9.情報の価値とスキル構成

 情報の価値って人によってそれぞれですよね。


 **********



「……ふむ。いやはや、何ともこれはすごいのである」


 あれ、教授の口調が崩れないな。

 ロールプレイの一種だと思ってたから驚いたら崩れるか、とか考えてたけど案外あれが素なのかな。


「意外と驚いていないように見えるけど、情報の価値としては低かったかな?」

「ばかもの。逆だ。情報としてあるだけでそれを手に入れたいと思えてしまうのである。このような爆弾をやけにあっさりと用意してくれたものだな、【爆撃機】」

「【爆撃機】?」

「……あー、β時代の俺の二つ名だ」


 ユキの前で懐かしい名前を持ちだしてくれたものだな、教授。


 教授をにらんでみるがまったく効果がなさそうだ。

 教授も目の前にある『爆弾』の処理で忙しいのだろう。


「こんな強力なスキルが手に入る称号が、よりによってチュートリアルで手に入るとはな……。いや、これだけ強い称号が出てしまったことが異常であって、本来はこれより弱い称号だったのか……?」

「あー、考察中悪いが、本来だとそれの下位互換の【精霊の加護】しか手に入らない予定だったみたいだぞ。あくまで俺が予定外の行動をとってしまっただけで」

「なるほどである。やはり【三鬼衆】が異常と言うだけであるか」

「ほっとけ。それで、その情報の価値はいかほどだ?」

「その前に聞きたいのだが、そちらのお嬢さんもやはり【祝福】持ちであるか? もちろん、ここだけの話にするのである」


 その教授の言葉に、改めてユキの方を見て確認をとる。

 ユキはやはり黙ってうなずいてくれるだけだ。


「……どう答えても結果は同じだろうから答えるけど、ユキも【祝福】持ちだ。なんの精霊かは教えない」

「……つまり君の称号以上の爆弾と言うことであるな。わかった、これ以上は聞くまい」


 一気に疲れた、とでも言いたげな表情で椅子にもたれかかる教授。

 確かに疲れるだろうな、これだけの情報をいきなり開示されたら。

 俺もさっき疲れたから間違いない。


「やれやれ、これだけの情報どう処理すればよいのやら。掲示板で話題になっている【初心者講習優良認定】の検証でも、これから開始予定のメンバーに確認をとってもらわねばならないのに……」

「ん? 【初心者講習優良認定】ってなんだ?」

「……ああ、君は基本的に掲示板を利用しないのだったな。今、掲示板で話題になっている称号だよ。具体的な内容はこれだ」


 そう言って、教授は1枚のSSスクリーンショットを提示してくれた。


 ―――――――――――――――――――――――


【初心者講習優良認定】

 チュートリアルでウルフ師範に認められた証

 戦闘についてあなたはもう少しで一人前だ


 BPボーナス:2 SPボーナス:2


 ―――――――――――――――――――――――


「あ、これ……」


 同じSSを覗き込んでいたユキが声を漏らす。

 ああ、そうだな、俺達が持ってる称号の完全な下位互換だな。


「うん? 君達もこの称号を持っているのかね?」


 俺達もこの称号を持っていると思った教授に対して、俺は無言で1つのウィンドウを見せる。

 もちろん俺達が持っている【初心者講習免許皆伝】の詳細情報だ。


「……いやいや、君のリアルセンスの高さはよく知っているつもりだが、さすがにここまでとはな…… 詳細を見るにあのウルフにノーダメージで勝利しているのだろう。まさに化け物だな」

「失礼な。動きを見極めることができれば誰だって取れるはずだぞ。多分、きっと」

「動きを見極めることが、まず不可能だと思うのだがね。いいかね、あのチュートリアルは……」


 そして教授はウルフ師範とのチュートリアルについて、わかっている範囲で詳しい内容を教えてくれた。


 要約すると以下の通りらしい。


 ・ウルフ戦は1回でも負けたら次は挑めない

 ・相手のHPの前半と後半で戦闘パターンが変わる

 ・戦闘開始から10分が経過するとウルフが消えて戦闘終了してしまう(もちろん次の戦闘はない)


 さらに、【初心者講習優良認定】の称号は、勝てば確実に手に入るが、負けても手に入ることがある、らしい。

 この『負けても』の範囲には、10分経過の時間切れも含まれていると言うのが、掲示板を賑わせている原因とのこと。


 はっきり言ってしまえば【初心者講習優良認定】の称号に、そこまで全力で取りに行くほどの価値はない。

 BPやSPが手に入るのはメリットだが、それでもキャラクターの再作成をしてまで取りに行く時間があったら、その時間で普通にレベルを上げた方が何倍も効率的だろう。

 それでもこの称号を取りたいというなら、よほどのゲーム廃人か、レア物好きのコレクターか、と言った所か。


 今回の場合、そこに条件が未確定という要素が含まれているためのお祭り騒ぎだろう、とは教授の言葉。

 俺もその意見に賛成かな。


「ふむ、いつまでもここで現実逃避していてもらちがあかないのである。トワ君、この免許皆伝の情報は掲示板にあげてもいいかね?」

「ああ、構わないよ。なんだったら情報元ソースが俺であることも合わせてアップロードしてもらって構わないよ」

「ふむ、そうしてもらえると助かるのである。今のこの状況でさらに上位の称号があるなどと言い出したら、情報元はどこだと大騒ぎになるに決まっているのである」

「その点、情報元が『爆撃機オレ』だと示せば落ち着くだろうという予測か」

「そうだな。君のリアルスキルがバカげているのは、βテスターならほぼ全員知っていることであるからな」


 相変わらず、人のことを人外扱いしてくれる。

 まあ、自分でもVR空間での動きは普段に比べてかなりきれがあると思っているから、あまり強く反論出来ないんだけど。


「ふむ、これでよし、と。これでしばらくは沈静化するのである。あとは、優良認定の詳しい取得条件だが……」

「文面から見るに、ウルフに一定以上のダメージを与えたとかじゃないかな。それなら負けても称号が手に入る理由になるし」

「うむ、まずはその線から辿ってみるのが一番であるか。情報提供感謝するのである」

「こっちが開示した情報以外は、思いつきだったりするけどな」


 とりあえず称号関係はこれで一段落となりそうだ。


「あの、質問いいですか?」


 ここでユキから質問があるみたいだ。


「何かね、お嬢さん。私に答えられる内容であれば答えるのである」

「ええと、私達が手に入れた【祝福】の称号って他の人から見てもそんなにすごいんですか?」


 ユキは【祝福】称号の価値がどの程度なのか計りかねているらしい。

 俺から説明してもわからないだろうから、ここは教授にお任せしよう。


「ふむ、私でよければ説明させてもらおう。まず、すごいかどうかといえば、とてもすごい、と言うのが本音である。今はまだ素のステータスが低いので誤差の範囲に収まってしまうが、今後レベルが上がり、ステータスが高くなるほど効果が高くなるのである。現段階でそんな強力なスキルが手に入っているのは、とても有利なことであろうよ」

「そんなに、ですか」

「そんなに、だな。もしこれらの称号、あるいは一段階下の【加護】であったとしても、確実に手に入る手段がわかればキャラデリしてでも手に入れたいと思うものが多いだろうな」


 そこまでの大事ではないと思っていたのか、ユキは驚いた表情をしている。

 やっぱり俺以外の第三者から説明してもらわないと、ユキには上手く伝わらないんだよなぁ……


「そういうわけだからこのスキルと称号を持っていることを、第三者に話してはいけないのである。いいかね、お嬢さん」

「はい、ありがとうございました」


 ユキの疑問も解決したようなので報酬を決めることにしよう。


「それで、教授。今回の情報はどれぐらいの価値になったかな」

「……それなのだが、非常に困っている。提示されていたスキルブックだけでは釣り合いが取れないのである」

「へぇ、そこまで高く買ってくれるんだ。ちょっと意外だな」

「何を言うか。ここまで強力なスキルが手に入ることがわかったのである。それに説明文中に『精霊と友誼を結ぶ』という内容があったのである。それならば、この先、どこかで精霊に会えたときに手に入る可能性があるのである。その可能性だけでも十分すぎるほどの価値があるのである」


