18.弟子入りクエスト 2
弟子入りクエストを始めてから3日。
俺とユキは弟子入りクエストを進めていた。
もっとも、ユキも料理クエストについては2日目にはクリアしてしまって、今は俺の付き添い、というか補助をしてくれているのだが。
俺の方も調合ではユキの補助をしているのでそこはおあいこだろう。
「うーん、調合って結構難しいね」
ユキはそんなこと言っているが、これでもセンスはある方である。
2日目には【調合】スキルも【錬金】スキルも取得していたのだ。
できない人間は、7日ぐらいかかるので、ユキは十分に優秀な分類に入るだろう。
「そこは慣れだな。生産スキルはどれも時間をかけてじっくり育てるものだから」
「うん、それはわかっているつもりなんだけど、やっぱりね」
俺の【料理】スキルの成長に比べて、ユキの【調合】や【錬金】スキルの伸びが悪いのを気にしているのだろう。
実際には、俺達の成長速度の差には訳がある。
単純にステータスが生産よりになっている俺と、タンクよりになっているユキでは、どうしても成長速度に差が出来てしまうのだ。
そのことは伝えてあるんだけど、それでもやっぱり納得がいっていないみたいだ。
「そういえば柚月さん達は今どうしているのかな?」
「柚月達も弟子入りクエストの最中だってさ。他にも種族レベル上げたり、商品を作ったりと忙しいみたいだ」
「そっか。みんな忙しいんだね」
春休み中という事もあって、皆ログイン時間は長いが、やる事が多くて集まる時間は取れていなかった。
まあ、クランを結成済みなので必要なときはクランチャットで連絡は取り合っているのだが。
「とにかく薬草類を集めに行くぞ、調合を鍛えようと思ったらとにかく数をこなすことが重要だからな」
「うん、それじゃ行こうか」
その日もユキは薬草集めと調合で時間を潰すのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――
次の日の午前中、ユキは用事があってログイン出来ないと言うことなので、俺は1人で薬作りに
薬作りの最中、教授が俺を訪ねてきたので休憩をかねて情報交換をしている。
ちなみに、教授達『インデックス』も無事クラン設立できたようだ。
「へえ、それじゃ弟子入りクエストの弟子入り先って1つじゃないのか」
「うむ。我らのクラン『インデックス』でも、同じスキルを持っているものが別々の師匠を紹介されたのである」
「多分、評価内容や他のスキルを使っているかとか判断してるんだろうな……検証大変そうだな」
「うむ……正直、この件については、条件未確定として流すことに決まっているのである」
『インデックス』でも未確定ってなると、もう検証不可能って事じゃないかな……
始まりの街からいきなり面倒な仕掛けを仕込んでくるなあ、運営。
「それにしても、紹介先から派生して別の職業の弟子入りが始まるというのも興味深い話であるな」
「まあな。多分、生産スキル同士で相性みたいなのがあって、それに当てはまるスキル構成だと派生が始まるんだろう」
「ふむ。トワ君とユキ君の場合は、PTを組んだ状態だからその条件に当てはまった、と考えるのが妥当か」
あのタイミングで派生クエストが始まったんだから、それぐらいしか考えられる条件はない。
PT内で同じ生産スキルを持った人がいる場合、ボーナスが入るのはすでによく知られた事だし。
「しかし、そう考えると組み合わせは膨大な数になってしまうな。いやはや、どう検証したものか……」
「最初から検証は諦めて未確定ってことでいいんじゃないか? 最低でも【料理】と【調合】の組み合わせで発生したことだけ告げてさ。そもそも複数の生産スキル上げるとか、現状だと手間がかかりすぎてやっていられないだろう」
「ふむ。その線が妥当か。いやはや、検証したい内容が多すぎるというのも困ったものだよ」
その辺は、情報屋ならではの悩みなんだろうな。
俺はあくまでも自分で使う分の情報しか集めていないし。
「しかし、トワ君が料理とはな。いまスキルレベルはどこまで上がったのかね」
「さらっと個人情報聞いてくるな……まあ、構わないけど。料理は8に上がったところだな」
「と言うことはもうそろそろ修行も終了だね。これからは拠点を第2の街に移すのかね?」
「そうなるだろうなぁ。第2の街での弟子入りクエストもやらなきゃだし」
そもそも、すでに始まりの街の適正レベル帯から外れてしまってるからな。
戦闘スキルや種族レベルは、第2の街に移動しないともうほぼ伸びないだろう。
「ふむ、我々もメインの拠点はすでに第2の街であるからな。また有益な情報があればよろしく頼むのだよ」
「ああ、また何かあったらよろしくな」
そうして教授は立ち去っていった。
ああ、早いところこの街での弟子入りクエストは終わらせないとなぁ……
他の皆も第2の街の弟子入りクエストに進んでるし、
