19.ガンナーギルドと拳銃の製法
明くる日、俺は第2の街にある生産ギルドの談話室に『ライブラリ』のメンバーを集めていた。
理由は俺が手に入れた1つのレシピを見せるためである。
「……トワ、確かにこれは俺も欲しかったレシピだ。だが、これをどこで手に入れた?」
鍛冶師であるドワンが俺にそうと問いかける。
「それは、そのレシピ『拳銃』が指し示すとおりガンナーギルドだよ」
「ふむ、ガンナーギルドか。あるとは思っていたがどこにあった?」
「第2の街の町外れにぽつんと。あれは誰かに場所を聞かないとわからないだろうなぁ」
俺だってあんな町外れにまで行ったことはなかったもの。
誰も場所を知らなくても無理はない。
むしろ、前を通りかかっていたとしても気付かないかもしれない。
それくらいひっそりとしたギルドなのだ。
「それにしても、拳銃を作るには【鍛冶】【工芸】【錬金】が必要とはねぇ……」
――――――――――――――――――――――――――――――
前日、俺はゼノンから指定された場所、ガンナーギルドを訪れていた。
ぱっと見の印象は、はっきり言ってギルドに見えない。
むしろ大きめの民家のように見える。
だがゼノンに指定された場所は間違いなくここだし、クエストマーカーもこの建物を指し示している。
「とりあえず入ってみるか……」
見ていてもしょうがないのでこの建物に入ってみることにしよう。
すると、
「いらっしゃーい、ガンナーギルドへようこそ!」
やたらとテンションの高い受付嬢から出迎えられた。
「いやー、ここに訪ねてくる人なんて本当に久しぶりだよ。他のギルドにはよく異邦人達も来てるって聞いてたのに、うちのギルドだけ全然人が来なくてさー。ねえ、君どうしてだと思う?」
テンションが高い上に、やたらとなれなれしいな。
よっぽど暇だったらしい。
「見かけがただの民家にしか見えないからじゃないですかね? 多分、異邦人達もこの街にガンナーギルドがあると思ってませんよきっと」
「あーやっぱり見た目かー。でも、改築するようなお金はないしなぁ。せめてギルドエンブレムだけでも外に掲げておいたら違うかな?」
うん、そうだと思うよ。
「君もガンナーみたいだし、まずはギルド登録だよね。……はい、これで完了。それで今日はどんな用事かな?」
「錬金術師のゼノンさんからここに来るように言われたんですけど」
「ゼノンさんから? っていうことは君も錬金術師かな? 助かるわ、これで滞っていた作業ができる!」
元々高かったテンションがさらに上がった。
俺が錬金術師であることと何か関係があるのだろうか。
「とりあえず君にお願いしたいのは『拳銃』の製造よ! 素材は全部そろっているから早速で悪いんだけどお願いね!」
「拳銃の製造!?」
思わず聞き返してしまった。
今まで誰も手に入れた事のないレシピ、それが『拳銃』だった。
そのため、ガンナー達は弾で攻撃力を稼ぐことしかできなかったのだ。
「そう、拳銃の製造。あれ、ひょっとしてゼノンさんから何も聞いてない?」
「はい、聞いてないです」
すると受付嬢さんは仕事の内容を説明してくれた。
ガンナーの武器、つまり『拳銃』はいくつかの素材を【錬金】スキルで合成して作るらしい。
少し前まではゼノンさんが引き受けていたが、増加する薬の需要を満たすために薬作りに専念する必要ができた。
そのため、今では拳銃を完成させることができず、売ることができなかったという。
ここまでの説明を聞いたタイミングでシステムメッセージが表示された。
〈Wクエスト『拳銃の製造』を開始します。このクエストが達成された時点より、拳銃の流通が行われます〉
……Wクエスト、つまりワールドクエストですね。
どうやらこのクエストを完了しないと、拳銃を買うことはできないらしい。
これは面倒とか言ってられないな。
……
…………
………………
〈Wクエスト『拳銃の製造』をクリアしました〉
《とあるプレイヤーが条件を満たしました。これより装備『拳銃』の流通が再開されます。なお、街により販売開始までの日数が異なります》
久しぶりにワールドアナウンスを聞いたね。
拳銃の入荷まで数日かかるのか。
「いやー助かったよ。やっぱり魔力の高い人が錬金をやってくれると仕事が早いね!」
いや、
まあ、それに見合うだけの【錬金】スキル経験値が入ったらしく、スキルレベルが3も上がってしまった。
これ、それなりに錬金レベルが必要な作業なんじゃなかろうか。
「がんばってくれた君に朗報です。特別にガンナーギルドのランクを5まで上げます」
ランク5? がんばったにしては半端なランクだな。
「そしてギルドランク5の特典、『拳銃のレシピ
なるほど、素材を見ているから作り方も開示すると。
そのためのランク上昇ね。
――――――――――――――――――――――――――――――
「とまあ、そういう経緯で俺は『拳銃のレシピセット』を買えるようになった訳だ」
「なるほどのう。そして、これがレシピというわけか」
目の前にあるレシピは3枚。
銃身・グリップ・拳銃の3つだ。
