42.狼は銀月に吠える 7 ~クエスト開始~

 ようやくクエストスタートです。

 が、戦闘シーンが短い……


 導入が長いことも含めて、表現力不足ですね……


 **********



「そうであるか。ダメージを与えられる可能性のある条件が2つ思いついたのであるか……」


 俺は考えついた2つの条件について教授に説明した。


 1つ目は単純に、『一定以上のダメージが蓄積しないとHPバーが減り始めない』ようになっているというもの。

 こちらの場合であれば対処法は単純で、高火力で押し切ってしまえばいい。


 2つ目がやっかいで、『一定時間経たないとダメージを与えられるようにならない』というものだ。

 こちらの場合だったら、とにかく持久力が必要となってしまう。


「ふむ、他の第二陣PTはすでに出発してしまっているしどうしたものか」


 そう、すでに第二陣のPT達もクエストを開始しているのだ。

 残っているのは全体を指揮している『インデックス』の面々と、白狼さんの合流が遅れているため出発していない白狼さんのPTメンバーだけだ。


「とりあえず俺達は2つ目の方法が正しいのか検証する方向で戦闘してみるよ。さすがに2人だけじゃ、総ダメージ量で倒すのは厳しいからな」

「うむ、そうしてもらえるとありがたいのである。この話は私から白狼君達に伝えておくのである」

「任せた。それじゃあ俺達も準備をしてクエストに行ってくるよ」

「うむ。健闘を祈るぞ」


 俺達は教授と別れて、料理を食べてしっかりバフ効果をつけてから湖へと向かう。


 サブマスさんの説明通り湖に近づくとシステムメッセージが表示された。


〈特殊クエスト『狼は銀月に吠える』を開始できます。クエストを開始しますか?〉


 俺はユキの方を見て、問題ない事を確認してから『はい』を選択してクエストを開始する。

 すると転移するときに感じるかすかな浮遊感とともに、目の前の湖が光を放っている光景を見た気がした。



〈特殊クエスト『狼は銀月に吠える』を開始します〉


 ―――――――――――――――――――――――


 特殊クエスト『狼は銀月に吠える』


 クエスト目標:

  幻の平原にて大狼の試練に打ち勝つ

 クエスト報酬:

  ???


 ―――――――――――――――――――――――





 ――――――――――――――――――――――――――――――



 気がついたときには草原の中に俺とユキは立っていた。


「トワくん、あれ……」

「ああ、わかっている」


 そんな俺達の前方、少し離れた場所に事前情報通りの大きさをしたウルフが鎮座していた。


『……お前達が此度の試練を受けに来たものか?』

「え、このウルフ、しゃべった!」

『我らとて意思はある。それを念話という形でお前達に伝えているのだ』


(個別AI持ちのボスか。これは強そうだ)


 『念話』という形で俺達に話かけてきたウルフを見て、俺は内心で厄介そうだと独りごちる。


『重ねて問うが、此度の試練を受けに来たのはお前達で相違ないな?』

「ああ、試練というのがなんなのかはわからないが、それで間違いないと思うぞ」

『そうか、それでは試練を始めるとしよう、さあ【我が攻撃を耐えてみせよ】』


「ッ!? トワくん!」

「ああ、戦闘開始だ! ユキ、いつも通りタンクを頼む! 攻撃は考えなくていい!」

「了解! 『さあ行くよ!』」


 ユキの【挑発】スキルが効果を発揮し、ウルフのターゲットは強制的にユキに向かう。

 ウルフはまず体当たりを選んだようだが、それは待ち構えていたユキに迎撃されて逆にユキのカウンターで大きく弾き飛ばされる。


 初撃はどうやらユキの方に軍配が上がったようだ。


 だが、ウルフのHPバーは微塵も減っているように見えない。

 これはやはり持久戦を覚悟しなきゃいけないな。


 っと、その前にウルフのステータスを確認しておくか。

 そう考えて、【看破】を発動してウルフのステータスを調べる。

 すると、ウルフのステータスはこう表示された。


 ―――――――――――――――――――――――


 試練の大狼 Lv32


 HP:???/???


