26.第3の街 2


「よし、爆薬と爆弾のレシピゲット!!」


 クラン『白夜』の皆と別れた後、一旦自由行動として第3の街の中を見学していた。


 俺は雑貨屋を確認して念願の爆弾レシピをゲットしたのだ。


 ……正直に言えば買うだけだったらいくらでも買えた、市場に流してるプレイヤーがいるから。

 それでも、このレシピだけは自分で足を運んで手に入れたかったのだ。


「ねぇ、トワくん。すごく喜んでるけど、それってそんなにすごいアイテムなの?」

「いいや? 多分、そこまで期待した効果は出ないと思うぞ」


 運営が名指しで弱体化宣言をしたアイテムが強いままのはずがない。

 実際、取得レベルが【初級錬金術Lv1】まで上げられてる時点でかなりのプレイヤーが挫折する。

 おそらく攻撃力にもマイナス修正が入っているだろうから、使ってみてがっかりする。

 それでも、俺はこの2つのレシピが欲しかったのだ。


「そんなにすごくないアイテムなら、どうしてそんなに喜んでるわけ?」

「βテストの時にお世話になったアイテムだからなぁ。あと、必要レベルが高いからおそらくスキル経験値がおいしい」

「なるほど、思い出補正ってやつだね」


 思い出補正でもなんでもいいのだ、目的のものが手に入ったのだから。


「トワくん、他に何かいい場所ないの?」

「うーん、この街は本当に何もない街だからなぁ。後ある場所と言えば、冒険者ギルド、鉱夫ギルド、鍛冶ギルド、スキル屋、食堂ぐらいか」

「本当に行く場所が少ない街なんだね……」

「そもそも街自体も非常に小さいからなあ。すでに『インデックス』が全部調べ尽くしてるはずだよ」

「うーん、それじゃあスキル屋に行ってみよう」


 特に行く当てもなくスキル屋に向かう。


「うーん、売ってるスキルの種類も少ないな……」

「そりゃ、ここは鉱山と鍛冶の街だからな、そんなにスキルなんて置いてないさ」


 スキル屋の主人がかなり投げやりな事を言う。


「ねえ、何か買っていく?」

「そうだな、意味のありそうなスキルは……【採掘】ぐらいしかないか」

「ねえ、【細工】は? アクセサリー作りとか面白そう」

「うーん、ユキは料理人だからなぁ。満足な作品できるまでしばらくトンカチと格闘になるぞ」

「そっか……あんまり使わないスキル増やしても困るよね。それじゃ【採掘】だけ買っていこう」

「はいよ、まいどあり。正直な話、【採掘】のスキルブックも売れ行きはあまり良くないんだがなぁ。それこそ【鍛冶】や【細工】の方が売れ行きがいいぐらいだ」

「まあ、ツルハシで何回か採掘作業してれば覚えられるスキルだしな。ありがとう、また来るよ」

「おう、今度も何か買って行ってくれよ」


 スキル屋を後にした俺達は、冒険者ギルドに寄って依頼を確認し、集合場所である街の北門へと向かった。


「あれ、もう皆そろってるのか?」

「まあ、ねえ。この街って本当に見る場所少ないから……」

「うむ。皆やることがなくて早く集まったわけであるな」

「まあいいか。そろったのなら鉱山ダンジョンに行こう」

「おう! 腕がなるぜ!」


 妙にやる気の入ったドワンが先導して、俺達は鉱山ダンジョンへと入っていった。

 なお、鉱山ダンジョン前にある転移門の登録もこのときにすませておいた。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「終わり、ダブルショットっと」


