53.錬金術ギルドと眷属の情報

 皆と別れた俺は、一路錬金術ギルドへ向かって歩いていた。

 ……この街でもネコ探しをしている人が結構いるな。


 他にも、ガーゴイルを探しているのか、石像を調べてまわる人の姿も見受けられる。


 教授曰く「眷属スレで組まれた捜索隊である」そうだが、なかなかの執念だと思うよ。

 あてどなく目的のものを探すというのは、それなりに精神的にくるものなのだから。


 そんなネコと石像を探す人々が行き交う中、俺は目的地『錬金術ギルド』へ到着した。


 生産職関係のギルドは第4の街以降じゃないと存在しない。

 柚月やドワンが『裁縫ギルド』や『鍛冶ギルド』に行こうと考えていたのはそのためだ。


 錬金術ギルドはガンナーギルドとは比べものにならないくらい、立派な建物をしている。

 比べるのがほぼ民家のガンナーギルドとではあまり参考にならないが。


 さて、あまり遅くなるわけにもいかないから、早いところ錬金術ギルドでガンナーギルドの場所を確認しようか。



「いらっしゃいませ。錬金術ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 錬金術ギルドを入ったところで横手から声をかけられる。

 受付嬢ではなく案内嬢といったところだろうか。


「ええと、ガンナーギルドの場所を確認したいのですが……」

「ガンナーギルドの場所ですか? ……今、担当の者を呼んで参りますので少々お待ちください」


 それだけ言い残し、案内嬢は受付の奥へと消えていった。

 手持ちぶさたなので周囲を見渡してみたが、特に面白いものがあるわけでもなかった。

 ……そうそう面白いものがギルドの中に転がっていても困るが。


「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」


 いつの間にか戻ってきていた案内嬢に案内されてギルドの奥へと立ち入る。

 連れてこられたのは、明らかに周りよりも豪華な扉がある部屋だった。


 案内嬢は目の前のドアをノックして入場の許可をとっている。


「ギルドマスターお客様を案内いたしました」

「うむ、入ってもらえ」

「それではこちらへどうぞ」


 案内されるまま目の前の部屋へと立ち入る。


「ようこそ錬金術ギルドへ。私が当ギルドマスターラクウェルだ」

「異邦人のトワです」

「まあ立ち話もなんだ。そちらに座りたまえ」


 促されるままにソファへと腰掛ける。

 ……『ライブラリうち』のソファなんかよりもずっと上等なソファだなぁ。


「それで、ガンナーギルドの場所が聞きたいそうだが、どういった用件かね?」

「第2の街のガンナーギルドから紹介状をもらってきました。場所は錬金術ギルドこちらで聞けと言われて訪ねました」

「紹介状か……見せてもらっても構わないかね?」


 俺はインベントリより紹介状を取り出してギルドマスターのラクウェルに渡した。

 ラクウェルは裏面の封蝋ふうろうを確認して、すぐに俺に返してきた。


「確かに第2の街のガンナーギルドマスター、メリッサの紹介状だな」

「……わざわざ確認したい意味はなんでしょう?」

「……君は銃が錬金術で作られているのはもう知っているのだろう? 錬金術ギルドわれわれとガンナーギルドは提携関係にあるのでね。確認させてもらう事にしているのだよ」

「それではガンナーギルドの場所は教えていただけるのでしょうか?」

「うむ、メリッサの紹介であれば問題ないだろう。……それから君は錬金術士でもあるようだね。我々のギルドにも登録していきたまえ。異邦人であるのなら登録作業はすぐに済むからな」

「わかりました。それではそうします」


 今日登録する必要はないのだが、勧められているのなら断らずに登録してしまった方がいいだろう。


「うむ。では、まずは当ギルドの受付によって登録をしていきたまえ。その後、案内する人をつけよう」


 そうして俺は退出し、錬金術ギルドの受付へと向かう。


「……はい、それでは錬金術ギルドへの登録を行いました。これからよろしくお願いします」


 受付では特に問題もなく、すんなりとギルド登録が済んだ。

 だが、1つ気になる事が。


「ギルドランクが8になってますが、これは?」

「トワ様のこれまでの生産ギルドでの活動記録から、当ギルドでのランクを算出いたしました。我々といたしましても、才能のある錬金術士を低ランクから始めさせる意味はありません。なので妥当なランクからのスタートとなります」