銃身を作るには【鍛冶】、グリップを作るには【工芸】、最後に拳銃として組み立てるためモンスターの魔石を使い合成する【錬金】。
これらが全部そろって始めて意味があるレシピだ。
ちなみに、魔石が火薬代わりとなって弾丸を飛ばすことが出来るようになっている、らしい。
「しかしあれだ、ようやくレシピが手に入ったと思えば、そんな面倒な行程が必要だったとはのう」
「それで、ボク達に素材の作成をお願いしたいと」
「まあ、そういうわけだ。あと、この情報を『インデックス』に流すかどうかだな」
「情報は流しておかないと面倒なんじゃない? ようやく拳銃を買えるようになったところでプレイヤーメイドの拳銃がいきなり出回り始めたら話題になるなんてものじゃないし」
「それじゃ、後で教授に連絡しておくよ。それで、拳銃の素材なんだけど作れそう?」
「可能かどうか、で言えば可能じゃな。ただ、まずはブロンズで試さないと不安じゃ」
「同じく低ランク素材で作ってみないと不安かなー。レシピランク高いし」
「その辺は任せるよ。あと、耐久値が減ったときの修理は【鍛冶】扱いみたいだからよろしく」
「それじゃ、今日は解散ね。まったく、いつもの事だけど変わったもの拾ってくるんだから」
まるで俺がいつも変なことしてるみたいなことを言われた。
……でも、反論出来ないような事してるよなぁ……
――――――――――――――――――――――――――――――
「はっはっは、それじゃあ今でも拳銃の製造は請け負ってる訳だな!」
あの集会から数日後、ゼノンさんの笑い声が響く。
今日はゼノンさんの店で、錬金と調合の修行である。
「ええ、まあ。報酬も出ますし、錬金の修練にちょうどいいので」
そう、結局、あの依頼の後もガンナーギルドには通って拳銃の製造を行っている。
今は通常依頼扱いになっているが、錬金経験値がうまい上に1日に数回分請け負える。
素材も
教授と話し合って決めたガンナーギルドの情報拡散は上手くいっているようで、ここ数日は俺以外にもガンナーギルドを訪れる人が増えている。
だが、拳銃の製造クエストは『拳銃』レシピを持った【錬金】スキル持ちしか受けられないため、実質独占状態だ。
「そうだろう。あれはお前さんレベルの錬金術師にはちょうどいいんだよ。俺以外に引き受ける錬金術師がいなかったから俺がやっていたけど、任せるのにちょうどいい弟子ができたなら任せてやらんとなぁ」
「それはどうも。でも、最初にいく前に事情を説明してもらえるとうれしかったんですがね」
「最初からネタバレしていたら面白くないだろう」
うん、ゼノンさんはこういう人なのだ。
悪気はないが豪快というかめんどくさがりというか。
それでいて調合や錬金の指導は的確で、俺のスキルレベルはめきめき上昇している。
ユキの方も料理人修行に励んでいて、あちらも順調なようだ。
ちなみにサブジョブの方は1段階目のクラスチェンジ済みで『初級錬金術師』となっている。
また、称号の方も『見習い錬金術師』を手に入れている。
メインジョブの方は、狩りに行く時間が足りなくてここ数日はまったく上がってない。
これは『ライブラリ』のメンバー全員に言えることで、狩りに行く時間を生産修行と商品作成に割り当てているためである。
あくまでも生産職の戦闘力なんておまけみたいなものなので問題ない。
最初のころに急いでレベル上げていたのは、第2の街に行けるようにするためだった。
次は鉱山街に行かなきゃならないのだが、それは後日攻略組のクランに手伝ってもらう事になっているため、こちらも問題ない。
それから、クランの拠点を作る事も出来た。
第2の街の北門広場へ向かう通り沿い、そこにあった売り家を改築してクランホームとすることにしたのだ。
1階は店舗スペースと各自の『工房』施設、それから休憩場所として談話室、2階は来客対応用の応接間や会議室など、3階が各個人の個室となっている。
この建物を買ったり、建物内の設備を色々改装したり、あとは新しい各自の生産設備を購入したり等々。
各自の販売利益から一部分を割り当てていたクラン口座――要するにクランの共有資産――の残額が一気に減ってしまったが、満足のいく買い物ができた。
ただ、βテストのときはどれだけ改築や改装を施しても一瞬で完了していたが、正式サービスからは改築や改装を施すと時間がかかってしまうらしく、完成して引き渡しまではまだ数日を要するとのこと。
これも、後は完成を待つばかりなのでまったく問題がない。
問題があるとすれば……
「あ、ゼノンさん。明日からは大体1日おきにしか来られなくなりますので」
「うん? そりゃ毎日来なくても構わないが、何か用事でもあるのか?」
「ええ、まあちょっと」
……本来的な話をすれば問題ではない。
そう、つまるところ、昼間に予定ができる。
明日からは高校生になるのだ。
**********
第1章はこれにて終了。
次回より第2章になります。
誤字・脱字の指摘、感想等ありましたらよろしくお願いします。
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