17.弟子入りクエスト 1

 第2の街でのお茶会の後は、それぞれ自分の予定に従って行動することとなった。


「それで、トワくん。私達はどうするの?」

「んー、今は生産系のスキルレベル上げを優先したいから、『弟子入りクエスト』かな」

「『弟子入りクエスト』?」


 ああ、ユキには説明してなかったか。


「ほら、生産ギルドで商品鑑定してもらったときに『紹介状』をもらっただろ。あれを使って受けられるクエストなんだよ」

「いったいどういうクエストなの?」

「ざっくり説明すると住人の職人に弟子入りして色々教わりながらスキルを上げるクエストだな。これをやっておくと後々いいことが色々あるんだよ」

「うーん、でも、それを受けている間って別行動になるんだよね」


 ああ、ユキにとってはそっちの方が問題になるのか。


「そうだな。俺は多分薬師の元での修行になるし、ユキの場合は間違いなく料理人だから別々の人に師事することになるな」

「うーん、トワくんと離ればなれになるのはいやだなぁ……」

「まあ離ればなれって言っても数時間だけだよ。他の職人にも聞いたけど、いくつかのステップをふんで師匠の教えを学ぶ、ってクエスト内容だからな」


 だが、あまりユキの表情は冴えない。


「ちゃんと修行場所までの送り迎えはしてやるから心配するなって。それにどうしてもダメだったらクエストリタイアあきらめすればいいんだし」

「うーん、わかった。とりあえずまずは受けてみるね」


 とりあえずユキの説得は成功したようだ。

 と言っても、一流の生産職を目指すなら弟子入りクエストは外せない要素の1つだからがんばって欲しいのだけど。


「ところで、その弟子入りクエストってどこで受けられるの?」

「基本的に第一段階は始まりの街のはずだけど、紹介状を使ってみてくれるか」

「うん、わかった。……始まりの街の食堂に行くように指示されてるみたい」

「わかった、じゃあまずはそこに行ってみようか」


 そうして俺達は転移門を使って始まりの街に戻るのだった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「ユキの紹介状で指定されている場所ってここか?」

「うん、間違いなくこのお店だよ」


 始まりの街に戻ってきた俺達は、まずユキの修業先に寄っていくことにした。

 そこは街の中でもかなり大きな食堂であった。


「クエストマーカーもここを指してるし間違いないか。とりあえず入ってみよう」

「うん、そうしよう」


 ユキも少し緊張していで表情がかたい。


「いらっしゃいませ! お二人ですか?」


 入ってすぐに声をかけられた。

 おそらくウェイトレスをやっている住人だろう。


「ああ、俺達は客じゃなくてここにいるアレンさんに用事があるんだ。ユキ、紹介状を」

「あ、うん。これをお願いします」


 紹介状を受け取ったウェイトレスさんは紹介状を確認し奥に向かって声をかける。


「お父さん、お客さんだよー。ギルドからの紹介だって」


 すると、厨房の方からずっしりとした体型の男性が出てきた。


「うん? お前さん達がギルドからの推薦をもらってきたのか?」

「ああ、いえ。俺は付き添いです。料理人の紹介状を渡されたのはこっちのユキです」

「えっと、ユキです。よろしくお願いします」

「なるほど、ギルドからの頼みとあっちゃ断れないな。オレはこの店の主人でアレンだ、よろしくな嬢ちゃん」

「はい、よろしくお願いします」


 うん、最初は問題ないかな。

 ダメな場合は、いきなり門前払いだからな。


「それで、ソッチの小僧はどうするんだ?」

「俺は薬師の所に向かいますよ。そちらの方に紹介状を書いてもらっているので」

「お前さん、薬士志望だったのか?」

「薬士というか錬金術士ですね」

「……ふむ、なら嬢ちゃんと一緒に修行していかねえか? 薬を作る上で料理の技術があっても困ることはねえからな」


 あれ、こんな流れβテストの時はあったかな?

