40.狼は銀月に吠える 5 ~移動中~

 今回はクエスト開始前の移動だけです。

 なかなかクエスト本編にたどり着けない……


 **********



 ログインしたら、まずは昨日作っていたポーションも含めて販売用以外のポーションをすべてインベントリに突っこむ。

 すべて、と言ってもミドルポーションだけなので各100前後しかない訳だけども。

 教授は必要ないと言っていたが、足りない人もいるだろうと考えて多めに持って行く。


 そして、昨日ドワンが用意してくれた銃身を使ってハンドガンを製造する。

 魔石も奮発して第4エリアボスの魔石で一番品質のいい魔石を購入した。


 完成品はこれだ。


 ―――――――――――――――――――――――


 ミスリルハンドガン(虎熊) ★8


 ミスリル銀の銃身とタイガーベアの魔石からできた拳銃

 一件なんの変哲もない拳銃だが

 しっかりと魔力が込められており耐久性が高い


 装備ボーナスDEX+55


 ATK+75 DEX+55

 耐久値:240/240

 装弾数:6


 ―――――――――――――――――――――――


 さすがにエリアボスの魔石を使っただけあって、攻撃力がかなり高めだ。



 さて、そろそろ待ち合わせ時間が近づいてきてるしそろそろ行くか。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 集合場所には参加者らしき人影が集まっていた。

 数えてないけど40~50人ぐらいはいるんじゃなかろうか。

 ……ポーション足りるかな。


 現在時刻は現実時間で午後6時55分。

 キッチリ5分前行動だ。

 ……ほんと、5分前行動って誰が考えたんだろう。


「うむ、トワ君もついたようであるな」


 横から教授が現れた。

 はて、ひょっとして俺が最後だったんだろうか。


「こんばんは、教授。ひょっとして俺が最後か?」

「いや、そんなことはないのである。今、『白夜』のメンバーが点呼をとっているところである」

「点呼をとっているって事はそろってるんじゃないかなぁ」

「いや、すでにまだ来ていないメンバーがいることは確認されているのである。と言うわけで、最後と言うことはないのである」

「そっか、なら良かった……ちなみにポーション類を多めに持ってきたんだけど」

「配る必要はないのである。今日は各自の装備や消耗品は、各自でそろえることになっているのである。今更、追加でポーションを配布することになったら、そちらの方が問題が起こるのである」

