68.GW1日目 ~鉱山ダンジョン深部 1 ~

 変装をすませた俺達は教授とともに鉱山ダンジョンを訪れた。


「そう言えば、ドワンって地下30階のショートカット開いてたっけ?」


 ふとした疑問がよぎったので聞いてみる。

 俺とユキは、フェンリル戦前のパワーレベリングで30階を開放していた。

 だが、以前ここを訪れた時は25階までしか開放していなかったはずだ。


「ああ、その件なら心配いらん。少し前に『インデックス』の連中と30階まで行ってきたからのう」

「『インデックス』と?」


 何でまたインデックスなんだ?


「我々も上質な鉱石がほしかったのである。それでドワン君についてきてもらったのである」

「なるほどな。……さて、PTチャットとは言え、あまり名前を出すわけにもいかないし、早いところ鉱山ダンジョンに入るか」

「それがよいのである。早く聖霊石の欠片を採掘に行くのである」


 教授に急かされて俺は鉱山ダンジョンの入口にある転移装置を操作する。

 ……うん、確かに30階が転送可能になってる。


「それじゃ30階まで一気に行くぞ」


 転移装置を起動させて、俺達は鉱山ダンジョン地下30階まで一気に進んだ。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 30階まで降りてきた俺達はシリウスとプロキオンを召喚する。

 まだまだ成長途中の2匹だが、ここで経験値を稼げばそれなりに強くなれるだろう。


 そして、地下30階のボス、ロックゴーレムだが俺と教授の魔法攻撃によってあっさりと倒れた。

 俺自身が強くなったのもあるが、教授の方がレベルが高いので瞬殺になってしまった。


「教授、いつの間にそんなにレベルが高くなったんだ?」


 PTウィンドウで確認できる教授の種族レベルは37。

 俺がまだ25と言うことを考えると、かなり差をつけられていた。


「なに、君達が生産に当てていた時間を冒険に使っていただけである。大したことではない。それよりも、トワ君こそいつまで見習いのままにしておくのであるか?」

「うん?」

「メインジョブの事である。見習い銃士のままであるぞ」


 言われてステータスを確認すると、確かに『見習い銃士』のままだった。

 見習い、つまり0次職から1次職への転職は、ステータスウィンドウを操作することでいつでも可能である。

 これが1次職から2次職への転職となると、それぞれの職業ギルドへ行かなければならないのだが。

 ……そう言えば、ガンナーギルドって俺が発見するまで見つかってなかったんだっけ。

 そうなると、それまではどんなにレベルを上げていても2次職になれなかったわけで……

 うん、やっぱりガンナーって不遇職というか、扱いが微妙だな。


「この先の敵は強い。目的がないのであれば今のうちにジョブチェンジするのである」


 転職か、今、何に転職可能なんだろう。

 そう思い、ウィンドウを操作して転職可能職行一覧を見てみる。


 ◆銃士ガンナー

 ◆魔法銃士マジックガンナー

 ◆短銃士ハンドガンシューター

 ◆狙撃銃士スナイパー

 ◆魔砲銃士マナガンナー

 ◆魔導銃士マギガンナー


 上2つは基本上位職のはずだな。

 他の4つは……各武器の専門職と言ったところか。


 ……しかし、似たような名前が並んでいるな……

 気になるのは、魔法銃士マジックガンナー魔導銃士マギガンナーかな。


 とりあえず気になるジョブは詳細を見てみるか。


 ―――――――――――――――――――――――


 魔法銃士マジックガンナー


 一定以上の魔法を修めたガンナー


 銃を使った物理攻撃だけでなく魔法も多く使える


 職業補正


 HP:1.20

 MP:1.20

 ST:1.10


 DEX×1.10

 INT×1.10


 クリティカル発生時のダメージ上昇・小


 ―――――――――――――――――――――――


 ―――――――――――――――――――――――


 魔導銃士マギガンナー


 魔導銃の扱いに長けた銃士


 魔導銃の特性を利用した戦法を得意とする



 職業補正


 HP:1.10

 MP:1.35

 ST:1.05


 INT×1.20


 魔導銃装備時の魔法攻撃力に補正・小


 ―――――――――――――――――――――――


 他の特化ジョブも似たような感じか。


 これは魔導銃士一択だな。


「うん? トワ君、何を悩んでいるのであるか? ガンナー系統は基本2種の他には特化1種しかないと聞いているが」

「え? 俺には特化4種が表示されてるけど?」

「ふむ? ひょっとすると未発見ジョブかも知れないのである。全ての詳細を渡すのである」

「……まあ、構わないけどさ。ちょっと待って」


 どうやら教授の知識欲に火がついたらしい。

 仕方が無いのでそれぞれの詳細を表示させてSSスクリーンショットを教授に送る。


「……ふむ。トワ君、それぞれの特化職について心当たりはあるかね?」

「ハンドガンシューターを除けばほとんど心当たりはないな。あえて言えば、全て製造したことがあると言ったところか」

「……ふむ。これまで『ハンドガンシューター』の派生条件も謎ではあったのであるが。『作った事がある』となると少々面倒であるな」

「ちなみに『ハンドガンシューター』にジョブチェンジ出来た人間の共通点は?」

「不明である。普通に戦っているうちに、いつの間にか派生先があらわれていたそうである」

「ふーん。それは不明だな。……もしよければ、今度、ガンナーギルドで聞いてみようか?」

住人NPCが派生条件を教えてくれるとは思えないのであるが……念のためお願いするのである」

「あの、教授さん。私、ランサーギルドで派生条件教えてもらえましたよ?」

「なに!? 本当であるか?」

「はい。今の私のジョブなんですが『戦巫女』になってます。なんでも『薙刀系武器で一定の修練値を修め、かつ一定以上の回復魔法が使えること』が条件だそうです。あ、男性の場合は『戦武者』になるそうです。ただ、回復魔法ではなく攻撃魔法いずれか2種になるそうですが」

「なんと……そのような話が聞けるのであるか……」

「はい。ギルドの方も『異邦人は職業について聞きに来ないが大丈夫なのか』と言ってましたよ?」

「……これは帰ったら確認せねばならない案件であるな」

「というか、ユキ、ジョブチェンジしてたんだな」

「うん。トワくんのいないときにランサーギルド行って話を聞いてもらったら教えてくれたよ?」

「ちなみにランサーギルドのランクはいくつなんだ?」

「1だよ。ランサーギルドの依頼、受けたことないし」

「……つまり、ランク1でも適性があれば教えてくれる案件なのであるな」

「そうみたいですよ。あ、私のジョブの詳細情報も送りますか?」

「……お願いするのである」


 どうやら、住人にジョブの種類が聞けるというのは初耳だったらしいな。

 ……俺も聞いたことなかったが。

 確かβの時は住人に1次職のジョブ詳細を聞いても答えてくれなかった記憶がある。

 ユキが言っているのだから間違いはないだろうが、そうなると正式サービスからの変更点だよな。

 教授も知らなかった、という事は試していなかったという訳で……βテスターが変更点に気付かないパターンか。

 βテストからの変更点は教授も一通り目を通しているだろうが、細部までは書かれていないからな。


「教授達も今の情報は初めて知ったんだな?」

「βの時は1次職については教えてくれなかったのである。……正式サービスになってからは確認した覚えがないのであるな……」

「つまり検証漏れと」

「……『インデックスわれわれ』はそこまでガチの検証勢ではないのであるよ」


 まあ、そう言われればそうだったな。

 うーん、俺も転職前に聞きに行くべきだろうか?


「トワ君も転職をまだする気がないのであれば、待った方がいいと思うのである」

「じゃあ、そうさせてもらおうかな。今の攻撃力でも十分に戦えるようだし」

「うむ。それがよいのである。それでは先に進むのである」


 少し長めの休憩となってしまったが、俺達は本来の目的である『聖霊石の欠片』探しに31階へと向かうのだった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「ガゥ!!」


 ここは32階。


 シリウスから魔力が放たれ、それが雷となり敵を襲う。

 シリウスのステータスを見たがどうやら【雷鳴魔術】を覚えたようだ。


 普通のプレイヤーでは炎魔術と嵐魔術が必要となるのだが、神獣に連なる狼のシリウスには関係ないらしい。


 そう言えばプロキオンも自己回復してたよな。

 後でプロキオンのステータスも教えてもらうか。


 はっきりいってしまえば、敵のレベルこそ30台と高かったが、装備が充実している俺達の敵ではなかった。


 俺なら魔導銃でヘッドショットを決めれば一発だし、ユキもプロキオンと合わせて上手く敵を誘導して戦っている。

 敵の種類も30階までの種類と変わっておらず、非常に戦いやすい。


「うーむ。こうしてみると、眷属は強いのであるなあ」

「ここに来てからぐんぐん成長してるからなぁ」


 そう、格上狩りばかりしているせいでシリウスとプロキオンのレベルがドンドン上がっている。

 入った時はシリウスが8、プロキオンが7だったのに対して、今はどちらも15まで育っている。


「まあ、楽できるのはイイコトじゃわい。おかげで採掘もはかどるしのう」


 上位鉱石がたくさん掘れてホクホク顔のドワンに対し、


「だが、聖霊石の欠片はなかなか掘れないのである……まだ、PTで10個しか掘れていないのである」


 教授は少し落ち込んでいた。


 ここまでに掘れた聖霊石の欠片は全員で7つ。

 そのうち3つがユキのものというのが面白い。


「とにかくこればかりは回数を稼ぐしかないんじゃないか? ほら先に行こう」

「うむ、確かに下の階層になればなるほど、たくさん掘れたはずである」

「まあ、とりあえずはこの階をくまなく回って全ての採掘ポイントを掘ってからだな」

「……うむ、試行回数も大事であるからな」


 このようにして俺達はサーチ&デストロイで進みながら採掘を行い、35階のボスまでに合計27個の聖霊石の欠片を手に入れたのだった。

 ……もっとも、27個のうち12個はユキのものだったが。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「さてボスなのであるが、ここのボスはアイアンゴーレムで確定なのである」

「レアボスはいないのか?」

「今のところは確認されていないのである」

「ふーん、まあアイアンゴーレム1体であれば俺と教授、それにシリウスの【雷鳴魔術】で一気に倒せるだろう」

「そうであるな。……料理バフの時間も残っていることだし、行くのである」


 俺達はボス部屋の扉を開けた。

 そこにいたのは……


「なあ、教授。アレはアイアンゴーレムか?」

「……今確認したのである。『ミニアイアンゴーレム』であるな……」

「つまりレアボスか」

「……トワ君達と来ると話題に事欠かないのある。……いや、ユキ君の強運であるかな。今までの傾向を見るに」


 俺達が入った部屋の中にいたのは、身長1.5メートルぐらいのアイアンゴーレム、ミニアイアンゴーレムが5体だった。


 しかも丁寧な事に5体バラバラに散らばっている。

 これでは範囲魔法に巻き込めない。


「……仕方がないのである。敵の脅威度がわからない以上、個人での各個撃破は諦めて戦力を集中させるのである」

「そうだな……ユキ、2体引っ張れるか? それからプロキオンも1体いけるか?」

「私は平気だよ。プロちゃんは……うん、自信がある顔をしてるね」

「じゃあそれで。一番左側の個体はドワンとシリウスで攻撃してくれ、俺と教授が左から2番目を一気に倒す。ユキは右端と右から2番目を。プロキオンが中央をひっぱってくれ」