 鉱山ダンジョンに入った俺達は、順調に地下20階まで攻略が完了した。


「ふむ、やはりこのダンジョンの敵は種族レベルやジョブレベルが非常に上がりにくいのである」

「代わりにスキル経験値は大量に入ってるっぽいけどな。さっきから【銃】スキルのレベルがバンバン上がる」


 このダンジョンの不思議その1、種族レベルやジョブレベルは上がらないのにスキルレベルはバンバン上がる。

 これは誰が挑んでも同じ結果になるらしいので、スキルを鍛えるためのダンジョンなのだろうと言うのが一般見解だ。


「採掘ポイントのおかげで銃弾の補充にも事欠かないからのう。わしの【採掘】スキルもガンガン上がっているぞ」

「ふむ、やはりここはスキルが伸びやすいような補正がはたらいているのかもしれないのである」

「インスタンスダンジョンだから他のプレイヤーもいないしな。低ランクのスキルを鍛えるならありかもしれないな。鉱石採掘のついでなら」

「そうであるな。……しかし、ゲームの中で重労働をすることになるとは思わなかったのである……」

「ゲームの中だからこそとも言えるけどな。……こっちのポイント掘り終わったからあっち行ってくる」

「あ、私もこっち終わったから移動するね」


 俺達は入り口からサーチ&デストロイで攻略を進め、地下20階を攻略した今では【採掘】スキルのスキルレベルが16になるまで成長していた。

 先ほども話していたとおり、このダンジョン内ではスキルレベルが上がりやすいのか、【銃】スキルや各種魔法スキルなども軒並みレベルアップしている。

 地味に罠も所々に存在するので、今まで完全な死にスキルだった【罠発見】と【罠解除】が役に立っていた。

【罠作成】は試す機会がないので上がっていないが。


「あ、でも、スキルレベルが上がりやすいなら、このダンジョン内で生産すればそっちも上がりやすいのかな?」

「……それを検証班が試してないと思うか?」

「あ、やっぱりダメだったんだね」

「ああ、生産系スキルは、このダンジョン内では経験値が入らないようになっているらしい」


 このダンジョンの不思議その2、ダンジョン内で生産していても生産経験値が入らない。

 これは、【料理】レベル1の状態で大量の食材を持ち込んで料理しても1も上がらなかった、と言う検証結果から導き出された答えだ。

 そのため、入手した鉱石類もダンジョンを脱出してから精製することが推奨されている。


「お、ミスリル鉱石っと……これでこっち側の採掘ポイントもすべて掘り終わったかな」

「うん、終わりだと思う。皆と合流しよう」


 それぞれのフロアはあまり広くないけど、階数が多いのがここのダンジョンの難点だよな。


「おう、戻ったか。お主らのツルハシも見せてみろ。耐久度を回復してやる」

「ああ、ドワン頼んだ」

「お願いします、ドワンさん」


 ドワンにツルハシをメンテナンスしてもらい、俺達は地下21階へと進む。

 鉱山ダンジョンはここからが本番と言われる階層だ、気合いを入れていこう。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「はあ、ようやく地下25階か……」

「うむ。さすがに生産職ばかりが集まったPTではきつくなってきたのであるな」


 地下25階まで到達したときには、俺達はそれなりに消耗していた。

 さすが本番と言われるだけあって、難易度が一気に増した感じだ。


 その分、得るものも多く、上位の鉱石類や少し上質な魔石などがドロップとして手に入った。

 さらに、スキルも成長して、【銃】スキルはレベル22まで、他は【水魔法】レベル26、【風魔法】レベル24など、職業レベルや種族レベルを超えたスキルも多い。

 他の皆も普段あまり使用しない戦闘スキルが上がって満足げな表情だ。


「……あー、そういえばここってインスタンスダンジョンなんだよな」

「うむ。その通りであるが、それがどうかしたのかね、トワ君?」

「いや、インスタンスダンジョンって事は敵の数も、PTの人数に合わせてきているよなと思ってさ……」

「……ああ、なるほど。一人でも純戦闘職がいれば難易度ががらりと変わるはずであるな」

「……ちっ仕方ねぇか。おいトワ、しばらくここにこもって戦闘スキルあげと鉱石集めするぞ!」

「言われなくても、鉱石集めはするけどさ。はあ、しばらくはこっちに通いかねぇ」

「あ、トワくん。私も一緒していいよね?」

「盾役のユキ嬢ちゃんがいないと話にならねえな。頼んだぜ?」

「うん、がんばるよ!」

「はいはい、今後の予定はこの階層を無事クリアできてからにしましょう」

「そうだな。まずは今日のクリアを最優先させるか」


 そして、25階も全域を探索し終えてボス部屋まで到達したのは、その20分後であった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「何とかボスに辿りついたな。ボスってなんだったっけ、教授?」

