41.狼は銀月に吠える 6 ~クエスト準備~
その広場は一見すると何もない広場にしか見えなかった。
「これよりクエストの発生方法を説明します……と言っても、あの湖に近づけばクエストを受注するかどうかの選択肢が表示されるだけですが」
サブマスさんが苦笑交じりに説明する。
「クエストを受注したあとはパーティごとにインスタンスフィールドに飛ばされてウルフ種モンスターとの戦闘になります。我々の目的は、このクエストについて、少しでも多くの情報を集めることです。各パーティに1人は【看破】スキル持ちを入れているので、敵モンスターの情報は必ず確認してみるようにしてください。何か質問はありますか?」
そこからは質問タイムとなった。
質問された内容は、事前に教授が教えてくれた内容と一緒だった。
俺達が新しく知った内容としては『ウルフ種のモンスターは攻撃力が高いため後衛が狙われると危険』と言ったところか。
質問タイムが終わったあと、サブマスさんと入れ替わるように教授が前に出た。
「知らない者もいると思うので自己紹介させてもらうのである。私はクラン『インデックス』のマスター、教授である。気軽に『教授』と呼んでもらいたいのである」
自己紹介が終わったあと、教授は今回の遠征についての説明を始めた。
ここで説明するって事は、全員に詳しい説明はした訳じゃなかったんだな。
「今回の遠征目的は特殊クエスト「狼は銀月に吠える」の調査である。クエスト発生条件については調査済みであるので、皆には実際にクエストに挑んでもらい、情報を少しでも多く持ち帰ってもらいたいのである」
「おいおい、それは俺達に人柱になれって事か?」
そんな質問が参加者の中から出るが、
「言い方は悪いが、その通りである。往々にして検証作業などそういうものである。それから、このクエスト中に関しては、デスペナルティが発生しないようになっているので安心して挑んでほしいんである」
「俺達がウルフに負けた場合どうなるんだ?」
「湖のそばに転送されて終わりなのである。勝っても負けてもリスポーンポイントに戻されることはないので、安心してもらいたいのである」
ちっとも安心できるような要素がない言葉を教授は言い放つ。
その後も、説明を続ける教授に質問を投げかけるプレイヤーがいるが、その返答はあまり具体的な内容とは言えなかった。
むしろ『わからないからこそ今回の遠征で調査するのである』という返答こそが一番核心を突いているだろう。
「――以上が現時点で判明している内容である。なお、今回の調査依頼に関しての報酬はすでに白狼君に渡してあるので、報酬については彼から受け取ってほしいのである」
教授の説明も終わったみたいだ。
これからはクエストに挑むPTを呼び、実際に戦ってみて情報を集めることになるらしい。
サブマスさんから第一陣の挑戦組が発表された。
俺達からは柚月達のPTが呼ばれている。
ついでにアイラやフレイがいるPTも呼ばれたようだ。
ああ、俺とユキのPTは呼ばれなかったよ。
呼ばれた3人は料理を食べてしっかりバフをかけ、準備万端といった状態だ。
「それじゃ、行ってくるわね2人とも。
「うむ、挑戦する限りは全力で行かせてもらおう」
「久しぶりの本格的な戦闘だー。腕がなるねー」
そう言い残して3人もクエストを受けに湖の方へと向かっていった。
それにしても、この第一陣の挑戦組の人選って……
「トワ君、君は第一陣はどの程度もつと思うかね?」
「……ああ、やっぱり全滅前提で弱いPTを送り込んだんだ」
「うむ。本命はこのあと乗り込む予定の第二陣である。それで、先の質問だがどの程度もつと思うかね?」
「聞きにくいことを聞いてくるよな、教授も……15分ぐらいもてば良い方じゃないかな」
「うむ。やはりそれぐらいが限界と行ったところか」
「そりゃ、事前情報もなしにボス戦をやればそんなものだろう。まして、今回は低レベルプレイヤー中心のPTなんだし」
「そうであるな。できれば少しでも多く有益な情報を持ち帰ってもらいたいものである」
「でも、敵のレベルがこちらにあわせて変わるなら低レベルでも勝てる可能性はあるんですよね?」
「うむ、可能性としてはある。であるが、そうなると今度は高いプレイヤースキルが求められるのでなぁ……」
確かに、敵のレベルがこちらにあわせて変わるなら、今向かっていった低レベルPTでも勝ち目はある。
だが、第一陣の中にそんな高いプレイヤースキルを持った人間はほとんどいないだろう。
その証拠にまだ開始5分程度しか経っていないが、戻ってくるPTが現れ始めた。
……さて、柚月達のPTはどれぐらいで戻ってくるのか楽しみだな。
――――――――――――――――――――――――――――――
