第2話 友達
「……ちょっと、真琴」
放課後、愛梨と一緒に下校すべく彼女の元へ向かおうとすると、不意に後ろから声をかけられた。
振り向いた先に立っていたのは、小学校の頃からずっと一緒に進学して来た親友、
「どうしたの、沙織?」
沙織に返事をしつつ、愛梨の方にチラリと目をやる。
愛梨は授業が終わるとすぐに帰ってしまうので、タイミングを逃すと一緒に帰る事が出来ない。
「最近、あの娘に
「ちょ、誰がストーカーよ誰が!?」
納得いかないと言った感じの私を見て、沙織は『ハァ……』っと短い溜息を吐く。
「あんた、自分で気付いてないの?……ちょっと自分の行動を思い返してみなさいよ、そうすれば納得するだろうから」
そこまで言うのならと、ここ最近の行動を思い返してみる事にした。
――朝
「おはよう、愛梨♪」
教室の中に愛梨の姿を見つけると同時に駆け寄り、ぎゅーっと抱き締める。
「……」
相変わらず無言の愛梨は、それでも嫌がる素振りを見せることなく私の腕の中にすっぽりと収まっていた。
――休み時間
「~❤」
愛梨の机にもたれ掛かり、真正面から彼女の愛らしい姿を眺め続ける。
「……」
長い前髪の奥の瞳が何処を見ているのかは定かじゃないけれど、傍目にはじっと見つめ合う二人。
「ねぇ、愛梨の顔もっとよく見せて♪」
「……」
愛梨は無言のまま、恥ずかしそうにソッポを向いた。
――お昼休み
四時間目終了のチャイムが鳴り止むと、私は弁当箱を片手に愛梨の席へと向かう。
「愛梨、一緒にお昼食べよ♪」
初めて声を掛けた日から、お昼はずっと一緒に食べていた。
「……」
私が隣の空いている席を引き寄せると、愛梨も鞄から弁当箱を出して手を合わせる。
「いただきます」
「……」
愛梨はいつものように黙々とお弁当を口に運ぶ。
他愛もない話を(一方的に)しながらお弁当を食べていると、愛梨が卵焼きをそっと差し出してきた。
「……うん、今日も美味しい❤」
パクリと卵焼きを頬張り満面の笑みでそう返すと、愛梨はまた黙々と食事を続ける。
「……」
「ほら、愛梨にもお返し♪」
そう言って、タコの形に細工したウインナーを愛梨の口元に近づける。
愛梨は少し戸惑いながら、私が差し出すウインナーを凝視していたが、やがてゆっくり口を開いてパクリと頬張った。
――放課後
「愛梨、一緒に帰ろ♪」
「……」
愛梨は無言のまま席を立つと、学生鞄を小さな背中に背負って教室を後にする。
私は愛梨の後を追い、歩幅を合わせながら隣に並ぶと愛梨と同じ速度を保って歩き出した。
「……ストーカーだ、これ!?」
ここ最近の行動を振り返り、私は思わずそう叫ぶ。
「やっと、理解したようね」
やれやれと肩を竦め、沙織は再び溜息を吐いた。
「で、でも嫌だなんて一度も言われた事ないし!」
「そりゃそうでしょ、あの娘喋れないんだから……」
「……うぅ」
思い返してみると、確かにウザイくらい粘着しているかも知れない。
「ど、ど、ど、どうしよう!?もしかして、愛梨……本当は私の事を嫌がってるのかな?」
「そんな事、私に解る訳ないでしょ?そんなに気になるんなら、本人に聞けば良いじゃない……さっきから、あんたの事を待ってるみたいだし」
「え……?」
ふと、愛梨の方へ顔を向ける。
いつもならすぐに帰ってしまう愛梨が、鞄を背負ったままこちらを伺うように眺めていた。
「友人が
「そ、そうだよね!別に嫌がられてる訳じゃないよね!」
沙織の言葉に、私はホッと胸を撫で下ろす。
「そう言う事だから、さっさと行ってくれば?……あんまり待たせてると、本当に帰っちゃうわよ」
「うん、そうする!またね、沙織!……愛梨、一緒に帰ろ~♪」
沙織に軽く手を振りつつ、私は愛梨の元へと駆け出す。
「……はぁ、付き合いの長い友人としては、他の娘にばかり構ってるところを見ると、ちょっとばかり妬けちゃうって事も解って欲しいんだけどね」
私の後ろで、沙織の溜息が聞こえたような気がした。
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