「……うむ。ストーンゴーレムであるな。レアポップの場合は、ロックゴーレムである」

「うわぁ、相性最悪な敵が来たよ……」

「とりあえず満腹度回復も兼ねて食事にしよう? はい、薬膳料理だよ」

「ほほう、これが噂の薬膳料理であるか……苦かったりするのかと思ったが、味は普通においしいのである」

「初めて食べる人は皆そう言うね。ちゃんと下処理できれば苦くならないよ」

「……つまり、評価が低い薬膳料理は苦いという訳であるな……」

「うん、そう」

「まあ、世の中そんなにいい話ばかりでもないと言うことだな」


 食事を終えた俺達は次のストーンゴーレム戦の作戦を練る。


「まずは先制でアクアピラーを叩きこむから、その後追撃で最高火力を。ユキは挑発を与えつつ、そのまま突っこんでチャージランスを決めてくれ。多分それで体勢を崩すはずだから、アクアスプラッシュで特殊ダウンを狙いに行く。特殊ダウンが取れたら、そのまま最大火力継続、ダウンしなかったら一度離れて様子見だ」

「ええ、わかったわ」

「了解である」

「それで、ユキは回復を俺に全部任せてもらって構わないから、直撃を受けないようにだけ気をつけてくれ」

「うん、わかった」


 最後にポーション類の在庫を確認し、俺達はボス部屋に足を踏み入れた。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「あちゃー。ボス、ロックゴーレムだよー」

「うむ。だが、奴はまだノンアクティブ。トワ君の【奇襲】スキルが通用するのである」

「それじゃあ戦闘開始しますか……アクアピラー!」


 俺の攻撃魔法を合図に全員が一気に攻め込む。


「いくよ、ペネトレイトアロー!」

「どっせい!」

「うむ、ゲイルアロー!」

「アクアピラー!」


 全員の追撃が決まった結果、HPバーが残り6割近くまで一気に削れた。

 あれ、この個体って……


「『挑発』! からのチャージランス!」


 余計なことを考えている間にユキの追撃まで決まり、予定通りゴーレムが体勢を崩した。


「トワくん!」

「わかってる! アクアスプラッシュ!」


 勢いよく飛んでいった水の塊によって、体勢を崩していたゴーレムは大きく吹き飛ばされる。

 よし、特殊ダウン取れた!


「敵、特殊ダウン! 一気にたたみかけろ!」


 その号令とともに可能な限りの全力攻撃がゴーレムを襲う。

 しかし、HPバーが残り1割を切ったあたりでゴーレムが起き上がろうとしていた。


「ちっ、起き上がり攻撃来るぞ! 前衛は離れろ!」


 合図とともに下がるユキとドワン。

 その後をゴーレムの大ぶりな攻撃が通り過ぎる。


「さすがにこれで終わるだろう。ウィンドピラー! ウィンドスプラッシュ!」


 称号効果で強化された風の柱と弾丸は狙い通り、ゴーレムの残りのHPを削りきってくれたのだった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



