部屋
「は」
何か、息苦しさに目が覚めた。
こちこちと時を刻む音が響く暗がり。天井にぶら下がる照明器具は宵闇に包まれその役目を果たさず佇んでいる。星すら無いアパートの一室は時折近くを通りかかる車のライトの他に光りは無く、今は澱の如き影の中だ。
暗い。
正体の見えない咽喉を締める何者かはどこにも居ない。居ない、ように思う。何も見えない。
狭い、とても狭い部屋なのだ。布団から半身を起こし、積み上げられた本を掻き分け、壁へと手を突く。
届く。それほどまでに、小さな小さな部屋なのだ。
電気のスイッチに触れた時、本当に明かりを欲しているのかと己に問われた気がした。
こんな、こんなにも壁の逼る場所に、他の何かが居たら。それが、自分の首を絞めているとしたら。
それは、とても恐ろしいことなのではないか。
苦しさはもう無い。なら、探さずともいいのでは。
こちこちと刻まれ続ける時。
今は、何時だろう。
気になる。
しかし、恐ろしい。
誰に見られているでもないのに平静を保っているかのように咳払いを一つ。
馬鹿らしい。
こんな狭い部屋に、他の誰かが居るわけが無いのだ。
「あぁ」
一息呟き、立ち上がる。ぶら下がった照明が鬱陶しい。振り払うように視線だけを泳がせる。
もう、こんな時間か。
夜明けが近い。朝陽が昇る。井戸の水底よりも深く狭苦しい居場所にすら、天照らす陽光が差し込む。
そうして、私は私と目が合った。
どろりと投げ出された眼球。
ずるりと吐き出された蘆舌。
「く、」
苦しい。なるほど、苦しいわけだ。苦しかったわけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます