66.GW1日目 ~聖霊石の欠片~

「教授、これは?」

「『聖霊石の欠片』というアイテムである」


 目の前にあるのは『欠片』の名にふさわしいモノ。

 元の形はわからないが、何らかの形をしていたのだろう。


「で、これを見せた理由は?」

「うむ、これが錬金素材らしいのだよ」


 これが錬金素材ねぇ。

 砕いて溶かし込んだりするんだろうか。


「でも、それなら『インデックス』のお抱え錬金術士に見せればよかったのでは?」

「それはすでに試したのである。結果は、なにもわからなかったのであるが」


 『インデックス』お抱えの錬金術士ってそれなりにレベル高かった気がするが……


「ちなみにその人のスキルレベルは聞いても?」

「構わないのである。先日のアップデートで初級錬金術の22になったのである」

「あれ、意外と低い?」

「むしろ君が高いのであるな」


 そうなのかな?

 比較対象が今までいなかったから、よくわからないな。


「それで、君のスキルレベルはいかほどかね?」

「ちょっと待って……初級錬金術MAXでOver2だな」

「ふむ、さすがであるな」

「ちなみに、どうやってこれが錬金術の素材だとわかったのか聞いても?」

「構わないのである。私のスキル【考古学鑑定】の結果である」


 教授のサブジョブは『考古学者』系統。

 趣味系に分類されるジョブだが、いくつかの特殊スキルが使える。

 その1つが【考古学鑑定】だったはずだ。

 効果は確か……


「旧時代の遺物などの鑑定が出来るスキルだったっけ?」

「その通りである。その鑑定結果で錬金素材に用いられると判明したのである」

「といわれても、それだけの情報じゃなぁ」

「『インデックスうち』の錬金術士に聞くと、『詳細を知るには知識が足りない』と出るそうである」

「ふむ……鑑定がはじかれてるのか?」


 このゲームでは、全てのプレイヤーが鑑定スキルを持っている事になっている。

 ただし、アイテムの中には特定の条件を満たさないと鑑定できないものもある。

 は、そんなアイテムの1つなのだろう。


「とりあえずトワ君の方が錬金術のレベルが高いのである。鑑定をお願いするのである」

「わかったよ。とりあえずやってみよう」


 教授の手から、欠片を受け取り鑑定する。

 結果はこうだった。


 ―――――――――――――――――――――――


 聖霊石の欠片 ★?


 聖霊石の欠片


 詳細を知るには知識が足りない


 譲渡不能


 ―――――――――――――――――――――――


「……だめだ、俺の方でも鑑定結果は一緒だ」

「ううむ……そうだ、トワ君はスキルランクを上げないのかね?」

「え?」

「すでに初級錬金術はMAXなのだろう。ならば今この場でスキルランクを上げてもう一度鑑定してみるのである!」

「ああ、確かに。そういえば上げるの忘れてたなぁ」


 色々あったから、そんな事頭からすっぱり消えてた。

 教授も待っていることだしスキルランクを上げるか。


 俺はMAXになっている生産系スキルのランク上げをすることにした。

 MAXになっているスキル3つ。

【初級錬金術】【初級調合術】【生産】だ。

 このうち、【初級錬金術】と【初級調合術】のランクアップにはそれぞれSP15が、そして【生産】のランクアップにはSP20が必要になる。


 1度目のランクアップなら少ないSPで済むのだが、2度目のランクアップからは相応のSPが要求される。

 この仕様があるため、SPを使ってスキルを覚えるのが非推奨とされるのだ。

 サブでもメインでも、ジョブレベルが1上がる度にSP2が手に入るといっても、2度以降のランクアップ時には相当SPを使うため、いろいろな分野に手を伸ばしているとすぐにSPが枯渇してしまうのだ。

 まあ、これには抜け道もあるのだが……あまり使いたくはないからな……


 ともかく、合計SP50を支払いそれぞれをランクアップさせる。

 結果のステータスはこうなった。


 ―――――――――――――――――――――――


 名前:トワ 種族:狐獣人 種族Lv.25

 職業:メイン:見習い銃士Lv.20 MAX Over5

    サブ:初級錬金術士Lv.20 MAX Over4

 HP:130/130 MP:192/192 ST:134/134

 STR:10 VIT:20 DEX:39

 AGI:24 INT:47 MND:28

 BP: 0 SP:15

 スキル

 戦闘:

【銃Lv30 MAX Over8】【格闘Lv30 MAX】【体術Lv3】

 魔法:

【炎魔術Lv8】【海魔術Lv10】【嵐魔術Lv9】【雷鳴魔術Lv9】【氷雪魔術Lv8】

【神聖魔術Lv9】【魔導の真理Lv12】

 生産:

【中級錬金術Lv3】【中級調合術Lv1】【料理Lv24】【生産ⅡLv13】

【道具作成Lv1】【家具作成Lv1】【魔石強化Lv12】

 その他:

【気配察知Lv35】【魔力感知Lv35】【夜目Lv32】【隠蔽Lv35】

【看破Lv35】【罠発見Lv32】【罠解除Lv32】【罠作成Lv1】

【奇襲Lv39】【隠密Lv40】【採取Lv26】【伐採Lv16】

【採掘Lv35】【言語学Lv13】【集中Lv26】

 特殊

【AGI上昇効果・中】【INT上昇効果・中】【風属性効果上昇・中】

【風属性耐性・中】【二刀流】【眷属召喚】【魔石鑑定】

 眷属

【神狼・フェンリル(幼体)Lv8】

 称号

【初心者講習免許皆伝】【風精霊の祝福】【かつての英雄に連なる者】

【初級錬金術士】【初級調合士】【魔導を求める者】

【眷属を従える者】【神狼に打ち勝ちし者】【神狼の導き手】


 ―――――――――――――――――――――――


 65もあったSPが一気に15まで減ってしまった。


 まあ、SPを使うのは仕様だから仕方が無いし、また貯めればいい。


「ランクアップは終わったかね? ならば再鑑定を頼むのである」

「わかった、ちょっと待って……」


 再び聖霊石の欠片を鑑定すると、


 ―――――――――――――――――――――――


 聖霊石の欠片 ★?


 聖霊石の欠片


 かつて膨大な魔力を秘めていた

 聖霊石だったものの欠片


 錬金術によってかつての姿を取り戻せる


 譲渡不能


 ―――――――――――――――――――――――


 詳細が表示されたな。


 SSスクリーンショットを撮り、それを教授に見せる。


「ふむ、やはり錬金術のレベルが足りなかったのであるか」

「なんだ、予測はついてたのか」

「うむ。これが考古学鑑定の結果であるからな」


 今度は教授が鑑定結果のSSスクリーンショットを見せてくれる。


 ―――――――――――――――――――――――


 聖霊石の欠片 ★?


 聖霊石の欠片


 古代文明の遺物


 錬金術の素材となる


 譲渡不能


 ―――――――――――――――――――――――


 なるほど。

 錬金術素材だということだけしかわからないのか。


「困った事はこれが譲渡不能な点である。譲渡可能であればトワ君に色々調査を依頼できるのだが……」

「んー、それなら俺と一緒に行ってみるか? 錬金術ギルドに」

「ふむ。それしかないか。では、頼むのである」

「ん。それじゃあPT組むぞ」

「了解である」


 教授とPTを組んだことを確認し、俺は懐から1つのアイテムを取り出した。


「それは何であるか?」

「さっき話したろ。運営から借りているアイテムだよ」


 ポータル転移用アイテムをその場で使用した。


 すると目の前の景色がいきなり変わり、第4の街の転移門前に俺達2人は立っていた。


「……これがGM用アイテムであるか。いやはや、いきなり景色が変わるので驚いたのである」

「俺も初めて使ったときはそうだった。よかったよPTメンバーも一緒に転移できて」

「……試してなかったのであるか?」

「ああ。1人で使ったことはあるけどPTではないな」


 そもそも『ライブラリうち』のメンバーは全員貸し出されているのだ。

 俺達がわざわざPTを組んで試す理由はない。

 今日はまだ、ユキもログインしてきていないし、ソロで行動していたのだ。


「もしPTメンバーは転送されなかったらどうするつもりだったのであるか?」

「普通に転移門……いや、『インデックス』にもホームポータルぐらいあるだろ。そっちから来てもらう予定だった」

「……それならば、普通にホームポータルから飛べばよかろうに……」

「めんどくさかったからな。それに問題があるなら警告が来るだろうし。なにも言ってこないって事は問題ないんだよ、多分」

「やれやれ……とにかく錬金術ギルドに行くのである」


 そう言って教授は錬金術ギルドに向けて歩き出した。

 さあ、置いて行かれないうちに俺も行かなきゃな。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 教授とともに錬金術ギルドを訪れた俺は、『擬装の腕輪』を外す。


