25.第3の街 1
俺はユキと拾ってきた2人を連れて少し離れたところに来た。
「雪音に気がついたならわかると思うけど、都築 悠だ。こっちではトワな」
「海藤 雪音です。キャラクターネームはユキ」
「片桐
「あ、鈴原
他の皆から離れた場所で、俺達は改めて自己紹介をした。
「それにしてもこんなところで海藤さ……ユキさんとは思わなかったわ」
「はい、それでお二人はなぜこんなところに?」
「【第3の街】に向かう途中だよ。そういうそっちこそ、なんでこんな身の丈に合わないところに来てるんだ?」
「いや、その、実はね……」
そうして2人はこんな事になった経緯を語ってくれた。
俺達が帰った後、学校でUWの話をしていたら園田某が話しかけてきた。
それでしつこく誘われたので、一度だけゲーム内で会うことにした。
そのゲーム内で会う日が今日だった。
ゲーム内で会って色々話をした結果、園田某が【第3の街】に行くのを手伝ってくれる事になった。
園田某は助っ人してクランメンバーを呼んだ、それがさっきいた3人、園田某を含めて4人。
途中までは普通に接していたが、この林の辺りからやたらとフレンド登録を強要するようになった。
いくら断っても諦めないので、嫌気がさして林の中に逃げ込んだ。
しかし回り込まれてしまい、逃げ出すことができずにそのまま口論となった。
「……はぁ」
「ちょっと何よ、そのため息は」
「いや、どう考えてもバカだろ。お前さんら」
まず園田某につきあう気が知れない。
そして、その誘いに乗って身の丈に合わないフィールドにくる気が知れない。
現実なら『襲ってください』と言っているようなものだ。
そのことを説明すると2人は顔をしかめた。
「そんな顔をしても、実際の行動はその通りなんだから反論できないだろうに」
「それはそうだけど」
「あと、普通にGMコールしていれば対応してくれましたよね、この案件なら」
「「あっ……」」
どうやら2人とも自分でGMコールすることまで頭が回っていなかったようだ。
「それで、これからどうするつもりなんだ? さっきも言ったけどうちのPTに空きはないぞ」
「なによ、クラスメイトが困ってるんだから少しぐらい手伝ってくれてもいいでしょ?」
「アホか。なんでただのクラスメイトのために、そこまでしてやらなきゃならん。そもそも身の丈に合っていないフィールドに来ている時点で、『少し』手伝うじゃなくて『寄生』させてって意味になるだろうが」
「? 寄生って何よ?」
「はあ、まずはそこからか。いいか寄生プレイヤーって言うのはな……」
仕方が無いのでそこから説明してやることにした。
「……つまり、実力もないのに上位のプレイヤーにすべて任せて楽しようとしている奴のことだよ、ちょうどお前さんみたいに」
「……都築くんって思ったよりもはっきり物事を言うわね」
「まあこの手のゲーム歴は長いし、お前さん達みたいなプレイヤーもよく見てきたからな」
「ねえ、やっぱりここはおとなしく帰ろうよ、アイラちゃん」
どうやらフレイの方は帰る方がいいと思っているみたいだ。
アイラだけが意地になって帰るのを拒んでいる感じだな。
「はぁ、それで、なんで【第3の街】に行きたかったんだ? あそこには鉱山ダンジョンぐらいしか一般プレイヤーにはめぼしいものはないぞ?」
「そう、それよ。私達が鉱山ダンジョンに行きたかった理由は」
「なんでわざわざ鉱山ダンジョンに行くんだ?」
「それは『鉄鉱石』が簡単かつ大量にゲットできるからよ! そうすればそれを元手にもっといい装備が買えるもの!」
「なるほど金策ね……鉄鉱石『だけ』欲しいなら、おとなしく第2の街西の岩山を掘ってればいいのに……」
「はあ? そんな情報知らないわよ!」
「それは調べ方が足りないな。あと、当たり前すぎて誰も情報まとめてないか。そもそも金策したいなら、身の丈に合ったモンスター倒して換金した方が早いと思うぞ」
「うっ……」
「だから言ったじゃない、そっちの方がいいって」
どうやら無理をしてでも儲けたいアイラと堅実に行きたいフレイで意見が分かれているようだ。
はっきり言って、もめ事は後で2人の時にやって欲しい。
そんなことを考えていると、白狼さんがこちらに近づいてきた。
「やあ、その様子だとまだ結論は出ていないみたいだね」
「ええ、まあ。これで知り合いじゃなければ放りだしていくんですが」
「はは、相変わらず君の発言は過激だねえ。それじゃあ僕から提案があるんだがいいだろうか」
白狼さんはそう言ったので、頷き提案を聞くことにする。
「まあ難しいことじゃない。彼女達も第3の街まで連れて行ってしまえばいいだろう。その後は、僕のクランで面倒を見るよ。彼女達、初心者みたいだからね。基礎から叩きこまないと多分ダメだ」
「ふむ……」
まあ白狼さんが引き取ってくれるなら悪い話ではない。
少なくともこちらに迷惑はかからないのだから。
「ちょっと私達の意思はどうなるのよ」
「うん、この提案がのめないなら、悪いけど君達を連れて行くことはできないかな。一応、僕ら『白夜』は彼ら『ライブラリ』の護衛として雇われてついてきている立場だからね。これ以上の要求はできないんだよ」
「……ねえ、アイラちゃん。この提案を受けようよ」
「ちょっとフレイ!?」
「だってこのままじゃ置いて行かれるだけだし、私達が初心者なのも事実だし、色々教えてもらえるならその方がいいよ」
「うー、わかったわよ。とりあえず白狼さんについていく、それでいいんでしょう」
「それは良かった。で、トワくんも構わないよね?」
「白狼さんの方で預かってくれるなら、こちらとしては問題ないですよ」
「じゃあ決定だ。それじゃあ改めて出発しようか。自己紹介は道すがらにね」
結局、白狼さん達『白夜』1軍PTを分割してアイラとフレイを加入させて進むことになった。
ああいうまとめ方ができる辺り、白狼さんはオトナだよなぁ。
その後は特に問題もなく、第3の街前のボス『ロックゴーレム』へとたどり着いた。
――――――――――――――――――――――――――――――
「さて、この先がエリアボスのロックゴーレムの訳だが、攻略法の確認は必要?」
ボスエリア前で満腹度回復も兼ねた軽食休憩を終えた俺は一度確認をとる。
ちなみに、俺達は攻略法は予習済みだ。
しかし、フレイがそっと手を上げる。
「すみません。私達はわからないです……」
どうやらフレイとアイラは攻略法を知らないらしい。
「うん、君達は知らなくてもしょうがないか。ゴーレムだけど基本的には前衛しか攻撃してこないから、君達は見てるだけでいい。ヘタに動かれるとカバーできないからね。攻撃の届かないところで使えるなら遠距離攻撃を、それができなければ待機でかまわない。死なないことが重要だからね」
「レベルも装備も足りていないんじゃ、『何もしない』事しか出来ないからな。おとなしく白狼さんの指示に従って、フィールドの端の方に避難していてくれ」
「……はい」「……わかったわよ」
さて、それじゃあ懸念事項ももうないな。
「それじゃあボス戦行きますか」
――――――――――――――――――――――――――――――
ボス戦は特筆することもなく終わった。
まず『白夜』のタンク役の人がロックゴーレムをフィールド反対側まで引っぱり、それをヒーラーの人が補助。
それ以外のメンバーは全員攻撃といった感じだ。
今回は合計4PTのレイドチームでのアタックとなったが、ボスが強化されていることを感じさせないほど、『白夜』1軍の攻撃力がすごかった。
レベル差があるんだから当然と言えば当然の結果なのだが、ボスのHPがみるみるうちにとけていった。
本来であれば全身を散弾のように飛ばしてくる全体攻撃があったり、体を一回転させて全周囲をなぎ払う攻撃などもあるのだが、すべて出始めのモーションで潰されてキャンセルされていた。
あまりにも余裕があったため、拳銃を両手に持ち二丁拳銃スキルとか覚えられないか試していたら【二刀流】スキルを覚えた。
どうやら、両手に1つずつ武器を持って行動するためには、どんな装備であっても【二刀流】スキルが必要となるらしい。
俺の行動をばっちり見ていた教授は、「拳銃を2丁であっても【二刀流】なのであるな」とだけこぼしていた。
〈エリアボス『ロックゴーレム』を初めて撃破しました。ボーナスSP6ポイントが与えられます〉
――――――――――――――――――――――――――――――
【第3の街】、【鉱山街】とも呼ばれるこの街だが、一般プレイヤーに取っては【鉱山ダンジョン】ぐらいしか寄るところのない街だろう。
鉱山ダンジョンは、その名の通り、鉱山の中がダンジョンになったものだ。
深い階層に行けば行くほど、レア度の高い鉱石が手に入る仕組みになっている。
もちろん、深い階層ほどモンスターも強くなっていくが。
「さて、護衛の仕事はここまででいいかな、トワ君」
