第5話 満点
「もうすぐ中間テストか、憂鬱だなぁ……」
高校に入学してから一ヶ月余り、中間テストの時期がやって来た。
「中間テストなんて範囲狭いんだし、ちゃんと授業を聞いてノート取って置けば余裕でしょ?」
至極まともな事を尤もらしく言い放つ沙織。
「そんなの頭が良い人間だからこそ通用する理屈じゃない、ねぇ愛梨?」
「何を言ってるのよ、同じ高校に進学してる時点で頭の良さに大差なんてないわよ、常夜さんもそう思うでしょ?」
「……」
私と沙織の二人から同意を求められ、愛梨は困った様子で私と沙織の顔を交互に窺う。
出会った頃に比べ、愛梨は感情を表に出すようになってきた。
全ては愛梨に対する私の『愛』が為せる業だろう……まぁ、それはそれとして――。
「……私の知らない間に、二人が打ち解けてるのが何となく釈然としないんだけど!?」
「いや、そんな事を言われても……」
沙織から聞いた話に依ると、二人が打ち解けるきっかけになったのは、私が風邪で学校を休んだ時の事らしい。
本来、プリントを届けるのを頼まれたのは沙織だったらしいが、何かと理由を付けて愛梨に届けさせるよう取り計らってくれたそうだ。
「愛梨が私の家に来てくれるように、気を利かせてくれた事には感謝してるわ……」
沙織は『個人的な罪滅ぼしのつもり』と、よく解らない事を言っていたけど、理由はどうであれ、そのお陰で愛梨が私の部屋に来てくれたのだから、沙織にはとても感謝している。
しかし……だ!
「例え、沙織が相手でも愛梨は譲らないからね!」
「いや、だから別に常夜さんをどうこうするつもりは毛頭ないんだけど……」
「はぁ!?……こんなにも可愛い愛梨と仲良くなれる
「一体、私にどうしろと言うんだ、あんたは……?」
呆れた様子で沙織が言った。
「うぅ……」
愛梨に友人が増えるのは素直に嬉しい。
尚且、その相手が気心の知れた沙織であるなら言う事はない。
頭では理解している、理解はしているのだが感情が付いて来ない……私はこんなにも利己的で独占欲が強かったのかと、改めて思い知らされる。
「えっと、だからそれは……え!?」
考えが纏まらないまま、勢い任せに口を開こうとした時だった。
「……」
突然、背中に柔らかくて温かい感触が伝わる。
「あ、愛梨……?」
突然の事に動揺を隠せないまま後ろを振り向くと、愛梨が私の顔を見て微笑んだ。
「……❤」
まるで、私の心を見透かすように『大丈夫、心配ないよ』と、愛梨が優しく抱き締めてくれる。
「……ありがとう、愛梨❤」
愛梨の小さな手に、自分の手を重ねながらそう言った。
「……はぁ、もう勝手にしろって感じだわ」
私達の様子を眺めていた沙織が、付き合い切れないとばかりに深い溜息を吐く。
「あ、あはは……訳わかんない事ばかり言ってごめんね、沙織。それと、愛梨の友達になってくれてありがとう♪」
呆れて肩を竦める沙織の手を取り、照れ隠しにウインクをひとつ。
「べ、別にお礼を言われる程の事でもないわよ……!」
「素直じゃないなぁ、沙織は……このツンデレめ!」
「ツンデレ言うな」
「あはは♪」
中学の頃、沙織とよくこんな感じにふざけあっていた事を思い出す。
(そう言えば、最近は沙織とこう言うやり取りしてなかったかも。たまにはこう言うのも良いなぁ……って、痛っ!?)
「……」
「あ、愛梨…?」
お腹の辺りに痛みを感じ、視線を落として見てみると、後ろから腕を回したままの愛梨が私の横腹を軽く抓っていた。
「……」
「愛梨、もしかして妬いてくれてるの?」
愛梨は抓るのを止めると、私の腰に腕を回したままソッポを向く。
「愛梨~❤」
その仕草があまりにも可愛くて、私は我慢出来ずに愛梨を抱き締めた。
「で……結局、真琴はどうしたいの?」
私が愛梨を存分に堪能したのを見定めた後、沙織がそう切り出した。
「何の話?」
「中間テストが憂鬱だとか言う話よ」
「ああ、その事ね……」
綺麗サッパリと忘れていた事を思い出し、私は再び憂鬱な気持ちになる。
「沙織はどうなのよ、良い点を取る自信はあるの?」
「まぁ、それなりに」
同じ高校に進学したとは言え、沙織は私よりもかなり成績の良い方だ。
さっきも言ってたように、わざわざテスト勉強をしなくてもそこそこの成績は残せるのだろう。
「……愛梨はどう?今回のテストは自信ある?」
「……」
愛梨は少し考える仕草を見せた後、控えめに頷いた。
「そっか、愛梨も成績は良い方なんだ……じゃあ、この前あった実力テストも良い点は取れたの?」
「……」
愛梨は鞄の中から一枚の紙を取り出し、私に差し出す。
「これって……ああ、実力テストの成績表ね……って、えぇ~っ!?」
愛梨の成績表を見て、私は思わず声をあげた。
「……」
国語100点
数学100点
社会100点
理科100点
英語100点
「全教科100点とか、在り得ないんだけど……」
「これは、凄いわね……」
後ろから覗き見ていた沙織も驚きの声をあげる。
「……?」
私と沙織が驚きの声をあげる中、当の本人だけは不思議そうに首を傾げていた。
「愛梨!いえ、愛梨先生!」
「!?」
唐突な『先生』呼びに、愛梨が驚きの表情を見せる。
「私と一緒にテスト勉強しようよ!」
「……❤」
今週末、愛梨の家にお邪魔する事になりました。
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