27.クランホーム完成 1
日曜日。
日中は家事や買い物など、家の用事を色々と片付ける。
いくらゲームが楽しいからと言ってゲームしかやらないで過ごせるわけじゃないからな。
なお、遥華はゲーム三昧の一日を送っている模様だ。
それでも食事の時間にはきちんと顔を出すあたり、きちんとわきまえているらしい。
家の用事が終わった後、少し時間が空いたのでゲームにログイン。
市場で売上の確認と、売れた分の在庫を補充するための素材を買い込んでおく。
商品の補充自体は、夜にクランホームが完成してからやる予定だ。
それでも時間が余ってしまったため、図書館に行くことにした。
図書館は文字通り様々な本が置いてあり、入館料を支払えば自由に本を閲覧できる。
中には新しいレシピを獲得できる本もあったりするので、第2の街に拠点を移した後は時間が空けば訪れるようにしていた。
なお、本を読むには【言語学】スキルが必要となるため、そのスキルブックも初回利用時に購入していた。
今日は特に新しいレシピなど収穫はなかったが、目的もなく本を読んでいればこんなものだろう。
さて、そろそろ夕食の支度をしなければいけないしログアウトしなきゃな。
――――――――――――――――――――――――――――――
「ごちそうさまでしたー」
夕食を食べ終えた遥華が元気に言う。
「そういえば確か今日だったよね、お兄ちゃんのクランホームが完成するの」
「ああ、だからお風呂は先に入らせてもらうぞ」
「おっけー。あと後片付けもわたしがやっておくから、お兄ちゃんは先にお風呂入ってていいよ」
遥華の提案は本当にありがたいが、何か裏がありそうだ。
「それは助かるが、何か企んでないだろうな?」
「企んでることなんてないよ。あ、でも、後でお兄ちゃんのクランホームに遊びに行く予定だからよろしく」
「それくらいなら構わないけどな。今日はあまり商品おいてないぞ。本格的な稼働は明日からだ」
「本当に遊びに行くだけだから気にしないって。あ、ドワンさんには装備の発注するかもだけど」
「はいはい、わかった。それじゃ、お風呂先にもらうぞ」
そして俺は寝る支度をすませると、本日2回目のログインをするのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――
時刻を確認するとゲーム内時間で午前5時半過ぎ。
なんだかんだで結構遅くなってしまったようだ。
遅れた分も取り戻すため、俺はクランホーム前まで急いで移動する。
クランホーム前にはクランメンバー全員がそろっていた。
「おう、きたかトワ。ずいぶん遅かったのう」
「ちょっと寝る支度を調えるのに手間取ってな。そういう皆は早かったみたいだが」
「それはね。クランホームの完成なんてイベント見逃すわけにはいかないでしょ」
「そーそー。βの時はクランホームの場所とか外見選んだらすぐに完成して味気なかったしー」
「やっぱりこう言うのには私も興味あるから」
クランホームの完成はゲーム内時間で午前6時。
今現在、目の前の建物にはブルーシートのようなものが全体を覆っており、中の様子は窺えない。
ここにいる全員が、これがどういう風にクランホームになるのかを楽しみにしていた。
そして、ゲーム内時間午前6時。
目の前の
光の渦は30秒ほどで消え去り、クランホームが完全な姿を見せた。
この演出にはクランメンバーも満足げな表情だった。
「おおー。なかなか派手な演出だったねー」
「うむ。わざわざ見に来た甲斐があるというものじゃわい」
「そうね。それじゃあ中に入りましょうか」
完成したクランホーム内に全員で入ってみる。
入り口を入ってすぐの場所は、事前に設定したとおり商店スペースとなっていた。
「うん、事前に設定したとおりね。それじゃあ手分けして他の場所も確認してみましょうか」
柚月の言葉にうなずき、各自バラバラに確認作業へと向かう。
このクランホームは1階を商店用の商店スペースと生産活動用のスキルごとの工房それから休憩スペースを兼ねた談話室、2階は打ち合わせや来客対応をするときに使う応接間や会議室など、3階は各クランメンバーの個室となっている。
俺はユキに3階の確認を任せて2階の各部屋をまわってきた。
応接間や打ち合わせスペースは、最低限の椅子やテーブル、ソファの類いはあるけど、あくまで最低限と言った品質だ。
また、飾りになるようなものも何もないので、殺風景にもほどがある。
これでは無骨とすら言えないだろう。
「ふむ、家具や調度品の類いをどうするかも話し合わなきゃダメだなぁ」
今後のことを考えながら歩いていると、3階の確認を終えたユキが戻ってきた。
「あ、トワくんも確認終わったんだ。そっちはどうだった?」
「一言で言うなら殺風景だった。そっちは?」
「とりあえずベッドと机と椅子、ランプが置いてあるって感じかな」
と苦笑をもらすユキ。
個室の方も最低限のものしか置いてないようだ。
「とりあえず、1階に戻って皆と合流しようか。皆ももう戻ってるだろうし」
「うん、そうしよう」
そして1階に戻ってくると、1階の確認をしていた3人が商店スペースの飾り付けをしていた。
「戻ったわね、トワ、ユキ。そっちはどうせ最低限のものしかなかったんでしょ? とりあえずこっちを手伝ってくれるかしら」
「はいよ、それで俺達はなにをすればいい?」
「
「了解。俺が薬でユキが料理を担当すればいいんだな」
「ええ、それでお願い。あ、料理はそっちのショーウィンドウの中にお願いね」
「うん、わかりました」
各自手分けして店の飾り付けを行う。
飾り付け作業が終了したのは午前8時頃だった。
「思ったより時間かかっちゃったわね……これからどうする?」
「うーん、そうだな。これからクランホームをどうするか……はまた明日にでも話し合えばいいから……お?」
メールの着信アイコンが表示され、内容を確認するとクランホームに来客がきた事を知らせてくれたようだ。