街に入ってすぐの転移門をポータル登録したところで白狼さんが訪ねてきた。
「ああ、ここまでで大丈夫だ。ありがとう、白狼さん。これ報酬ね」
「なに、こちらも新人PTを連れてくる用事があったからね。また何かあったら連絡をよろしく頼むよ。まあ、その前に明日も会うことになるだろうけどね」
おそらくクランホームに来てくれる予定なのだろう。実際、クランホームでしかできない『取引』の類いもあるので来てもらえれば助かる。
「ああ、それから、彼女達だけど、正式に僕達のクランに所属することになったから心配しないでくれ。基礎からしっかり教えて、今回のようなトラブルにも対処できるようにしておくよ」
うん、心配はしてないけどよろしくお願いします。
「それでだ、彼女達から君に話したいことがあるそうだから、少しだけ話を聞いてやってもらえないかな? よろしく頼むよ。それじゃあ、また」
それだけ告げて、『白夜』のメンバーは転移門から去って行った。
残されたのは「ライブラリ」メンバーと教授、それからクラスメイト2人だ。
話があるというなら聞かないわけにもいかないだろう。
「えっと、今日はありがとうございました」
「……ありがとう」
フレイとアイラがそう告げてくる
「どうぞお構いなく。というか、『白夜』に入るなら先輩の言うことをちゃんと聞いて、ゲームの基本ぐらい覚えてくれよ」
「うん、そうするよ。ねえアイラちゃん?」
「わかってるわよ。面倒な事に巻き込んでごめんなさい」
「わかってくれたなら結構。それで、俺に聞きたいことはなんだ?」
2人は苦笑いを浮かべる。
「ああ、やっぱり聞きたいことがあるってわかるのね」
「それくらい顔を見ればわかる。それで、何を聞きたいんだ?」
「えっとね、園田君達のことなんだけど……」
ああ、あいつらのことか。
「あそこにいた4人ならハラスメント違反で最低1週間、多分2週間ぐらいのログイン制限といったところだろう。まあ、他にも余罪があればもっと伸びると思うけどな。アカウント凍結までは行かないと思う」
「……そうなんだ、意外と重い罰なんだね」
「ここの運営はそういったところ厳しいからな。
「……まあ、どっちかって言うと現実の方が心配なんだけど。それこそクラスメイトな訳だし」
「それこそ無視してやればいい。馬鹿なことをやって制裁くらったのは自業自得なんだしな。それに今回の件も含めて『漆黒の獣』については、同様の事案があるってことで運営が調査に乗り出しているしな」
「……あんた、どこでそんな情報拾ってくるのよ」
「普通に公式のお知らせにもう載っているけどな」
そう、もう公式のお知らせ欄に今回の一件も含めて調査を行う旨が掲載されている。
さらに、掲示板の方では、教授が詳細を書き込んでいる。
白狼さんも名前が出ても構わない、という事だったため、かなり詳しく、かつ
動画のアップロード自体は被害者側のプライバシーに関わると言うことでアップロードできなかったみたいだが。
この会話の裏で行われているフレチャの中でも『なかなかの炎上具合だ』といっていたので、相当な状況になっているのだろう。
「……つまりリアルの方では無視を決め込むのが一番って訳ね」
「というかそれしかないだろう。現実で同じ事をやられたらどうするよ」
「……それは金輪際、相手をしないに決まっているわね」
「つまりそういうことだ」
2人は疑問が解消されたようでほっとしている。
「それじゃ、悩みも解決したし、これでいくわ……あ、その前にフレンド登録いい?」
「あ、私も登録お願いします。もちろん、ユキさんとも」
「俺の方は構わないが……ユキ、どうする?」
「フレンド登録ぐらいなら構いませんよ」
と言うわけで俺達4人はフレンド登録を行い、アイラとフレイは転移門から去って行った。
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作者のモチベーションアップにつながります。
~あとがきのあとがき~
やっぱりゲームの中はゲームであって現実のつながりを持ち込むべきじゃないと思うんですよ、自分は。
元々友達だったりするならまだしも、ただのクラスメイト程度じゃねぇ……って感じでこのお話を書きました。
なお、トワとユキが他人に冷たいのは割とデフォだったりします。
その分、身内判定した人間には甘い、そういうタイプです。
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