 普通に調薬士としてしか活動してないから知らないや。

 あ、でもユキが期待した目でこっちを見てるな、これは一緒に修行することにした方がいいか。


「……それじゃあお言葉に甘えさせてもらいます。でも俺は【料理】スキル持ってませんからね」

「なーに、お前さん達は異邦人だろう。だったら修行していれば勝手に覚えるよ。本当に羨ましい限りだがな」


〈派生クエスト『料理の基本を学べ』を受注しました〉


 このような形で俺も料理修行をすることになった。

 料理に興味がないわけじゃないけど、なぜにこうなった……



 ――――――――――――――――――――――――――――――



〈料理スキルを取得しました〉


 あれから3時間ほど料理人の修行ということで、料理の下ごしらえ作業を続けた結果、本当に【料理】スキルを取得してしまった。

 なお、ユキの方は下ごしらえ作業は完璧という事で、早々に次の修行段階に入っている。


「お、お前さんも大分できるようになってきたな」


 様子を見に来たアレンさんがそのようなことを言う。


「これだけできれば見習い料理人としてもやっていけるだろうよ。まずは簡単な焼き料理やサラダ作りなんかで基本を磨くんだな」

「まあそうなりますよね。ちなみに、どうして俺に料理を教える気になったんです?」

「そりゃ、薬作りでも料理の知識が役立つからだ。あとは、食べることで体力が回復したりする『薬膳料理』なんかもあるからな。お前さんとしても、そういうのは興味あるだろう?」


 正直に言えばすごく興味がある。

 薬膳料理なんてβテストの時はなかったからな。


「まあ、薬師の爺さんの所でも修行しなきゃならんのならそろそろ終わりだな。ちょっと嬢ちゃんを連れてくる」


 そういってアレンさんはユキを呼びに行った。

 薬膳料理か……少し料理の方も鍛えてみようかな。

 しかし、スキルばかり増えてどんどん器用貧乏になって行っている気がするのは気のせいだろうか。


「おまたせ、トワくん」

「おう、嬢ちゃんを連れてきたぞ。……それから、これは俺から爺さんへの紹介状だ。嬢ちゃんにも薬作りを教えてやってくれってな」


 どうやらアレンさんの方で、ユキにも薬作りを教えてもらえるように手を回してくれるみたいだ。

 ここはありがたく受け取っておこう。


「それじゃ、紹介状は受け取っておきます」

「ああ、お前さんも料理修行を続けたいならまた来てくれて構わんぞ」


 そういうことなら、時間があるときは料理スキルを鍛えに来るか。


「それでは、ありがとうございました、アレンさん」

「おう、また来いよ」


 俺達はアレンさんに送り出されて今度は薬師の元に向かうのであった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「ここが薬師の家か」

