37.狼は銀月に吠える 2 ~パワーレベリング 1 ~

「パワーレベリングって……いいのか? 『白夜』のメンバーがそんなことして」


 パワーレベリングとは、強いプレイヤーが弱いプレイヤーを引き連れて強いモンスターを倒す事により、高速でレベルを上げていく方法の事だ。

 こういった方法をとるのは間違いとは言えないが、キャラスペックにプレイヤースキルが追いつかない事になり、基本的な連携や戦い方などが身につかないと言う弊害があるため、あまり推奨されない行為である。


「もちろん誰でもいいって訳じゃないさ。むしろ僕達からしてみれば、トワ君と、トワ君の相棒として戦えるユキさんはプレイヤースキルに対してキャラスペックが追いついていない。そういう状態なんだよ」


 それは前から思っていた。

 元トッププレイヤーの端くれだった自分や、それについてこられるユキのプレイヤースキルを考えれば、キャラスペックはあまりにも低い。

 ただ、俺達は生産職であったため、その辺の問題は気にならなかっただけなのだ。

 さらに言えば、俺もユキも完全に固定PTしか組まない。

 組んだとしても、せいぜいクランメンバーが入ることがある程度なので、他の大多数のプレイヤーにあわせるようなプレイスキルを身につける意味もないだろう。


「行く予定なのは先ほども言ったとおり、鉱山ダンジョンの深層――地下25階から30階だ。ここならば種族レベルや職業レベルはほぼ上がらないが、スキルレベルはすごい勢いで成長する。基本スキル類ならだけどね。それに、鉱山ダンジョンならインスタンスダンジョンだから、僕達がパワーレベリングを行ったとしても誰かに迷惑をかける事は無いからね」


 基本スキルと言うのは、スキル進化も上位派生もしていないスキル類の事を指す言葉だ。

 つまり、明日中にスキルレベルだけでも鍛えて明後日の本番に備える、と言う事だろう。


「本当ならば種族レベルや職業レベルも上げるのを手伝ってあげたいのだが、さすがに明日一日だけじゃスキルレベルを上げるだけで精一杯だからね。それは了承してほしい」

「いや、それは構いませんが。パワーレベリングそれをすることで得られる、『白夜』にとって利益はなんですか?」

「あのクエストについての報酬情報が集まりやすくなるって事かな。正直、僕達のクランでもこのクエストをクリアできそうなPTはそんなに多くなくてね。勝てる見込みのあるPTは、一線級のメンバーが指導役としてつくことでそれぞれ鍛えているところだよ」


 ふむ、この申し出を受けるメリットは大きいが、デメリットは特になしか。


「ついでに言うならいつも上質なポーション類を納めてくれているお礼と、早く先のエリアに進出してもらってより上位のアイテムを売ってもらえるようになってほしいという欲かな。自分達のアイテム事情を解決するための先行投資と考えれば、この程度安いものさ」


 これは、断る理由がないな。

 ネックになっていた戦闘スキルのレベル不足が解消されるのだから、こちらには得しかない。

 あえて言うなら、パワーレベリングする時間がかかるぐらいだけど、普通のレベリング作業でも消費するリソースだし、何の問題もないな。


「ユキの方は明日の夜、時間あいているか?」

「うん、お店の商品補充をしなくても大丈夫なら問題ないよ」

「お店の事は心配しなくても大丈夫よ。できれば日中に在庫補充しておいてもらえると助かるけれど、少なかったら少ないで対応するわ」


 そういう事ならお言葉に甘えさせてもらうか。


「それでは、白狼さん、レベリングのお手伝いよろしくお願いします」

「うん、わかった。こちらこそよろしく頼むよ」

「うむ、話もまとまったようであるのでよかったのである」

「それで明日の集合時間なんだけど、午後8時に鉱山ダンジョンのポータル前で大丈夫かな?」

「午後8時ですね。俺は大丈夫です」

「私も大丈夫です」

「それじゃあ決まりだね。明日はよろしく」

「こちらこそよろしくお願いします」

「それでは済まないが、僕はこれでおいとまさせてもらうよ」


 話し合いが終わったところで、白狼さんが帰っていった。

 きっと明後日の準備など、このあとも予定がつまっているのだろう。

 大手のクランマスターというのは大概大変である。


 『ライブラリ』の他のメンバーもそれぞれの作業に戻っていった。


「ふむ、それにしても『ライブラリ』全員が今回の依頼を受けてくれて助かるのである」

「まあ、あれだけの素材を提示されれば断らないって」


 応接間に2人残った俺と教授の会話は雑談へと移っていた。


「そうは言われても、心配なものは心配だったのである。それにもし断られれば、あの素材群を死蔵しなければならなかったのである」

「まあ、素材レベルが高いからな。うちのメンバーで何とか扱えるかどうかってところだろう。ちなみに、他の生産系クランには協力を求めていないのか?」

「一応、クランマスターにだけは話をしてみたところは何カ所かあるのであるが、すべて断られたのである」

「まあ、そうだろうな。戦闘系クエストを受けたがる生産者など普通はいないさ」


 生産職の場合、戦闘は苦手としている。

 単純に戦闘スキルやレベルを上げる時間がないものや、戦闘そのものを苦手としているものなど差はあれど、一般的な生産職は戦闘系クエストなど、必須クエストでもない限りは避けて通るだろう。