「おや、変装はもういいのかね?」

「ギルド内なら大丈夫だろ? それに住人がどういう反応をするかわからないからな」

「それもそうであるな。では行くのである」


 受付に向かって歩みを進める教授。

 俺もそれに続く。

 そしていつものメシアさんの受付にたどり着いた。


「いらっしゃいませトワ様。本日はどういったご用件でしょうか? まだ上級錬金セットは届いておりませんが……」

「ああ、その件じゃないんだ。実は……」

「これを見てもらいたいのである」


 俺の言葉にかぶせるように教授が『聖霊石の欠片』を受付に置く。


「これが錬金素材だと言うことは調べてもらったのである。詳細を知らないかね?」

「これは……少々お待ちを。ギルドマスターに確認をとって参ります」


 そう言い残してメシアさんは奥へと向かう。

 ああ、またギルドマスター案件か……


「……どうしたのであるか? 疲れた顔をして」

「いやさ、最近ここのギルマスによく会うなと思って」

「ふむ、錬金術士ならばよいことなのでは?」

「ギルマス案件を大量に持ち込むことが問題なんだよ」


 そんな話をしているとメシアさんが戻ってきた。


「ギルドマスターがお会いになられるとのことです。こちらへどうぞ」


 俺は教授を伴って歩きなれつつある廊下を歩く。

 そして、いつものドアからギルドマスターの部屋へと入った。


「やれやれ、君も忙しい人だね、トワ君。今度は『聖霊石の欠片』か」

「ええ、ただ、今日の主役は俺じゃなくてこちらの教授ですがね」

「紹介にあずかった教授である。よろしく頼むのであるギルドマスター殿」

「ああ、よろしく頼む。それで『聖霊石の欠片』の何が知りたいのかね?」

「知れることであれば全て知りたいのであるが……」

「ふむ……トワ君はすでに中級錬金術士の資格を得ているのだが……」


 うん、これはフラグ管理が足りてないのかな?


「つまり中級錬金術士じゃないと明かせない内容だと?」

「話が早くて助かるよ。君が中級錬金術士になってもらえれば問題ない」

「……それって特化型の錬金術士でも問題ないですか?」

「ああ、構わない。専門分野が分かれるとはいえ、中級錬金術士には変わりないのだからね」

「それなら、俺は【錬金薬師】の道を選びますよ」

「ほう、てっきり魔法錬金術士かと思っていたが……まあ、そう決めたのならよかろう。少し待ってくれ、今証書を用意させる」


 そうして俺は錬金薬師になるための手続きを行う。

 手続きと言っても誓約書のようなものに署名するというだけのものだが。


「……うむ。これで君も晴れて晴れて錬金薬師だ。おめでとう」


〈チェインクエスト『中級錬金術士への道』をクリアしました〉

〈称号『中級錬金術士』を入手しました 称号『初級錬金術士』は上書きされます〉

〈称号『中級調合士』を入手しました 称号『初級調合士』は上書きされます〉


「本来であれば、それぞれの道に合わせた先達を紹介するのだが……今はこちらの件が先決か」

「うむ、早く続きを教えてもらいたいのである」

「そう焦るでない。まず『聖霊石の欠片』は、その名の通り『聖霊石』の欠片だ。これを集めることで『聖霊石』へと復元できる」

「ふむ、してその方法は? 集めて合成すればよいのかね?」

「合成と言えば合成だが……方法を教える代わりに1つお願い事を聞いてもらえるかな?」

「うむ。出来ることであれば聞こう」

「ならば話は早いな。頼みというのは、この『聖霊石の欠片』を集めてきてほしいのだ。大量にな」


〈クエスト『聖霊石復元』を受注しました〉


 クエストか、これをクリアしないとダメなんだな。


 ―――――――――――――――――――――――


 クエスト『聖霊石復元』


 クエスト目標:

  『聖霊石の欠片』を集める  3/50

  錬金術ギルドに集めた『聖霊石の欠片』を提出する

 クエスト報酬:

  スキルブック『聖霊石合成』×6

  

 ―――――――――――――――――――――――


 ……要求数が50個か、多いな。

 スキルブックが6つと言う事は、PT向けのクエストだな。

 そして、今の所持数が3個って事は教授はすでに3個持っているのか。


「我々としても聖霊石の調査を行いたいのだ。どうかよろしく頼むぞ」

「わかったのである。すぐに用意してみせよう」


 それだけ告げると足早に教授は部屋を出て行った。


「せっかちな御仁だ。……まあ、『聖霊石の欠片』を持っていたのだ。場所は知っているだろう」

「あー……ちなみに、どこで手に入るのですかね?」

「ふむ、君は聞いていないのか。ならば教えよう。鉱山ダンジョンの深部、31階以降で採掘されるぞ。数は多くはないがな」

「ありがとうございます。それでは俺もこれで」

「うむ。精進したまえよ」


 俺もギルドマスターの部屋を後にした。


 教授は受付のところで待っていたようだ。


「遅かったのであるな。さあ、早速『聖霊石の欠片』を発掘に行くのである」

「まあ、まて、教授。場所が鉱山ダンジョンの深部だろ。せめて装備を調えさせてくれ」

「ふむ……それもそうであるな。では一度『ライブラリ』に寄っていくのである」

「わかった。それじゃあ転移するからちょっと待って」


 こうして俺と教授は一路、『ライブラリ』のクランホームへと転移するのだった。

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