46.狼は銀月に吠える 11 ~エピローグ~

「やあ、ただいま、皆」


 教授とクエスト攻略方法の詳細をまとめ始めてから1時間ほど。

 ついに白狼さん達が帰ってきた。


「うむ。遅かったのであるな。それで結果は?」


 全員が気になっているであろう事を教授が催促する。


「うん、何とか勝てたよ。トワ君達から教えてもらった情報とポーションの山のおかげだけどね」

「ほう。白狼君達はレベル60のフェンリルと戦う事になったはずであるが初見で勝てたのであるか」

「ああ、攻撃はかなり厳しかったけど、性能のいいポーションと、バインド系魔法に弱いという情報があったからね。何とかギリギリ勝てたってところかな。あと、最後の大技。あれを無効化できたのは大きいね」

「ふむ。やはり幻狼の腕輪は必須装備であるか。やはりそれなしで勝てたトワ君達は異常であるな」

「……まあ、ちょっと否定できないかな。あの攻撃を初見でかわすなんて不可能だろうしね」


 教授と白狼さんが苦笑を浮かべながらそんな話をする。

 ……こればっかりは俺も否定できないからな。


「……ああ、そうそう。フェンリル戦の様子を僕のPTのヒーラーに動画保存してもらってあるから、それもあとで渡すよ」

「うむ。きっと見応えのある動画であろうなあ。それから、白狼君、トワ君が幻狼の腕輪を2つほど譲ってほしいとの事だが、可能であるかね?」

「幻狼の腕輪を? トワ君達はもう手に入れられないのかい?」

「ええ、『銀月を臨む白銀の神狼』をクリアしたらその前段階の『狼は銀月に吠える』も挑戦できないみたいで」

「なるほどね。そういうことだったら譲ってもいいよ。僕達からしてみれば、対フェンリル用のメタ装備というだけで、もっと性能のいいアクセサリー装備があるからね。2つだけでいいのかい?」

「2つで構いませんよ。俺とユキ以外は、必要なら自力で入手できますし」

「それもそうだね。それじゃあ、はいこれとこれ。お下がりで悪いけど」

「いえ、助かります……ちなみにお値段は?」

「フェンリルの攻略情報とさっきもらったポーションという事で構わないよ。むしろ、こちらの方が多くもらってるぐらいだしね」


 どうやらそういうことらしい。

 押し問答をしても仕方が無いので、大人しく厚意に甘えよう。


「それで、白狼君達の眷属はどんな感じなのかね?」

「ああ、それなんですけどね……これを見てください」


 白狼さんは1枚のSSスクリーンショットを表示させる。

 そこには『眷属召喚可能まで335:56:34』という表示があった。


「……どうやら最初は336時間、つまり現実での1週間だったみたいでして。しかもこのカウンター、ログインしている間にしか減っていかないらしいんですよね……」

「それは……召喚可能になるのは非常に先の話になるのであるなあ……」

「はい、しかも眷属を召喚するとPT枠を1つ消費するみたいでして。固定PTを組んでいる僕達としては使いにくいという印象ですね」

「なるほど……トワ君はPT枠を使っているはずなのだが、気がつかなかったのかね?」


 いわれてPT表示を確認すると、確かにシリウスとプロキオンの名前が追加されていた。


「あー、確かにPT枠を2つ使っていますね。俺はユキとペアで行動することが多いので、PT枠が2つ埋まっていても問題ありませんし」

 今まで2人PTだったのが4人PTになっただけなのでまったく気にしていなかった。


「ふむ、そうなると情報の価値というのが変わってしまうのであるなあ。理想としては、PT枠を潰すことなく組み込めるのが最も良かったのであるが」

「そうそううまい話はないって事だね。まあ、『あれ』を見る限りペット的な意味合いでの需要はありそうだけどね」


 白狼さんが示した先では、ユキ達がいまだにシリウスとプロキオンと一緒に遊んでいた。


「ペットを手に入れるためのクエストとしては鬼畜難易度すぎるのである……」

「まあ、その通りだね。正直、僕達もペットを手に入れるためじゃ割に合わないと思うよ」


 白狼さんは苦笑しながらそう言った。


「でも、『銀月を臨む白銀の神狼』はともかく『狼は銀月に吠える』の情報は売れると思うよ。僕達も鉱山ダンジョンを卒業した位のPTを送り込んで、連携と持久戦の練習に使おうかって話になっているからね」


