静香、デートは大成功?
表参道。人通りの多い土曜日の昼下がり。
静香はしっかりと4時間前に起きたのだが、
その甲斐はどうやらあった様だ。
「久しぶりに思い切りオシャレをした気がする。き、緊張するなぁ」
「あ、課長!お待たせしました。飲み会の景品ですよね。買うのって」
「あ、うん。そう」
「いくつかお店も決めておきました」
そう言うと祐二は一枚のプリントをカバンの中から取り出した。
「ありがとう!」
「あ、あの、ひとまずお昼ご飯行きませんか?空いちゃって」
「そ、そうね。お腹空いてちゃ買い物に集中出来ないしね」
実は準備と緊張で静香は朝から何も食べていなかったのだ。
勿論、それは祐二も同じなのだが。
「じゃあ、行きましょう!」
祐二が先頭を切って歩き出す。静香にはその背中がいつにも増して頼りに見えた。
そんな背中を見ながら笑みを浮かべる静香に気付く余裕などなく、
祐二は必至に地図を見ながらランチを取る予定のお店へと向かった。
軽くランチを済ませ、二人は祐二が用意した地図に沿ってお店を巡っていく。
あれこれ物色して、同僚達が喜びそうなものを二人で選んでいった。
「今日は色々と付き合って貰って有難うございました」
「ううん。私も久しぶりに色々と見られて楽しかったわ」
「景品も買えましたし、飲み会に来る皆、きっと喜んでくれますよ」
「そうね。喜んでくれたらいいな」
やがて日も落ち、何とはなしに表参道駅の方へと二人は歩き出した。
どちらかが何か切り出せば変わりそうなものなのだが、
お互いに緊張を感じられるくらいに、二人共、切り出す言葉を迷いに迷っていた。
「じゃぁ、僕はこっちの電車なので、これで!気を付けて帰ってくださいね」
祐二は態とオーバーに身振り手振りを交えて別れの挨拶をした。
「ありがと。中村君も気を付けてね」
「はい!」
元気よく返事をして、静香に見送られる祐二。
静香から自分の姿が見えない所まで来てから、
深いため息をついたのは言うまでもない。
「ただいまー」
「おかえりーシズカ。どうだった?デートは」
「き、緊張してあまり覚えてない」
そう言うと、静香は着ていたワンピースを乱暴に脱ぎ捨てベッドに倒れこんだ。
「でも、その声の感じだと、楽しかったみたいだね」
「ま、まぁ。楽しかったと言われれば、楽しかった、かな」
静香はゴロっと寝返り、天井を見ながら今日の事を思い出していた。
「良かった良かったー」
すると突然スマホンの目がピカッと輝いた。
「あ、ナカムラユウジさんから電話だよー」
静香は慌ててベッドから転がり落ちる様にスマホンが座る机へと移った。
「え、中村君から!?は、はい。安達です」
「あ、課長、今日は有難うございました。もうご自宅ですか?」
「あ、うん。さっき帰った所。こちらこそお昼ご馳走様」
「あの、また今日みたいに、買い物とか、食事とか、
付き合って貰ってもいいですか?」
「え!?うん。全然、大丈夫」
「ほんとですか!良かった!じゃぁ、また是非!」
「うん」
「おやすみなさい!」
「あ、うん。おやすみなさい」
静香は呆けた状態でそっと机にスマホンを置いた。
その様子をしっかり確認した上で、
やれやれといった様子でスマホンは静香に話掛ける。
「ユウジからは何の電話でした?」
「何か、お礼と、またご飯とか行こうって電話」
静香は少し照れた様子でスマホンに答えた。
「二歩前進だね」
スマホンはその小さな手でブイサインを作ってみせた。
「うーん」
何だか冴えない声を上げながら静香はまたベッドに倒れこんだ。
「どうしたの?シズカ」
首を傾げながら静香に尋ねた。
「何か、幸せ過ぎて怖い」
一瞬の静寂。壁に掛けた時計の秒針がカチカチと音を立てている。
「重症だねシズカ」
これ以上ないほど無感情且つ棒読みでスマホンは静香をからかう。
実際には普段からそこまで感情豊かに喋るワケではないのだが。
「う、うるさい!」
静香が投げた柔らかい枕が、スマホンをポスッと優しく包み込んだ。
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