まだクランホーム完成してなかったから、クランメンバー以外はクランホームに入れないようにしてたんだよな。
「ん、来客だ。……相手は教授と白狼さんだな。ちょっと行ってくるよ」
「了解。それじゃあ私達は奥で新しい設備の使い勝手を試してくるわ。何かあったら呼んで」
俺とユキは接客対応、柚月達3人は設備の確認と別れて行動することになった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「やあ、おじゃまするよ」
「おじゃまするのである」
白狼さんと教授を応接間に通してクラン間連携、つまりは『同盟』についての話し合いを始める。
とは言っても、これは形式的なもので同盟内容については事前に協議済みなのだが。
ユキは一度1階に降りて、飲み物とお茶請けを作りに行ってくれた。
「それで『ライブラリ』としては、以前に決めたとおり消耗品類の販売と各種素材の買取についてのみの対応と言うことで間違いなかったかな」
「ああ、それで問題ない。あと、時間があるなら修理委託も出しておいてくれれば受け付けるって話になったよ」
「修理委託か。『インデックス』は自分達でまかなえるが『白夜』にはうれしい話であるのではないかね」
「確かに。僕達も自力で修理できるようにがんばっているが、装備品の品質が良すぎてなかなか手が回らないからね。少し時間がかかってでも修理委託を請け負ってもらえるなら助かるよ」
「じゃあ消耗品の販売と素材の買取、それから修理委託って事で。『インデックス』もついでだから一応修理委託も行えるようにしておいたら?」
「……うむ、そうであるな。必要がなければ使わないで済むこと。我々もその内容で構わないのである」
「了解っと。……それじゃあ、同盟申請しておいたから内容を確認して、問題がなければ承認よろしく」
「うん、この内容で間違いない」
「確かに。では承認したのである」
2人とも承認してくれた模様で、クランの『同盟』の項目に『インデックス』と『白夜』の名前が追加されていた。
「それじゃあ、取引品のリストはまた後で作成して置くから確認してくれ。素材の買取は今日中に、販売の方も明日中には作成しておくからさ」
「わかったよ。……ところで
「できれば個人取引の方がありがたいな。集めてるのは個人的な理由であって、クランとはまったく関係ない話だからな」
「……それならばトワ君と『白夜』との間で個人契約を結ぶのはどうかな。正式版から同盟と同じような契約を個人に対しても登録することが可能になったからね」
「へぇ、それは知らなかった。それじゃあそっち結んでおこうかな。練習用も考えれば、結構大量に素材必要だし」
そういう訳で、俺と『白夜』の間に個人取引を結ぶ。
こちらもメニューの一覧から同様の操作ができるみたいなので、後で買取リストを作っておこう。
「それじゃあ、同盟についての話し合いはこれで終わりと言うことでいいかな」
「ああ、わざわざ足を運んでもらってありがとう」
「なに、気にすることはないのである。……それにしても殺風景な部屋であるな」
「ちょっと、教授。クランホームの標準施設なんてそんなものだろう」
「ああ、バカにしたわけではないのである。『ライブラリ』の事だから事前に家具類も作っているのではないかと思っていたのでな」
「ああ、それは僕も思ったよ。このクランでは家具の自作はしないのかい?」
「さすがに家具の作成まで手を伸ばしませんよ。それじゃなくても、それぞれの分野だけで手一杯なんですから」
家具作成まで自力でやると思われても困る。
「ふむ。そういうことならこの新築祝いも無駄にならずに済みそうであるな」
「新築祝い?」
「人数分の【家具作成】スキルのスキルブックである」
……この教授は、なにを送りつけようとしているのかな。
「いや、だから【家具作成】まで手を伸ばす予定はないって」
「手を伸ばさなくとも覚えておいて損はないのである。使わなければ成長しないだけであるしな」
「それはそうだけども……」
「それにこの手の趣味スキルであれば、魔力を流し込んでピカッで終わりである。いちいち手間暇かけて作る必要はないぞ?」
「え、そんな仕様だったの?」
「うむ。なので気兼ねなく受け取り適当に家具をそろえるのである。あと、壺などの陶磁器類も【家具作成】の範囲である」
そのようなことを言いながら俺に人数分のスキルブックを渡してくる教授。
まあ、あっても困るものじゃないし貰っておくか。
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~あとがきのあとがき~
マイホーム機能とかのハウジングって、ゲーム攻略とは関係ありませんけど楽しいですよね。
作者も今は亡きとあるゲームで、庭を1つ作るのに数時間かけるとかざらでした。
細かい家具の角度とかこだわりだしたらキリがないです。
やっぱり我が家はこだわりたいですもんね。
そしてさらっと出てきた、このゲームにおけるアイテム作成の話。
このゲームでは、何を作るにしても最後に魔力を注ぎ込んでやる必要があります。
レシピさえあれば、最初から魔力を注ぎ込むだけで完成させることもできますが、品質は落ちます。
調合なら手作業で薬草をすりつぶしたり煮詰めたりすると、完成品の品質が上がりやすくなります。
ただ、いくら途中の作業で手間暇加えても魔力の注ぎ方が雑だと、やっぱり品質が下がります。
トワ達の生産品がやたらと高品質なのは、途中の作業に手間暇をかけつつ、魔力の注ぎ方が大変上手だからです。
ついでに言うと、トワは魔力を注ぎ込んでやるだけでも生産ができると言う事実を知りませんでした。
(初めから手間暇かけた作り方しかしてこなかったためです)
……生産系の話を書いてるのに、本編27話目でようやく生産方法の話題が出てくるって一体……
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