静香、デート?に誘われる

「ただいまー」


いつにも増して沈んだ声を出しながら静香はスマホンに本体を戻した。


「お帰りシズカ。飲み会があるんだね」


背伸びをする動作を入れながら、スマホンは静香に話しかけた。


「な!どっからその情報を!」

「シズカがスマホのカレンダーに入力したから」

「あ、そっか。そうなのよ、何故か飲み会をする事に」


スマホンは事の顛末を予め理解した上で、敢えてこう切り出した。


「で、ユウジに恋人はいたの?」

「それを聞こうとして飲み会をする事になっちゃったのよ」


絶妙な間を空けるスマホン。

これはあくまでデータ処理中ですと言わんばかりの表情を浮かべる。

実際には何も表情は変わっていないのだが。


「恋人がいるかどうかを聞いてたはずなのに飲み会をする事になるなんて、

人間ってすごいね」


いつもより1.5倍程大きい音量でスマホンはそう応えた。


「本当にね!って、スマホンそれ褒めてる?」

「僕のデータの想像を超えていて感嘆してます」

「多分だけど、バカにしてるね・・・」


多分ではなく、完全にバカにしているのだが。


「で、結局ユウジに恋人はいたの?」

「多分、いないんだと思う。ゴールデンウィーク予定ないって言ってたし」

「良かったね!一歩前進!」


スマホンは拍手をしてみせた。


「でもはっきりそうって判ったワケじゃないし」

「!」


突然スマホンの様子が変わった。

目をピカっと光らせて直立不動になる。


「ナカムラユウジさんから電話だよ!」

「え!?中村君から!?」


思えばスマホンが起動中に電話が掛かってきた事は初めてだった。

静香は慌ててスマホンを掴み、画面の表示に従って画面をスライドさせた。


「あ、はい、もしもし安達です」

「あ、もしもし課長ですか?中村です」


帰宅してから祐二から電話が掛かってきた事は初めての事だった。

多少緊張を持って静香は話した。


「どうしたの?仕事で何かあった?」

「あ、いえ。ちょっとご相談したい事がありまして。飲み会の件で」


飲み会の件でと念を押され、少し落胆したものの、すぐに切り返す。


「うん、それで?」

「折角初めて飲み会するんだったら、何か景品とかあった方が盛り上がるかなと」

「あー、そういうの全然考えてなかったな」

「あの、もし課長が明日予定なければ、一緒に買い出し行きませんか?」

「あ、うん。別に良いけど」

「ほんとですか!?良かった!

じゃ、明日、12時に表参道で待ち合わせしましょう!」

「12時表参道ね、了解」

「では、失礼します!」

「あ、うん。おやすみなさい」


画面をスライドさせ、通話を終わらせる。

静香はそっとスマホンをテーブルに置いた。


「ユウジからは何の電話でした?」

「明日の12時、表参道で買い物を付き合う事になった・・・」


スマホンは目をピカっと光らせた。


「やったね。デートだ!」


バンザイのポーズを取ってみせる。

判り易い喜びの表現だが、実際に目の前でされると、

静香はなんだか照れ臭くなった。


「そ、そんなんじゃないって。飲み会の景品買いに行くのを手伝うだけ」

「でも、そういうの別にシズカじゃなくても良いはずでしょ?」

「そりゃ、そうだけど」

「ほら!ユウジもシズカの事、気になってるんだよ」

「もう、スマホンがそういう風に言うから、私は気になっちゃうんだよ」


はいはいとばかりにスマホンは話を続ける。


「シズカにも、やっと春が訪れたんだねー。

じゃ、明日の12時表参道で待ち合わせを、カレンダーに登録しますか?」

「お、お願いします。4時間前にアラームも」


4時間前、というのが、静香の生真面目さを如実に表していた。


「かしこまりましたー!」


イエッサーとスマホンは敬礼してみせる。

静香に言われる前から、アラームの登録は既に完了していた。

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