32.火曜の夜 ~千客万来 2 ~
前話の続きです。
なかなか大変なことになってしまってますね。
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「うそでしょ……」「うむう……」「あちゃー……」「これは……」
予想をはるかに上回る人手に、絶句してしまった俺達4人。
ユキはこの状況をあまり理解していないのか、「たくさん人が並んでるね」などと言っている。
「うん、これはダメだわ。プランBで行きましょう」
「まて、プランBなんてないだろう」
「勢いで言ってみただけよ。ほら、『こんなこともあろうかと』とか言うあれと似たようなものよ」
「うん、取りあえず今話し合わなきゃいけないことじゃないのは理解した。……で真面目にどうするよ?」
「……どうしましょうかね」
さすがにいきなりこの人数は想定していなかった。
というか、なんでこんなに集まったんだ?
「ここで思考停止していてもしょうがないわね。トワ、現実的な対処方法って思いつくかしら?」
「まずは入場制限だな。人だけ大量に押し寄せても『自動会計レジ』は4台しかないから、一度にさばける人数は4人だ。入場制限をかけないと店の中が人混みであふれかえるだろう」
「確かにそうね。それじゃあ何人ぐらいにするの?」
「20人……と言いたいところだが様子見で15人に設定しておこう。それで余裕があるなら少しずつ制限を緩めていけばいい」
「OK、『最大入場人数:15人』に設定変更したわ。次はどうする?」
「滞在可能時間もいじろう。1時間も居座られたら困る。これも様子見で20分、いや30分ぐらいにしておこう」
「了解。『店舗スペースの滞在可能時間:30分』っと。他はどうするの?」
「まずは購入数制限だな。1人の購入数制限で商品の在庫切れまでの時間を引き延ばそう。装備品は1人1つ、料理は1人3つ、ポーション類は1人5個までで設定しよう」
「わかったわ……OK、設定完了したわ」
「それから、確か『会計が終わった客の退店』って項目があったよな」
「ええ、確かにあるけど、これも使うの?」
「1人が滞在可能時間の間、何回も購入するのを防ぐにはそれしかないだろう。商品の購入時と買取時で設定分けられたよな?」
「ええ、それぞれ設定可能よ」
「だったら、『会計が終わった客の退店:購入時』を設定するぞ……よし、これでOK」
「とりあえずはこれくらいかしら」
「そうだな。他の機能は使ってみないとどうなるかわからない。無駄に使って混乱するくらいなら様子見してから設定するかどうか考えればいい」
「そうね。あとするべき事は何かしら」
「今設定した制限を事前にお客に伝えておかなきゃいけないだろうな」
「……つまり並んでいる人達に説明して歩かなきゃいけないのね……」
「そういうこと。悪いけど頼んだよ、大学生?」
「つまり、私達にやれと……まあ、あなたやユキ、イリスに頼むわけにはいかないものね」
「そうじゃのう。貧乏くじを引いたと思って諦めて説明してくるぞい」
「それじゃあ早いところ説明に行きましょうか。店内は頼んだわよトワ」
「ああ、任された。説明よろしくな」
そうして俺達は手分けして作業を始めた。
――――――――――――――――――――――――――――――
「はい、お一人で購入できる制限は装備品が1個、料理が3つ、ポーション類が5つまでとなっています」
「えーと、今日は装備の受注をできるほど余裕がないんだよねー。悪いんだけどまた日を改めてね」
「そこ、危ないので押し合わないでください!……ああ、はい、商品を購入しましたら自動で店外に移動しますのでまたよろしくお願いします」
開店から1時間、店の運営は順調……とは言えないまでもなんとかやれているといった状況だ。
たまに購入制限でごねる客もいたが「ブラックリストに載せますよ?」と笑顔で
……なお、それでも諦めなかった相手は本当にブラックリストに載せて
次に多いトラブルは、
「ねえ、君カワイイね! あとでどこか一緒に狩りに行こうよ!」
……うん、要するにナンパだ。
「あの、お買い物にいらっしゃったのでは?」
「そんなのあとあと! とりあえずフレンド交換しようぜ!」
「お客さんではないのでしたらお帰りください、それでは」
「え、ちょま」
まあ、ユキに関しては自分がナンパされてるとわかれば、さっさとブラックリストに登録してしまうのであまり問題はない。
……個人的な感情以外は。
問題なのは……
「え、ボクとフレンド交換したいの!?」
イリスの方だ。
さすがに中学生にこの相手は厳しいので、俺が代わりに対応している。
「お客さん、この子はハーフリングだけど中身も見た目通りの歳だよ。ハラスメント警告が出る前に帰った方がいいんじゃない?」
「うん? なんだね君は、僕はこのカワイイお嬢さんと話をしているんだよ」
「誰かと聞かれたら、ここの店主と答えるしかないんだけどなあ。ねえ、帰ってもらえないかな?」