「いやー、あれはちょっと無理ね。ヒーラーなしの私達じゃちっとも相手にならなかったわ」
結局、柚月達のPTが戻ってきたのは戦闘開始から15分ほどが経過したときだった。
「うむ、あのウルフ、なかなかに攻撃力が高かった」
「防御力も高かったよねー。ボクらの攻撃じゃダメージほとんど与えられなかったもの」
ヒーラーのいない柚月達のPTはポーションを消費しながら耐えた。
結果的にはそれが功を奏し、戻ってきた順番で言えば最後から2番目だった。
……もっとも、俺から渡したポーションがなければ早々にリタイアすることになっていたというのが、彼女達の現実らしいが。
そもそも、ボス戦にタンクもヒーラーもなしに挑む方が間違ってるからなぁ。
柚月達からボス戦の詳しい中身を聞いていると、他のPTの事情聴取を行っていた教授がこちらにやってきた。
「やあやあ、戦ってみた感想はどうだったかね」
「どうもこうもないわ。あれには私達じゃ勝てないわね」
やってきた教授に対してあきらめ顔で対応する柚月。
教授も柚月達が負けてきたことについては、あまり関心がないようだ。
「ふむ、疲れているところ早速で悪いが、ボス戦の事について詳しく説明してもらえるかね」
「ええ、まず敵のレベルだけど――」
自分達が戦った相手について詳しく説明する柚月。
その内容を補完するように、時々ドワンとイリスが対応する。
その説明を聞き終えた時、教授は渋い顔をしていた。
「……その様子だと私達の情報もあまり役に立たなかったみたいね」
「うむ……なんといえばいいか、役には立っているのであるが……」
教授は言いにくそうにこう続けた。
「……ほとんどのPTから同じような内容しか聞けていないのである」
「……確かにそれじゃあまり役に立ったとは言えないわね」
「情報のサンプル数としては文句がないのであるが、ここまで同じような話しか聞けないとなると攻略法も思い浮かばないのである」
教授が聞いた話をまとめると、
『攻撃力は高めだがあまり積極的に攻めてこない』
『ヘイト操作に寄るターゲット管理は有効』
『防御力がとにかく高くてダメージはほとんど与えられない』
と言った内容だったらしい。
柚月達が言っていた内容もほぼ一緒だし、ここまでの条件は確定だろうな。
「あとは実際に勝てた白狼さん達の話が聞ければなんだが……」
「うむ、白狼君は今こちらに向かっている途中らしいのである」
「白狼さんの話を聞いてからクエストに挑むというのは?」
「さすがに時間が厳しくなってしまうのであるな」
さすがにそこまでの時間は無理か……
「それじゃ、白狼さんのPTメンバーからでも話を聞けないかな?」
「ふむ、それならばいけそうであるな」
「OK。それなら白狼さんのPTメンバーを紹介してくれ」
「わかったのである」
俺とユキは教授の案内に従い、白狼さんのPTメンバーの元に向かった。
そこには昨日もお世話になった『白夜』のメンバーとサブマスさんがいた。
「おや、教授にトワ君達。いったいどうしたんだい」
「うむ。トワ君達がボスを倒したときの話を聞きたいそうである」
「なるほど、わかりました。我々の体験談で良ければ話しましょう」
「ありがとうございます」
「うむ。それでは私は出発準備の整っている第二陣のところに行って今わかっている事を説明してくるのである」
「よろしく頼むよ、教授」
「うむ、では行ってくる」
「……さて、トワ君達は何を聞ききたいのかな? 我々が知っていることはほぼすべて教授に話したつもりですが」
「念のために自分でも話を聞いておきたくて。それに、ボスを倒せた点についてはあまり説明されてなかったので」
「……ボスを倒したときですか。正直、我々も無我夢中であまり詳しいことを語れるほど情報はないのですが……」
「おい、あれなんてどうだ。ダメージを与えられるようになったときの話」
「……ああ、そういえば。我々が戦った時も、最初はほとんどダメージが通らなかったんです。でも、戦ってる途中からダメージが与えられるようになり始めてね……ただ、詳しい条件がなんだったのかはわからないんですよ。申し訳ない」
……なるほど、戦闘途中からダメージが通るようになったね……
「いえ、有益な情報でした。ありがとうございます」
「そうか、ならよかった。できれば君達にはボスを撃破してほしいんだ、よろしく頼みます」
「はい、精一杯がんばらせてもらいますよ」
……さて、こうなるとボスにダメージが通るようになる条件の候補となるは2つ。
それのどっちが正しいのか、こればっかりは賭けになるな。
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