45.狼は銀月に吠える 10 ~リザルト 2 ~

 名付けの済んだ眷属達はそれぞれの足下で構ってほしがるかのようにじゃれついてきている。

 ……ユキはすでにプロキオンに抱きついてなで回しているな。

 俺もシリウスのことを抱き上げてやることにする。

 ……うれしそうに顔を舐めてくる姿を見てる限り、狼じゃなくて完全に犬だよな。


『うむ、われの分体達も満足そうで結構。それでは他に聞きたいことはあるか?」

「あの、この子のお世話はどうすればいいの?」

『ふむ、そのもの達は現世の生き物というわけではない。従って、餌などは特に必要ではないな。周囲の環境からマナを取り込んでいれば特に問題はない……ああ、嗜好品としての食事を与えるならば別の話だが。その場合も雑食なので、何を与えても構わないぞ』

「わかりました。ありがとうございます」


 これじゃあ完全にペットを手に入れたようなものだな。


「ああ、俺からも1ついいか? こいつらの成長についてだがどうすればいいんだ?」

『眷属は主人とともに育っていく。また、主人が剣を望めばやがて剣となり、盾を望めばやがて盾となるだろう』

「つまり俺達の指示や考え方によって成長方針が変わっていくと?」

『わかりやすく言ってしまえばその通りだ』


 うーむ、これは成長方針についてユキとすりあわせる必要があるな。


『よし、魂の定着も完了した。質問がなければ、お前達を元いた場所へと送り届けよう』

「俺の方はもう質問はないかな。質問したいことができたらまた来ればいいみたいだし。ユキの方は?」

「私の方も大丈夫だよ」


『わかった。ならばお前達を元の場所に戻そう。質問があれば、またここを訪れるといい』

「わかった、ありがとうフェンリル」

「こんなかわいい子をありがとうございました、フェンリルさん」

『よいことだ。この地にて試練を与えることがわれに与えられた使命なのだからな。では、さらばだ異邦人達よ』


 その言葉を最後に、俺達2人は転送されていくのであった。



〈シークレットクエスト『銀月を臨む白銀の神狼』を完全クリアしました。称号『神狼に打ち勝ちし者』が付与されます〉


 ―――――――――――――――――――――――


 シークレットクエスト『銀月を臨む白銀の神狼』


 クエスト目標:

  幻の平原にてフェンリル(分体)に勝利する

   撃破率 100%

 クエスト報酬:

  眷属『フェンリル』


 ―――――――――――――――――――――――



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 目の前の光が晴れるとそこは平原を訪れる前にいた湖のほとりだった。


「帰ってきたんだね、トワくん」

「ああ、そのようだ。ずいぶん長い時間かかってしまったなあ」


 時計を見るとゲーム内時間で1時間近く経過していた。


「プロキオンもいるし、夢じゃなかったんだよね」

「あの戦いは夢でもおかしくなかったけどなあ。ゲームではあるが現実の話だよ」


 ユキに抱きかかえられているプロキオンと、俺の足にじゃれつくシリウス。

 絶対、こんなの連れ歩いてたら目立つよな。


「おお、戻ったようだね、トワ君、ユキ君」


 声をかけられた方を見ると教授達がこちらに駆け寄ってきていた。


「ふむ、先ほどのワールドアナウンスとその見慣れない子犬を見るに、それが眷属であるかね?」

「ああ、こいつらが眷属だ。一応まだ子供ではあるが神狼フェンリルの分体だな」

「ほう、フェンリルか! ……して、ずいぶん遅かったが何があったのか詳しく話を聞かせてもらえるかね」

「ああ、元々クエストの調査が依頼内容だしな、俺の話せる範囲でよければ教えるよ……ところで白狼さん達は?」

「白狼君達はあちらの広場で2人の帰りを待っているのである。さあ、残り時間も少ない。急ぐのである」


 俺達は教授に急かされるように広場へと戻ってきた。

 そこには今回の調査に参加した全員が集っていた。


「あら、おかえり、トワ、ユキ。ずいぶんかわいらしい子を連れてるじゃない」

「ああ、今回のクエスト報酬だってさ」

「うむ。それではそのクエストとやらについて早く話すのである。白狼君達のPTが挑む時間がなくなってしまうのである」

「あれ? 白狼さん達はまだ挑んでないんですか?」

「ああ、僕が来たのは君達がクエストを開始して30分ほど経過してからなんだが、君達がまだ戻っていないと聞いてね。有益な攻略情報を聞けるかもと言う事で待っていたのさ」

「なるほど。それじゃあ、先に攻略情報だけまとめて話しますね。まず、最初のウルフ――試練の大狼との戦闘ですが……」


 俺はクエストの攻略法のみをまとめて話していく。


「……以上が今回クリアしたシークレットクエスト『銀月を臨む白銀の神狼』の情報ですね。正直に言わせてもらいますが、フェンリルに挑むのでしたら相当の覚悟が必要になりますよ。俺達が勝てたのは昨日のパワーレベリングで火力が極端に上がっていたおかげですからね」