〈種族レベルが上がりました〉

〈【水魔法】レベルが上がりました〉

〈【風魔法】レベルが上がりました〉

〈【魔力】レベルが上がりました〉

〈【魔力】が一定レベルに達しました。【魔力Ⅱ】に進化可能です〉

〈【魔力回復上昇】レベルが上昇しました〉

〈【魔力回復上昇】が一定レベルに達しました。【魔力回復上昇Ⅱ】に進化可能です〉

〈【魔力】【魔力回復上昇】が一定レベルに達しました。【魔導の真理】に統合可能です〉


 おう、インフォが一気に来たな。

 そしてついに【魔力】と【魔力回復上昇】がカンストか。

 これで【魔導の真理】が覚えられる。


「トワくん、どうしたの? うれしそうな顔してるけど」

「ん、ああ。ちょっとスキル統合が出来るようになってな」

「ふむ、スキル統合と言うことは【魔導の真理】あたりかね?」

「正解、さすが教授」


 これがあれば魔術士タイプのキャラは格段に戦いやすくなるからな。

 ……俺、ガンナーだけど。


 とりあえず、さくっとSP8を支払い【魔導の真理】を取得。


〈【魔導の真理】を取得しました。称号『魔導を求める者』が付与されます〉


「あれ、教授。【魔導の真理】を手に入れると称号手に入るの?」

「うむ、手に入るのである。知らなかったのかね?」


 うん、知らなかった。


「そんなことよりドロップ確認しようよー。今回は普通に倒したからドロップ期待できるよね?」

「まあ、通常のドロップテーブルだな。俺のドロップは『ロックゴーレムの魔核』か。レアゲットだな」

「相変わらず、あなたは運のいいことね。私は『ロックゴーレムの魔石』だったわ。トワ買い取ってくれる?」

「もちろん。拳銃作りに魔石は欠かせない素材だからな」

「それじゃ、後で買い取ってね。他の皆は?」

「わしは上質な鉄鉱石が数個じゃのう」

「わたしもー、ドワン、後で買い取りよろしくー」

「こちらは魔石であるな。トワ君、まだ買い取るかね?」

「ああ、買い取らせてもらうよ」

「では頼む。後はユキ君かね」

「私はトワくんと同じ『ロックゴーレムの魔核』だった!」

「あら、おめでとう。それを防具に使うと【耐久値自動回復】がつくんだけど体防具につける気ない?」

「えっと、お願いします」

「了解、明日クランハウスが使えるようになったら付与してあげるわね」


 そういえば明日の夜にはクランハウスが使えるようになるんだっけ。


「ふむ、それでは今日は解散というところであるな。さすがにこれ以上は無理であろう」

「そうだねー、脱出用ポータルも使えるし、25階のショートカット開通したと思えば十分な戦果だねー」

「ああ、そうだな。帰ろうか」


 そうして俺達は脱出用ポータルからダンジョン外へと脱出し、今日は解散となった。

 ……あ、魔石はちゃんと買い取ったよ。


 **********


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 ~あとがきのあとがき~


 戦闘描写は苦手なのである……


 こうも一方的に殴り倒せるのは、魔法スキルのレベルが上がったことによる魔法攻撃力の上昇ためです。


 それから、鉱山のボスは一方的に倒せるのに、エリアボスは倒せねーのかよという指摘もありそうですが、鉱山に出てくるボスはエリアボスの弱体化版です。

 普通にエリアボスが出てきた場合、鉱山ダンジョン25階までで強化された分を考慮しても倒せる確率は6~7割というところでした。


 ええ、生産職がわざわざ好き好んで勝率6割程度の相手に挑むわけがないじゃないですか。


 相性が悪い、というのは刺突攻撃(銃や弓矢、槍による攻撃)の耐性が高いという意味です。

 水属性が弱点かつ魔法防御はそこまで高くないので、地下25階のダンジョンボスなら先手を取って魔法を全力で叩きこめば、鉱山ダンジョン地下25階までで鍛えられたスキルで一気に倒せるかな、程度です。


 エリアボスのロックゴーレムに同じ事をやっても、HPを7~8割削ったところで息切れ(スキルのリキャストタイム待ち)になってしまいます。


 あと、『今回は普通に倒したからドロップ期待できるよね』というセリフがありますが、エリアボスをレイドチームを組んで倒すとドロップ判定がなくなると言う仕様があったため、前話のエリアボス戦では何もドロップアイテムがありませんでした。

 『今回は通常PTで倒したからドロップアイテムあるよね』と言う意味です。

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