「おう、まかせろ」

「ガゥ!」

「了解である」

「任せて」

「ワフ」

「それじゃ攻撃開始だ!」


 作戦に従い行動を開始する。


 俺は【奇襲】を成立させるために先手で行動する。


「ライトニングボルト!」


 俺の魔術が炸裂し、ミニアイアンゴーレムが1体消し飛んだ。


「教授、こいつら思った以上にHPが少ないぞ!」

「君のバカ魔力と【奇襲】の合わせ技だと思うのであるが! 私はドワン君達の方に回るのである!」

「じゃあ俺はユキの方に回る!」


 目標が1発で消えてしまったため、俺達はそれぞれ次の目標へと向かう。


 先手をとることは出来たが、それによって全てのゴーレムが稼働を始めてしまったのだ。

 俺はユキが引き受けているミニアイアンゴーレム2体が一直線に並ぶ位置に立ち、


「ライトニングレイ!」


 貫通タイプの雷鳴魔術で攻撃する。

 狙い通り2体ともにヒットし、片方は感電状態になったらしく動きが鈍る。


 動きが鈍っていない方のミニアイアンゴーレムに対して追撃を行う。


「オーシャンバレット!」


 アイアンゴーレムの弱点は雷属性と水属性。

 俺の過剰な魔法攻撃力によって、攻撃を受けたミニアイアンゴーレムのHPがなくなる。


「トワくん、こっちは大丈夫だからプロちゃんを!」

「わかった無理はするなよ! ライトニングウェポン!」


 ユキの武器に雷属性を付与する魔法をかけ、俺はプロキオンの方に移動する。


 プロキオンはさすがにレベル差が厳しいのか、押され気味だが何とか持ちこたえているところだ。


「手伝いに来たぞプロキオン! まずはミドルヒール!」

「ワフゥ」


 減っていたプロキオンのHPが、魔法1回で全回復する。

 ちょっと高性能過ぎやしませんかね、この魔法触媒魔導銃


 プロキオンが受け持っていたミニアイアンゴーレムは、ほとんど無傷であったため俺も魔導銃の2丁拳銃で攻撃する。


 すると、ミニアイアンゴーレムのHPが面白いように削れてくれる。

 どうやら魔法防御自体がそんなに高くない……ってターゲットがこっちに来た!

 ちょっと調子に乗りすぎたらしい。


「ゲイルストーム! からのゲイルアロー!」


 ゲイルストームでノックバックさせてゲイルアローでとどめを刺す。


 これで3体目のミニアイアンゴーレムが倒れた。


「あとは……ってもう終わりか」


 振り返ってみるとドワンとシリウスが向かった相手はすでにいなく、ユキと戦っていた個体もちょうど教授に倒されたところだった。


 戦闘終了したため、一度全員が部屋の中央付近に集まる。


「ボスドロップは……鉄鉱石3つと聖霊石の欠片が2つであるか!」

「わしは鉄鉱石2つに聖霊石の欠片が3つだな。2人はどうなんだ?」

「俺は聖霊石の欠片が4つに鉄鉱石が1つ」

「私もです」

「……相変わらずいい引きをしているのである。それにしてもボスから鉄鉱石だけでなく聖霊石の欠片が落ちるとは幸運である」

「おそらくこの辺の鉱石が集まってできたか、さもなくばこの辺の鉱石を捕食してたんだろ、設定としては」

「うむ。そうであろうな。さて、これで聖霊石の欠片の総数は……40個であるか。あと10個である」

「そうだな、でも今日はそろそろいい時間だぞ?」

「うむ……仕方が無い。今日はこれで諦めるのである。ちなみに諸君は明日の午前中は集まれるかね?」

「そうじゃの。わしはやることがないのでな。大丈夫じゃぞ」

「私はお洗濯しなくちゃいけないので……10時位からなら」

「俺も家事があるからな。ユキと同じぐらいの時間になる」

「それならば、10時頃に『ライブラリ』のクランホームを訪ねるのである。済まないがトワ君、私に『ライブラリ』のクランホームへの転移権限を与えてもらいたいのである」

「クランホームへの転移権限?」

「おや? リリースノートに書いてあったことであるぞ。同盟クラン間で許可があれば、お互いのホームポータルへと転移できるのである」

「そんな細かい所まで覚えてないよ……ちなみに各部屋へのアクセス権は?」

「ホームポータルがある部屋はアクセス権が無視される。それ以外の部屋については通常通りの許可設定に従うのである」

「つまりうちのクランホームの場合、談話室と応接間、会議室ぐらいにしかアクセス出来ないのか」

「おや? 工房部には行けないのかね?」

「一応、クランメンバーのみにアクセス権があるように設定してある」

「……意外と細かく設定してるのであるな」

「柚月が、だがな。で、この場合、アクセス権は『インデックス』全員に与えられるのか?」

「いや、許可された個人にのみ与えられるのである。複数人に与えるには意外と面倒な仕様である」

「わかった。設定は……クランの同盟項目からか……ほい、与えておいたぞ」

「わかったのである。それでは、戻って試してみるのである」

「そうしてくれ、その前に俺達はこの階のショートカットを登録しなきゃな」


 部屋の奥にある操作端末を操作して、この階へのショートカットを開通させる。


「それでは、地上部へと戻るのである」

「ああ、その必要はないよ。コレがあるからね」

「……またGM権限アイテムであるか……まあ、いいのである。戻るのである」

「はいよ。皆、戻るぞ」


 俺は転移用アイテムを起動させ、クランホームへと転移した。


 今日の夜はこれでお開きとなり解散となった。


 なお、クランホームへの転移権限があると相手のホームにあるホームポータルも使えるらしく、『ライブラリ』に置いてあるホームポータルから教授は自分のクランホームへと帰っていった。

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