12.クラン『ライブラリ』1
トワのクランメンバーの登場回です。
この先、メインでおつきあいすることになるメンバーですのでよろしくお願いします。
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時刻は午後7時半、改めてログインした。
フレンドリストを確認したが、ユキも含めて待ち人は誰もログインしていない。
ただ立って待つのもヒマなので、帰りに集めてきた素材で錬金と調合のスキル上げを行う。
しかし、そのような時間もそう長くは続かなかった。
「あ、トワくん。待たせちゃった?」
ユキがほんの数分後にログインしてきたからだ。
「いや、特に待ってはいないさ。見ての通り、生産作業も今始めたところだしな」
もう少し遅れたら、やっぱりユキを待たせる事になっていたな。
とりあえず、待ちぼうけさせずに済んだことをよしとしよう。
「トワくん、この後ってどうするの?」
「今日8時から俺のクランメンバーで集まって、今後の予定を決めることになってる」
「ああ、それで8時って指定だったんだ。私も一緒に行っていいのかな?」
「ああ、ユキがうちのクランに参加する予定なのは皆に伝えてあるよ」
正式サービスから、ユキがうちのクランに加入するだろうと言う予定は、事前に全員の了解を取ってある。
まあ、うちのクランとしてはあまり最前線で活躍するとかそういう規律がある感じではないので、特に誰も異論はなかったらしい。
あと、できればハルやリクもうちのクランに誘えないか、という打診も受けてはいた。
生産職としては、素材集めなどのために戦闘職も少しはほしいらしい。
二人ともクランについては、『しばらくゲームをして落ち着いたら考える』といった感じの回答だった。
「うーん、集合予定まではまだちょっと時間があるよね。私も料理してようかな」
「なら料理できる場所まで移動するか。具体的には生産ギルドの貸しスペース」
「うん、まだよくわからないから、その辺はトワくんに任せるよ」
露店をやるわけでもないのに広場で料理はあまり好ましくないだろう、という判断で場所を移ることにする。
もっとも、生産ギルドは目の前にある施設なんだけど。
生産ギルド内部も冒険者ギルドと同じようにインスタンスフィールドになっているらしく、周りに利用者はほとんどいなかった。
と言うよりも、生産ギルドの利用者は基本的に生産職なので、ほぼ全員が貸しスペースにいるのだろう。
生産ギルドの受付で利用方法の確認やら住人の名前確認など、基本的な情報確認を終え、ギルドの貸しスペースを3時間の予定で借り受ける。
そのままギルド2階にある貸しスペースへと足を運び中に入る。
「うわー、いろいろな設備がある部屋だね」
「基本的に全部の生産設備がそろっている部屋を借りてきたからな。クランメンバーとの打ち合わせも、この部屋でする予定だしな」
「じゃあ私も料理始めようかな。と言ってもウルフ肉の焼き肉しか作れないけどね」
「まあ素材がないんじゃ仕方が無いさ。俺もあっちで薬作りをしてるよ」
そうして2人で生産作業を始める。
食材屋によって料理用の素材買ってから来ればよかったかな。
そして2人で30分ほど作業をしているとフレンドチャットが届いた。
『ハーイ、トワ久しぶり。みんなそろってるわよ』
『柚月か、久しぶり。今、生産ギルドにいるからこっちに来てくれ』
『確か入るときにフレンドのいる所を選択出来るんだったわね。了解、すぐに合流するわ』
「ユキ、俺のクランメンバーが集まったみたいだから迎えに行ってくる。下の食材屋によってくるけど、何か買ってくるものある?」
「うーん、何か果物類が欲しいかな。果物があればジュース作れるから」
「了解。適当に果物見繕って買ってくるよ」
ユキに一声かけて、俺は貸しスペースから一度退出する。
1階にある食材屋に寄って、指定されたとおり果物を数種類見繕って購入しておく。
そしてギルド内で少し待っていると、待っていた元クランメンバー達がやってきた。
「ハーイ、トワ。さっきも言ったけど久しぶり。元気してた?」
「久しぶり、柚月。皆も変わりないようで何よりだ」
「うむ、それで確かおぬしの彼女を紹介してくれるのじゃなかったかの?」
「彼女って……正しいけどさ。今、貸しスペースで料理中だよ」
