36.狼は銀月に吠える 1 ~依頼内容~
本日より『狼は銀月に吠える』編がスタートです。
よろしくお願いします。
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「『狼は銀月に吠える』? 聞いたことのないクエストだな」
俺は教授の提示したクエスト名を聞いたことがない。
最近発見されたクエストなんだろうか。
「うむ。聞いたことはないはずである。この情報はまだどこにも流してないのであるからな」
「知っているのは今現在だと、僕達『白夜』の一部に教授、それから君達『ライブラリ』のメンバーになるかな」
「それはまたどうして?」
「僕達が発見したクエストだからだよ。たまたまだけどね」
『白夜』が発見したクエストとは驚いた。
でも、『白夜』が発見したクエストなら、俺達がいける範囲のクエストなんだろうか?
「その顔は自分達が発生場所までたどり着けるかどうか、訝しんでいるのであるな」
おや、顔に出てたらしい。
「その心配であるが問題ないのである。クエストの発生場所は【第2の街】から【第4の街】へ抜ける途中である。ボスを倒す必要もないので、発生場所に行くだけであれば『ライブラリ』のメンバーであっても特に問題ないのである」
「なるほど。それなら特に問題はなさそうだな」
場所的には特に問題はなさそうだ。
【第4の街】に抜ける途中の敵、という問題はあるが。
「詳しい場所については当日教えるのである。それからその場所までは『白夜』のメンバーに護衛してもらう予定であるので道中の心配もいらないのである」
護衛付きか、なお結構。
「それで詳しいクエスト内容なのであるが……これが今回の調査対象なのである」
「クエスト内容が調査対象、ですか?」
ユキが疑問の声を上げる。
確かに、『クエスト内容』が『調査対象』と言うのはおかしい。
普通のクエストは、発生した時点で『クエスト内容』がわかるのが一般的だ。
クエストの進行によってクエスト内容、と言うか達成すべき目標が変わることはよくあるが、内容そのものがわからないというのはおかしい。
「うむ。このクエストはクエスト目標が『幻の平原にて大狼の試練に打ち勝つ』となっており、詳しい内容や達成目標が不明なのである」
「それはまた……それで、実際にはどんなことを要求されたのよ」
「やるべきことははっきりしているのである。ウルフ系のモンスター1体との戦闘である」
「戦闘することがクエスト内容じゃと? それならばわしら職人が出向くのは筋違いというものではないかのう」
確かに。
戦闘系のクエスト検証なら戦闘系クランに依頼するのが妥当だろう。
「それについては僕の方から補足させてもらうよ。どうやら出てくる敵の強さが毎回違うようなんだ。最初に発見したPTでは敵ウルフ種のレベルは55だった。でも、2回目に戦ったPTでは60、3回目のPTでは47だったんだよ」
「そういう訳なのである。敵の強さが一定ではない以上、戦闘系クランだけでは検証が足りないのである」
「それで私達にねぇ……それって勝ち目あるのかしら?」
「正直、それは何とも言えないな……2回目に戦ったと言うのが僕のPTなんだけど、そのときは30分以上の戦闘の上でようやく勝てたぐらいだからね。ちなみに残りの2PTはどちらも負けたよ」
「とりあえず今わかっているのは、『特定の日に特定の場所に行けば発生する』『クエスト内容の詳細は不明だがウルフ系のモンスター1体と戦う』『敵のレベルは変化する』といったところである」
「あと、もう1つわかっているのは、勝っても負けても同じ日に2戦目はできないって事だね。PTメンバーに1人でも戦闘済みのプレイヤーがいれば、クエストは発生しなかったからね」
なるほど、今現在はほとんどわかっていない状態で手探りなのか。
それで、戦闘系クランだけでなく戦闘系レベルの低い生産系クランからも人が欲しいと。
「うーん、俺としては受けてもいいかなと思うんだが、どうだろう?」
「トワくんが受けるなら私も受けるよ」
「私は微妙なところね……お店のこともあるし」
「わしもじゃのう」
「ボクもー」
まあ、ガチ生産組がこの手の戦闘系クエストに消極的なのは当然だろうな。
なにせ、戦闘系スキルは本当に最低限でしか育ててないんだから。
「もし受けてもらえるならば、クエストの成否は問わず報酬は用意するのであるが?」
「報酬ねぇ……自分で言うのもあれだけど、私達それなりにお金持ちよ? ちょっとやそっとの報酬じゃ動かないわよ」
「そこは心配ないのである。『白夜』の協力の下、第6エリアや第7エリアでしか手に入らない素材類をふんだん……とまでは言えないもののそれなりの数を用意させてもらったのである」
そう言って教授は1枚の紙を渡してくる。
どうやら協力したときにもらえる素材の一覧のようだ。
「へえ、裁縫系は
これはまたずいぶんと奮発したものだ。
「……いいでしょう、受けるわ」
「ここまでのものを用意されたとあっては断れないのう」
「さすが教授、ボク達のツボを心得てるねー」
どうやら残りの3人も受けるつもりになったようだ。
「うむ。気に入ってもらえたようで重畳である」
「これで断られたら用意できる報酬がまったくなかったからね」
やはり、あちらの2人にとっても用意できる報酬の限界がこれだったみたいだ。
噂だと『第6エリアと第7エリアの先は未実装エリアではないか?』とすら言われてるからな。
それぐらいエリアボスが強いというわけだ。
そんなエリアに存在しているモンスター素材や、各種採取素材が価値が低いはずもなく、またお金を積めば手に入るとは限らない。