 『白夜』は新人教育から前線攻略まで幅広く活動しているクランだ。

 そんなクランからしてみれば『試練の大狼』は、いい修行相手と言う事だろう。

 実際、種が割れてしまえばそこまで理不尽に強い訳じゃないからな、試練の大狼は。

 PTの連携と持久戦の心構えがあれば、可変レベルというのもあって、戦いやすい相手なのだろう。


 フェンリルは理不尽に強いが。


「報酬の『幻狼の腕輪』も中堅どころまでは使い勝手のいい装備だしね。情報が知れ渡れば挑戦者が増えることだろう」

「……確かにその通りであるな。やはり2つのクエスト情報は分けて取り扱うべきであるか……」

「その辺りは教授のさじ加減に任せるよ。ともかく『白夜』として受けていたクエスト調査協力はこれで完了と言う事でいいのかな」

「あ、『ライブラリ』も終了で構わないよね、教授?」

「うむ、2人とも助かったのである……それから眷属の情報については別途購入させてもらいたいのである」

「了解。何かわかったら話すよ」

「僕達はそもそも召喚出来るようになるのがまだまだ先だからね。あまり教えられる事はないと思うが……そのときはよろしくお願いするよ」

「さて、それでは全員がそろったようであるのでそろそろ撤収するのである」

「そうだね帰還するとしようか。帰りも護衛はしっかり務めさせてもらうよ」


 こうして『インデックス』主催のクエスト調査は終了したのであった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 あのクエスト調査から数日後の木曜日。

 『インデックス』は、クエスト情報の販売で忙しいようだ。


 公開されたフェンリル戦動画のインパクトの大きさと、幻狼の腕輪の有用性から、クエスト情報が飛ぶように売れている、とは教授の談。

 ただ、フェンリル戦の情報については、購入した人間が話を聞くだけでも理解できてしまう鬼畜難易度に、心を折られるものが大多数のようだ。

 残った少数は『眷属』という未知の可能性に挑むものと、見た目がかわいらしい――シリウスのSSスクリーンショットを1枚教授に売った――事からペット代わりの目的で狙っているものに分かれているらしい。


