スマホン
T_K
スマホン
「お疲れ様でしたー」
「あ、課長、お疲れ様です。僕も下までご一緒します」
「あら、中村君、仕事は終わったの?」
「いえ、もう少しで終わる所なんですけど、後は家に持ち帰ってやろうかなと。
ほら、最近残業すると、何かとうるさいんで」
祐二は急いで帰り支度を済ますと、静香と共にエレベーターへ乗り込んだ。
「ほんと、マジメねー。ま、締め切り守らないよりはいいけど」
「あの、課長はまっすぐ帰られるんですか?」
「ううん。ちょっと携帯ショップに寄ろうと思って。
ほら、私ずっとガラケーだったでしょ。
妹が、お姉ちゃん今時ガラケーはないよってしつこく言うから」
「じゃぁ、携帯ショップまでお送りしますよ。僕、今日車で来てるんで」
「あれ?うちの会社、車通勤OKだったっけ?」
「あ、会社には内緒でお願いします。バレると厄介で・・・」
祐二の慌てる姿に、静香は思わず笑ってしまった。
「わかってるわよ。じゃぁ、有楽町の電気屋さんまでお願いね」
「はい!」
有楽町の大通り付近までやってきた。
様々な高級車が並ぶ道路を、燃費の良い小型車が走っていく。
そのドライバーである祐二は、心なしか惨めな気持ちになったが、
隣に座る静香に感づかれるワケにはいかない。
「ありがとね。送ってくれて」
「いえ、とんでもないです。いいスマホ見つかると良いですね」
「じゃ、帰りも気を付けて。また明日ね」
「はい。では!」
電気屋へと入っていく静香を見送り、祐二はその場を後にした。
「げ。スマホって結構種類あるんだ。正直何が良いのか全然判らないのよね。
あー、こんな事なら妹呼べば良かったなぁ」
「そこのあなた!スマホに迷っているなら、僕は如何でしょうか!」
「え、何!?」
突然、声を掛けられ、静香は周りを見渡す。
店員らしき人は沢山立っているのだが、どうも自分に関心がある人はいない。
が、様々な種類が並ぶスマホの中に、
1つだけ、いや、1体だけ明らかに目立つ物体がいる。
「僕、スマホン!ロボット型のスマホだよ」
「か、可愛い!」
静香は少し背を曲げて、スマホンに視線を向けた。
「話し相手にもなるしー。ダンスを踊ったり、ゲームも出来るよ。
他にも、アプリを入れると、色んな事が出来る様になるんだー」
「うーん。可愛い・・・けど、流石にこれを会社に持ってくのは」
「持ち歩く時は、僕を持ち歩いても良いし、僕から画面を外せば、
普通のスマホ代わりにもなるんだよ。
お家に帰ってきたら、また僕に画面を装着してね。
そうすれば、その日に歩いた距離や消費カロリーを貴方に教えるよ!」
「この子、私の部下より仕事出来んじゃん。よし。決めた!」
家に帰り着いた祐二が1度だけくしゃみをした事を、
静香もスマホンも知る由もなかった。
家に着き、部屋着へと着替えた静香は、早速今日の戦利品と対峙していた。
テーブルにちょこんと立つロボット型のスマホ、“スマホン”と・・・。
「と、とんでもない物を買ってしまった気がする。何、この説明書の分厚さ。
こんなの絶対読む気しないわ。とりあえず、電源だけでも入れて、と」
辞書くらいある説明書をそっと箱に戻し、静香はスマホンの電源を入れた。
「初期設定を始めてください。僕の言う通りに画面を押すか、
画面の表示に従って、設定を続けてください」
「はい。もう仰せのままに。こんな分厚い説明書は読めません!」
「貴方のお名前と電話番号を入力してください」
静香はスマホンを持ち上げて膝の上に乗せた。
スマホンの背中には、普通のスマホと同じ様に液晶画面がついている。
覚束ない手つきで、ゆっくりと画面をタッチして入力していく。
「あだち、しずか、と。番号は、前のガラケーの番号で良いのよね」
「貴方のお名前と電話番号を認識しました。次に呼び方を決めてください」
「こういうのってノリで決めたら絶対あとで後悔するのよね。ここは普通に」
再びスマホンを持ち上げ、背中の液晶画面を触って入力する。
端から見れば、
30近い女性が小さな人形を持って遊んでいる
様に見えなくもない。
「シズカ、でよろしいですか?」
「はい。っと」
「僕の機能の一覧です。必要ない物は選んでオフにしてください」
画面にはそれはそれは沢山の項目が並ぶ。
説明書をまともに見ない静香に、
それを一つ一つ確認する気力は最初から持ち合わせていない。
「はいはい。適当にーっと」
「基本情報はこれで完了です。今日からよろしくね。シズカ!」
テーブルに置かれて自由に動ける様になったスマホンは、
静香に丁寧なお辞儀をしてみせた。
「え。これでもう使えるの!?スマホンかしこい!優秀!」
「えへへ。褒められちゃいました」
静香とスマホンの生活がいよいよ始まる。
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