家に行く、って言っておいたよね。陸斗?」
「それは……ゴメンナサイ」
雪音は電話から20分ほどでやってきた。
大きめの弁当箱持参で。
『こっちの方が早くて便利ですから』
とは本人の弁。
食事を食べ終えれば、後片付けを俺と遥華で行い、残りの2人は食休み中だ。
俺は、冷蔵庫から麦茶を取り出し全員分を用意する。
我が家には基本的に冷えた麦茶は常時置いてあるのだ。
「それで、悠、おまえレベルどれぐらいまで上げたんだ?」
「うん、まだ31だが」
「お前そんなんで武闘大会優勝できると思ってるのかよ」
「マイスターは制限多いからいろいろ何とかなりそうだぞ」
話題は自然にUWの事となり、今は武闘大会について話している。
「そうは言ってもマイスターだって抜け道はあるだろ?」
「確かに抜け道はあるけど。
「お前の他って言うと【城塞】や【流星雨】あたりか? あとは……【追撃者】とかもいるけどPvP向けのビルドじゃなさそうだしな」
「むしろ生産職で
「まあ、そうとも言うが。……それで、勝てそうなのか?」
「さあ? 全力は尽くすけど、それ以上はやってみないとわからないな」
「お前らしいな。……ちなみに俺らに手伝える事ってないのか?」
「俺ら?」
「わたしの事だよ、お兄ちゃん」
「2人だって武闘大会に出るんだろう? そんな余裕はあるのか?」
「強モンスター相手の狩りついでに素材をとってくる程度ならいけるさ」
「そうそう。お兄ちゃんは余計な事、気にしなくていいんだよ。それにわたし達の装備だってもうできあがってるし」
「そうかなら、白銀魔狼を超える皮素材とか、トレント系の上位種の素材が手に入ったら教えてくれ」
「オーケー。それじゃ決まりだな」
これで装備のランクアップ狙えるな。
「それでなんだけど、悠くん、連休中のお昼、一緒に食べちゃダメかな?」
「ダメとは言わないが、どうしたんだ?」
「だって、こうでも理屈付けしないと、陸斗がお昼を食べようとしないんだもの」
「別に食べないとは言ってないだろ……お昼におにぎりでもつくって残しておいてもらえればいいだけで」
「……それは重傷だな。いいよ。一緒に食べようか」
「よかった……そう言えばおじさまとおばさまは?」
「仕事だってさ。
「そっか。うちも似たような感じだからしょうがないのかもね」
「まあ、そんなものだろう。それで、毎日お弁当を作ってきてくれるのか?」
「うん、そのつもり。迷惑かな?」
「そんな事ないぞ。なあ?」
「うんうん、毎日雪姉のご飯食べられるなら問題なし!」
「よかった。じゃあ今日と同じ時間ぐらいに、毎日来るね」
「わかった。それで……」
その後もしばらくの間、
俺と雪音はこのあと、ゲームで合流する事を確認しておいた。
――――――――――――――――――――――――――――――
午後3時頃、今日2回目のログイン
ユキとの待ち合わせには少し時間があったが、すでにユキもログインしているみたいだ。
おそらく工房にいるんだろうと思いつつ、自分用の武闘大会向け装備の考察を始める。
(とりあえず、防具類は柚月とドワンに全部任せて大丈夫。アクセサリーも後はもう1つ手に入れればそれで終了。となると、やっぱり武器か……)
武器を試しに作ろうにもバグのせいで
武器は大人しく5月1日のメンテ明けを待つか。
(そうなると、後出来そうなのは……装備の素材集めとレベリング、武器そのものの作成練習ぐらいか)
このうち、作成練習は上級錬金セットが来てからやった方がいいだろう。
となると、出来る事はさらに限られる。
(装備の素材集め、というか、個人的なつながりを頼る方が良さそうだな)
そう言うわけで。一番高性能なものを持っていそうな知り合いにメールを出してみる。
【白夜】の白狼さんだ。
『装備に使う素材の件で連絡したいけど都合のいい時間はあるか?』という主旨のメールを出すと、すぐにフレチャがかかってきた。
『やあ、トワ君。君達が雲隠れしていると聞いて心配してたんだよ』
「それは心配させました。白狼さん、それで装備素材のことなんですが……」
『ちなみにどんなものがほしいんだい? その種類によって我々も出せる数っていうのが変わるからね』
「まずは魔石ですかね。珍しいものならなおさら。出来れば3つずつのセット単位で」
『珍しい魔石か……それなら在庫があるな。第6エリアと第7エリアを越えた先にいるボスなんだが『氷鬼』と『雷獣』というのがいてね。今、僕達のクランはそいつらを周回して狩っているからね。ほぼ不良在庫で貯まっているのさ』
『氷鬼』に『雷獣』ね……
名前だけ聞いても氷属性と雷属性って予想はつく。
『あとはそいつらから取れる素材もそれなりに在庫は潤沢かな。こっちは市場に流せば、それなりの値段になるからそこまで多くはないが……』
「それも買い取れるなら買い取りますよ。俺の防具は服系統ですから、毛皮とか皮は強化素材になります」
『強化素材、か。やはり君は白銀魔狼で作った服をメインにするんだね』
「ええ、アップグレードなら普通に同じ素材で作るよりも、少ない量で同じ効果を得られますからね。……裁縫師の腕が足りていればですが」
『そこは、君のクランなら心配する必要はないだろう。……それで今度は僕の側から相談なんだが、時間のいい時はないかな? 出来ればドワンさんに話を聞いてもらいたいんだ』
「わかりました、それじゃあドワンの都合を聞いたらまた連絡……」
そのときワールドアナウンスが響いた。
《とあるプレイヤーが『聖霊石』を入手しました。これよりヘルプに『聖霊石』についての項目が追加されます。詳しくは追加されたヘルプをご確認ください》
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