44.狼は銀月に吠える 9 ~リザルト 1 ~

 昨日の19時過ぎに1話公開しています。

 まだ読んでいない方がいましたらそちらからお読みください。


 今回よりクエストリザルト回です


 要するに報酬確認ですね。


 戦闘よりもクエスト報酬確認の方が長いです……


 **********



 勝利を確認した俺は、平原に仰向けになって倒れ込み、大の字になっていた。


「…………さすがに、ここまできつい戦いは、想定してなかったぞ、教授……」


 ここにいない今回のクエスト調査を依頼した人物に対して、思わず悪態をつく。

 ……まあ、教授だってこんな隠しクエストがあるとは思っていなかっただろう。


「大丈夫? トワくん」


 俺のそばまでやってきたユキが、俺を心配そうに見下ろしていた。


「平気平気。ちょっとMP使いすぎて疲れが出たのと、精神的な疲れが出ただけだから」


 上半身を起こしながらユキにそう返事をする。


 実際MPは枯渇寸前だったし、フェンリルの半端ではないプレッシャーにあてられてたのも事実だ。

 本当によくできたゲームだよ、これは。


「ごめんねトワくん。最後何もできなくて……」

「あー……あれは仕方がないさ。事前に知ってなきゃ対処できないパターンの攻撃だったからな。初見殺しって奴だ、あれ」


 最後の咆吼からタメ攻撃はどう考えても全域攻撃だ。

 咆吼でスタンさせられるから、事前行動を潰すのも困難、回避は不可能。

 どこからどう見ても、本気で『殺し』に来てる攻撃である。

 ……ホント、このフェンリル戦をデザインした、デザイナーだかプロデューサーだかは性格が悪いと思う。

 あと一歩で勝てる、ってところで地獄につき落とすハメ攻撃だ。

 もう少しプレイヤーに優しくしてもバチは当たらないだろう。


 ……ただ、逆をいうと、このフェンリル戦って『今の段階では』勝てない相手として設定されていた可能性がある。

 明らかに現状の装備やスキル編成では勝てないような化け物だった。


 おそらく、敵のレベルがこちらのレベルに合わせて変化するタイプのボスなのは間違いない。

 それにこちらのPTメンバーによってもHPや攻撃力が変わっている可能性もある。


 いくら現時点で作れる装備で、かなり上質な装備を揃えているとは言っても、ユキは回避や受け流しをメインとする回避盾だ。

 そのユキに対し、ガードの上からであったとしても、ダメージが4のは明らかにダメージ量が少ない。


 皮鎧装備のユキの防御力は、金属装備で身を固めているタンクと比べれば圧倒的に低い。

 また物理防御力に影響があるVITにしても、ユキのVIT値はそこまで高くないはずだ。

 HPもVIT値に比例している事から考えても、フェンリルの攻撃力は低い気がする。


 ……まあ、俺の水鏡投げが成功して俺が生き残ったのは、ジャストガードによるダメージ減算もはたらいていただろう。

 ジャストガードじゃなければ、一度に大量のダメージを受けた事による気絶が発生していてもおかしくないのだから。


 それに、フェンリルのHPを削り切れたのは、なんと言っても俺の魔法攻撃力がバカげた値になっている事が大きいだろう。

 元々INTが上がりやすい狐獣人であることに加えて、昨日のパワーレベリングで上位魔術を複数取得することになった。


 このゲームでは明示されているステータスに加えて、取得しているスキルによってステータスがマスクデータとして上昇していることはβの時から知られていた事だった。

 上位魔術はその中でもかなり大きな補正値を持っていると検証されているため、上位属性魔法を6種類も持っている俺の最終INT値は少なく見積もっても100以上はあるはずだ。