「まあ、話を聞く限りその通りだろうね。でも、せっかく挑める条件がわかっているんだ。せっかくなのでフェンリルに挑み勝てるようにがんばってくるよ」

「……そうですか。それでは餞別代わりのポーションです、受け取ってください」

「……こんなにたくさんのポーションをもらっていいのかい?」

「構いませんよ。俺達のクエストはもう終わってますので必要なくなった余り物ですし。昨日のお礼だと思ってもらえれば」

「……わかったよ。それでは行ってくる」

「ええ、がんばってください」


 クエストを受けるため湖へ向かっていく白狼さん達を見送る。

 ……正直、高レベルになったフェンリルを倒せるかどうかはわからないが、がんばってほしい。


「さて、トワ君。それではクエストの詳細をつめていくのである」

「ああ、そうだな。ちなみに、今どこまでわかっているんだ?」

「わかっている事は、クエスト名が『狼は銀月に吠える』であること、ボス名が『試練の大狼』であること、ボスのレベルは『挑戦するPTでもっとも種族レベルが高い者のレベル+10』であることぐらいであるな」

「……つまり、ほとんどわかっていなかったって事か」

「うむ、こればっかりは仕方がないのである。まさか試練の大狼に打ち勝つ方法が『30分間経ってから攻撃する』などとわかっていなかったのであるからな。ほとんどのPTが最初から全力で攻撃して、結局は息切れしてしまい敗れ去っているのである」

「その話し方だと勝てたPTもあるのか?」

「うむ。2PTほど勝利して帰ってきたのである。もっとも勝利条件はわかっていなかったのであるが」

「まあ、それは仕方が無いか。俺みたいに直接ボスから聞くことが普通じゃないんだし」

「その通りである。普通は『ボスを瀕死まで追い込んでから話をする』などというトリガーを見つける事など不可能なのである」

「……見つけてしまったものはしょうがないだろう。見つけてほしくないなら実装していなければよかったんだから」

「暴論であるが正論であるな。さて、問題はどうやってこの情報を広めるかであるが……」

「……そういえば、『狼は銀月に吠える』の通常クリア報酬って何だったんだ? 俺とユキはクエストに挑む資格を失っているから、もう手に入れられないんだが気になる」

「ああ、HPとSTR、INTが上昇し少し特殊なスキルがつくアクセサリー装備であるな……これである」


 教授は1枚のSSスクリーンショットを俺に見せる。


 ―――――――――――――――――――――――


 幻狼の腕輪(アクセサリー装備)


 HP+30

 STR+20

 INT+20

 破壊不可能


 スキル『幻狼の護り』が使用可能


 スキル:幻狼の護り

 短時間の間、スタン無効・すべての攻撃を無効化

 スキル再使用時間24:00:00


 ―――――――――――――――――――――――


「これは、何とも……」

「確実にフェンリル対策用の装備であるな。むしろこれなしで勝てた、トワ君達が異常なのである」


 明らかにフェンリルの最後の一撃を無効化するためのメタ装備だ。

 確かに、こんな装備があるなら、これなしでフェンリルに勝てた俺達は異常なのだろう。


「運営としては最初にこれを入手してから、フェンリル戦の方法を見つけて戦ってもらう、っていうのがシナリオだったんだろうなあ」

「そうであるな。明らかに運営の思い描いていたシナリオを無視した勝ち方である」

「……うーん、それにしてもSTRはおいておくとしてもHPとINTが上がるアクセサリーか……教授、何とか手に入らないか?」

「フェンリルの情報とセットと考えるに手放すものは少なそうであるなぁ。そもそもアクセサリー装備としても、現状かなりの高性能品であるゆえ難しいのである」

「……だよなぁ。俺とユキの分、ほしかったのだが」

「まあ、なんだったら白狼君達に聞いてみるのである。彼らクラスであれば、もっといい装備を持っているので譲ってもらえるかもしれないのである」

「そうだな。ダメ元で頼んでみるか」

「うむ。それがいいのである。さて、それではクエストの詳しい攻略法についてまとめていくのである」


 ああ、そうだった。

 本題をすっかり忘れてたよ。


 それから、教授と一緒に『狼は銀月に吠える』と『銀月を臨む白銀の神狼』の攻略方法についてまとめることにした。

 ちなみに、シリウスはユキに預けてある。

 ユキはシリウスとプロキオンを連れ、他の『ライブラリ』メンバーやアイラ・フレイ達と広場で遊んでいた

 本当、こうしてみてるとただの子犬にしか見えないよなぁ。


 **********


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 ~あとがきのあとがき~


 運営はちゃんとフェンリル戦は勝てるようにバランス調整をしています。


 フェンリルのレベルは挑戦者のレベル依存、HPはレベルと挑戦PTの人数依存、攻撃力はレベルと挑戦PTの人数依存です。

 そして、トワが使われる前に叩きつぶしてしまったタメ攻撃とその前のスタンは、それらを無効化できるメタ装備で耐える。

 これらの条件から、『強力な装備に身を包んでメタ装備も持ったフルPTなら勝ち目がある』戦いになります。

 なお、このあとに書く掲示板の中で言及しますが、タメ攻撃は全体即死攻撃です。

 食らうとどんなにHPが高くても確実に乙ります。


 トワ達の場合、


 レベル:トワとユキのレベルが低かったため低い

 HP  :レベルの低い2人PTでの挑戦のためめちゃ低い(エリアボス並みまでダウン)

 攻撃力:レベルとPT人数が少ないため低い


 と、これだけの条件が揃ってしまいました。


 これから挑むことになっている白狼PTは、まさに『強力な装備に身を包んでメタ装備も持ったフルPT』となっております。

 ……まあ、戦闘シーンを書くことはないのですが……

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