はっきり言ってしまえば、ここで俺達が断ると行き場を失う素材群でもある。
「ちなみに、トワくん。この薬草って何に使えるの?」
「魂魄草からは蘇生薬が作れるはずだな。霊薬草はハイポーション系の素材の1つだ。……どっちもまだレシピ持ってないけどな」
「ふむ、レシピがあれば作れるのかね?」
「蘇生薬は作れると思う。品質は低いだろうけど。ハイポーションは多分まだ無理。ミドルポーション未満の回復量しか出せないと思う」
「それはトワ君のミドルポーションを基準として考えているからだと思うのであるが。まあ、レシピも必要という話ならレシピもつけよう」
「お、それはありがたい」
「他の皆は追加で欲しいものはないかね?」
「あえて言えば数が欲しいってところね。さすがにこのランクの素材じゃかなり練習の必要があるから」
「……そちらはあまり期待しないでほしいのである」
「ははは、僕達もそこまで数をそろえられなくてね……」
さすがにここに書かれている以上の数が欲しいというのは無理だろう。
この数だってかなり無茶してそろえたんだろうし。
「まあ、これらの素材が存在していることがわかればいいわ。1個実物があれば、買取リストに出せるからね」
「できればそうしてほしい。そうすれば僕達も取得したときに売る事ができるからね」
どうやらこれで交渉成立のようだ。
『
うん、Win-Winの関係だな。
こちらの得が多い気がするけど。
「ところでこの魔蜘蛛の絹って布の状態でドロップするのかしら? 糸じゃなくて」
「いや、ドロップ品としては魔蜘蛛の糸がドロップする。それを住人に依頼して作ってもらったのが魔蜘蛛の絹だ」
「へぇ……ねえ、絹じゃなくて糸って余ってない? できればそちらもほしいのよ」
「量はそんなに用意できないが可能だよ。それじゃあ、報酬の方に追加しておこう」
「ありがと、助かるわ」
追加報酬の話もまとまったみたいだ。
そろそろ依頼の詳しい内容を聞かなきゃな。
「うむ、そろそろいいかね。依頼について詳しい内容を話したいのであるが」
「ええ、もう大丈夫よ。よろしく教授」
「うむ。まずクエストが発生する『特定の日』であるが、『毎週月曜日の月が出ている時間帯』である」
「月曜日の月が出ている時間帯?」
「うむ。これはまだ予想であるが現実時間で月曜日の午前3時から午前9時、午後3時から午後9時であると思われる」
「ああ、そういえばこの
「然りである。午後3時から午後9時は確定であるが、それだけではゲーム的に参加出来ないプレイヤーもいるのである。なので午前の方もクエストが発生するはずである」
「根拠としては弱い気がするがのう」
「まあ、そちらはついでで『
そういうことならいいか。
さすがに学校に行く前にクエストって気分にはならないからな。
「次は場所であるが、これは当日に案内するので省略させてもらうのである」
「まあ、今聞いてもしょうがないしね」
場所は当日わかればいいんだから、今日聞く必要はないだろう。
「そしてここからが本題、『ライブラリ』には来週月曜の夜時間帯に『2PTに別れて』クエストに挑んでほしいのである」
「2PT?」
「具体的には、トワ君とユキ君のPTと柚月君、ドワン君、イリス君のPTである」
「その根拠は?」
「まず、柚月君達のPTについてであるが、すまないが負ける前提として調査データの採取に協力してもらいたいのである。無論、勝てるのであれば倒してしまっても問題ないのである」
「それ、負けフラグね」
「まあ、わしらでは勝てないであろうのう」
「そしてトワ君達のPTであるが、こちらは普通に勝利を狙ってほしいのである。ウルフ系の相手であれば慣れているであろう?」
「まあ、チュートリアルで散々戦ってきたからな……って、あの手のAIが変化するボスタイプのウルフって事か……」
「然りである。先ほどは個体ごとにレベルが違うと言ったが大きさは一緒、体長3メートルほどのウルフである」
「普通にエリアボスサイズか……やれそうか、ユキ」
「うん、トワくんと一緒ならいけるよ」
うん、サイズを聞いても怖じ気づいた様子はないな。
これなら本当にいけそうだ。
「それで、集合時間であるが月曜の午後7時頃に第2の街東門に頼むのである」
「午後7時に東門ね。わかったわ」
「現地までは護衛されながら歩いて30分ほどの道のりである。必要なものは戦闘に必要なアイテム一式である」
「まあ、戦闘系クエストだからねー」
「説明は以上であるが、何か質問はあるかね?」
「俺からは特に何もないな。せいぜいポーションを大量に用意させてもらうくらいで準備も大丈夫だ」
「私も大丈夫です」
「私からも特にないわね」
「わしもないのう」
「ボクもなし」
それじゃあ今日はこれで解散かな?
「うむ結構。それで、トワ君とユキ君には明日の夜にも時間を取ってもらいたいのである」
「え、明日の夜?」
「うむ、明日、日曜の夜である」
柚月の方をちらりと見たが、柚月は黙って頷いて返して見せた。
つまり、明日の夜に俺達がいなくてもお店は大丈夫という意味だろう。
「……多分大丈夫だけど、いったい何をするつもりだ?」
「トワ君とユキ君には勝ってもらいたいからね。我々は出来る限りのサポートをするのであるよ」
「うん、そういうこと。具体的には明日、僕達『白夜』の精鋭と一緒に鉱山ダンジョンの深層に潜ってもらうよ。わかりやすく言えばパワーレベリングと言うやつさ」
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