 それ故のあの魔法攻撃力で、運営が想定していた壁を文字通り『打ち砕いた』のだろう。


 奇しくも、βプレイヤーで話題になっていた『魔法使いはINTを上げて魔法で殴れ』という言葉を体現してみせた、という事になった。


 ……うん、どう考察してみても今回の勝利は薄氷の勝利だったな。


 こんなクエストを用意した運営は、いい意味で『頭がおかしい』。

 ギリギリのラインで戦えば勝ち目のありそうな、限界を突き詰めたバランス調整。

 一見するとまともに勝てる見込みがなさそうな、初見殺しを組み込んだ戦術。


 どう考えてもこれは『ヘビーユーザー向けコンテンツ』の1つだ。


「それにしても、よく勝てたよね、私達……」

「ああ、まったくもって同感だな。本当に白狼さん達に感謝だ」




『ふむ、そろそろ疲れは取れたかね?』


 問いかけられて、振り返ればそこにはフェンリルが立ち上がっていた。


「まだまだ気疲れはしてるけど、どうかしたのか?」

『なに、大したことではない。われと戦い、そして勝った報酬を渡そうと思ってな』


 ああ、クエストクリア報酬か。

 完全に忘れてたよ。


「クエスト報酬か……いったい何がもらえるんだ?」

『うむ。われに始めて勝ったからな。お前達に眷属として『神獣』を与えよう』


《とあるプレイヤーにより『眷属』システムが開放されました。詳しくは追加されたヘルプをご確認ください》


 おう、久しぶりのシステム開放メッセージだ。

 ……これ、絶対に街で悪目立ちするよな。


「えっと眷属? ですか?」

『うむ、お前達とともに歩む者だ』

「……えーと、トワくん?」

「俺に聞かれてもな……ちょっとヘルプページ確認するから待ってくれ」


 ええと、ヘルプヘルプと。

 ヘルプから『眷属』を検索っと。



 ……

 …………

 ………………



 ……なるほど、大体把握した。

 眷属って言うのは要するに、他のゲームではペットとか呼ばれているシステムだな。

『眷属』なんていう仰々ぎょうぎょうしい名前がついているのは何でだろうか。


 ユキにも簡単にだが説明しておいた。


 一応ここからは録画しておくか。

 ……他のプレイヤーについては映り込んだり発言が入ったりしないように設定してと。


「なあ、何で『眷属』なんだ?」

『眷属とは神獣や妖精、精霊などがなるものだ。そのような者達が異邦人に仕えるのだ。眷属以外の呼び名などあるまい』


 要するに、開発の趣味って事か。


「この試練で手に入るのって神獣のみなのか? 他の眷属を従える方法は?」

『この試練で与えることができるのは神獣のみだ。他の種族を眷属として従えたければ、その種族達を見つけ、力を認めさせればよい。もっとも、眷属として仕えるかどうかはその者達の判断によるがな』


 つまり他の種族も眷属に出来る可能性はあるが、それがどこでどのような方法によるのかは教えられないと。


『他に質問はあるか?』

「うーん、今は特にないかな」

『そうか、ならばまた尋ねたいことがあればここを訪れるとよい』

「え? またここに来られるのか?」

われの真の試練を突破したのだ。お前達にはここを訪れる資格は十分にあるだろう』

「つまり来週の月曜日になれば、またここにこれると?」

『いや、もう月の日を待つ必要もない。ここを去るときにこの地へと転移できるようにしておこう』


 つまり転移門やポータルから転移してここに来ることが可能になるのか。


「ここに来ればまた試練を受けられるのか?」

われの真の試練を乗り越えた者がなんの試練を受けるというのだ? お前達にはこれ以上われの試練は不要だろう。腕試しがしたいというのであれば受けて立つつもりではあるがな』


 真の試練をクリアした者は、もう試練を受けることは出来ないのか。

 当たり前と言えば当たり前か。

 でも、フェンリルと再戦することだけはできると。

 本人の言うとおり腕試しとしての意味合いしかないんだろうな。


「ちなみにここに他のプレイヤーを連れてくることはできるのか?」

われの真の試練を乗り越えた者でなければ、この地を訪れることは不可能だな』


 PTを組んでいても、クリアしたことがないプレイヤーを連れてくるのは不可能と。


「あと、この情報を他のプレイヤーに教えても大丈夫なのか?」


 これは意外と大事な質問だ。

 このゲームは変なところで高度で、事前に情報を得ていると報酬が減ったりするからな。

 情報の拡散も気をつけないといけないのだ。


われの試練についての情報を異邦人に伝えたいのか? それならば好きにするがいい。むしろ、積極的に拡散して、われに挑む者が増えてくれればわれとしてもうれしいな』


 情報の拡散は問題なしと。

 あとでこの動画も教授に見せるとしよう。


『質問はもういいか? そろそろお前達に与える眷属について話したいのだがな』


 ユキの方を見てみるが特に質問はなさそうなので話を先に進めることにした。


「わかった。それじゃ、報酬とやらを教えてくれ」

『うむ。吾からお前達に授けることができる神獣だが、我が分体のみとなる』

「つまりフェンリルが手に入るって言うことか?」

『最終的にはそうなるであろう。だが、われがお前達に分体を授けても、それほどの力を持たない分体にしかならない。あくまで眷属はお前達とともに歩み、成長する者だからな』


