8.冒険者ギルドにて

「あれ、冒険者ギルドの中ってあまり人がいない?」


 どうやらユキは冒険者ギルド内に足を踏み入れた瞬間、外の騒ぎが聞こえなくなっている事を気にしていないようだ。

 それよりも、いっそ騒々しい外に比べて内部にいる人の少なさに気をとられている。


「冒険者ギルド内はインスタンスフィールド扱いだからな。外部と切り離されているんだよ」

「うん? つまりどういうこと?」

「ダンジョンの中みたいなものだと思えばいい」

「うーん、それでもよくわからないけど、中は人が少ないって思ってればいいんだね」


 あまりよく理解はできてないみたいだが、今詳しく説明することでもないので、納得してくれたならそれでいいだろう。

 まずは冒険者ギルドでギルド登録するクエストをすませてしまおう。


「さあ、窓口が空いてる間にさっさとクエスト報告をすませてしまおう」

「あ、うん、そうだね。早く行こう」


 俺達は空いている窓口にならび受付嬢に話しかける。


「すみません、冒険者登録を2名分お願いします」

「はい、かしこまりました。……異邦人の方ですね。冒険者登録の申請を受け付けました」


 そう、このチュートリアルクエストはこれだけで終わってしまうクエストなのだ。

 実際、ログにはクエストクリアのログが表示されている。


「あれ、これだけでいいんですか?」


 βプレイヤーではないユキには不思議に思えるのだろう。

 実際、βテストの時は俺も不思議に思って聞いてしまった。


「はい、異界より訪れている異邦人の方は、特に試験等は行わないことになっております」

「えっと、冒険者ギルドに来るのは初めてなんですけど、どういう風に利用すればいいのでしょう?」

「はい、それではお答えしますね。まずは、利用の手続きですが……」


 受付嬢がユキに冒険者ギルドの利用方法を懇切丁寧に説明してくれている。

 もちろん、俺もその内容は横でちゃんと確認している。

 ユキが聞かなければ、俺が質問していた内容だ。


 受付嬢はクエスト掲示板の利用方法や受注方法、素材の買取方法、その他ギルドの規約などを詳しく説明してくれている。

 ギルドの規約の辺りになってくると、ゲームとして考えればフレーバーテキスト あまり意味はないものだが、世界として考えればこれらの規約がないと上手く立ちゆかないような内容となっている。

 『ギルド規約を考えた人はセンスがある』というのが、規約の内容を聞いたβテスターに共通する認識だったり。


「……以上が当ギルドの利用方法になります。何か質問はございますでしょうか?」

「一個、質問いいですか」


 横で利用方法などを聞いていて疑問に思った事があったので、この機会に確認をしておく。


「はい、どのような内容でしょう」

「『冒険者が冒険者に依頼を出すこともできる』と先ほど言っていましたが、異邦人の冒険者が冒険者ギルドに依頼を出すことも可能なんですか?」

「はい、かつて大昔に異邦人の方が訪れていた際にはできなかったとの事ですが、今は可能となっております」

「なるほど……昔はできなくて、今は出来るようになったと言うことですね」

「はい、そうなりますね。もちろん、クエストの内容による報酬とギルドに納める手数料はご用意いただきますが」


《あるプレイヤーが『ギルドに依頼を出す』事についての条件を達成いたしました。これよりすべてのプレイヤーは、各ギルドに対して『ギルドに依頼を発注』できるようになります。詳しくは追加されたヘルプをご確認ください》


 あっ、どうやら何かのトリガーを引いてしまったようだ。

 がっつりワールドアナウンスが流れてしまった。

 まあ匿名で流れた事だし、隣りにいるユキぐらいしか誰がやったか理解出来ないだろう。

 しかし、こんな内容、もう誰かが気付いていてもおかしくないはずなんだが、誰も気付いてなかったんだろうか。

 特に検証班。


〈シークレットクエスト『クエスト発注の方法』をクリアしました。報酬として20000Eが支払われます〉


 お、20000Eの臨時収入はおいしい。

 この後、スキルを覚えたい俺にとっては本当にありがたい事だ。


「異邦人の方には珍しい内容だったんですね。皆さんご存じかと思い、今まで説明してこなかったのですが」

「ええ、まあ。『昔の』規約を知ってるものとしては知らなかったですね」

「ほう、昔の規約をお知りと言うことは、やはり皆様はかつてこの地を訪れた異邦人の方とつながりがあるのですね」


 あ、これもう一つアナウンスが流れかねない流れだ。


「えーと。……そうですね。かつてこの地を訪れた異邦人達に連なるものです」

「やはりそうでしたか。あなたがたのお名前は英雄物語に残されて受け継がれていますよ」

「あー……。それは光栄です」


〈『かつての英雄に連なる者』がクリアされました。称号『かつての英雄に連なるもの』が対象者全員に付与されます〉


 あ、ワールドアナウンスはなかったけど、称号対象者全員に強制付与か……

 多分、βのランカー全員に配られたんだろうなあ……

 現実逃避は諦めて新しい称号の確認をしよう。


 ―――――――――――――――――――――――


【かつての英雄に連なる者】

 βテストにおいて優秀な成績をおさめたものの証

 あなたの名は英雄物語に受け継がれている


 ボーナスなし


 ―――――――――――――――――――――――


 うむ、よかった、今度はボーナスなしだ。

 ボーナス付きの称号をβランカーに配ったなんてなったら、色々と目も当てられない。


「それでは他にはなにかありましたでしょうか」

「俺からはなにも」

「あの、あなたのお名前を教えてもらってもいいですか?」

「これは失礼しました。私は『ルアリア』ともうします」

「えーと、トワです」

「ユキです」

「トワ様にユキ様ですね。もし英雄物語がお読みになりたいのでしたらギルド2階の資料室にお立ち寄りください。それでは失礼いたします」


 ユキの機転で受付嬢の名前をゲットできた。

『住人の名前を確認するのは基本』だというのにすっかり忘れていた。


 さて、それじゃあ何か適当にクエストを受注してレベルを上げに……


「待ちたまえよ、トワ君。君に聞きたいことがあるのである」


 行こうとしてたら、背後から声をかけられてしまった。

 この声には聞き覚えがある、と言うか、つい先ほど称号のことで話をしていた相手だ。


「……教授、どうやって俺がここにいることが?」

「ふむ、その答えは単純である。フレンドリストに表示されているのである。ギルドナンバーごとね」


 そう、話をしていた相手。

 βテストの時に連携していた情報屋兼検証班クラン『インデックス』のリーダー『教授』だ。


「フレンドがギルド内にいる場合のみ、同じインスタンスフィールドに入ることができるようになっていたのであるよ、正式サービスからね」

「トワくん、この人、お知り合い?」

「ふむ、察するに君がトワ君の言っていたパートナーであるな。始めまして、情報検証班クラン『インデックス』リーダー予定の『教授』である。以後お見知りおきを」

「えーと、教授さんですね。始めまして、トワのパートナーのユキです」

「ふむ、『教授』と呼び捨てで結構である。そちらの方が呼ばれ慣れているのである」

「はぁ……」


 うん、教授の濃いキャラ付けにはユキもかなわないか。

 教授が来てしまった以上、称号の件は隠しきれないだろう。

 となると、どこでその件について話すかだが……


「ふむ、ここは多少とは言え他の目もある。他人の入れないスペースで話し合うとするでのある。付いてきたまえ」


 教授はそう言って受付嬢と一言二言やりとりを行い、どこかの鍵を借りていた。

 ……ああ、忘れてたが各ギルドには打ち合わせ用の貸し出しスペースがあったな。


「さあ、こっちだ。今日は色々な情報が飛び交う、いわば稼ぎ時だからね。時は有限であるぞ」


 教授に案内されてギルドの貸し出しスペースに入る俺とユキ。


「さて、自己紹介は先ほどのやりとりでよいとしてだ。まず、トワ君、『加護』や『祝福』とは何のことかね? 称号関連だと言うことは質問でわかっているのだが、それ以外がさっぱりである。時間もないしキリキリ白状したまえ」

「はぁ……、わかったよ。『加護』や『祝福』ってのは精霊から与えられる恩恵の事だよ。チュートリアルをクリアしたらそれがもらえた」

「チュートリアルクリアか。では、その称号の入手方法は? 誰でも手に入るものかね?」

「悪いけど入手方法については答えられない。『教えない』って精霊と約束しているからね」

「そうか、それは残念である。では、称号ボーナスの方は開示できるのかね?」


 さて、称号ボーナスについてか、困った。

 ボーナスの内容について教えれば黙っていてくれるとは思うけど、答えていいものか。


 ふと隣に座るユキの方を見ると、ユキは黙ってうなずいてくれた。

 俺の判断に任せるという意味だろう。


「……俺の称号ボーナスについては公表しないと言うなら開示可能だ。それで、『情報屋』として対価はいかほどになる?」

「ふむ、対価か。それが問題になるのである。いかんせん我々もまだ十分な対価を用意出来る環境にないのである」


 それはさすがにそうだろう。

 まだ正式サービス開始から3時間弱、それで十分な対価が用意出来るほど稼いでいたら、それはそれで問題だ。


「あれだ。情報交換って事でもいいぞ。俺達はこの後、『スキルブック』を買いに行きたいんだけど、それを取り扱っているお店の場所が知りたい」


『スキルブック』というのは、それを読むことでスキルを覚えることができるマジックアイテムの事だ。

 街で手に入るスキルブックは、基礎的なものが多く、多少時間をかければスキルブックなしでも覚えられるものが多い。

 しかし、まだサービス開始当初と言うことで、その時間をお金で買えるなら安いものである。


「覚えたいスキルは何かね?」

「【気配察知】と【夜目】、それから【光魔法】かな」

「それなら大丈夫である。教えてもらう情報の内容次第では、スキルブックの購入費用もこちらで負担しよう」

「OKだ、その条件で開示しよう。これが、俺の称号【風精霊の祝福】の効果だ」


 そう言って、教授に見えるように【風精霊の祝福】の詳細情報を表示する。

 さて、教授はこの情報にどれだけの価値をつけるのか。

 ある意味、楽しみになってきたぞ。


 **********


 誤字・脱字の指摘、感想等ありましたらよろしくお願いします。


 この小説におけるシステムメッセージとワールドアナウンスの扱いですが、


〈~~~~~~~~~〉(山括弧)がシステムメッセージ(個人向けメッセージ)

《~~~~~~~~~》(二重山括弧)がワールドアナウンス(全ユーザー向けメッセージ)


 とさせていただきます。

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