 ギルドランクが高いところから始まる分には不利益はないし、まあいいか。


「それではガンナーギルドまで、私、メシアが案内させていただきます。よろしくおねがいします」

「こちらこそよろしく……早速ですが案内をお願いできますか? 少々急いでいますので」

「かしこまりました。それではガンナーギルドまで向かいましょう」


 彼女は受付から出て出入り口へと向かう。

 俺も彼女を追いかけるように出入り口へと向かい、一緒に錬金術ギルドを後にした。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「最近、異邦人の皆様が街のいろいろな場所を何かを探して歩いていますが、何かあったのでしょうか」


 ガンナーギルドへと向かう道の途中でメシアさんからそんな事を尋ねられた。


「んー……ネコと石像を調べてまわっているらしいですよ?」


 隠したところで意味はないので知っていることを正直に答える。


「ネコに石像ですか? ……そのようなものをなぜ探しているのでしょう?」

「えーと……ネコと石像からケットシーとガーゴイルを探している、らしいですよ?」


 微妙な回答をしなければならないことに、自分も微妙な気分になってしまう。


「ケットシーにガーゴイルですか……なぜ、それらを探すのにネコと石像を探しているのでしょう?」

「さあ? 俺もよくわからないですね……」


 実際、その行動力は認めるが、努力の方向音痴になっている気しかしない。


「ケットシーでしたら、王都の図書館に行けば伝承ぐらいは残っていたはずですし、ガーゴイルの製法は王都の錬金術ギルドの秘奥として伝わっているはずですが……」

「え?」


 思いもしなかったところからいきなり情報が出てきたため、思わず聞き返す。

 そのとき同時に動画保存も開始した。


「ケットシーについては、王都の図書館に伝承が残っているはずです。そちらからでしたら、その存在も追えるのではないでしょうか。それからガーゴイルについては、王都の錬金術ギルドにて秘奥としてその製造方法が伝わっているはずです。……もちろん秘奥ですので誰にでも明かせるものではありませんが」

「それって俺が聞いてもいいものなんですか?」

「トワ様のランクでしたら、王都のギルドにおもむいていただければ話は聞いていただけると思います。錬金術ギルド会員の方以外ですと……別のギルドからの紹介状をいただかないといけませんが」


 おおう、思った以上に情報が出てくるよ。

 ついでだからユニコーンについても聞いてみるか。


「ちなみにユニコーンについて何か知りませんか?」

「ユニコーンについても、王都の図書館で調べれば多少の情報はわかると思います。ただ、ユニコーンの情報については秘匿扱いになっている可能性がありますので、どこかのギルドの紹介を得ないと見せていただけないと思いますが」


 つまり、どこかのギルドランクを上げて信用を得てから調べろと。

 かなり重要な情報だけど、こんな簡単に聞けてしまっていいのだろうか。


「あと、幻獣や神獣のつながりで言いますと、第2の街へと向かう途中の森の中に、大きな狼が訪れると言う湖がありますね」


 ……これはフェンリルの情報だな。


「そんな気軽に教えてくれていますが、いいんですか?」

「ガーゴイルの製法以外の事は、この街では誰でも知っているような有名な話ですよ。子供でもおとぎ話としてケットシーやユニコーンの話を聞いて育ちますし。これは王都の方から昔に伝わった話ですけどね」


 つまりこの街か王都で住人NPCと話をすれば、簡単に手に入るような内容だったという訳か。

 ……また掲示板がお祭り騒ぎになるんだろうなぁ。


 俺は動画保存を完了させて、撮影した動画を保存する。

 そしてメール作成を選択して教授へのメールを作成する。


『眷属絡みの情報を得た。動画を添付して送るから、動画から情報を引き出して掲示板に報告するなり、情報を販売するなり決めてくれ。あと、ソースとして動画をアップロードしてもいいけど俺からの情報だとわからないように加工してくれ。途中で俺の名前が出ていたはずだから。追伸、この情報は第4の街や王都でなら割と簡単に手に入るらしいぞ』


 メールの準備ができたので保存した動画を添付して送信。


「トワ様も興味があるのでしたら、王都におもむかれた際には錬金術ギルドをお訪ねください。おそらく悪いようにはならないと思います」

「ああ、機会があったら訪れてみますよ」


 思わぬところで、思わぬ情報を得る事になってしまったが、そのまま俺達はガンナーギルドへと向かっていった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「こちらがガンナーギルドになります」