 俺としては、どっちも無謀な挑戦だと思うのだが。


 そんな中『ライブラリ』はどうかというと、この情報が売れている影響をもろにかぶってしまっていた。

 持久戦が必要になるということから、防具も消耗品も大量に必要となったためだ。


 はっきり言って、ただでさえ追いついていなかった供給が、さらに上がった需要によって、高価な素材に手を出して値上げしてでも対応しなければいけなくなっていた。

 俺達の流儀に反することだが仕方ないと割り切って行った値上げだったが、そんなことは関係ないとばかりに売れた。

『需要が落ち着けば元の値段に戻す』とメッセージボードに書いてあるのに売れた。

 職人としては自分の生産品が売れるのはありがたいのだが、気持ちは複雑だった。


 『白夜』側はどうかというと、次の月曜日にクエストを使った実戦修練の計画を立てているらしい。

 そのため、『ライブラリうちのクラン』にもポーションの買い付け依頼が来ていた。

 ただ、『白夜』側でもうちの事情はくんでくれているらしく、その数はクランの規模から考えれば少なめだった。

 白狼さんにその辺の事情を聞いてみたが『あのクエストを受ける段階のPTは意外と少ない』ということらしい。


 そんな中、俺とユキは商品作り以外の時間を種族レベル上げに充てるようにしていた。


「そっちにいったよ! シリウスお願い!」

「グルゥ!」

「2時方向から推定熊系モンスターが近づいてきているな。プロキオン、足止めをお願いできるか?」

「グルァ!」


 うれしい誤算だったのだが、この2匹の思考能力と学習能力は非常に高い。

 なにせ、簡単な指示だけで最大限の行動を示してくれるのだ。

 眷属達に与えられているAIはかなり高性能であるらしい。


 俺はシリウスを遊撃型アタッカーとして育てている。

 俺達に足りなかった遊撃役と物理アタッカーの役目をシリウスに託したのだ。


 そして、ユキはプロキオンをタンクとして育てることになった。


 ユキのジョブ『見習い槍術士』はお世辞にもタンク向けの職業とは言い難い。

 また、フェンリル戦で格上相手とはいえ一撃で大ダメージを負ったことを気にしているようだった。


 とはいえ、ユキもここまで育ててきた避けタンクとしてのスキルは無駄にならないため、サブタンクとして活躍できるだろう。


 最初はレベルと経験不足からおぼつかなかった、プロキオンのタンクとしての実力も最近は大分安定してきた。

 格上相手であっても、持ち前の機動力と耐久性を駆使して戦えるようになってきたのだ。


 シリウスの方も俺達との連携が板についてきた。

 昨日から狩り場を第4エリア近辺の森へと移しているが、ここでも十分な戦闘力を発揮してくれている。

 このペースならあと2~3日で次の狩り場へと移っても問題ないだろう。


「おーい、そろそろ今日の狩りは切り上げて帰るぞー」

「うん、わかった」


 そろそろいい時間になったため、俺達はこの日の狩りを終了してクランホームへと帰還した。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「何読んでるの、トワくん?」


 クランホームに帰還した俺達は、それぞれの生産作業を行っていた。

 ちなみに、今、クランホームにいるのは俺とユキの2人だけだ。

 残りの3人は種族レベル上げのための狩りに行っているようである。


 そんな中、生産作業の合間に俺が何かを見ていることに気付いたユキが声をかけてきたのだ。


「うん? 公式からのお知らせだよ」


 帰ってきて何気なく公式ページを確認していたら、新しいお知らせを見つけたのだ。


「何が書かれてるの?」

「明日の午前中に軽微なバグ修正のための短時間メンテ、それに来週の金曜日に第2陣向け10万本販売開始、それから今週土曜日に運営責任者による生放送だってさ」

「生放送?」

「UWの現在の環境と今後の展望についての説明だってさ」

「ふーん、トワくんはそれ見るの?」

「土曜日の午後1時からだから見るつもりだよ。ユキも一緒にどうだ」

「うん、それじゃ、一緒に見ようかな。どうせだし、ハルちゃんやリクも呼んで一緒に見ようよ」

「そうだな。そうするか」


 そうして土曜日の予定が決定した。

 このときはまだ、この生放送で発表される内容があれほどインパクトのあるものになるとは思っていなかったのだ。


 **********


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 これにて第2章は終了です。

 次回、掲示板回を1回挟んで第3章に移ります。


 第2章終了時点のトワのステータスをおいておきます。


名前:トワ 種族:狐獣人 種族Lv.25

職業:メイン:見習い銃士Lv.20 MAX Over5

    サブ:初級錬金術士Lv.7

HP:130/130 MP:192/192 ST:134/134

STR:10 VIT:20 DEX:39

AGI:24 INT:47 MND:28

BP: 0 SP:33

スキル

戦闘:

【銃Lv30 MAX Over7】【格闘Lv30 MAX】【体術Lv3】

魔法:

【炎魔術Lv7】【海魔術Lv9】【嵐魔術Lv8】【雷鳴魔術Lv7】

【氷雪魔術Lv7】【神聖魔術Lv9】【魔導の真理Lv11】

生産:

【初級錬金術Lv8】【初級調合術Lv11】【料理Lv13】

【生産Lv41】【道具作成Lv1】【家具作成Lv1】

その他:

【気配察知Lv35】【魔力感知Lv35】【夜目Lv32】【隠蔽Lv35】

【看破Lv35】【罠発見Lv32】【罠解除Lv32】【罠作成Lv1】

【奇襲Lv39】【隠密Lv40】【採取Lv26】【伐採Lv16】

【採掘Lv35】【言語学Lv13】【集中Lv26】

特殊

【AGI上昇効果・中】【INT上昇効果・中】【風属性効果上昇・中】

【風属性耐性・中】【二刀流】【眷属召喚】

眷属

【神狼・フェンリル(幼体)Lv3】

称号

【初心者講習免許皆伝】【風精霊の祝福】【かつての英雄に連なる者】

【初級錬金術士】【初級調合士】【魔導を求める者】

【眷属を従える者】【神狼に打ち勝ちし者】

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