「そっかー。そういうことならしょうがないか……ちなみに『ライブラリうち』のメンバーってどこにいるかな」

「『ライブラリ』のメンバーなら……あちらである」

「そっか、それじゃ皆と合流するよ」

「うむ、また後で」


 教授に教えてもらった方向に歩いて行くと、『ライブラリ』のメンバーを見つけることができた。

 ……デフォルト衣装の集団の中に、オリジナル衣装の人間が混ざっているとよく目立つな。


「あ、トワくん」

「お待たせ、俺が最後だったみたいだな」

「うちとしては最後ね。『白夜』はまだそろっていない……というか、白狼さんがまだ来てないらしいのだけど」

「白狼さんが? 珍しいな……あ、これ今日の分のポーションな」

「ありがとう。あとで皆に分配しておくわ……ちなみにユキの分もここに含まれているのかしら?」

「いいや、ユキの分は別にあるから、そっちのPT3人で分けてくれ」

「……まず間違いなく余るけど、一応預かっておくわ」

「うん、そうしてくれ」


 俺が渡したポーションは、やはり3人で使うには多かったらしい。

 少ないよりは多い方がいいし、問題ないよな。


「トワくん、私の分は?」

「ああ、今渡すよ……はいこれだ」

「……私一人で使うには多すぎる気がするけど……」

「んー、ユキに渡す分としては、間違ってないと思うぞ……多分、今回のクエスト長期戦必至だろうから」

「なるほど。それでHPポーション多めなんだね」

「ああ、そういうことだ。ただ、ポーション中毒には気をつけてくれよ」


 『ポーション中毒』というのは、短時間に大量のポーションを使用した場合に発生するデバフだ。

 実際にポーション中毒にかかった人いわく『ひどい2日酔いにかかったような気持ち悪さ』だそうな。

 ポーション中毒は段階的に進行するみたいだから、少し気持ち悪くなった段階で飲むのを止めれば、割とすぐに治まるらしい。

 2日酔いに近い症状が出るのは、末期らしい。

『らしい』としか言えないのは、自分がポーション中毒になったことがないからだ。

 ……誰も好きこのんでゲームの中で気持ち悪い思いをしたくはないよ。


「うん、わかった。気をつけるよ……ちなみにどれぐらいでポーション中毒って発生するの?」

「発生しやすさはMPポーションが1番高く、次いでSTポーション、HPポーションの順番らしい。ただ、どの程度でポーション中毒が発生するかはよくわかってないな。どちらにしても数分間で何本もポーションを使うような事をしなければ大丈夫だろう」

「了解だよ……そろそろ集合時間だけど、白狼さんまだ来てないみたいだね」

「……そうみたいだな。リアルで何かあったのかな?」

「かもしれないね……うん? あれはアイラちゃん?」


 振り返ってみるとアイラがこちらに駆けてくるのが見えた。


「……ああ、ここにいたのね。白狼さんなんだけど、リアルの事情で遅れてくることになったの。もうそろそろ移動を始めるから、私についてきて」


 アイラの先導に従って歩いて行くと、『白夜』の集団の中心付近に位置取ることになった。


「ああ、『ライブラリ』の皆さん。うちのクランマスターが遅れてしまって申し訳ないです」


 彼は確か……『白夜』のサブマスだったはず。

 この人は白狼さんと別行動が基本で接点が少ないから、印象が薄いんだよな。


「どうやらリアル事情で遅れているみたいでして。仕方が無いから先に出発することになりました。『ライブラリそちら』の準備は大丈夫ですか?」

「もちろん、大丈夫ですよ。それじゃ、道案内よろしくお願いします」

「ええ、任せてください。ついでに道中の護衛も兼ねてるので安心してついてきてくださいね」


 そう言い残して先頭の方へ歩いて行くサブマスさん。


 程なくして彼の号令を合図に、ここに集まっていた集団が動き始めた。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「それにしても、驚いたわよね。あいつのこと」