「料理中って事は彼女さん、料理人なんだー」
「ああ。自己紹介と今後の予定についてはそっちで話そう。こっちだ」
メンバー全員を案内して貸しスペースへと入った。
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「始めまして、トワのパートナーのユキです。まだ初心者ですがよろしくお願いします」
今日は顔合わせと言うこともあり、まずは自己紹介から始めた。
「よろしくね。私は柚月、これから立ち上げる予定のクランのサブリーダーよ。生産の担当は裁縫ね」
最初に挨拶をしたのは柚月、本人の言った通りサブリーダー、という名前の実質的なクラン運営責任者予定だ。
アバターはβの時と同じ、身長170センチ弱の黒髪を腰まで伸ばした日本人的な容姿かつモデル体型のままだ。
これでもリアルとは同一人物とわからない程度には顔をいじっているらしいが見た目ではまったく違和感がない。
変わっているところと言えば、髪の間から見える耳が長く尖っているところかな。
どうやら柚月は種族をエルフにしたらしい。
服装はβの時に最後に着ていたサマーカーディガンにブラウス、それにパンツスタイルというはっきり言ってファンタジーと言うよりも現代的な衣装である。
「わしはドワーフのドワン。担当は鍛冶じゃの」
次に挨拶したのはドワン、鍛冶全般を担当するプレイヤーだ。
βの時に宣言していたとおり、正式サービスでは種族をドワーフに変えたらしく身長は160センチ程まで低くなっている。
髪型も、ブラウンの髪を適当に切りそろえたというか……とにかくそんな感じだ。
βの時はヒューマンしか選べなかったため身長180センチちょっとのナイスガイだったが、今はドワーフと言うこともあって低身長となったのだろう。
外見は初老のドワーフといった感じに仕上げており、口調もそれにあわせているし、ついでに言えば声色も変わっている。
おそらくはボイスチェンジ機能を使っているのだろうが……違和感なく仕上げてくる辺り、さすがロールプレイ勢と言ったところか。
服装はやはりβの時に着ていた所々を金属で補強した革鎧一式に身を包んでおり、ドワーフの戦士と言った雰囲気がよく出ている。
「イリスだよ、よろしくねー。担当は木工全般かなー」
最後に挨拶をしたのはイリス、木工製品の担当で『ライブラリ』に所属していたメンバーの中でもっとも若い……というかまだ中学生のプレイヤーだ。
先に挨拶した柚月とドワンは大学生のはずなので、その若さは特に際立っている。
アバターは……見た感じだとぱっとわからないがおそらくハーフリングだろう。
元から低めだった身長がさらに低くなっており、今は150センチに届くか届かないかといったところだ。
服装は2人と同じくβの時の服装、フリル付きノースリーブドレスにキュロットスカートといった服装だ。
柚月が仕上げているだけあって、見た目的には非常に可愛らしくイリスの雰囲気にマッチしている。
そして髪型はエメラルドグリーンの髪をショートヘアにしている。
「あ、私の担当は……料理でよろしいですか?」
「カタイわね、ユキ。わたしら、あまり歳も変わらないはずだし、もっと砕けた口調で構わないわよ」
「うむ、そうじゃの。わしも現実では大学生じゃしのう」
「そーそー、気楽に行こう。それがうちのやり方だし」
「えっと……わかりました。でも口調は癖のようなものなので気にしないでください」
「そうなの、トワ?」
「そうだな。多分、慣れてくれば砕けた感じになると思うから今は気にしないでくれ」
お互いの自己紹介は終了、今後の予定に移る。
一応、クランリーダーだった事もあり自分から話を切り出すことにする。
「さて、大前提の話になるが、クラン『ライブラリ』は作って全員参加という事で間違いないな」
「もちろん。そうじゃなかったらここに来ないって」
「それでも一応確認は必要だろう。今後の予定に関わる大事なことなんだからさ」
「まあ、そうじゃのう。それで、ユキの嬢ちゃんも参加で構わないのじゃな」
「はい、よろしくお願いします」
「オッケー、いやー料理担当がいないからどうしようかって話になってたんだよねー。βテストの時に」
クランの設立とユキの加入については簡単に話がまとまった。
さて、ここからが本題だ。
