43.狼は銀月に吠える 8 ~決戦~

 公開日が1日ずれてました。

 申し訳ありません<(_ _)> 


 タイトル通りこのクエストの最終決戦です。

 が、戦闘シーンがこれまた短い……


 迫力のある戦闘シーンを長く書ける方々が羨ましい……


 **********



「えっと、つまりどういうことなの?」


 ユキはまだ状況の変化についてこれていないようだ。

 まあ、当然だろうな。


「そこの狼が最初に言っていただろう。【我が攻撃を耐えて見みせよ】って。つまり、あの狼の攻撃に30分耐え続けることが、このクエストのクリア条件なんだよ」

『ふむ、そこまで理解していたか。いかにもその通りだ。われの攻撃から耐え続けることができた時点でお前達への試練は終了していた。そこまで行けば、あとはわれに倒されても、あるいはわれを倒してしまっても試練は合格だな』

「そうなんだ……私は全然気がついてなかったよ……」

『戦いながらそこに気がつくその男が特殊なのだよ……さて、我が試練を見抜いたお前達には選択肢がある。1つはこのまま試練の報酬を受け取りこの場から去ること。もう1つはさらなる試練、全力のわれと戦いそれを打ち破ることだ。さあ、どちらを選ぶ?』


 ふむ、ここで選択肢分岐か。


 1つ目を選べば、このままクエストクリアで終了。

 2つ目を選べば、2戦目が始まると。


「ユキ、俺はこのまま次の試練に挑みたい。構わないか?」

「うん、私もこの先があるなら見てみたい!」


 どうやら話は決まったようだ。


「俺達は、さらなる試練を望むよ、大狼さん」

『よかろう。ならばまずお前達の傷を回復しておこう』


 大狼のセリフとともに俺達を光の柱が包み込む。

 気がつくとHP・MP・STすべてが完全回復していた。


『試練に挑むに当たり準備も必要であろう。この場で整うならば待っているので準備をするがよい。準備ができたらまた声をかけろ』


 それだけ告げると、最初のように鎮座する大狼。

 準備していいと言うことなら、遠慮なく準備させてもらおう。


「ユキ、ポーションの残りはどうなってる?」

「MPポーションは大丈夫かな。結局、1本も使ってないし。でも、HPポーションとSTポーションは結構使ったかも」

「ならそっちは補充だな。余計に持ってきているから心配するな」


 俺はユキに消費した分以上のポーションを渡す。


「ありがとう。それじゃあ、あとは食事をとってバフだね」


 ユキはそう言って料理を取り出す。

 この先の戦いがどうなるかわからないから、どんな状況にも対応しやすい薬膳粥だ。

 こういうときにHPとMPに上昇バフがかかるのはありがたい。

 なお、このゲームにおける食事バフの効果時間は基本的に30分だ。


 ユキと一緒に食事をしていると、こちらを見ている大狼と目があった。


「……」

『……』

「…………食べたいのか?」

『食料に余裕があるのならばわれももらいたい』

「ユキ?」

「ええと、狼さんが食べそうなものは……ステーキぐらいしかないけど大丈夫?」

われは雑食だからな。何でも大丈夫だぞ』

「それじゃあ、はい、これをどうぞ」


 ユキはオーク肉のステーキを取り出すと、大狼の前に置いた。

 無言でステーキを食べ始める大狼。

 これじゃ、狼と言うより犬だな。


「(なんだか狼と言うより犬っぽいね、トワくん)」


 どうやらユキも同じ意見だったようだ。


 俺達が薬膳粥を食べ終わる頃には大狼もステーキを食べ終えていた。


『なかなか美味であったぞ、娘……ああ、この料理の効果でこのあとの試練の内容が難しくなる事はないから安心しろ』

「いえいえ、お粗末様でした」

『うむ。それで、準備は整ったのか?』

「もう少しだけ待ってくれ。ユキ、付与を頼む」