「ここの店主……【爆撃機】!? はい、失礼致しました!!」
何とか
「はあ、ありがとうね。トワ。ボクもユキちゃんみたいな感じに追い払うことができたらなー」
「あれはあれで慣れが必要だから、急いでああいう風になる必要はないぞ。それよりも疲れてないか? 疲れたなら奥で休んでもらって構わないんだが」
「んー。まだまだ平気だよー。ありがとうね、トワ」
『トワ、今店の在庫どうなってる?』
店外にいる柚月からフレチャで在庫確認の連絡が入った。
ええと、在庫はっと……
「ミスリル製の武器の在庫が微妙になってきてるな。まだ売り切れているのはないけど、
『了解。売り切れが出たらまた連絡ちょうだい』
売れ筋商品はやっぱり高ランクの装備品や料理、ポーションだった。
購入制限をかけているのに高ランクのプレイヤーがこぞって買っていくからだ。
料理はまだ3つ制限というのが効いていて売り切れまではもうしばらく時間がありそうだ。
だが、ポーションの方はもうすぐ売り切れそう……あ。
「柚月、★8のミドルMPポーションが売り切れた。★7についてはまだ在庫に余裕あり」
『了解。それじゃあ周りにそう伝えるわね』
……うん、MPポーションは俺が調薬の時に自分で消費した分も結構あるから在庫が少なかったんだ。
そこに追い打ちをかけるように、皆買っていくから早々に売り切れてしまった。
今度、MPポーション作るときは多めに作らないとダメだなあ。
ポーション中毒回避するためにも、自分で飲むポーションはランク高くないとダメだし……
「はーい、儲かっているようね、トワ」
「こんばんは、トワ君」
「なんだアイラにフレイか、どうしたんだ」
クラスメイトのアイラとフレイがやってきていた。
「どうしたって、普通に買い物に来ただけよ。まあ、視察も兼ねて?」
「白狼さんにお店の様子を見てきて欲しいって頼まれて……」
「ああ、なるほど。じゃあ白狼さんに伝言お願い『魔力草と上位の装備素材の納品よろしく』って」
「あ、はい……急いで手持ちの分、送ってくれるそうです」
「ありがと。今日の調子じゃ早々に在庫切れ起こしそうだから助かる」
「ねえ、そんなことよりお勧めの装備とかないの?」
「お前さんらならアイアンクラスの装備がお勧めかな……買えるだけのお金があるならな。ちなみに『アイアンクラスの装備』って意味はわかるか?」
「バカにしないでよ、ちゃんと教えてもらってるわ。……それにしても、このお店の商品って高いわね。ボッタクリ?」
「適正価格だよ。他の露店や市場の商品じゃ品質が★3~4程度だけど、うちの商品は最低でも★5、最近作ったものなら★8が現状作れる最高品質品だ」
「……ちょっと言ってみただけよ。ちゃんとその辺も教えてもらってるから理解してるわよ」
「ねえ、トワ君。このアイテムについてる『銘』って何?」
「銘は銘だな……ちゃんと説明するって。誰が作ったのか示すものだよ。生産したアイテムに対して、それを作った生産者の名前や生産者がクランに所属していればそのクラン名を銘としてアイテムにつけることができるんだ」
「じゃあこのお店で売ってるものが銘入りなのはこのクランが作ったっていうことを示すためなんだ」
「そういうこと。まあ、安易な転売防止も兼ねて店売りのアイテムには全部銘を入れてるよ、消耗品も含めてね」
「つまりそれだけ自信があるって事なのね」
「まあ、そうなるな……ところで店の中に入れるのは30分だけで、それを過ぎれば強制的に追い出される訳だが買い物はしていかなくてもいいのか?」
「な!? そういえばそんな説明もあったわね。30分も並んだんだから、早く買うものを見つけないと! じゃあね、トワ」
「ええと、説明ありがとう。トワ君、それじゃあね」
「トワくん、アイラさんとフレイさんはなんで来てたんですか?」
「ユキか。白狼さんに頼まれておつかい……見たいなものかな。あとは普通に買い物だそうだ」
「そうだったんだ……」
「ユキも疲れたら裏で少し休憩してくれて構わないからな、無理しないようにな」
「うん、ありがとう」
客足はその後も絶えることなく続き、結局収まったのは、主立った商品が売り切れたゲーム内時刻13時過ぎだった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「ふいー、お疲れ様」
「ああ、お疲れ様だ」
主立った商品が売り切れたため、店を閉めた俺達は談話室で休憩していた。
なお、イリスについてはもうログアウトさせている。
現実時間はもうすでに日付が変わっているのだ。
イリスだけは日付が変わる前、現実時間午後11時頃にログアウトさせた。
また、連続ログイン時間制限に引っかかるため、途中、各自交代で現実時間30分ほど休憩をとっていた。
「いやー今回
「まったくだ。なんで今回はこんなに大盛況になったんだ? 開店日の告知なんてまともにしていないだろ?」