 教授がここまで言うと言うことは、つまりそういうことなのだろう。

 俺も見積もりが甘かったかもしれないな。


「ふむ、提示されていたのは【気配察知】と【夜目】、【光魔法】であったな。これは2人分として考えてよかったのであるか」

「【気配察知】と【夜目】はできれば2人分欲しいな。【光魔法】はユキの分だけで構わないよ」

「しかし、トワ君もどうせ【回復魔法】持ちだろう。ならば上位魔術の【神聖魔術】狙いで【光魔法】を覚えていても問題ないのではないのであるかな」

「確かに【回復魔法】持ちだけど、【神聖魔術】まで取るつもりはあまりないんだよなぁ。神聖魔術って、回復以外の面はピーキーなスキルが多いし……」

「そこについても是非取得して、その情報をこちらに流してもらいたいものなのである。βテストですこぶる評判の悪かったスキルが、どのような調整がなされているのか是非知りたいものである」

「あれ? 【神聖魔術】って修正対象になってたっけ?」

「なっているよ。リリースノートを隅々まで読むのは大変だが、確認をおこたると痛い目を見るぞ」

「そうか、なら【光魔法】をスキルブックから取得して、【神聖魔術】を覚えてみるのも一興だな」

「では先のスキルブックは2人分ずつだな。他に何かリクエストはないのかね」

「そう言われてもなぁ……」


 ステータス上昇系のような使い勝手のいいスキルブックは、まだまだ先にならないと手に入らないし、何より高く付く。

 かといって始まりの街および周辺で手に入りそうなスキルブックで欲しいものとなると、そうそう思いつかない。


「うーん、貸しじゃダメかなあ」

「ダメであるな。これだけのものはこの場で片付けておきたいのである」


 さて困った。


「……ふむ、思い浮かばないようならば、私の方からアドバイスとしていくつか提案出来るがどうであるかな」

「提案?」

「まず、お嬢さんが前衛でトワ君が後衛、これは間違いないのであるな」

「ああ、それであってる」

「ならばお嬢さんはタンクもこなすと言うことであろう。ならば【挑発】スキルは持っておいても損はないであるな」

「まあ確かに、【挑発】があればタゲ取りがやりやすいだろうなぁ」


 その分、簡単に覚えられるからあえて初期スキルからは外したんだけど。

 ……でもよく考えてみたら、ユキが挑発とかできるんだろうか。


「お嬢さんが【挑発】を持っていないなら確定で構わないのである。そして、トワ君は銃士のようだから、いっそスカウト系のスキルに手を伸ばしてはどうかね。具体的には【看破】【罠発見】【罠解除】辺りであるな」

「生産系スキルって選択肢はないのか……」

「そんなもの、君は必要になれば自分で手に入れるであろう。これからもお嬢さんとペアでやっていくつもりなら、スカウト系を伸ばしてみても損はないのである」

「損はしないけど得もほぼないような。俺、一応生産者だし」

「スカウト系スキルならDEXも上がって一石二鳥であろうに。【罠作成】も手に入る模様だからその4点に、威力重視の【火魔法】を組み合わせれば、狐獣人の有り余る魔法力も使えてよりグッドであるな」

「あーもうそれでいいから、好きにしてくれ……」


 こうして俺はスカウト型スキルを覚えることとなってしまった。

 ホント、どうしてこうなった……


 **********


 誤字・脱字の指摘、感想等ありましたらよろしくお願いします。



 ~あとがきのあとがき~


『リリースノート』は修正点や改良点をまとめたもののことです。

 オンラインゲームでは『パッチノート』と言った方が通じるかな?

『リリースノート』のどちらかと言えばIT用語なのですが、本作では『リリースノート』で統一させていただきます。

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