21.放課後とガンナーギルドランクと

「へー、園田くんってUWのβテスターだったんだ!」

「おうよ、さすがにランカーには成れなかったけど、それでも結構活躍したんだぜ!」

「なんかよくわからないけどすごそうねー。ねえ、わたしも次のロットで参加出来る予定だから色々教えてよ」

「いいぜ! 何だったら同じクランに所属するか? クラマスにも話通しておくからさ、一緒にやろうぜ」

「うーん、クランはパスかな。やっぱりクランは自分の性格に合ったところを選びたいし」

「そっか、残念だな……UW始めたら連絡先教えてよ! それでもし気に入ったら参加してくれればいいからさ!」

「はいはい、わかったから。向こうの世界で会えたら連絡先を交換しましょ」


 ……それって、実質『あなたとは連絡先の交換をしたくない』って言ってるように聞こえるのは俺だけだろうか。


 まあ、園田くんとやらが一方的に俺スゲー発言してUWに関心のある女子を引き込もうとしているだけのなのだから、周りも冷たい目線で見ているだけで、誰も助けようとはしていない。


 そんな中、俺と雪音がどうしていたかというと、UW公式ページで新しく公開されたPVプロモーションビデオを鑑賞している。

 俺が登場するシーンもわずかだがあって、キラーマンティスを火魔法のフレイムランスで叩き落としている姿が映っていた。


 うーん、俺のシーンを使うなら錬金術を使っている場面を使って欲しかったんだが。

 あれはあれで、ファンタジーって感じでかっこいいと思うのだけど。


「うーん、この動画作った人はわかってないですね。悠くんが一番輝いてるのは生産作業を行っている時なのに……」


 どうやら雪音も似たような意見らしい。

 しかし、このセリフを面白くない相手に聞かれてしまったようだ。


「おや、海藤さんもUWやってるの。奇遇だね」


 そう、園田に聞かれてしまったのだ。

 すでにPVについては画面から消してある。


「……ええ、私もUWをやっています。だから何ですか?」

「それなら、今度一緒に狩りに行かない? これでもおれ、『漆黒の獣』ってクランのメンバーで装備もそこそこそろってるんだぜ」

「別にあなたと一緒に狩りに行かなければいけない理由もないですよね? それに『漆黒の獣』って、最近噂の悪徳ギルドですよね。親切を装って接近して相手が油断したところを嵌めて、しつこい勧誘をしたりとか、最近では生産系クランを脅していると聞きましたが……本当のところはどうなんです?」


 相変わらず邪魔な存在には容赦しないな雪音は。

 しかし、『漆黒の獣』関する情報は正確なものだ。

 なぜなら、情報源ソースは教授なのだから。

 あの人がこんな話を聞いて黙っていることはない。


 おそらく『インデックス』の実行部隊(と言う名の戦闘グループ)が情報の調査を行い、被害者情報が集まったところで数日中にはGMうんえいに報告するのであろう。

 そうなれば『漆黒の獣』のメンバー全員は運営のブラックリストに載るし、よほど酷い行いをしたプレイヤーには数週間のログイン禁止、またはアカBANアカウント削除の対象となるだろう。

 ここの運営はプレイヤーに対するハラスメントや誹謗中傷などには、迅速かつ苛烈に対応することで有名なのだ。


 果たして、この園田とやらはどの程度の処罰を受けることとなるのか……

 そんな風に思いながら、園田某の顔を眺めてみると怒りか羞恥かで顔色が真っ赤になっていた。


「うっせーな! そんなことはどうでもいいんだよ! おれと一緒に来るのか来ないのかどっちなんだよ!」

「今までの話を聞いてればそんなの答えなくてもわかりますよね。あなたとなんて絶対に組みませんよ」

「ちっ、じゃあもういいよ! それじゃあな!」


(うーん、これは報告案件かな……)


 そのようなことを考えていると、雪音がクラスの女子に囲まれていた。


「相変わらず強いわね、雪音。それでUWってどれぐらいまで進んでるの」

「UWやってるなんて羨ましいなー、ねえどうやって手に入れたの? やっぱり楽しい?」

「ねぇねぇ、わたしもUWやってるんだけど、今度どこかに遊びに行かない?」


 一気に質問を投げかける女子達。

 雪音も困り顔ではあるが、それぞれに対してちゃんと受け答えしている。


 さっきの園田某のような下心丸出しな輩だったり、悪意を持って接触してくる人間、それから的な人間以外に対しては、雪音もそこまで冷たい対応を取ることはない。

 むしろ、話疲れたりしない限りは人当たりは良い方だ。


「いやー、入学初日から絡まれてたな、悠」


 俺の後から声をかけてくるのは、陸斗。


「それで?」

「ああ、だ」

「そっか、じゃあ、ちょっと先生の所に行ってくる。後は任せた」

「おっけ。俺らはあっちが落ち着いたら玄関辺りで待ってるわ」


 そう告げて、俺達はお互いの携帯端末を交換して分かれるのだった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 雪音と陸斗と別行動になった俺は、先生――と言っても、担任ではなく学年主任――の元を訪れていた。


