優秀なスマホン
「おはようー」
「あ、課長、おはようございます。スマホ、良いの買えました?」
沢山の資料を抱えた祐二が満面の笑みで訪ねてきた。
静香は、まさか自分がロボット型のスマホを買った等言えるワケもなく、
スマホンから外したとてもシンプルなスマホに見えるモノを取り出した。
「う、うん。買えたよ。ほら。これ」
「結構シンプルなのにしたんですね。課長らしくて素敵です」
「ありがと!さて、今日も張り切って仕事しなきゃね!」
「はい。あ、これ、今日締め切りの資料です」
「はいはい。後で目を通しておくわね」
早くこの話題を終わらせなくては、スマホンを買ったとバレたら恥ずかしい。
と、目の前の電話が鳴り響いた。静香にとっては渡りに船だ。
「はい、四葉商事、営業部の安達でございます」
「あ、では、僕も仕事に」
「ただいまー。さて、スマホンの画面を本体に戻してっと。」
静香はスマホをスマホン本体にはめ込んだ。スマホンの目がパッと明るくなる。
「おかえりなさい、シズカ。今日は沢山歩いたみたいだね。」
「おー。判る?スマホン。もう足パンパンなのよ」
静香は自分の足を揉みながらだらけている。
「今日の消費カロリーは、1,500キロカロリー。
一日の平均消費カロリーだよ。
毎日これくらい運動すると、健康的な身体になるね。」
「毎日これだけ歩いたら、そりゃ健康にでもなってくれないと困りますー」
「歩き疲れた足には、温めるのが効果的だよ。一日の疲れを癒す為にも、
20分程の半身浴がオススメ!半身浴のやり方を画面に表示しますか?」
「あー、お願い!」
「りょうかーい。画面に表示するよ」
スマホンの目には小型のプロジェクターが備わっている。
テーブルに腰かけたスマホンが目の前に画面を映し出した。
「君は本当に仕事が出来るねー。すぐ昇進間違いなしだよー」
「僕は会社員じゃないので、残念ながら昇進はありません。
もし、僕にご褒美をあげたい場合は、オプションパーツを買ってね!」
スマホンは喋りつつ小気味良く踊って見せた。
「おっ、商売上手。でも、その手には乗りませーん」
「シズカはおだて上手だね」
「おぉ。返しまで一流かい。君は」
えっへん!とばかりにスマホンは胸を張って見せた。
その様子におもわず静香は噴き出してしまった。
「おはよー」
「おはようございます。課長、スマホには慣れてきました?」
「うん、もう全然ガラケーより楽。電池持ちだけは気になるけどね」
「あの、もし良かったらラインのアドレス交換しませんか?」
「あー、ごめん。ラインだけはしないって決めてるんだ」
「え、そうなんですか?理由伺っても?」
その件に踏み入ってもいいのか、若干躊躇しつつも、祐二は静香に訊ねた。
「あれ入れたら、妹のつかいっぱしりが今より酷くなるからよー。
今でさえ、お姉ちゃん近所に居るなら帰りにから揚げ買ってきてーだの、
なんだの言われるんだから。それが面倒だから一人暮らし始めたのに」
「あれ、課長って妹さんと一緒に住んでるんじゃないんですか」
「流石につかいっぱしりが酷過ぎるからね。妹にも自立させようと思って」
「そうなんですか」
「さて、世間話はこれくらいにして、仕事仕事!
中村君も、今日提出しなきゃいけない資料あるでしょ!」
「あ、はい」
静香に背を向けてから、祐二は安堵のため息を漏らした。
静香はその真意に気付く事なく、仕事を始めていた。
「ただいまスマホン」
慣れた手つきでスマホンを起動する。
「お帰りシズカ。今日も早いね」
「ま、寄る所も特にないので」
「シズカは恋人とかいないの?」
手を顎に添える仕草をスマホンはしてみせる。
「おっ、初めてプライベートな質問。残念ながらいないよー」
「そうなんだ。モテそうなのに不思議だね」
「スマホン、君は本当におだて上手だねー」
「ユウジとかはシズカのタイプじゃないの?」
「ユウジ?ユウジって誰?」
下の名前だけを突然言われても、案外誰か判らないものだ。
「ナカムラユウジさん、シズカの会社の人の事だよ」
「あー、中村君の事ね。あいつ下の名前ユウジって言うんだ。
でも、何で中村君の事知ってるの?」
怪訝な顔をして静香は訊ねた。
「僕はアドレス帳のデータを参考に、シズカの周りの事も話せるんだよ」
「何その地味に凄くて地味に優秀な機能」
因みにその機能は説明書の175ページに記載してある。
「ユウジはシズカのタイプじゃないの?」
「いや、まぁ、優しくて良い子は良い子だけどね。タイプじゃないかなぁ」
ビールをグビっと一飲みして、静香はそう答えた。
「じゃぁ、シズカのタイプはどういう人?」
「そうだなぁ。背が高くてー、稼ぎが良くてー」
「シズカに恋人は当分出来ないね」
静香の話を遮ってスマホンはツッコミを入れた。
「妹と同じ様な事言うな!」
「ごめんなさいー」
スマホンはペコッとお辞儀をする。その姿がまた実に愛らしい。
「でも、本当に、このままだとヤバイよね」
静香は枕に顔を埋めて眠りについた。
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