52.【第4の街】へ

 魔砲銃を手に入れて、性能調査を行った翌日。

 俺は食事やお風呂など寝る支度をしてから夜10時頃にログインする。

 今日は宿題の量が多かったため、普段より少し遅いこの時間になってしまった。


 とりあえず、今日はガンナーギルドへ行くところから始めよう。


「あ、いらっしゃい。紹介状ならできてますよ」

「ありがとうございます」


 紹介状を受け取りインベントリにしまい込む。


「それでは、その紹介状を第4の街のガンナーギルドにいる『アメリア』にお渡しください。それで話は通ります」

「わかりました」


【第4の街】か……まだ行ったことがないんだよな。

 この機会だし、皆で目指してみるのも悪くないな。


「それで、拳銃の製造はどうなさいますか?」

「せっかく来たんで受けときますよ。……そういえば、他に拳銃製造を受けられる人ってまだあらわれないんですか?」

「うーん、何人かは拳銃のレシピが手に入るところまでは進んでいるんですけどね。……ガンナーで錬金術士とつながりがある人って少ないみたいでしてね……」

「そういえば、拳銃製造依頼ってここでやらなければいけないんですよね?」

「はい、そうなりますね。なので普通のガンナーが受けたい場合、錬金術士の方と同行してきてもらう必要があるんですよ。……それも依頼が受領されない理由ですかねぇ……最近はガンナーギルドここを訪れてくれる人も結構増えてきたのですが」

「それなら、受けられる人が少ないも納得ですね。……ちなみに、ガンナーギルドだけやたらと規模が小さかったり、人に知られてないのって何か理由があるんですか?」

「知られてない理由ですか? そうですね、理由は色々とある気はしますが何より大きな理由はガンナーギルドの歴史がまだまだ浅いと言う事じゃないでしょうか。そもそも銃という武器が完成したのも、今から30年ぐらい昔の話ですから。ギルドとして成立したのなんて、ここ数年の話ですからね。街の中心部とかにはギルドをおけなかったわけですよ、金銭的にも場所的にも」


 なるほど、歴史が浅い、そんな設定があったのか。

 それは、探すのが大変なのもよくわかる。


「ああ、そうそう。第4の街でガンナーギルドを探される時は、錬金術ギルドの方を訪ねてください。錬金術ギルドでしたらガンナーギルドの場所も知っているはずですので」

「わかりました」

「それでは、今日の分の拳銃製造をお願いしますね。奥にどうぞ」


 そして、いつもの作業場に案内された俺は、いつもの拳銃製造クエストをこなしたあとクランホームへと戻るのであった。


 ―――――――――――――――――――――――


 チェインクエスト『至高の魔弾を求めて』


 クエスト目標:

  第2の街のガンナーギルドにて紹介状を受け取る

  第4の街のガンナーギルドで紹介状を『アメリア』に渡す

  ???

 クエスト報酬:

  ???


 ―――――――――――――――――――――――



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 クランホームに戻ると、ちょうど全員ログインしている状態だったため招集をかける。


「それで、トワ、どうしたの? 急に全員を集めて」

「ああ、俺の都合で【第4の街】に行かなきゃいけないことになってな。ついでだから全員で行こうかなと思って」

「行くのは構わないけど、私達まだ適正レベルには達していないわよ? 第3の街に行ったときみたいにどこかに護衛を頼むの?」

「いや、今回は護衛はなしで俺達だけで行こうと思って。今の俺とユキならタイガーベア程度なら余裕で勝てると思うんだ。さすがにフェンリルより強いって事はないだろうからね」


 タイガーベアとは第4エリアのエリアボスだ。

 第4の街に到達するためにはこいつを倒さなければならない。

 普通ならばレベル30~35が適性レベル扱いされているが、同レベル帯のフェンリルに勝った俺とユキなら手こずる事はないだろう。


「なるほどね……ユキはそこのところどうなの?」

「はい、さすがにフェンリルよりは弱いと思うので、私もいけると思います」

「ふうん、2人とも自信があるって言う事ね。そういうことなら便乗させてもらおうかしら」

「わしも行かせてもらうぞ」

「ボクもー」

「じゃあ、全員で行くって事でいいな。準備は必要か?」

「うーん、私は特に必要ないわね。装備も整っているしポーション類も十分に持ってるわ」

「わしも特に必要はないな」

「ボクも大丈夫だよー」

「私も大丈夫です」

「俺も問題ないし、早速出発しようか」


 こうして俺達は第4の街を目指すこととなった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「そういえば柚月、レポートの方は大丈夫なのか?」