「うん、アタックグロウ! ガードグロウ! スピードグロウ! マジックグロウ! マインドグロウ!」


 一息に【付与魔術】の長時間系バフを使ったユキはその場でMPポーションを1本飲み干す。

 さすがに2人分の付与を一度に全種類かけるとMP切れ寸前まで行くのだ。


「これで準備万端だね!」

「ああ、待たせたな大狼。準備完了だ」


『承知した。ならばわれの全力の姿を見せよう! さあ【われを倒してみせよ】!』


 大狼のセリフとともに大狼に雷が落ちる。

 その光が消え去ったあとには、体長5メートルほどの大きさになった狼が存在していた。

 試練の大狼だったときよりもその姿は雄々しく力強い。


 そうだ、【看破】してみないと……


 ―――――――――――――――――――――――


 神狼 フェンリル(分体) Lv32


 HP:???/???


 試練の大狼の真の姿

 本体は神狼だがこの場にいるのはその分体である


 ―――――――――――――――――――――――


 ……な……

 さすがに今の時点でフェンリルとかきつすぎるだろう!


 でもよく見ると分体とついてるし本来の力は出せないのだろう。

 レベル自体も大狼だった頃と変わりないし……


 それでもおそらく上がっている攻撃力には要注意だな。


「……ユキ、こいつはフェンリルだ。油断するなよ」

「フェンリルって神話とかに出てくる狼だったよね……わかった十分に気をつけるよ」


『お互いに準備が整ったようだ。では始めるとしよう!』


〈特殊クエスト『狼は銀月に吠える』はシークレットクエスト『銀月を臨む白銀の神狼』へと移行します〉


 ―――――――――――――――――――――――


 シークレットクエスト『銀月を臨む白銀の神狼』


 クエスト目標:

  幻の平原にて???に勝利する

 クエスト報酬:

  ???


 ―――――――――――――――――――――――




 ――――――――――――――――――――――――――――――




「ッ!『かかってきなさい』!!」


 一息に飛びかかってくるフェンリルに対し、セオリー通りに【挑発】スキルを使うユキ。

 【挑発】スキルの効果で、フェンリルのターゲットはユキにそれるが……


「うぁっ!」


 しっかりとガードしたにもかかわらずHPの4割を失った。


「くっ……ミドルヒール!」


 ユキは自分自身に回復魔法を使い減った分のHPを回復する。

 ……だが、1撃で4割とか洒落になってないぞ!


「ライトニングバインド!」

『むっ!』


 とりあえずバインド系魔法は有効なようだ。

 しかし、激しく抵抗されているため十分な時間は稼げないだろう。


「ユキ、短期決戦で挑むぞ! とてもじゃないが持久戦は不可能だ!」

「うん! いくよ、霞二段! ホーリーランス! ホーリーアロー!」

「ゲイルアロー! ゲイルピアサー! ライトニングボルト! フレイムバレット! フレイムジャベリン!」

『ぐぬっ!』


 よし、こちらの攻撃は効いてる!

 と言うかパワーレベリングのおかげで攻撃力過剰になっているようだ。


 この一連の連続攻撃だけでフェンリルのHPを3割削ることができた。


『やはり強いな! だがこのままいいようにはやらせん!』


 バインドによる拘束が解けたフェンリルが俺に向かって突っこんでくる。

 まずい、攻撃力が高すぎてターゲットがぶれてしまった!


「トワくん!」

「大丈夫、水鏡投げ!」


 突撃してくるフェンリルに対して俺は【体術】スキルの『水鏡投げ』を使用する。

 これは相手の攻撃を受け止めつつ、反撃として投げ飛ばす便利スキルだ。

 ただし、攻撃が当たる直前に発動しないと意味がないが。


「ふん!」

『なにっ!!』


 水鏡投げが決まって地面にたたきつけられるフェンリル。

 今のうちに体勢を立て直さないと!