「家と言うよりお店だよね」


 さて、薬師はどんな住人なのか。


「ごめんください……」

「何じゃ、もうポーションなら売り切れとるぞ。欲しければまた今度来い」


 なんだか頑固爺ってかんじの人だな。

 とりあえず、紹介状を出すか。


「いえ、ポーションを買いに来たのではなく、ギルドからの紹介できました」

「ふむ……と言うことは調薬士志望か」

「正確には錬金術士ですけどね」

「薬作りにはそっちも必要になるわい。……それでそっちの嬢ちゃんの方はなんだ」

「そちらも紹介です。ギルドではなく食堂のアレンさんからですけど」

「アレンからの紹介か。と言うことは薬膳料理用の知識を教えろと言った所か。まあ、よい。二人ともわしが教えてやろう。まずは――」


〈チェインクエスト『始まりの街の薬師』を受注しました〉


 ――――――――――――――――――――――――――――――



 ――まずは調合の基本、素材集めからと言うことで薬草類を集めることになった。

 街の東門を出たところに薬草類の群生地があるって聞いたけど、本当だろうか。


「あ、トワくん、あそこに採取ポイントがあるよ」

「ほんとだ。こんな所に群生地があったとはなぁ」


 これも弟子入りクエストのおかげなのだろうか。

 情報の出回っていない薬草の群生地を見つけた。

 どうやら普通の薬草だけでなく、MPポーションの材料である『魔力草』や、STポーションの材料である『気力草』も生えているみたいだ。

 ……わかりやすくはあるが、もう少しひねったネーミングにできなかったのだろうか。


 そして俺達は二人で手分けして薬草類を集め、薬師の店へと戻っていった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「ほう、もう集め終わったか。早かったな」

「ええ、いい群生地を教えてもらってありがとうございます」

「なに、あの辺りはちょうどいい具合に魔力だまりがあってな。薬草類が育ちいやすいのよ。それでは、次は実践の調合と言うことになるが、おぬしら調合の経験は?」

「俺はそれなりに。ユキは未経験です」

「ふむ、そういうことならお嬢ちゃんの方はわしが一から手順を教えるとするか。おぬしの方は……とりあえず、適当に薬を作って見せてくれ」


 なんだか俺の方が投げやりな対応だが、習熟度を考えると妥当か。


 爺さんがユキに調合の手順を教えるのを横目に、俺は俺で自前の調合セットで調合を始める。

 ……うん、HPポーションは問題なく★4が作れるな。


「……ふむ。おぬしの腕前ならわしが改めて教えることはない気がするのう」


 いつの間にか俺の横に来ていた爺さんからそのような言葉がかかる。

 爺さんのセリフから察するに、ここの合格基準は★4のHPポーション作成レベルか。

【調合】スキルのレベルで行くと10前後って所だな。


「まあ、HPポーションは作り慣れてますからね。他のポーションは、久しぶりに作るので少々心配ですよ」

「ふむ。おぬしの腕前なら問題ないであろうがなぁ。……まあよい、コツを教えてやろう、いいか――」


 爺さんから残り2種類のポーション作りのコツを伝授してもらえた。

 試しに習ったことをなぞりながら作ってみると、しっかり★4のポーションが作れた。


「ふむ、やはりおぬしの腕前ならば次の師匠に師事した方が良さそうじゃのう。少し待っておれ」


〈チェインクエスト『始まりの街の薬師』をクリアしました。称号『見習い調合士』を手に入れました〉


 1日目にして弟子入りクエストをクリアしてしまった。

 とはいえ、ユキの件もあるし、いきなり次の段階に進むのもなぁ……


「ほれ、【第2の街】の錬金術師あての紹介状じゃ……どうした微妙な顔をして」

「え、ああ、ユキの方の修行もあるだろうしこれからどうしたものかと」

「何じゃそれならば、お主もお嬢ちゃんに教えてやれば良かろう。その方が効率は上がると思うぞ」


 そう言われてみればそんな気もするので、明日からは余った時間でユキの作業を見てみよう。


 **********


 誤字・脱字の指摘、感想等ありましたらよろしくお願いします。



 名称だけ出てきた『薬膳料理』についての解説は次回の後書きの中で行います。



 ~あとがきのあとがき~


 なろう様の感想で『ヒロインの主人公への依存度が高い』とご指摘がありましたのでこちらでも書いておきます。


 ヒロインの依存度が異常に高いのはそう言う設定だからです、としか今のところは答えられません。

 作者の意図した設定を反映しているため、表現が過剰になっている訳ではありません。

 理由もきちんと設定上は存在しています。


 この先感情表現を上手く描ききれるかは、作者の表現力次第なのでそこは期待してください。

(上手く表現できなかったらすみません)


 あと、ヒロインの性格についても好みの分かれるところだと思います。

 苦手な方は本当に苦手だと思いますので、そこはご了承ください。


 作者もリアルでこんなタイプの女性いたら苦手だと思いますし。


 あくまで小説の中の登場人物ですのでよろしくお願いします。

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