 歩きで2時間程度の道程みちのりの途中、気になっていたことを聞いてみる。


「そうね、提出までの目処は立ったし、今日一日ぐらいなら遊んでても平気よ。だからこうしてここにいるんだけどね」

「まあ、それもそうか……それに明日の今の時間帯はメンテ中でどうせログインできないか」

「そういうこと。一次提出の期限が金曜日だから、今日一日潰しても明日には十分に取り返せるわ」

「あの、レポートとかそういうのは先に済ませてしまった方がいいと思うんですが……」

「ユキは真面目ねぇ……心配しなくてもレポート作成はもうほぼ終わってるわ。あとは見直しをして提出するだけ。だからそれだけなら、明日に回しても問題ないの」

「そうでしたか。余計な口を挟んでしまってすみません」

「気にしなくていいのよ。私達だって現実リアルを犠牲にしてゲームするつもりはないんだから」


 会話を楽しみながら歩いていると、タイガーベアのいるボスエリア前までたどり着いた。


 今回ボスに挑むPTメンバーは俺達5人にシリウスを加えた6人PTとなっている。

 プロキオンは召喚していない。

 最大PT人数が6人であることと、まだまだタンクをするには体力が足りていないためだ。


 食事バフをつけるため、各自で食事をとり最終確認を行う。


「さて、これからボス戦な訳だが、皆問題はないな?」

「もちろんよ。と言うか、ここまで来る間に消耗する要素なんてなかったでしょ」

「そうじゃの。トワよ、さすがに生産職としては強くなりすぎではないかの?」

「そうだねー。近づいてくる敵が全部一撃で吹き飛ぶのはねー」

「移動目的なのに、わざわざ真面目に相手をするのもおかしいだろ。さあ、行くとしますか」

「うん、がんばろう」



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 ボスエリアに侵入すると、左手側の森の中から虎柄の熊が飛び出してきた。

 こいつがここのエリアボス、タイガーベアだ。


「いつ聞いてもタイガーなのかベアクマなのかわからない名前だよな」

「はいはい。余裕があるのはわかっているけど、もうこちらをロックオンしてるわ。くるわよ」

「了解、それじゃ始めますか。ライトニングバインド!」


「グルァ!?」


 予想通り効果を発揮するライトニングバインド。


 フェンリル戦の動画が公開された後、検証好きな魔術士の面々が各地のエリアボス相手にバインド系魔法が通用するのか試して歩いたのだ。

 そしてそこで検証された結果、『十分に高い魔法攻撃力があればボス相手でもバインドは効果を発揮する』と言う事だった。


 実際、その実例が今目の前で行われているのだから疑いようもない。


「さあ、今のうちにたたきのめすぞ」

「オン!」

「はあ、わかってはいたけど、本当に楽な戦闘になりそうね」

「戦闘にスリルや興奮を求めているわけじゃないんだし、これでいいだろ。ライトニングボルト!」

「まあ、そうなんだけどね! フレイムアロー!」


 結局、この戦闘はバインドがとけたところにさらにバインドを重ねるという方法でタイガーベアを封殺し、3分経たず終了してしまった。

 やっぱりフェンリルを強引に倒しきれるほどの火力があれば、タイガーベア程度では話にならなかったか。


 ドロップは……タイガーベアの毛皮ね。

 この辺の素材は市場にありふれているし、柚月にでも後で渡そう。


 それじゃあ先を急ぐとしますか。


〈エリアボス『タイガーベア』を初めて撃破しました。ボーナスSP6ポイントが与えられます〉


 ――――――――――――――――――――――――――――――



【第4の街】、そこは第2の街よりも高く厚い防壁に囲まれた都市だ。

 正式な名称を『フィーアパンジ』と言い、『領都』とも呼ばれるこの地方の要となる都市らしい。


 ……ちなみに始まりの街や第2の街、第3の街にも正式名称は存在している。

 ただ、プレイヤーにとっては『始まりの街』や『第2の街』の方が通りがよかったため、一般的には『第~の街』という名前が定着している。

 住人NPCですら『第~の街』と言うのだから、正式名称を知っているプレイヤーなどほんのわずかだろう。


 俺が正式名称を知っているのも『インデックス』のメンバーと雑談をしていたとき、豆知識として教えてもらったからである。


「へぇ、話には聞いていたけど立派な城壁ね」

「うむ、だが、王都の城壁はもっと立派らしいからのう」

「そんな事より早く街に入ろうよー。ボク眠くなってきた」

「もういい時間だしな。早いところ用を済ませてしまうか」


 イリスが眠気を催してきたみたいなので西門から街に入り、中心部にある転移門を目指す。

 この街の広さは第2の街よりも少し狭い程度なのですぐに転移門までたどり着く。


 転移門にたどり着いた後、イリスはすぐにクランホームへと転移して帰っていった。


「さて、俺達はどうしようか」

「まずは基本通りに動きましょう。具体的には冒険者ギルドと生産ギルドに顔を出して、出張販売所の品揃えを更新するわよ」


 クランホームに設置されている出張販売所だが、これは各街の住人が販売しているアイテムを買えるオブジェクトだ。

 最初の時点では、設置したクランホームがある街の住人の品揃えしかおいていないが、販売契約を結べれば別の街の商品も買えるようになる。

 そのためには、それぞれ条件があったはずだが、生産ギルドについては生産ギルドのギルドランクが条件のはずなので問題ないだろう。


 冒険者ギルドと生産ギルドに顔を出し、無事出張販売所の販売アイテムの更新を終えた俺達は、転移門の前まで戻ってきていた。


「それじゃあ、今日することはこれくらいかしら」

「そうじゃの。生産ギルドで聞いた『鍛冶ギルド』とやらに顔を出したいが、それはまた今度でええじゃろう」

「それを言うなら私だって『裁縫ギルド』に今度顔を出さないとね。……トワ達はどうするの?」

「私は夜遅くなってきているのでこれで戻りますね」

「俺はクエストを進めたいからな。ちょっと錬金術ギルドに向かうことにするよ」

「あまり夜更かししたらダメだよ、トワくん」

「わかってる。時間がかかりそうなら切り上げるから」

「それならいいけど……」

「はいはい。話はまとまったみたいね。それじゃ私達は先に帰るわ。おやすみトワ」

「うむ、それではの」

「あまり夜更かししないでね。おやすみなさい、トワくん」

「ああ、それじゃあな」


 仲間と別れた俺は一人で錬金術ギルドに向かうことにした。



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