 一緒に戦闘することで成長するシステムって事だな。

 これはヘルプにものってたし、まあいいか。


『話が長くなってしまったな。お前達、こちらに近づくのだ』


 フェンリルに指示されたので、俺とユキはフェンリルのそばまで行く。


『これより吾の分体をお前達の魂に宿そう』


 そのセリフとともにフェンリルから光があふれ始める。

 その光はやがて収束し、光の玉となり俺とユキの中に吸い込まれていった。


〈眷属『フェンリル(幼体)』を入手しました。また、初めて眷属を入手しましたので称号『眷属を従える者』を取得しました〉


『どうやら無事、吾の分体が宿ったようだな。新たなわれの分体の姿を見せてくれ』


 ……動画はここまででいいかな。

 動画撮影モードをオフにしよう。


 そして、フェンリルからの催促に対して俺は称号によって手に入れたスキルを使用する。


「それじゃ、『眷属召喚』」


 すると俺の目の前に1匹の黒い毛並みをした子狼がちょこんと座っていた。


『うむ、無事に分体を宿せたようだな。娘の方も試してみてくれ』


「はい、『眷属召喚』!」


 ユキの目の前にも子狼が1匹現れる。

 ユキの子狼は白い毛皮に包まれた狼だ。


『うむ、確かに分体が宿っているな。本来ならば分体を呼び出せるよう体になじむまで、しばらくの時間が必要だが、今回は特別に最初から呼び出せるよう、多めの力を渡したかいがあると言うものだ』


「本来はすぐには呼び出せないのか?」

『うむ、本来ならば、われの力が魂に定着するまでの間は召喚不可能だ。今回だけの特別サービスというものだな』


 つまり初回突破ボーナスと。


『さて、分体を完全に魂に定着させるには名を与える必要がある。名付けもここですませてもらえるか?』


 名前か……狼だし、あれにするか。


「うん、俺の狼の名前は『シリウス』だ」

「シリウス?」

「おおいぬ座の星の名前の1つだよ」

「おおいぬ座か……他にはなんていう名前の星があるの?」

「ちょっと待って……β星がミルザム、γ星がムリフェインとかだな……ああ、でも星座からとるならこいぬ座とかはどうだ?」

「こいぬ座?」

「おおいぬ座と一緒に冬の大三角を形作る星座の1つだな……こいぬ座の1等星が『プロキオン』って名前だよ」

「うん、ミルザムよりも呼びやすいかな。じゃあ私の狼の名前は『プロキオン』に決めた」


 俺達が名付けを完了すると、それぞれの子狼の目が開き、俺達に甘えるようにすり寄ってくる。


『うむ、名付けも無事完了したようだな。これで、その分体達はお前達自身の眷属となった。これより先、共に歩んでいくがいい』


 **********


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 ~あとがきのあとがき~


 というわけで、クエスト報酬はフェンリルの子供みたいなものでした。

 モフモフ成分補充……が主目的じゃなく、トワとユキ以外に自由に連れ回せるキャラがほしかったのです。

 でも、これで火力過多がさらに進行してしまう……


 あと、本文中で『最終INT値は少なく見積もっても100以上』となってますが、実際には装備含めて最終INT値は280を越えています。

 開示するつもりはないのですが、トワくんのステータスについては計算式を使ってきちんと管理しています。

 ……なお、作者もまさかこの時点でINT280オーバーの化け物になっているとは考えていなかった模様。

(マスクデータの計算式を作ったのはフェンリル戦を書く直前でした)

 だからこそのバカ火力による、火力ごり押しで勝ってしまおうと考えたのですが。


 そして、しれっとまた新要素を開放してしまうトワくん。

 ご都合主義万歳。

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