 そこは第2の街ガンナーギルドにも似た、町外れの大きめの民家のような場所だった。

 第2の街と違う場所があるとすれば、ギルドエンブレムらしき看板が掲げられている事ぐらいだ。


「……見た目が民家なのは、元々が民家を改修して使っているためです」

「ああ、やっぱり。元々は民家なんですね……」

「はい。ここで話をしていても意味はありませんので入りましょう」


 そう告げてメシアさんはガンナーギルドの中へと入って行ってしまう。

 俺もそれに続いてガンナーギルドの中へと入っていくことにする。


「アメリア、いますか? お客様ですよ」


 誰もいない受付の奥に向けてメシアさんが呼びかける。


「はーい、ちょっと待ってね」


 カウンターの奥の方から返事が返ってくる。

 少しするとカウンターの奥から1人の女性が姿を現した。


「メシアじゃない。お客さんっていうことは錬金術ギルドの人かしら?」

「トワ様は錬金術ギルドの会員でもありますが、今日は別件でこちらを訪ねたのですよ」

「そうなの? たまっている仕事ができる錬金術士が来てくれたのかと思ったのに……ああ、私はガンナーギルドの受付嬢アメリアよ、よろしくね」

「異邦人のトワです、よろしく」


 簡単に挨拶を交わす。


「それでは私はこれで錬金術ギルドへと戻らせていただきます。錬金術ギルドにご用の際はまたお立ち寄りください」

「ああ、ありがとう。メシアさん、色々助かったよ」

「? よくわかりませんがお役に立てたのでしたら何よりです。それでは失礼いたします」


 それだけ告げるとメシアさんは立ち去っていった。


「それで、トワさんはガンナーギルドにどのようなご用件で?」

「ああ、その前に。アメリアさんってここのギルドマスターじゃないですか?」

「……誰からその情報を?」


 やっぱりそうなのか。

 他に人がいないからそうかなと思ったんだ。


「第2の街のメリッサさんが似たような立場だったのでそれで」

「……メリッサの知り合いだったのね。そうよ、私はここのギルドマスターよ」

「なるほど、メリッサさんから紹介状を預かっていますので確認をお願いします」


 アメリアさんに紹介状を渡すと、紹介状の宛名を見てから中を開いて内容を確認する。


「……話はわかったわ。ただ、魔砲銃の作成に詳しいのは私達の父なのよ。今はここにはいないわ」


 紹介状の中身から用件を確認したアメリアさんはそんな答えを返す。

 今度はアメリアさんの父親を訪ねないといけないのかな?


「父は今はこの街に住んでいないのよ。人里離れた森の中に住んでるような変わり者よ」


 どうやらそういうことらしい。


「紹介していただけるならこちらから訪ねますよ」

「そう? 悪いわね。……父はこの地図の場所に住んでるわ。このメダルを見せれば話は通じるはずよ」


 アメリアさんから、地図とガンナーギルドのエンブレムが彫られたメダルを受け取る。


「ところで、あなた錬金術士なのよね? 1つお願いしたいことがあるんだけど、時間はあるかしら?」


 なにやらここでもクエストがあるみたいだ。

 だが……


「すみませんが今日はもう時間がないですね」


 そう、いい加減に戻って落ちないといけない時間だった。


「そう、わかったわ。それじゃあ、今度時間があるときにまた来てもらえるかしら。頼みたい仕事があるのよ」

「……銃の製造ですか?」

「あら、わかっているなら話は早いわ。普通の銃とも魔砲銃とも違う銃の製造をお願いしたいのよね。なかなか錬金術士の都合がつかなくて仕事が滞っているのよね」

「わかりました。時間があるときにまた来ます」

「そうしてもらえると助かるわ。それじゃ、よろしくね」


 また来ることをアメリアさんと約束した後、俺は転移門に向かいクランホームへと戻った。


 ―――――――――――――――――――――――


 チェインクエスト『至高の魔弾を求めて』


 クエスト目標:

  第2の街のガンナーギルドにて紹介状を受け取る

  第4の街のガンナーギルドで紹介状を『アメリア』に渡す

  とある場所にいるガンナーに会い、その教えを受ける

  ???

 クエスト報酬:

  ???


 ―――――――――――――――――――――――


 ――――――――――――――――――――――――――――――



 クランホームに戻るとそこにはユキが待っていた。


「おかえり、トワくん」

「ただいま。やっぱり残ってたのか」

「うん、料理しながらだけどね」


 ポーン


 メールの着信音が聞こえたんでメールを確認してみると教授から返信が届いていた。


『メールの件、確認したのである。インデックスでも王都と第4の街で聞き込みをしてみて証拠を集めてから掲示板に報告するのである。動画についてはアップロードしないのである』


「どうしたの?」

「うん? 教授からメールの返信が届いたからさ。それを見てた」

「そろそろ休まないとダメだよ、トワくん」

「わかってるって。今日はもう落ちるよ」

「うん。それじゃあ私も落ちるね。おやすみなさい、トワくん」

「ああ、おやすみだ、ユキ」


 こうして俺達はそれぞれログアウトしていった。

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