 クエスト発生場所に向かう道中、俺達のそばにはアイラとフレイを含む『白夜』のPTが同行していた。

 どうやらこのPTは、俺達と同じようにまだレベルの低いメンバーが集まっているPTのようだ。

 ……レベルが低いと判断する理由は、装備品の種類だな。


 アイラが俺に話しかけてきているので、適当に相手をする。


「あいつ? 誰のことだ?」

「あいつよ。あの日、私達にちょっかいをかけてきてた、園田のこと」

「ああ、あいつか。あいつがどうかしたのか?」

「事前にあなたから情報は聞いていたけど、本当に刃物を家から持ちだして出歩いてたなんてね……」

「そうは言われてもな……正直、家から刃物を持ち出して、街を出歩いていた奴の精神状態なんて理解できるはずもないだろう」

「いや、まあ、そうだけどさ……何でそんなことしてたのか気にならない?」

「ふむ、そんなアイラに言いことわざを教えてあげようか」

「何よ?」

「『好奇心は猫を殺す』だ。世の中知らない方がいいことなんて山ほどあるぞ」

「……むしろそう言われると余計に気になるんですけど」


 ふむ、アイラはなかなかひねくれた性格をしているようだ。


「もう、アイラちゃん。いつまでも学校の事引き摺ってないで、今日のクエストのことに集中しましょう?」

「……そうね、クエストの事に集中しましょう」

「うん、それがいいよ」

「それで2人は何でこっちに来てるんだ?」

「え、やっぱり多少とは言っても知り合いのいる場所の方が落ち着くじゃない」

「……いや、そこは移動時間の間にPT間で連携の確認とかすることあるだろう?」


 アイラは完全に不意を突かれたような表情で固まっていた。


「ほら、トワ君にも言われた……それじゃあ私達は自分のPTのところに戻るね」

「仕方が無いか……またねトワ、ユキさん」


 こうして2人は自分達のPTの元へと戻っていった。


「結局、あの2人は何をしに来たんだ?」

「えっと、多分、緊張してたから知り合いである私達に会いに来たんじゃないかな?」

「知り合いと言っても数回しか顔を合わせてないだろうに」


 そんな相手と話をして、緊張がほぐれる物なのだろうか。

 やっぱり女子の感性っていうのは理解できないな。


「やあやあ、調子はどうであるかな」


 教授がやってきた。


「教授、今回はどのような用件で?」

「うむ、トワ君は話が早くて助かるのである」


 それは、そうだろう。

 今回の件、全体を取り仕切っているのは『白夜』ではなく『インデックス』だ。

 ならば、『インデックス』のクランマスターである教授が忙しいのは当然だろう。


「それでは早速本題に入らせてもらうのである。トワ君達『ライブラリ』全員のPTメンバーの種族レベルを教えてほしいのである」

「構わないけど、何でまた」

「うむ。私はこのクエストの敵はPTメンバーのレベルが関係していると思うのである。なぜなら、以前に『白夜』が戦闘した際のPTメンバーのレベルを聞くに1戦目は割とレベルがそろったPT、2戦目は全員がLv50、すなわち現状のレベルキャップカンストであるな。3戦目はかなりレベルにばらつきがあったPTであったらしい」

「それで、『インデックス』が戦ったときはどうだったんだ?」

「うむ。今日の早朝にクエスト発生場所に行ったPTは平均レベル30前後と言ったところであった。それで出てきたウルフモンスターのレベルは43だったのである」

「となると、PTメンバーの平均レベルか最大レベルから、敵モンスターのレベルを算出している可能性が高いって訳か」

「そうである。なので、移動時間に各PTのレベルを確認して歩いているのである」


 検証班というのもなかなか地味で大変だ。


「そうか、俺達のPTは俺が20でユキが22だな」

「私達のPTは私が15、ドワンが17、イリスが14ね」

「ふむ……了解したのである。それではまた後で」


 それだけ言い残して、教授はまた別PTの元へと向かっていった。

 おそらく本人の言うとおり、今のうちに全PTの構成を調べるつもりなのだろう。

 いやはや、その行動力には頭が下がる思いだ。


「教授も忙しそうね」

「まあ、本人が望んでの大遠征だ。いやとは言わないだろう」

「それもそうね、あ、ここからは森の中に分け入っていく見たいね」

「そのようだな……後の方で勝手につけてきている連中をまければいいのだが」

「それも今回は私達が心配することじゃないって……私達もはぐれないようについていきましょう」


 しばらく歩いたところで、先頭集団が森に入っていったため、俺達もそれに続いて森の中に分け入っていった。


 森の中は想像以上に鬱蒼としており、森に入ってから5分ほどで一度全員が固まって集まり状況確認をする事となった。


「……私達に目立った被害はないようですね。ここから先はエンカウント率も高くなるから、各員モンスターの強襲には十分注意してください。では出発します」


 サブマスさんの号令によって再び移動を再開する俺達一行。

 後の方で戦闘音が聞こえるのは、勝手についてきていた連中がエンカウントしたのだろう。


 一方、俺達はと言うと、モンスターに襲われることもなく順調に距離を稼いでいる。

 四方を取り囲む形で守られながらの移動となったが、周囲のパーティ達が『モンスター除けのポーション』を使用しているみたいだ。


 『モンスター除けのポーション』とは、その名の通り自分達のレベルよりある程度格下のモンスターが近づけなくなるポーションの事だ。

 それを使用したPTが四方を守ることによって、モンスターを近づけなくしているのだろう。


 俺達は森の中を何度かの方向転換を挟みながら進み、開けた場所にたどり着いた。

 そこは森の中に広がる湖のほとりにある広場だった。


「さあ、ついたぞ。ここが今回のクエストが発生するポイントだ」


 **********


 いつもお読みいただきありがとうございます。

「面白かった」「これからも頑張れ」など思っていただけましたらフォローや応援をお願いします。

 作者のモチベーションアップにつながります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る