「次にクラン設立に必要なお金をどう集めるかだな。まあ、これもいちいち確認するまでもないけど……」
「そうだねー。まずは各自で自分の分野の経験値稼ぎと平行して、マーケットに商品を流してお金稼ぎかなー」
「それしかなかろうよ。露店をする時間があれば少しでもいい品を作るための時間に充てたいしの」
「そうね、まだレベルが低いから作品に銘は入れないで市場に流しましょう」
「あの、市場とかマーケットってなんですか?」
先ほど購入してきた果物で、全員分のジュースを作っていたユキから質問が出る。
「ああ、マーケットって言うのはアイテムの取引が自動でできるシステムかな。市場って言うのはその通称」
「あ、うん、そうなんだ。話の流れ遮っちゃってごめんなさい」
「いえいえ、気にしなくていいのよ。基本は大事だからね」
「ちなみにユキの料理にも期待してるからな。値段をちゃんと適正価格つければ売れるから心配しなくていいぞ」
「そうなの?」
「むしろ市場の料理は枯渇気味と言った所じゃのう。品質も★2程度が一般的で味も微妙じゃ」
「味覚があるって言うのはすごい事なんだけど、おいしくないって言うのは微妙よねぇ……」
「ああ、ユキの料理は大丈夫だぞ。ウルフ肉の焼き肉が塩コショウとハーブだけで★4作るほどだからな」
「★4って事はバフ付き料理ね……ウルフ肉はやっぱりSTR?」
「いや、VITを1時間の間+2だったな」
「なるほど、最序盤の素材でもそれだけの効果が望めるなら間違いなく売れるわね。というか転売も起こりそう」
「転売まで対策する必要はないさ。こっちが決めた利益を得られるならしばらくの間は、な」
「じゃあまずは資金稼ぎのための素材集めね。それじゃあ、初級生産素材セットを開封しましょうか」
βテスターだった俺達は全員『初級生産素材セット』を引継特典としてもらっている。
なお開封した結果は『銅鉱石』『錫鉱石』『ナラの木材』『ウルフの皮』『薬草』『ウルフの肉』がそれぞれ50個ずつだった。
「うーん、素材は全部★2かぁ。できれば★3がよかったんだけど……」
「ああ、それなら大丈夫だ。錬金で合成すれば品質上昇するから2個で1個になってしまうが、品質はそろえられる」
「ではそれで頼むかの。★3でないと★4の装備を作るのは難しいからの」
「まあ、いま市場に流れてる装備品はほとんど★2で★3が時々混じっているぐらいなんだけどねー」
さくさくと今後の予定がつまっていく。
ユキは隣りでニコニコしているから、初心者なりに理解していると言うことだろう。
「それじゃ、トワは早速だけど合成をお願い。私達も早く自分の装備を調えたいからね」
「了解。じゃあトレードよろしく」
俺の手元に全員分の素材が集まったので、サクサク合成で素材の品質を上げていく。
その間に、柚月達は種族レベルやスキルレベル、素材の採取場所などの情報交換をしていく。
「ふむ、この近辺で鉱石を集めようとすると、西の崖沿いにある採掘ポイントという訳か」
「木材も北の森まで足を伸ばさないなら西の林で十分かなー。ナラの木材が手に入るかはわからないけど」
「私の素材は現状最高品質のがウルフの皮になるから、そっちは任せていいわよね、トワ」
「ああ、俺達の素材も北の森やその周辺で手に入るから、そっちは任せてくれ。あと、薬草類を見かけたら採取よろしく」
結局、すべての素材の合成が終わるまでの30分の間に今後の予定はほぼ確定していた。
ここからは各個人の装備調整タイムだ。
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誤字・脱字の指摘、感想等ありましたらよろしくお願いします。
~あとがきのあとがき~
人名を考えるのって難しいですよね。
それが、無制限に登場するとなるとなおさら。
Webで自動制作シミュレーターも試しましたが、しっくりいく名前が出てこなく……
というわけで、トワ達はNPCの名前を基本的に聞いてますが、関わりが深くなりそうな人間以外は具体名を出しません……
あと、余談ですが、掲示板のユーザー名を「名無しの~」としたのも人名を出し始めるときりがないからだったり。
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