 ましてや、今度の相手はウルフ系のモンスターである。

 このゲームにおいてウルフは『初心者殺し』とも呼ばれているモンスターで、初心者の頃に痛い目を見たプレイヤーの中には『ウルフ系のモンスターは苦手』という苦手意識をすり込まれたものもいるだろう。

 相手がたとえ1匹であったとしても、3メートルクラスともなればかなり大きい。

 それだけ迫力もあるということだから、戦闘が苦手なプレイヤーは避けたがるだろう。


「ちなみに、俺達の他にはどんな人がクエストに挑む予定なんだ?」

「『白夜』と『インデックス』関係者のみである。さすがに不確定情報が多すぎて他に誘えそうなところがないのである」

「なるほど、情報屋というのも大変だな」

「まったくである」


 そのあとは、教授の半分愚痴のような会話を聞き、30分ほどで教授は帰っていった。


 さて、俺も明日の商品と自分でダンジョンに持っていくためのポーションを作成するとしますか。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 日付が変わって日曜日。

 今日は現実での予定は入っていなかったため、午前中も少しログイン。

 拳銃製造いつもの依頼をこなしたら、ポーションを作るために工房へと足を運ぶ。

 フレンドリストを見る限り、クランメンバー全員がログイン中となっていた。


 調合用の工房にたどり着くと、予想通りユキもいて料理を作っていた。

 俺達は軽くおしゃべりをしながらそれぞれの生産活動をお昼前までこなしていった。



 昼食を食べて食休みを取ってから本日2回目のログイン。

 工房に向かってポーション作りをしようとしたら、柚月に呼び止められたので、柚月と軽く打ち合わせをする。


「……それじゃあ、お店についてはこれで決まりね」

「ああ、今日一日様子を見て、問題がなさそうなら、常に開店状態24時間営業でいいと思うんだ」

「そうね、あの頃のように毎日大量の品物を作るなんてできない訳だしね」

「そうそう、あの頃は最盛期で14人在籍していたクランも、今じゃ5人だけの零細クランだ。毎日毎日大量に商品ばかり作っている訳にもいかないさ」

「……そうね、あの頃と同じ感覚でお店をやることなんてできないわよね。現状が落としどころと考えて行動することにするわ」


 それで文句を言ってくる人間がいたら遠慮せずにブラックリストに入れてやればいいのだ。

 俺達としては、お得意様もいることだし少しぐらい収入が減っても大して痛くはない。


「それじゃ、この方針で今日はいってみるわ。トワ達もレベリングがんばってきてね」

「ああ、わざわざ白狼さんが『白夜』の精鋭を連れてくるって言ってくれたんだ。この機会に2次スキルへいくつかは進化させてみせるよ」

「そうしてもらえると私達も助かるわ。いい加減、次の街にも行きたいしね」

「そうだな。そっちもそろそろ考えておこう」


 こうして打ち合わせも終わったので、俺は改めてポーション作成のために工房に向かった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 夕食を食べて寝る支度を調える。

 そして、約束していた時間の30分ほど前ログインすると、ユキはすでに待っていた。


「お待たせユキ。少し待たせたか」

「ううん、平気。今、ドワンさんと柚月さんに装備の修理してもらっているところだし」


 武器の修理か、俺の武器は……耐久値が十分に残っているな。

 防具の耐久値もほとんど減っていない。


 ここら辺は、タンクをつとめるユキと後衛職である俺の差だろう。


 今のうちにユキの分のポーションを渡しておく。

 それから少し待っていると、ドワンと柚月がやってきてユキの装備を渡す。

 ユキの装備も整ったことだし、ホームポータルから鉱山ダンジョンに向かうとしますか。



 鉱山ダンジョン前に到着すると、すでに『白夜』のメンバーはそろっていた。


「やあ、こんばんは、2人とも」

「こんばんは、白狼さん。待たせてしまいましたか?」

「いやいや、僕達が早く着きすぎただからね。ちょっと前までは慣らしも兼ねて、少し鉱山に潜っていたぐらいだよ」


 それならよかった。

 やっぱり格上の相手を待たせるのは気分がよくないからな。


 『白夜』のメンバーは、以前第3の街に向かった際にも一緒だったメンバーの中から4人来てくれたみたいだ。


「それじゃあ僕達のPTに合流してくれ。教授から聞いているが25階まではショートカット登録済みでよかったよね?」

「はい。なので25階からお願いします」

「了解した。それで、鉱石の採掘は行うのかい?」

「白狼さん達が採掘を行うならやりますが、どうします?」

「それじゃあ僕達も採掘をさせてもらおうかな。上質な鉱石はいくらでも需要があるからね」

「わかりました。それじゃあいきましょうか」


 ダンジョン突入前の意識合わせもできたので、俺達は鉱山ダンジョンへと入っていった。


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 ~あとがきのあとがき~


 作者のパワーレベリングに対する考え方は明日のあとがきのあとがきで書いています。

 明日までお待ちください。

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