 試練を望む者に試練を与える狼

 その真の姿は試練を乗り越えた者のみ

 知ることができる


 ―――――――――――――――――――――――


 さすがにHPまで看破できるとは考えてなかったけど、名前が『試練の大狼』か……

 フレーバーテキストも気になるし色々注意しなきゃダメだな。


 俺はすぐに看破の結果をSSスクリーンショットに収めておく。


 前方ではウルフ改め大狼とユキが接近戦を行っている。


 大狼はその身を大きさを感じさせない動きで、薙刀の間合いの内側へと入り込む。

 しかし、ユキも慌てずに対応して攻撃を受け流したりガードしたりして、被ダメージを最小限に食い止めている。

 そして、大狼が隙の大きな大技を繰り出そうとするたびにカウンターの一撃を浴びせて間合いを離す。


 間合いが離れれば、今度はユキが攻勢に出る番だ。


 薙刀のリーチの広さを利用しつつ、隙の少ない攻撃を繰り返して大狼が再び間合いを詰めようとするのを防ぐ。


 ユキの攻撃はいずれもクリーンヒットしているはずだが、大狼のHPバーが減る様子はない。

 ……なるほど、これはれてくる戦いだな。


 微塵も体力が減った様子を見せない大狼に対し、隙の大きい攻撃を行えばすぐさま手痛い反撃をもらうだろう。

 かと言って、隙の少ない攻撃は基本的に攻撃力も低いため、焦りが溜まってくる。


 始めから持久戦狙いでない限り、そのうち焦りが出て戦線が崩壊して全滅していたんだろうな。


 その前提があるなら柚月達が長時間粘ることができたのも納得だ。


 大狼はユキとの間合いを詰めようとはするが、そこまで積極的に攻撃に出る様子はない。

 これが柚月達の時も同じような行動パターンだった場合、始めから倒すつもりがなく、お互いに消極的な戦いになった結果、長時間耐えることができたというのが理由だろう。


 さて、俺も考察ばかりしていないで少しは攻撃に出るか。


 俺は攻撃力よりもノックバック・ヒットストップなど行動妨害の効果が高いスキルを選択して攻撃を開始した。



 ……

 …………

 ………………


 戦闘開始から10分ほど経過。

 俺達と大狼の間での一進一退の攻防は続いていた。


 ユキに対して何とか間合いを詰めようとする大狼と、それを妨害する俺とユキ。

 ダメージの受け方だけを見ればユキだけがダメージを受けているように見えるが、ユキの受けたダメージは適宜回復するようにしているのでダメージの蓄積はない。

 また、俺が大狼を吹き飛ばしたタイミングでユキが自分のHPを回復させる場面もあるので、俺達のリソース消費は最小限に抑えられていた。


『ふむ、なかなか骨のある挑戦者だ。ならば、もう少し力を上げてみよう』


 戦闘開始から15分ほどたった頃だろうか。

 大狼のセリフとともに、大狼の動きがさらに早くなった。


「くっ!?」


 ユキもいきなり動きの速くなった大狼相手に押され始める。


「ミドルヒール! 落ち着け、ユキ! まだ、その速さなら対応できる!」


 ユキが受けたダメージをすかさず回復しながら、ユキに声をかける。


「ユキ一度下がれ! チャージショット!」


 ユキが一度身を引いた時にできた間に、俺はノックバック効果の高いスキルを叩き込む。


「ありがとう、トワくん。助かったよ。私も一段階ギアを上げるよ! スピードアップ! ガードアップ!」


 ユキが【付与魔術】を使ってステータスの底上げをしてから、再度大狼との間合いを詰めた。


 ユキのステータスも底上げされたため、大狼との地力の差は再び埋められていた。


 とはいえ、激しく動くようになったため、ユキのスタミナ消費が多くなってしまった。


 ユキの攻撃の間隙を突くように、俺も攻撃しているためSTポーションを使う余裕はあるが、かなり綱渡りな状態になってきていた。


(何とかしないとさすがにじり貧だなぁ……ああ、そういえばこれとか効くんだろうか)