「はあ、入学初日から面倒ごとを持ってくるのか、お前達は」

「そんなこと言われても、今回の件はあちらが勝手に近づいてきた結果ですからね。俺に言われても困ります」

「それはそうなんだろうがなぁ……」

「それにが起こるのも、最初のうちだけですよ。ある程度経てば、この程度のことは起こらないですし、もっと程度が進んだことになればこちらにも考えがありますし」

「そこは問題は起こらないといってほしいところなんだがなぁ……」

「子供の考えなんてわからないものですよ」

「同い年の高校生に『子供』呼ばわりされたくないだろうな、他の連中も……」


 俺が学年主任のもとを訪れている理由は、言うまでもないが、先ほどの雪音と園田某とのトラブル処理についてだ。

 この手の問題は何かあれば、すぐに学年主任に話すことになっている。

 それに今回は陸斗が録画していた、口論の内容の一部始終が記録されているんだから話は早い。


「それで今回の件については?」

「俺達の間で要注意ってだけで、本人への注意はなし、ってところだな」

「ええ、その辺りが落としどころですかね」


 要するに、要注意対象にはするがお咎めはなしってことだ。


「お前達も、この程度の事でいちいち大事にしていたらキリがないだろう」

「そうですね。それに今回は、雪音の態度が冷たかったことも原因の一つでしょうし」

「それがわかっているなら、事前に対処しろよ……」

「俺が注意しても雪音は変わりませんよ。それに、あのタイプは雪音が一番嫌う相手ですし」

「あーとにかくわかった。報告は上げておくから今日は帰ってもいいぞ」

「はい、それでは失礼します」


 これで、今回の件は終わりだろう。

 この後も園田某が因縁をつけてくるなら、それはそれで対処すればいいだけだし。

 さて、2人を待たせてるだろうし、早く玄関に向かおう。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



 2人と合流し、家に帰って昼食を食べてゲームにログイン。

 昼食は1人だったので簡単に済ませた。


 今日は半日授業だったため、ゲーム内時間でもまだ日は高い。

 まずはガンナーギルドで日課の拳銃製造をやって、ゼノンさんのところに行って修行かな。

 ようやくスキルの上位進化ができるところまでスキルレベルが育ってきたものな。

 可能なら、明日明後日の土日でスキル進化まで育ててしまいたいものだ。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「はーい、それじゃ今日の拳銃製造分の報酬ね。それから今日のクエスト結果でトワ君はギルドランク8に上がりましたー」

「まあ、ギルドランクが上がってくれるのはうれしいですけどね。こんな簡単にぽんぽん上げていいんですか?」

「いいのよ。拳銃製造ってギルドに対する貢献度がとっても高いお仕事なんだから」


 ガンナーギルドで拳銃製造いつものお仕事をこなしたところ、ギルドランクがまた1上昇した。

 拳銃製造は一応、生産系の納品クエスト扱いになるらしく経験値や報酬は少ないが、ギルド貢献度、つまりギルドランクの上昇率はかなり高めなようだ。

 ちなみに、生産ギルドのギルドランクはすでに10を超えている。

 特典は、市場利用の手数料割引だった。

 地味だけど非常にうれしい。


「それにキミは理解していないだろうけど、銃の製造方法ってそれなりに大事な情報なのよ、ガンナーギルドにとって。それを任せられる錬金術士っていうのは、キミが考えているほど多くはないのよ」

「へぇ、ちなみにこのクエストを受けられる錬金術士の条件って?」

ガンナーギルドうちのギルドランクが5以上か、錬金術士ギルドの紹介状を持ってくる事ね」


 聞くと錬金術士ギルドが紹介状を書いてくれるというのもそこそこに難易度が高いらしい。

 少なくとも錬金術士ギルドのギルドランクが5は必要とのこと。

 それなら、この依頼を俺以外に受けられる人がいないのも納得だ。


「ちなみに、俺がこの依頼を受けるの止めたら、また拳銃の流通が止まったりしますか?」

「うーん、長期的に見ればその可能性もあるけど、しばらくは大丈夫よ。それに錬金術士ギルドにも、信頼出来る人を紹介してくれって依頼してるから、もう拳銃の流通が止まるまでの事態は起こらないわよ」


 ふむ、システム的に一度ワールドクエストをクリアすれば、もう大丈夫って事かな。


「ああ、それから、ギルドランク10になったらまた新しい銃の作成ができるようになるから期待しててね。その前に昇段試験があるけど」

「昇段試験ですか」

「そ、ガンナーギルドは一応戦闘系のギルドだからね。戦闘力も問われるのよ。詳しい内容は昇段試験を受けられるようになったら教えてあげるわ」

「了解しました。それじゃあ、また」


 ガンナーギルドを後にした俺は、そのままゼノンさんのところに行って調合と錬金の修行に励み、調薬スキルのレベルが1上がったのだった。


 **********


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