――――――――――――――――――――――――――――――
その後、俺とユキの弟子入りクエストを終了するのに2日かかった。
やはり対象スキルのレベル10が、クエストクリアの条件なんだろう。
ただ、派生クエスト側では次の師匠への紹介状はもらえなかった。
その辺も何か理由があるのだろうが、これで気兼ねなく第2の街に拠点を移せる。
「思ったよりも時間かかっちゃったね、トワくん」
「まあ、仕方が無いさ。別系統の生産スキル2つ育てるとなると時間がかかるものだし。
第2の街に移動してユキの弟子入り先となる店の前までやってきた。
お店の雰囲気としては一般的な人が、少し高級な料理を食べたいときに来るようなお店、と言った所か。
とりあえずまずは店の中に入る。
アランさんからもらっていた紹介状をユキが見せると、すんなりと店の奥へと通されて店の主人と面会することができた。
「ほうアランからの紹介か。……と言うことは調合も学んできているな?」
「はい。アランさんからその方がいいと言われたので学んできました」
「それはよい。うちは薬膳料理も取り扱う店だ、調合の知識がなければ作れないからな」
「薬膳料理に調合ですか?」
関連があることだとは思っていたが、思わず質問をしてしまう。
「そちらは薬士、あるいは錬金術士か。さよう、この世界では薬膳料理とは、薬草類を利用した料理の事を指すのだよ。無論、薬草をそのまま料理の中に入れてもまともな料理にならない。だからこそ調合の知識がないと作ることができないのさ」
なるほど、それでユキに調合を覚えさせたのか。
「でも、次の紹介状はもらってないですが」
「それはそうだろう。なにも材料を全部自分一人で用意する必要はない。必要なのは素材を扱える知識なのだからね。私だって薬膳料理に使う薬草類は、外部から仕入れているよ。自分では下処理できないからね」
こちらもうなずける理由だ。
ゲーム的に言ってしまえば、それぞれのスキルレベル10と言うのが最低限の基礎知識、という事なのだろう。
「君も私の元で修行したいというならば面倒を見よう。だが、君は君の修行があるのではないかね」
つまり俺は錬金術士としての修行を優先した方がいいと。
もちろん、その通りなので黙って頷いておいた。
「さて、それではお嬢さんは私の元で修行してもらおう。君はどうする?」
「俺は俺の推薦先で修行させてもらいます。大丈夫だよな、ユキ?」
「うん、少し寂しいけど大丈夫」
そういうわけで、これからは分かれて修行に励む事となった。
――――――――――――――――――――――――――――――
俺は指定された修業先である錬金術師の家に向けて移動する。
そこは街の大通りに面した立派な店だった。
「いらっしゃい。欲しいのは薬かい、錬金術の素材かい?」
俺が中に入ると店主であろう男性から声をかけられた。
錬金術師と言うには見た目はワイルドなおじさん、と言ったところか。
「いや、どちらでもありません。ゼノンさんですね。クイドールさんから紹介されてきました」
なおクイドールというのは、始まりの街の薬師の名前である。
「ほう、クイドール師匠からの紹介か。なら断れないな。確かに俺がゼノンだ、よろしくな、少年」
「トワと言います。よろしくお願いします」
「俺の所に来たってことは、お前さんも錬金術士であり薬士なんだろう? そうじゃなけりゃ俺のことは紹介されないからな」
「はい。あと料理も少々」
「なおいいな。鍛えれば薬膳料理用の下ごしらえも頼めるって訳だ」
ああ、やっぱりそうか。
薬膳料理の素材を卸しているのは、この人らしい。
「お前さんを弟子として認めよう。早速腕前を見せてもらいたい所なんだが……お前さん銃士か?」
「はい、そうですが何か?」
「錬金術士で銃士か……ちょうどいいな、お前さんはまずここに行け」
そう言って渡された紙には地図が書かれていた。
「そこは
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誤字・脱字の指摘、感想等ありましたらよろしくお願いします。
~あとがきのあとがき~
薬膳料理についてはこのゲームの設定上の話です。
現実にある薬膳料理とは違います。
このゲーム内において薬膳料理の類いはかなり強力なバフアイテムになります。
数少ない(というか序盤で手に入る唯一の)HP・MPを両方上げる効果を持つバフアイテムになるためです。
具体的には、★4品質品ならHP・MPともに+30ほどされます。
第7話で出てきたトワのLv5時のHPが最大34だった事を考えれば破格の上昇量です。
この料理を使って、ユキ(ついでに中間素材を作れるトワ)は結構な額を稼ぐことになります。
前衛にとっても後衛にとっても非常においしいバフアイテムを独占状態で市場に流せる訳なので。
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