「まずはアイシクルバインド!」


 アイシクルバインドでフェンリルを再度拘束してからHPポーションをあおる。

 さっきの突撃、水鏡投げの効果で威力が7割以上減っていたのにHPを8割以上持っていかれた。

 やっぱり俺だとガードができても一撃即死らしい。


「トワくん、ごめん!」

「謝るのはあとだ、今はとにかく高火力スキルで相手のHPを削ることだけ考えて!」


 水鏡投げのスタン効果とアイシクルバインドのバインド効果で、身動きが取れなくなっているフェンリル。

 この隙に一気に決めないと本当にあとがない!


「いくよ、霞二段! 三連突き! ホーリーランス! ホーリーアロー! 」

「アイシクルバレット! ライトニングボルト! オーシャンバレット! オーシャンボム!そして追加で拘束、オーシャンバインド!」

『ぐぬっ、おのれ……やるなお前達!!』


 とにかく高火力が見込めるスキルを矢継ぎ早に繰り出す俺達。

 FFフレンドリーファイアにだけ気をつけながら、前進後退を繰り返しダメージを積み重ねていく。


 そしてフェンリルのHPが残り2割を切ったとき、


『ふん!』


 ついにバインド効果が切れて、フェンリルが再び立ち上がる。

 俺とユキは互いの射線を遮らないよう、別々の方向から攻めていた。

 そして、フェンリルの視線は俺だけをとらえている。


『よくぞここまでわれを追い詰めた! われの全身全霊を込めたこの攻撃、受けてみよ!』


 アオォォォォン!!


 まずい! 雄叫びによるスタン!

 ユキはフェンリルから離れた位置で動けなくなっていた。

 俺は……よし、体が動く! どうやらスタンの状態異常判定に成功してスタンせずにすんだらしい。


 しかし、フェンリルの様子をうかがうと大技を使う前のため動作に入っている。


(さすがにあれをもらったら全滅する!!)


「ホーリーランス! ホーリーアロー! ……他は、全部クールタイムか!」


 ここまでのスキル連打により、ほぼすべての高威力魔法・物理スキルがクールタイム中となってしまった。

 フェンリルのHPも残り1割だと言うのに!


 諦めきれずスキル一覧を見ると見慣れないスキルが増えていた。


『アイシクルレイン』、【氷雪魔術】のレベル5で覚えるスキルだ。

 どうやら先ほどと今の戦闘中にスキルレベルが上がって新しいスキルが使えるようになっていたらしい。


「もう時間もない! アイシクルレイン!」


 魔法スキルが発動し、フェンリルの頭上から氷柱つららの雨が降り注ぐ。

 フェンリルに対して多段ヒットを起こすアイシクルレイン。

 どうやら大型の相手に対しては多段ヒットの効果があるらしい。


 ……氷柱の雨が降り止んだ。

 そこには力なく横たわるフェンリルの姿があった。


「どうにか勝てたな……もうこんなギリギリの戦いはしばらく遠慮したいな……」


 **********


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 ~あとがきのあとがき~


 前回に引き続きボス2戦目でした。

 今回はパワーレベリングで得た、本来の種族レベルにしては高すぎる攻撃力を使ったごり押しで倒しています。

 ぶっちゃけ、実戦闘時間は3分程度で、もし、これ以上の持久戦をしなければならなければ各個撃破されて終わりなのですが。


 あと、戦闘開始前に食べていた薬膳粥ですが★8品でHP+100・MP+100という凶悪な逸品です。

 これを食べていなかったらフェンリルの突撃を受けた際にトワのHPは全損してます。


 また、このときのフェンリルの突撃攻撃もフェンリルの特殊行動の1つで、『タンク以外から一定時間に一定割合以上の攻撃を受けた場合、対象に強威力の攻撃を行う』というものでした。


 なお、最後の咆吼によるスタン結果は実際にダイスロールによる成否判定をしました。

 ……いや、トワがダイスロールに成功してよかった。(2d6の7で抵抗成功)


 ご都合主義万歳。


 あ、フェンリルの強さが想定以上に弱いと思われた方が多いと思いますが、きちんとした理由があります。

 フェンリルのステータスについては、45話の『あとがきのあとがき』で説明いたしますので少々お待ちください。

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