「そのことじゃが、掲示板に開店日の情報が流れているのを見つけたわい。書き込みされたのは現実時間で2日前の夜、ちょうど『漆黒の獣』とのもめ事があった頃じゃな」
「『漆黒の獣』……あっ、そういえばあのとき私が開店予定日のこと言ってたわね……」
「それを聞いたものが掲示板に書き込み、さらにそれを見た者がポスターを見て詳細な開店時間を書き込んだ、というのが今回の流れのようじゃな」
「もう、とにかく疲れました……」
ユキも大分お疲れのようだ。
普段この時間まで起きてることなんてないからな。
「ユキ、お前も先にログアウトしてくれて構わないぞ」
「うん……そうさせてもらうね、おやすみなさい、皆」
ユキはログアウトしていった。
「……さて、今日のお店の運営についての反省会を始めますか」
「……そうね。反省会をしてからじゃないと寝付けそうにないわ」
「……そうじゃのう。さっさとやって終わらせるぞい」
さて反省会だ。
「まず接客だが……これはもうどうしようもないよな」
「さすがにこの人数じゃどうしようもないわ」
「本来ならイリスも接客させるべきではないからのう」
「じゃあ接客はどうしようもないとして、各種お店の制限はどうだった?」
「入場上限、時間制限、買い物が済んだら外に出る、ここまでは完璧ね」
「問題があるとすれば買取と購入両方を考えている客の対応かの」
「……それについては『レジ』を増やすしかないと思うんだ」
「そうね。『レジ』には『購入専用』や『買取専用』の設定ができるものね」
「では、『買取専用』のレジを増やすという事で良いかの?」
「いえ、『販売専用』のレジも1台増やして『販売』5台、『買取』1台の体勢にしましょう。買取のレジが足りなさそうだったら、またそのときに追加する方針で」
「了解。それじゃレジは販売5の買取1に変更だな」
「次は購入個数の制限だが……これについてもどうしようもないと思うんだ」
「そうね、今日だってこれだけ制限してたのに売り切れが続出してるもの。制限を取り払うのはしばらく先になるでしょうね」
「そうじゃの。複数欲しい客には済まんがもう一度並んでもらうしかあるまい」
「最後に次の営業日だけど、2日ほど間を開けて金曜日の夜以降にしたいと思う。とてもじゃないけど商品の補充が1日じゃ追いつかない」
「同感ね。そもそも素材が足りるのか、から確認しなきゃいけないしね」
「わしも同意見じゃ。とりあえず次の営業日は金曜の夜と言うことで掲示板に書き込んでおくぞい」
「悪いけど任せた」
「……そういえば今日の売上ってどれぐらいになってるのかしら」
「……倉庫を見れば売上金額も表示されてたぞ」
「ええと……800万Eね……ずいぶんと売り上げたわね」
「それを個人の取り分と、クラン資金に回す分まで計算せにゃならんと考えると頭がいたくなるわい」
「そのことなんだが、レジ以外にも欲しいホームオブジェクトがあるんだけど相談に乗ってもらえるか?」
「何が欲しいかにもよるわね」
「欲しいのは『拠点内回復速度上昇』の一番いいやつ」
「回復速度10倍で200万だったかしら……いいんじゃない、これから大量に生産活動をすることになるんだもの必要な投資よ」
「そうじゃのう。鍛冶でもかなりMPもSTも消費するからのぅ。残りの2人の了承が取れなかったとしてもこの3人で分担して買ってしまうべきじゃろう」
「……それじゃあ今日落ちる前に、レジと一緒に買ってくる。『拠点内回復速度上昇』の設置場所は適当に置いておいて、また後日、正式な設置場所を考えよう。どうせ、ホーム内ならどこに置いても効果はホーム全体に乗るんだし」
「さんせー、それじゃあ私は売上の分配を計算しておくわ」
「それじゃあわしは素材の在庫確認かのう」
こうして俺達はまた拠点の設備を充実させる事となった。
なお、『拠点内回復速度上昇』だが、見た目がキレイでインテリアとして使えたため、商店スペースに飾られることとなった。
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「面白かった」「これからも頑張れ」など思っていただけましたらフォローや応援をお願いします。
作者のモチベーションアップにつながります。
~あとがきのあとがき~
28裏.公式掲示板4でちらっと出てきましたが、あの場面で大々的な告知が掲示板内で行われてました。
それが、今回の結果ですね。
それから、さらっと話が出てきましたが、現状で作成可能なアイテムの最高品質は★8です。
これは生産設備に設定された限界ですので、使用者の腕前がよくてもこの限界は突破できません。
また、売上がやたら大きな金額になっているのは、最高品質の品をそれなりに高額で用意していて、それが売り切れたためバカみたいな売上額となっています。
以降、このクランはクランとしての共有資産には事欠かなくなりますね。
理由があるとはいえど、ご都合主義万歳。
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