 俺は思いついたスキルを大狼に対して使用してみる。


「効果があったらもうけもの! ライトニングバインド!」

「ギャン!」


 ……なんとボス相手であったのにバインド系魔法が効いてしまった。


「ユキ、この間にスタミナ回復!」

「うん!」


 ライトニングバインドの効果時間は1分間。

 本来ならば拘束中は雷属性の継続ダメージも発生しているはずなのだが、HPバーが減る様子は未だにない。


 バインド系魔法は敵の抵抗力によって拘束時間が変わってくるが、大狼は特に抵抗するそぶりを見せず、しっかりと最大拘束時間の1分間を耐えてから立ち上がった。


 ……これはひょっとして。


「オーシャンバインド!」

「ギャウン!」


 ああやっぱり、バインド系魔法に弱いのかこの大狼は。


 そういうことなら話は早い。


「ユキ、この拘束時間が終わったら、もう1種類のバインド系魔法で拘束して時間を稼ぐ。バインド系魔法のクールタイムは5分だからその間だけ耐えるようにしてくれ」

「うん、わかった」


 オーシャンバインドの効果が切れたら、アイシクルバインドを使用して再度拘束する。

 バインド系魔法をすべて使い終えてクールタイムに入ったら、ノックバックやヒットストップ効果が高いスキルを中心に大狼の動きを封じるように立ち回る。

 そして、バインド系魔法のクールタイムが終了したらまたバインド系魔法で拘束して動きを止める。


 このようにして戦闘時間を稼ぎ、戦闘開始から30分が経過した頃、大狼側に新たな動きがあった。


『ほう、ここまで耐えるか。ならば認めよう、さあ、全力でかかってこい!』


 どうやら大狼の行動パターンがまた変化したようだ。

 先ほどまでよりも、より攻撃的な動きに変わっている。


 だが、一番変わったのは……


「トワくん、ダメージが与えられるようになった!」

「ああ、わかってる。たたみかけるぞ!」


 そう、これまで微塵も減る様子のなかった大狼のHPバーが目に見えて減り始めたのだ。

 それも、そこまで攻撃力ののっていないユキの牽制攻撃でもだ。


(さすがにこのHPの減り方は急すぎる。何か見落としがないか考えろ)


 高火力のスキルを使いながら、俺はこの『試練』の内容を考えていた。


(大狼は最初に『攻撃を耐えろ』と言った。そして、さっきは『認めよう』とも言った。つまり……)


「ユキ! 攻撃ストップだ! 一旦待て!」

「え? うん、わかった」


 大狼のHPは残り2割を切っていた。


 やはり、昨日のパワーレベリングで攻撃力はしっかりと底上げされていたのだ。


『ほう、攻撃を止めるか。ならば問おう。なぜ攻撃を止めた』


 大狼の方も戦闘態勢をといて、こちらに話しかけてきた。

 ……どうやら俺の想像通りのシナリオのようだ。


「もう試練は合格しているんだろう? ならこれ以上戦う必要もないかと思ったからだよ」


『ふむ、我が試練の内容を見抜いていたか。さらにわれをここまで追い詰めるか。ならば合格だ』


 どうやら俺のとった行動で正解のようだ。


 **********


 いつもお読みいただきありがとうございます。

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 ~あとがきのあとがき~


 というわけで、今回のボス戦は『30分間の耐久戦』でした。

 前日のパワーレベリングがあったからこそ、上位スキルが使えてそれで耐え抜いた形ですね。


 ご都合主義万歳。

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