静香、恋?をする。

「おはよー」

「あ、おはようございます課長」

「・・・・」

「あ、あの、課長?どうしました?ボーっとして」

「はっ、いや、何でもない」


自分が祐二の事を眺めてしまっていた事に、指摘されて初めて気付き、

顔が赤らむ。何とかバレない様にと、少し俯き加減で答えた。


「は、はぁ。あ、これ、今日締め切りの資料です」

「うん、有難う」


出来るだけ顔を見ない様に努めながら、静香は資料を受け取った。


「(ヤバイ、スマホンがあんな事言うから、どっかで意識しちゃってる。

そんな風に考えた事なかったからなー。

言われてみれば、背も高いし、良い子だし、

年齢的にも丁度良いくらいなのよね。

ちょっと犬っぽい所も何か私好みだし・・・・。

あぁ、もう!、考え始めたら余計意識しちゃうじゃない。

切り替えて、仕事仕事!)」



「た、だいまー」


静香はスマホンの電源をオンにしてから、沈む様にベッドへ倒れこんだ。


「どうしたのシズカ?何か声に元気がないね」

「もう!スマホンのせいだぞ!」


うつ伏せになったまま静香は応えた。


「?僕が何かしましたか?」

「スマホンが昨日、中村君の事を言うから、

気になっちゃって仕事になんなかったの!」

「でも、タイプじゃないって昨日シズカは言ってたよ」

「タイプじゃない。タイプじゃないけど。そういう風に見てなかっただけで」

「意識してみると、意外と丁度良いかもと思ってしまったと」

「ロボットの癖に人の心を読むなあ!」


ロボットのはずなのに、

凄くニヤニヤしながら言われている様に静香には聞こえていた。


「でも、図星ですよね」

「ぐうの音も出ない・・・」

「デートでもしてみればいいじゃないですか」

「無理だよー。彼女いるかどうかもわからないし、それに私から誘うなんて」

「確かに。シズカから誘うのはパワハラと思われる可能性もあるもんね」


腕を組みながらスマホンはそう断言する。

実際には組める程長い腕ではないのだが。


「きみ、本当に色んな言葉知ってるね」

「僕の言語データはインターネットから取得しています」

「御見それいたしました」


エッヘンと胸を張るスマホン。


「どういたしまして!それとなく、恋人がいるかどうか、

ユウジに聞いてみたら?」

「それこそパワハラでセクハラでしょ!」

「相手が嫌がればセクハラ、嫌がらなければただの世間話です」

「時々的を射た事言うわよね、スマホンって」

「僕の言語データはインターネットから取得して」

「それはもう良いって!」



「おはよー!」


明らかに普段のテンションではない静香の挨拶に祐二は思わず笑ってしまった。


「か、課長、今日テンション高いですね」

「え、あ、そ、そう?そんな事なくってよ。おほほほ」

「何か、言葉遣いもおかしい気が」

「な、中村君ってさ、一人暮らしだっけ?」

「あ、はい、そうです」


祐二はそう言いながら、今日会議で使う資料を案件毎にデスクへ並べていく。


「ゴ、ごーるでんうぃーくとか、予定は?」

「はい?予定ですか?いや、特にはないですけど。どうしたんですか?」


祐二は思わず手を止めてしまう。

不必要な期待は持たない様にと自分に言い聞かせていた。

その様子を見た静香は、却って変に焦ってしまった。


「いや、その、ね。会社で、1回くらい飲み会とかやろうかなって思って」

「あ、そうなんですか!じゃ、僕、幹事やりますよ」

「いや、まだ、やろうかなってくらいで」

「日程、みんなにいつが良いか聞いときますね」

「あーいやー。そういう事じゃなくて」

「いやー、飲み会楽しみだなー」


祐二はウキウキと資料をまた並べだした。

その前では、本来の主旨とずれてしまい、

何とも言えない表情を浮かべる静香の姿があった。

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