ほしのおわり

たぬきぐま

ほしのおわり

 地球は終わりを迎えます。

 総理大臣の言葉が街に響く。

 星が回避不可能な軌道で接近している。

 総理に代わって専門家が説明をする。


 そうか、あの人も死んでしまったのか。

 一言、地球が終わる、その言葉が世界を殺した。世界に秩序と倫理は消え、ただ本能だけが歩いている。終わる前の世界で言うところの犯罪は日常と化し、友達だった彼は友達だった彼女を殺した。すれ違うと会釈を交わした近所の女性は食料を奪い合い死んだ。死がこんなにも近くに潜んでいる。平和だった世界もまた死んでしまった。そんな平和の亡骸を月よりも明るい星が照らしていた。


 また配給が減った。そのうち配給も止まる頃だろう。

 電気はまだ流れているが夜には止まる。しかし最近は星の光によって夜でも周りの物は見えるくらいになった。それでも夜は外に出る物じゃない。いつ殺されたっておかしくない。理由もなく殺す、そんな輩が増えた。もちろん誰かの恨みを買っていような人は昼にだってうかつに外に出られやしないが。

 少なくなっていく配給や物資によって力による支配が形成されていった。首領を名乗る権力者を中心にグループが作られそこに物資は集まり、それが序列によって配分されていく。一番下の奴隷は三日に一度食料が与えられればいい方であり、そして過酷な労働を強いられていた。そのうちグループ同士が争い、支配地域を広め奴隷を増やす。その過程で多くの死者を生み出され、弱者が間引きされていく。絶大な権力を有する首領は食事、物資、女には困らず、もしかしたら前の世界よりも充実した暮らしをしているかもしれない。その反面奴隷となった人々はそれまで経験したことのないような苦しみを味わい、負の感情を募らせていった。


 昼も夜も変わらず星が明るく照らし続けている。もう明日なんて言葉はなくなった。

 支配の形は進み、より広い範囲を占領していった首領は王と呼ばれ、支配する土地を国と呼んだ。日本には3人の王が生まれた。王同士は睨み合いを続け、小規模の争いはあるが安定した力関係を保っていた。しかしある日、一人の王は殺された。奴隷の少年の手によって。その国の権力者は軒並み殺され、代わって少年が王座に就いた。この革命によって日本の三国の均衡は崩れ、再び争いが始まった。以前までと違い力の増した国同士の争いは激しさを増し、日本は荒んでいった。そんな惨状の中でも星は世界を照らし、そして壊し続けている。


 そろそろ地球は終わるよ、そう星が言っているような気がした。

 ついに日本が統一されようとしている。あの奴隷の王はまずひとつ国を倒すとその勢いに乗り、残るもう一つの国を追い詰めた。そして追い詰められた王は、惨めな死を遂げるのなら、と自殺をした。奴隷の王はこれまで人の命を、心を踏みにじってきた最後に自分はそれから逃げたのかと怒り、その死体を吊るし見世物とした。こうして日本はまた1つとなり、再び秩序が形成されていき、平和が訪れようとしていた。そして世界は星によって終わりを迎えた。あまりに突然なそれは人に恐怖を与えることなくすべてを終わらせた。


 監視ルームからでた僕は今回の報告書をまとめる。

 クローンを使った終末実験。人道的か非人道的かなんて議論はとっくに消えて、昔のモルモットのような扱いを受ける彼ら。監視する職につく僕が1番わかっている、彼らも人間と言うことを。いつか、いつか奴隷であった彼のようなクローンがこの世界を終わらせてくれる。そんな淡い妄想のような期待を抱いて、僕は彼に関する記録を消した。星は案外もうそこまで近づいているのかもしれない。

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ほしのおわり たぬきぐま @araiguma_3sei

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